悪役令息は愛を知れば無敵なのです

柚鷹けせら

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第二章 絵画と幼児誘拐

15 ※背後注意

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 信用するなと告げる、その熱っぽい声に心が震えた。
 酒の勢いに任せて少し揶揄った後は「まだ早いです」と引くつもりだったのに、離れたくないという気持ちがいっそう強まってしまったテオフィロは、なんだか無性に泣きたくなってしまった。

「……フィー?」

 一方のルキノは、自分にしがみついたままのテオフィロの、必死に何かを抑え込もうとしている表情を見て理性がぐらぐらと揺れていた。
 口では何と言おうとも好きな相手と二人きりになれば触れたいと思うし、恋人らしい行為をしたいと思う。
 自分だけに許された姿が見たいに決まっている。
 それに、主神の加護を持っているテオフィロは些か特殊な体質をしており、ずっと気になっていることがあった。

「フィー、……酒のせいにして、触れてもいいか」

 テオフィロが弾かれたように顔を上げてルキノを見た。
 その表情に浮かぶのは分かり易い期待と、羞恥。
 
「フィー」
「……兄さま?」
「フィー」

 名を呼ばれる度に腕の力が増し、締め付けられるような圧迫感があるのに、それ以上に嬉しくなる。

「フィー、好きだ」
「ぁ……私も、兄さまが、好きです」
「好きだよ。愛してる」

 こつん、と額と額が合わさり。
 鼻と鼻が触れてはくすぐったく。

「兄さま、好き」

 仕掛けたのはテオフィロが先。
 自分の唇をルキノのそれに合わせるだけの、ほんの一瞬の触れ合いが、彼らの初めてのキス。

「フィー」

 二度目、三度目はルキノからテオフィロの唇を奪い、ぺろりと舌先で舐める。
 途端に顔を真っ赤に染める初心な婚約者。

「可愛い」

 もう一度軽く口付けた。
 テオフィロは掠れた声で囁く。

「……お酒のせいです」
「ああ」

 ルキノはとても申し訳なさそうな顔をしていたけれど、テオフィロにとってはこの温もりから離れなくても良いという、とても甘美な言葉で。

「触ってください、もっと……」

 甘えるように口付けた。




 ルキノはベッドにテオフィロを横たえ、肩の上にあったニョルズの抜け殻は隣のベッドの上に置いておく。この距離なら繋がりが切れて形が崩れる心配はない。

「皺になるから脱がすよ」

 それっぽい理由を口にしつつ上から一枚ずつ脱がしていけば、徐々に露わになるのは想像していたよりもずっと美しい体だった。女性特有の見ているだけで包み込まれるような丸みはどこにもないけれど、荒くれもの相手には剣で応戦することも厭わない魔導士に相応しく引き締まった、肩から腕、そして胸元への稜線。
 腹が六つに割れているなんてことはないが無駄な肉が付いているなんてこともなく、白い肌は酒のせいかほんのりと赤く、熱に溶け行く氷のように滑らかでみずみずしい。
 シーツに広がる青銀の長い髪。
 潤んだ海色の瞳。
 細い腰。
 長い手足。
 そして、ひときわ目を引くのは薄いピンク色の胸元の粒と、男の証。さすがに赤ん坊みたいとは言わないけれど平均よりやや小ぶりで、使われていないのはよく分かった。

「綺麗だな……」

 晒された全裸に見惚れているルキノの呟きに、テオフィロは居た堪れなくなってくる。

「兄さまも脱いでください……私ばかりは、恥ずかしいです……」
「んー……上だけな」

 言って、ルキノも上半身を晒す。
 肩幅はもちろん、胸板もテオフィロの倍くらいありそうな筋肉で覆われており、腹はしっかりと割れている。それだけならテオフィロも見惚れるだけで済んだのだろうが、ルキノの体には幾つもの傷跡があった。古いものから新しいものまで、きっとこの二年間に辺境で魔物と戦う中で負ったものだろう。
 跡を見れば、それがどれほど命を脅かすものだったのか想像に難くない。

「……ぎゅってしてください」
「甘え上手なのも酒のせいか?」

 笑いを含ませながら、ルキノはテオフィロを抱き締めた。
 素肌と素肌で触れ合うのは、服を着ていた時とまるで違う。さっきよりももっと、ずっと。

「きもちいい」
「……っ」

 ルキノは歯を食いしばる。
 下半身の昂りはだんだん痛くなって来た。

「あんま時間掛けられないから、触るぞ」
「ん……」

 ルキノの右手が、テオフィロの内股を撫でるように移動しておとなしいままのそこに触れる。
 途端にテオフィロの体がぴくりと跳ねた。

「ここも気持ち良い?」
「っ……わ、か……ま……っっ」

 その反応で確かめたかったことの一つは答えが得られた。
 ルキノはテオフィロに口づけし、左手でその背中を擦る。右手は勃ち上がった幼い部分を丁寧に扱いて吐精を促しているが、せいで痛くしてしまいそうだ。ここだけを見たらとても二十歳の男のそれではない。

「ふ……ぅっ……んん……っ」
「……フィー、少し、悪い」

 ルキノはテオフィロの足の間に体を割り込ませて、細く白い足を開かせた。
 それから、躊躇いはあったが、自身のそれを下着から出してテオフィロのものと一緒に右手に握った。

「ぁっ」

 テオフィロと触れ合えることに興奮し過ぎて、既に限界が近いルキノだ。
 自分の出したもので少しでも彼の痛みを和らげられたらと思ったのだが、押し当てられた昂りに驚いたテオフィロが、熱に浮かされたような顔でルキノの先端に手を伸ばして来た。

「に、さまの……」
「だめ」

 触られたら情けなくも達してしまう。
 それは困るため、気を逸らすべく口付けたまでは良かったが、勢いのままテオフィロの口腔を侵し、舌を舐ってしまった。
 結果、ルキノの唾液がテオフィロに流れ込み、……魔力反応が起きた。
 
「くっ……」
「ぁ、あ……っ」

 人の体液には多くの魔力が含まれている。
 最も濃度が高いのは次なる命を繋ぐための精液だが、唾液に含まれる量も相当だ。世界樹と繋がっている加護持ちの体は魔力に強く反応する。
 それは、子を得るための行為においてもだ。

「なんで……ぁっ……」

 テオフィロの体が熱くなり下腹部がきゅうっと絞られた。

「ぁ、やだっ、なんか垂れて……っ」
「え」

 焦って体勢を変えたテオフィロが尻に手を伸ばす。
 その拍子に見えてしまった秘孔から、透明で粘り気のある液体が溢れてくるのを目撃したルキノの理性は簡単に砕け散り「イク」と自覚する間もなくテオフィロの白い腹に白濁の欲望を吐き散らした。 そこに含まれる濃密な魔力が、テオフィロを更に熱くさせる。

「あっ、んぁ……!」

 腰が揺れたのはもう無意識だったが、ルキノを煽るには充分だった。
 ルキノの右手の中で二人の情欲が混ざり合い、テオフィロが初めて精を放ったことで確認したいことは全て答え合わせが済んだのだが、……これは、酒のせい。
 そんな言い訳を胸に、二人はしばらく抱き合っていた。




 もう間もなく日付が変わろうという時分。
 ベッドの上には頭から布団を被って丸まっているテオフィロがいた。

(私はなんてことを……!)

 いわゆる賢者タイムである。
 足腰が立たなくなっては困るし、明日は朝から約束があるのだからと、最後までしたわけではない。
 してはいないが、ルキノの顔を見て平然としていられるとはとても思えない。
 そのルキノは、二人分の服をハンガーに掛けてクローゼットにしまうと、苦笑しつつテオフィロが丸まっているベッドに腰掛ける。

「フィー、俺ら婚約者だろ。俺の身分が足りてない問題はあるが、それ以外は特に恥じることはしてないぞ」
「……恥じてなんていません」
「ん?」
「あ……貴方の、顔を、見たら、……っ、いろいろ思い出してダメなだけです……!」
「ふはっ」

 訴えたら笑われた。
 ひどい話である。テオフィロが布団から顔を出してルキノを睨んだ。

「……貴方は」
「ん?」
「……貴方は、やっぱり男の体ではダメなのだと思っていました。いまだって最後まではしませんでしたし」
「は……」

 なんで、と疑問を口にし掛けたルキノだったが、そうして目にしたテオフィロの表情に言葉を失う。
 そして、思い出した。
 生まれてすぐに王太子の婚約者になった彼は、男だからという理由でずっと蔑ろにされていたのだ。例え相手に臣下以上の気持ちはなかったとしても、度々ぶつけられてきた罵詈雑言に傷つかないわけじゃない。
 ルキノは天井を仰いだ。
 あの王太子、もう五、六発は殴っておくべきだった。

「あのな、フィー」

 どうするのがベストなのか判断がつかないまま、ルキノはテオフィロの隣に潜り込んだ。自分は下着だけ、テオフィロはいまだ全裸のままで、くっついているだけで興奮が蘇る。密着すれば先ほど落ち着いたばかりのそこが、再び存在を主張し始めているのが伝わるだろう。

「おまえに触れてるだけで、こうなんの。据え膳食わぬは男の恥とか言う奴もいるけど、おまえが後悔するかもって判ってて手をだすほ……ぅおっ」

 ルキノは慌てて腰を引く。
 テオフィロの指先が、そこをなぞるように触れて来たからだ。

「なにしてんの⁈」
「……本当に大きくなるのだなと、思って」
「そりゃなるでしょ、好きな子にくっつかれたら!」
「ぁ……いえ、そういうことではなく」

 好きな子と言われて満更でもなさそうなテオフィロだったが、じぃっとルキノの下腹部を見ている目に浮かんでいるのは強い探求心。

「書物では読んだことがあったのですが、実際に見たことはなかったので」
「……いや。いやいやテオフィロさん」

 ルキノは混乱していた。
 いきなり触れられて驚いたせいもあるけれど、テオフィロの言葉が頭の中で理解に繋がらないのだ。

「実際もなにも、フィーだって一人ですることくらい……」

 きょとんと首を傾げるテオフィロの様子に、ルキノの頭の中ではクエスチョンマークが飛び交った。

「フィーは男だよな?」
「なにを今更」
「だな、良かった」

 この二十年、下手したら前世の頃から性別を誤って認識していたのかと焦ったがテオフィロ・オルトラーニは男で間違いなかった。

「でも一人でしたことはない?」
「なにをですか」
「なにって……」

 ルキノはヴェルディ伯爵家の嫡男とは決まっていなかったが、長男として貴族令息に必要な知識はきちんと学んで来た。後継を持つことも貴族の義務だから性教育もしっかりと受けている。基本的に相手は女性を想定しており、国が同性との婚姻も認めていることから必要になった時は追加で学ぶことも出来るのだが、一人で処理する方法については基礎中の基礎だ。
 普通なら学んでいないはずがない。

「加護持ちは別……いやいや、そんなバカな……」

 それとも王太子の婚約者なら使う予定がないからと省かれた? それこそ有り得ない。溜め過ぎは心身にも良くないからと、その気になれなくても定期的に処理するよう教えられる。

「……つかぬことをお伺いしますが、テオフィロさん」
「はい」
「結婚したら俺と何するかは知ってます……?」
「初夜のことですか」
「……あー、まあ、そうかな」

 初夜だけではないけれど、と心の中でだけ呟いたルキノに、

「貴方の精を体内に受け入れるのでしょう?」
「ん”っ……ん、そうなんだけど」
「その点は大丈夫です。きちんと学習済みですし、私の体は普通の人と違って排泄を必要としませんから貴方に病を移す心配もありません。洗浄だって簡単なのですよ」

 その点についてはルキノもお節介焼きや侯爵邸の侍女から事前に聞いて知っていたが、本人の口から語られると衝撃がすごい。
 固まってしまった彼の反応をどう取ったのか、テオフィロは真面目な顔で続けた。

「加護持ちの体が世界樹と繋がっているのはご存知でしょう。喉の渇きや空腹は普通に感じますから飲食は普通の人と同様に取りますが、胃に収まった後はすべて魔力に分解されて、要らない分は世界樹が吸収するらしく」

 数百年前に存在していた加護持ちの一人が、自身と、周囲の人間との違いに気付いていろいろと調べており、その結果が後世に伝えられているのだ。
 おかげでテオフィロは王家から派遣されて来た教育係に教えてもらえた。

「ただ、書物には婚姻相手を受け入れやすいよう濡れるとあったのですが、私は痛いばかりで、家庭教師に異常があるかもしれないと言われたことがありましたから、……実は驚いたのです」

 驚いたのは、ルキノの魔力に体が反応して書物にあった通りに後孔が濡れたことだと理解したが、いまの話を聞いてルキノが驚いたのはそこではない。

「家庭教師ってなに」
「え?」
「痛いばかりって、そいつフィーに何しやがった?」

 ルキノの怒りに満ちた眼差しを受けて、テオフィロは息を呑んだ。
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