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第二章 絵画と幼児誘拐
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しばらく泣いていたゴードンだが、その内にエイミーから差し出された手紙を一枚、また一枚と読み始めた。
息子の字。
息子の言葉。
息子の想い。
そういったものを小さな紙から感じ取りながら、エイミーに声を掛ける。
「この、君が気に入った絵というのは……?」
「邸の庭に咲いていた花の絵です」
そうして話し始めた二人と、ソファで寝てしまったカノン。
しばらくは彼らだけにした方が良いのかもしれない。
テオフィロ、ルキノ、ニョルズは、あとは同行している商会員に任せて部屋を後にした。
『念のために何度か魔力感知でこちらを探っている者がいないか確認したが、いずれも問題なかったぞ』
「ありがとうございます」
ニョルズからそう報告を受けたテオフィロは、ちらと後方を見遣った。
あくまで護衛騎士の距離感でついてくるルキノの、心ここにあらずといった様子にもかかわらず隙の無い身のこなしは評価するけれど――。
「一人で思い悩むなど水臭いですよ」
「え」
ノックするようにルキノの胸に拳を当てた。
「間に合わなかったことを悔やむ気持ちは分かりますが、自分を責めるのは間違いです。悪いのは各国から子どもを攫っている連中ですよ」
「……うん」
「貴方が一〇年前に奴隷商人を逮捕したことで被害を免れた子どもがたくさんいるのだということを忘れないでください」
「うん」
ルキノが背を丸め、その額をテオフィロの肩に押し当てた。
テオフィロはルキノの背に腕を回し、励ますように優しく叩く。
「それに、いまから私たちが行動することで救える人もいます」
「だな」
顔を上げたルキノの表情には若干の無理が見て取れたが、部屋の中にいた時よりはずっとマシだ。だからテオフィロも気を使ったりはしない。
「では早速行きましょうか。王都の外れで、墓地の近くにあるという神殿……、今夜中に一度見に行くつもりでしたが、エイミーさんの話を聞いてますます興味が湧きました」
「地図はよく分からないって言っていたが、話を聞いていると、その神殿っぽいもんな」
『うむ』
ニョルズも肩の上で頷く。
エイミーから聞いた、五〇人前後の子どもたちが共同生活していた場所は、貴族の邸のように綺麗で大きな建物。勉強したり、お祈りをする場所があって、たくさんの子どもたちを必要とするくらい広い土地が畑として使える場所。
更に、邸にいた大人たちから信頼されていたクノンが街に向かう時はいつも買い出しが目的だったようで、荷馬車が用意されていた。エイミーが逃げる時に隠れていたのも荷台にあった箱の中だという。そのため外の景色はまったく目に出来なかったが、かなり長い時間だったというから、条件的には郊外の神殿が当て嵌まるのだ。
「それからもう一つ。これは可能性の話なのでゴードンの前で口にするのは控えましたが、エイミーさんが聞いたのは「人が倒れている」という騒ぎで、そのあとすぐに邸の連中が現れた……、おかしいと思いませんか。信頼されていた彼は、いつも一人で街に来ていたはずなのに」
御者はいたかもしれないが、人数は一人ないし二人だろうし、少なくとも一人は馬の傍を離れない。エイミーは「あの人たち」と確かに複数形で語った。
つまり、その日に限って彼には複数の同行者、もしくは監視者がついていたということだ。
「魔力画は、確実に彼の体に負担を掛けています。心臓が突然止まっても不思議はありませんが、……どうも気になります」
「誘拐されたのが九年前で、その頃が一〇歳なら、十五になったのは四年前。妊娠期間一〇カ月のうち、半年くらいで逃げ出したとして、大体三年間か。いくらクノンがうまく立ち回っていたとしても、怪しまれていた可能性はあるだろうな」
子どもを攫うような卑怯者だが、いつまでも騙されてくれるバカだとは限らない。
「しかしあれだな。本当に子どもらが閉じ込められていた邸が神殿だとしたら、神官や大神官は完全に黒だぞ」
「……これを、国が知らないでいられると思いますか?」
「あー……まぁ、協力者がいれば、かな」
フッと脳裏に浮かんだのは失礼なことを言っては此方の反応を楽しそうに見ている王太子ベルンダードだが、証拠はない。
「きっとリブリー王国からも結構な数の子どもが誘拐されてるぞ」
「同感です」
ケルネイディア王国と国境を接しているのはテオフィロたちが暮らすフィッセン王国、魔力の源泉「精霊の泉」を擁するリブリー王国、そして世界樹の森と接しているため魔物被害が絶えない代わりに資源豊富なレンブロー王国。
恐らくレンブロー王国でも被害が出ているはずだ。
「情報ギルドに二国の被害者リストを頼みましょう。エイミーさんを探している家族もいるかもしれません」
「ああ、……あー、でも、ゴードンのああいう姿を見ちまうと、孫を連れ帰らせてやりたいって思って、なんか」
「絆されていますね」
「そりゃなぁ」
そう言って、テオフィロとルキノ、ニョルズは夜の街を移動した。
目的地の郊外の神殿に着いてからは気配を消し、暗がりに浮かぶ立派な建物の中を魔力感知で探った。夜闇の中では畑や墓地までは確認できなかったが、建物には地下室が存在し、そこで一〇〇人以上の小さな子どもたちが一〇人前後で集まって寝ていることを知った。
一階より上にも一〇〇人近い大人がいる。
そのうちの半数は、エイミーが言っていたように八人で一部屋に入れられて眠っている。
「相談だ。先に団長たちにも話して、作戦考えよう!」
『テオフィロ、落ち着け。我もルキノに賛成だ、まずは作戦会議だな!』
怒りのあまり静電気のように触れると痛くなる魔力を放ち始めたテオフィロだったが、ルキノとニョルズに説得されて何とか抑え込むのだった。
息子の字。
息子の言葉。
息子の想い。
そういったものを小さな紙から感じ取りながら、エイミーに声を掛ける。
「この、君が気に入った絵というのは……?」
「邸の庭に咲いていた花の絵です」
そうして話し始めた二人と、ソファで寝てしまったカノン。
しばらくは彼らだけにした方が良いのかもしれない。
テオフィロ、ルキノ、ニョルズは、あとは同行している商会員に任せて部屋を後にした。
『念のために何度か魔力感知でこちらを探っている者がいないか確認したが、いずれも問題なかったぞ』
「ありがとうございます」
ニョルズからそう報告を受けたテオフィロは、ちらと後方を見遣った。
あくまで護衛騎士の距離感でついてくるルキノの、心ここにあらずといった様子にもかかわらず隙の無い身のこなしは評価するけれど――。
「一人で思い悩むなど水臭いですよ」
「え」
ノックするようにルキノの胸に拳を当てた。
「間に合わなかったことを悔やむ気持ちは分かりますが、自分を責めるのは間違いです。悪いのは各国から子どもを攫っている連中ですよ」
「……うん」
「貴方が一〇年前に奴隷商人を逮捕したことで被害を免れた子どもがたくさんいるのだということを忘れないでください」
「うん」
ルキノが背を丸め、その額をテオフィロの肩に押し当てた。
テオフィロはルキノの背に腕を回し、励ますように優しく叩く。
「それに、いまから私たちが行動することで救える人もいます」
「だな」
顔を上げたルキノの表情には若干の無理が見て取れたが、部屋の中にいた時よりはずっとマシだ。だからテオフィロも気を使ったりはしない。
「では早速行きましょうか。王都の外れで、墓地の近くにあるという神殿……、今夜中に一度見に行くつもりでしたが、エイミーさんの話を聞いてますます興味が湧きました」
「地図はよく分からないって言っていたが、話を聞いていると、その神殿っぽいもんな」
『うむ』
ニョルズも肩の上で頷く。
エイミーから聞いた、五〇人前後の子どもたちが共同生活していた場所は、貴族の邸のように綺麗で大きな建物。勉強したり、お祈りをする場所があって、たくさんの子どもたちを必要とするくらい広い土地が畑として使える場所。
更に、邸にいた大人たちから信頼されていたクノンが街に向かう時はいつも買い出しが目的だったようで、荷馬車が用意されていた。エイミーが逃げる時に隠れていたのも荷台にあった箱の中だという。そのため外の景色はまったく目に出来なかったが、かなり長い時間だったというから、条件的には郊外の神殿が当て嵌まるのだ。
「それからもう一つ。これは可能性の話なのでゴードンの前で口にするのは控えましたが、エイミーさんが聞いたのは「人が倒れている」という騒ぎで、そのあとすぐに邸の連中が現れた……、おかしいと思いませんか。信頼されていた彼は、いつも一人で街に来ていたはずなのに」
御者はいたかもしれないが、人数は一人ないし二人だろうし、少なくとも一人は馬の傍を離れない。エイミーは「あの人たち」と確かに複数形で語った。
つまり、その日に限って彼には複数の同行者、もしくは監視者がついていたということだ。
「魔力画は、確実に彼の体に負担を掛けています。心臓が突然止まっても不思議はありませんが、……どうも気になります」
「誘拐されたのが九年前で、その頃が一〇歳なら、十五になったのは四年前。妊娠期間一〇カ月のうち、半年くらいで逃げ出したとして、大体三年間か。いくらクノンがうまく立ち回っていたとしても、怪しまれていた可能性はあるだろうな」
子どもを攫うような卑怯者だが、いつまでも騙されてくれるバカだとは限らない。
「しかしあれだな。本当に子どもらが閉じ込められていた邸が神殿だとしたら、神官や大神官は完全に黒だぞ」
「……これを、国が知らないでいられると思いますか?」
「あー……まぁ、協力者がいれば、かな」
フッと脳裏に浮かんだのは失礼なことを言っては此方の反応を楽しそうに見ている王太子ベルンダードだが、証拠はない。
「きっとリブリー王国からも結構な数の子どもが誘拐されてるぞ」
「同感です」
ケルネイディア王国と国境を接しているのはテオフィロたちが暮らすフィッセン王国、魔力の源泉「精霊の泉」を擁するリブリー王国、そして世界樹の森と接しているため魔物被害が絶えない代わりに資源豊富なレンブロー王国。
恐らくレンブロー王国でも被害が出ているはずだ。
「情報ギルドに二国の被害者リストを頼みましょう。エイミーさんを探している家族もいるかもしれません」
「ああ、……あー、でも、ゴードンのああいう姿を見ちまうと、孫を連れ帰らせてやりたいって思って、なんか」
「絆されていますね」
「そりゃなぁ」
そう言って、テオフィロとルキノ、ニョルズは夜の街を移動した。
目的地の郊外の神殿に着いてからは気配を消し、暗がりに浮かぶ立派な建物の中を魔力感知で探った。夜闇の中では畑や墓地までは確認できなかったが、建物には地下室が存在し、そこで一〇〇人以上の小さな子どもたちが一〇人前後で集まって寝ていることを知った。
一階より上にも一〇〇人近い大人がいる。
そのうちの半数は、エイミーが言っていたように八人で一部屋に入れられて眠っている。
「相談だ。先に団長たちにも話して、作戦考えよう!」
『テオフィロ、落ち着け。我もルキノに賛成だ、まずは作戦会議だな!』
怒りのあまり静電気のように触れると痛くなる魔力を放ち始めたテオフィロだったが、ルキノとニョルズに説得されて何とか抑え込むのだった。
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