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会議室で「いただきます」。
柿下さんもお弁当を持って来ていて、まずは全員で食事を優先。
「食べながらで良いので聞いて下さい」
自分が食べ終えたところで柿下さんは鞄からファイリングされた書類を取り出した。
「皆さんは今日から三日間、役場で職業体験をしてもらいます。最初に説明した通り、作成から三年経った防災マップが今でも有効か、備蓄は問題ないか、住民の皆さんの様子を見るなど個人情報に障りのない範囲でになりますが手伝ってもらいたいと思います」
そんな前置きから始まり、配られた書類には防災マップはもちろん、何かあった時のために自宅にこれだけは準備しておきましょうとか、家族の中でこんなことを事前に話し合っておきましょうといった内容が纏められている。
そして……。
「地下シェルター?」
「うん。うちの島は高い場所があまりないから避難場所として地下シェルターを建設することにしたんだよ。まだ途中で、二カ所しか完成してないんだけどね」
完成しているのは小学校と中学校の間に一つ。そして役場に一つ。今後はあと三カ所増える予定だという。
「五カ所の地下シェルターに千人の島民が分かれて避難するんですね」
「そう。島には町が一つしかないから、五分割して、だね」
幸大と柿下さんのやり取りを聞きながら書類を捲っていると、シェルターの予算はどうとか、備蓄は島民の寄付で賄っているなど細かな情報が載っている。
「君たちの職場体験は、明日は九時に役場集合、八時間拘束の内、休憩一時間。役場の職員と同じになりますが、今日はこの後一時から五時まで。最終日は九時から十二時半までの予定です」
「はい」
「今日は、完成している地下シェルター二カ所で備蓄の内容や、数の確認をしてもらいます。明日は防災マップを参考に島中歩いてもらうことになりますよ」
「うへぇ」
結人が唸る。
皆で笑う。
「最終日は港の方で、あちらに住んでいる島民と防災に関してのお話をします。ご高齢の方が多いのでちょっと大変ですが、よろしくお願いしますね」
「耳が遠いとか?」
「それもありますし、まぁ、災害が起きたら船と一緒に沈むから放っておけとか、いろいろですね」
「あー……」
なんとなく意味が判って苦笑いしてしまう。
かといって実習なのだから「しない」という選択はないから、注意すること、話す内容などを六人で次々と質問していった。
と、十二時半になったその時だ。
ピンポンパンポーン……と音がする。
ハッとして声のした方を見遣れば、会議室の壁にも戸別受信機が設置されていた。
『こちらは、爾名町役場です』
柔らかな女性の声が、続けて日付、時間、気温、これがお昼の放送だと語る。
「……これって毎日ですか?」
「一日三回、朝は七時半、昼は十二時半、夜は十七時半に放送があるよ。あ、あと正午にはお昼のサイレン、十七時には子どもは帰る時間だぞーって音楽が鳴る」
「へー」
「おー」
馴染みのない習慣に皆から驚きとも感動とも取れる声が零れる。
個人的には慣れるまで毎回ビクッとしそうで緊張するのだけど武尊は相変わらずの態度だし、幸大たちは面白がっているようにも見えた。
「それから、ご高齢の方ほど「これ持ってけ」「あれ持ってけ」ってお土産を渡そうとして来るから、少しずつ貰ってあげてください。みんな今回のためにわざわざ準備したのがほとんどなので」
「え。そうなんですか?」
「高齢者と、小さい子はそれなりにいるんですが、高校は島を出ないと無いから、みんな若い子たちと話が出来るのが嬉しいんですよ」
「それはボクたちも嬉しくなるね」
結人が目を輝かせる。
「失礼の無いようにな」
注意を飛ばすのは幸大。さすがリーダー。
「ところで柿下サン、さっき言ってた鬼の遺跡ってのが気になるンだけど」
言い出したのは晴也だけど、俺も、他の面々も気持ちは同じみたいで、つい柿下さんをじっと見上げてしまった。柿下さんは「ふふっ」と楽しそうに笑うと、時計を確認する。
「一時までですよ」
その後は実習だからと暗に告げつつ、柿下さんは会議室を出て、ホールのマガジンラックにあった一冊の絵本を持って戻って来た。
「昔から語り継がれて来た御伽噺だよ。これは十年くらい前に島の子が書いたものだけど」
「……拝見します」
幸大が受け取り、対面に座っていた結人、晴也がバタバタと彼の後ろに移動する。
颯真はそのまま。
武尊もあまり興味無さそうだけど、俺は隣だったので幸大の手元を覗き込む。
子どもの手にも持ちやすいサイズの四角い絵本。
表紙には岬のようなところに佇む白い髪の子どもの後ろ姿が描かれており、たぶん水彩画だ。後ろ姿だから子どもの表情はまったく見えていないのに、胸が締め付けられた。
「読んでみるか」
「おう!」
「早く早く」
二人に急かされるように表紙をめくる。
ページ数はそれほど多くなく、絵本だから一ページあたりの文字数も数えられる程度だから、普通に読むだけならほとんど時間は掛からない。
内容を要約すると、
ある日、砂浜に一人の女性が倒れていた。
女性は数日後に鬼の子を産んだ。
女性は気味悪がられるのを恐れて一人で鬼の子を育てていたが、しばらくして大人の鬼が増えた。
鬼たちは山の奥へ、奥へと隠れ住むようになり。
たくさんの武士たちが島にやって来た日、鬼の子が泣き叫ぶ声がした。
島は三日三晩嵐になった。
四日目にようやく晴れた島の砂浜にはたくさんの武士たちが横たわっており。
その後、鬼の子も、大人の鬼たちの姿も二度と見られることはなかった――。
「……オチは?」
読み終えて、結人が眉根を寄せる。
柿下さんは「ふふっ」と意味深に笑う。
「過去にあったことをそのまま物語にしただけだから」
「え。実際にあったことなの?」
「……っていう見方もあるんだよ」
えええぇぇ……。
柿下さんもお弁当を持って来ていて、まずは全員で食事を優先。
「食べながらで良いので聞いて下さい」
自分が食べ終えたところで柿下さんは鞄からファイリングされた書類を取り出した。
「皆さんは今日から三日間、役場で職業体験をしてもらいます。最初に説明した通り、作成から三年経った防災マップが今でも有効か、備蓄は問題ないか、住民の皆さんの様子を見るなど個人情報に障りのない範囲でになりますが手伝ってもらいたいと思います」
そんな前置きから始まり、配られた書類には防災マップはもちろん、何かあった時のために自宅にこれだけは準備しておきましょうとか、家族の中でこんなことを事前に話し合っておきましょうといった内容が纏められている。
そして……。
「地下シェルター?」
「うん。うちの島は高い場所があまりないから避難場所として地下シェルターを建設することにしたんだよ。まだ途中で、二カ所しか完成してないんだけどね」
完成しているのは小学校と中学校の間に一つ。そして役場に一つ。今後はあと三カ所増える予定だという。
「五カ所の地下シェルターに千人の島民が分かれて避難するんですね」
「そう。島には町が一つしかないから、五分割して、だね」
幸大と柿下さんのやり取りを聞きながら書類を捲っていると、シェルターの予算はどうとか、備蓄は島民の寄付で賄っているなど細かな情報が載っている。
「君たちの職場体験は、明日は九時に役場集合、八時間拘束の内、休憩一時間。役場の職員と同じになりますが、今日はこの後一時から五時まで。最終日は九時から十二時半までの予定です」
「はい」
「今日は、完成している地下シェルター二カ所で備蓄の内容や、数の確認をしてもらいます。明日は防災マップを参考に島中歩いてもらうことになりますよ」
「うへぇ」
結人が唸る。
皆で笑う。
「最終日は港の方で、あちらに住んでいる島民と防災に関してのお話をします。ご高齢の方が多いのでちょっと大変ですが、よろしくお願いしますね」
「耳が遠いとか?」
「それもありますし、まぁ、災害が起きたら船と一緒に沈むから放っておけとか、いろいろですね」
「あー……」
なんとなく意味が判って苦笑いしてしまう。
かといって実習なのだから「しない」という選択はないから、注意すること、話す内容などを六人で次々と質問していった。
と、十二時半になったその時だ。
ピンポンパンポーン……と音がする。
ハッとして声のした方を見遣れば、会議室の壁にも戸別受信機が設置されていた。
『こちらは、爾名町役場です』
柔らかな女性の声が、続けて日付、時間、気温、これがお昼の放送だと語る。
「……これって毎日ですか?」
「一日三回、朝は七時半、昼は十二時半、夜は十七時半に放送があるよ。あ、あと正午にはお昼のサイレン、十七時には子どもは帰る時間だぞーって音楽が鳴る」
「へー」
「おー」
馴染みのない習慣に皆から驚きとも感動とも取れる声が零れる。
個人的には慣れるまで毎回ビクッとしそうで緊張するのだけど武尊は相変わらずの態度だし、幸大たちは面白がっているようにも見えた。
「それから、ご高齢の方ほど「これ持ってけ」「あれ持ってけ」ってお土産を渡そうとして来るから、少しずつ貰ってあげてください。みんな今回のためにわざわざ準備したのがほとんどなので」
「え。そうなんですか?」
「高齢者と、小さい子はそれなりにいるんですが、高校は島を出ないと無いから、みんな若い子たちと話が出来るのが嬉しいんですよ」
「それはボクたちも嬉しくなるね」
結人が目を輝かせる。
「失礼の無いようにな」
注意を飛ばすのは幸大。さすがリーダー。
「ところで柿下サン、さっき言ってた鬼の遺跡ってのが気になるンだけど」
言い出したのは晴也だけど、俺も、他の面々も気持ちは同じみたいで、つい柿下さんをじっと見上げてしまった。柿下さんは「ふふっ」と楽しそうに笑うと、時計を確認する。
「一時までですよ」
その後は実習だからと暗に告げつつ、柿下さんは会議室を出て、ホールのマガジンラックにあった一冊の絵本を持って戻って来た。
「昔から語り継がれて来た御伽噺だよ。これは十年くらい前に島の子が書いたものだけど」
「……拝見します」
幸大が受け取り、対面に座っていた結人、晴也がバタバタと彼の後ろに移動する。
颯真はそのまま。
武尊もあまり興味無さそうだけど、俺は隣だったので幸大の手元を覗き込む。
子どもの手にも持ちやすいサイズの四角い絵本。
表紙には岬のようなところに佇む白い髪の子どもの後ろ姿が描かれており、たぶん水彩画だ。後ろ姿だから子どもの表情はまったく見えていないのに、胸が締め付けられた。
「読んでみるか」
「おう!」
「早く早く」
二人に急かされるように表紙をめくる。
ページ数はそれほど多くなく、絵本だから一ページあたりの文字数も数えられる程度だから、普通に読むだけならほとんど時間は掛からない。
内容を要約すると、
ある日、砂浜に一人の女性が倒れていた。
女性は数日後に鬼の子を産んだ。
女性は気味悪がられるのを恐れて一人で鬼の子を育てていたが、しばらくして大人の鬼が増えた。
鬼たちは山の奥へ、奥へと隠れ住むようになり。
たくさんの武士たちが島にやって来た日、鬼の子が泣き叫ぶ声がした。
島は三日三晩嵐になった。
四日目にようやく晴れた島の砂浜にはたくさんの武士たちが横たわっており。
その後、鬼の子も、大人の鬼たちの姿も二度と見られることはなかった――。
「……オチは?」
読み終えて、結人が眉根を寄せる。
柿下さんは「ふふっ」と意味深に笑う。
「過去にあったことをそのまま物語にしただけだから」
「え。実際にあったことなの?」
「……っていう見方もあるんだよ」
えええぇぇ……。
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