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第3章 変わるもの 変わらないもの

79.帰って来て早々ですが

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 昨夜は夕飯に白身魚のフライを購入。刺身や寿司に関してクルトに熱く語ろうと決意していたのに、夜8時の会議室で語られた内容に、そんな気分ではなくなってしまった。
 というのも捕まった連中から話を聞いたところ、やはり海岸に船を一隻隠していた事が判明してローザルゴーザの憲兵隊とレイナルド、そしてローザルゴーザを拠点にしている冒険者数名が捜索に向かい、船で待機していた破落戸を拘束。
 結果、俺たちがトゥルヌソルを経由し王都に連れて行かなければならない罪人が倍以上の40人になったからだ。

「まぁ船が一艘手に入ったと思えば悪くない戦果だ」

 レイナルドはそう言って笑い、ゲンジャル達も陽気に同意していた。プラーントゥ大陸の民に手を出そうとした罪状は「拉致監禁罪(未遂)」や「大陸法違反」といった言葉で身分証紋に刻まれたから誤魔化しようがない。
 例え、その身分証紋の確認で獄鬼ヘルネルの関与が記載されなかったという懸念は残っても、此方で断罪するにしろ、国に強制送還するにせよ、賠償金は相当額になるため没収した船もそのままプラーントゥ大陸が差し押さえるんだそうだ。

「グランツェ、そろそろ船を買うか?」
「値段次第だ」
「あと内装も重要ですよ!」

 横からヒユナが口を挟む。
 意味が判らなくて首を傾げていたら、金級冒険者だと自家用の船を持っている事も多いってアッシュが教えてくれた。

「え。ってことはレイナルドさんも持ってるんですか?」
「持ってるが此処にはないぞ。王都の倉庫だ」
「ほえー」
「なんだそれ」

 驚いて変な声が出た。
 っていうか王都ってことはパーティ所有じゃなくて本当の自家用なんじゃないのかな。

「……ところで船の捜索とか、マーヘ大陸の残党確保とか、俺たちは行かなくて良かったんですか?」

 そう尋ねると、レイナルドは俺の頭をわしゃわしゃした後で「当たり前だ」と。

「ローザルゴーザには此処を護る連中が揃っている。俺が同行したのは冒険者以外の事情だ」

 あ、監察官だったっけ。
 それとも高位貴族っていう身分の関係か。
 ――とまぁそんな感じで全員集合の夜の会議を終え、各自部屋で休んでの翌朝。
 レイナルドパーティ7名、グランツェパーティ6名、バルドルパーティ4名、計17名の冒険者で、罪人用の護送馬車4台に40人の罪人を詰め込むと、予定通り8時に港町ローザルゴーザを出発した。
 休憩を挟みながら午後4時前にトゥルヌソルに到着したが、昨日と同様にアッシュが単独で先触れに走ってくれたおかげで、トゥルヌソルの憲兵部隊や冒険者ギルドのサブマスターことララさんに出迎えられた。
 40人を一週間も預かるのか、とか。
 貴族と一緒に連行するのかといった意見が飛び交いつつも、初めての遠征が終わってちょっとだけホッとした……のも束の間。

(どうしてこうなった)

 気付けばレイナルドパーティ7名はギルドマスターのハーマイトシュシュー、サブマスターのララと共に冒険者ギルド二階の応接室で全員の視線を一身に浴びていたのだった。




 最初は驚いたが、よくよく考えるとトゥルヌソルに戻ったら冒険者ギルドのお二人に立ち会いを頼み俺の素性について話すって言ったなと思い出した俺は、すぐにこの状況に納得する。
 早めに告白して嘘を吐かなくて良いようにしたいって望んだのは俺自身だった。

「えー……と、驚かせると思いますが」
「構わん、言え」
「何を言われるかは想像つかないけどレイナルドの反応からして、とんでもない内容なのは判るから大丈夫」
「さぁ来い」

 ゲンジャル、ミッシェル、ウォーカーの勇ましい反応。
 アッシュとクルトは少し緊張しているっぽい……、クルトの場合は警戒もありそう?
 俺はレイナルド、ハーマイトシュシュー、ララを順番に見つめて全員が頷くのを確認してから、明かす。

「実は俺、人族ヒューロンじゃありません。地球っていって、ロテュスとは違う世界からリー……主神様に加護を頂いて転移して来た人間です」
「――」

 硬直。
 うんうん、そうなるよね。ハーマイトシュシューだけは穏やかに笑ってるけど、レイナルドは目線を逸らしたし、ララはみんなの反応を心配しているっぽい。

「あと、今はこの通り見た目が子どもに戻っていますがロテュスに来る前は25歳で、働いていました。違う神様の加護で見た目とのバランスが取れるようにしてもらったので気持ちの方も若返っているんですけど、子どもだからって卑猥や残虐な話題を避けたりしないでも大丈夫です」
「――」
「神力が多めなのは複数の神様から加護を頂いているからで……」
「――」
「あ、クルトさんにはもう一個嘘を吐いていました。実は故郷に両親なんていないんです。俺は孤児だったので」
「えっ」
「は? 孤児?」

 何故かレイナルドが食いついて来る。

「親がいないのか」
「いませんね。顔も知りません。生まれてすぐに孤児院の前に捨てられていたそうなので」
「……苦労したのね」
「うーん、どうでしょう。あ、でも生き方が歪んでいるから若返って矯正しろって主神様に言われています」

 あははは、と俺個人にとっては笑い話だったが他の面々にはそうもいかなかったらしい。

「レン。皆が落ち着くまで新しい情報は抑えようか」

 ハーマイトシュシューに言われてクルト達を見ると、初めて俺の素性を知った皆は呼吸しているのかも疑わしいほどピシリと固まっていた。




 その後、しばらくは俺の素性を噛み砕くのに全員が苦慮していたようだが、さすがは主神様の存在を認知している世界の人々である。
 そういうこともあるんだな、で納得していた。
 思考を放棄した感は否めないが、今まで通りの関係でお願いしたら助かるって言われたし、大丈夫だと思う。
 この話を夜にリーデンにしたら「良かったな」って笑ってた。
 それからローザルゴーザの話をする。

獄鬼ヘルネルが人と組むなんてことあるんですか?」
「ない、とは言えなくなったな」
「それって異常事態じゃないんですか……?」

 リーデンは難しい顔で黙り込んでしまう。
 答え難いんだろうか。

「じゃあ、レイナルドさんが、獄鬼ヘルネルと手を組んだのは間違いないのに罪状として記載されないって悔しがっていたんですけど、それってどうしてですか?」
「……前例がないからな。照合機をアップデートしたら良いのではないか」
「アップデート……」

 それはこの世界の言葉として通用するのだろうか。

「……主神って面倒な立場ですねぇ」

 思わず本音を漏らしたら軽く睨まれてしまった。
 でも自分が創ったロテュスという世界を人に委ねたあとは見守るのみっていうのは、もどかしいだろうなって思う。
 世界の崩壊を願う獄鬼ヘルネルと人が手を組んだなんて、手を出してはならないなんて決まりさえなければリーデンが今すぐにでも対処したい大問題なんじゃないのかな。

「まぁ、でも……ロテュスには俺がいます」
「ん……?」
「俺だけ異分子、ですもんね」

 自分の顔を指差して微笑めば彼は目を瞬かせたけれど、それはほんの一瞬。

「ああ」

 リーデンの表情が、そこでようやく和らいだ。
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