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第6章 変遷する世界
195.思惑 side ???
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カンヨン国の王は人間を憎んでいる。
創世から1000年の月日を経て人間はすでに存在せず、ましてや姿形が似ている人族に虐げられた経験があるわけでもないし、もっと言うなら祖先がロテュスに移住して以降は見た目を理由にどうこう言われた事実さえないのだ。
それでもカンヨン国の王は人間を憎んでいる。
もはやそれは血に刻まれた呪いだ。
こんなにも憎んでいるのなら。
壊してしまいたいと望むのなら、いっそ1000年の昔にロテュスへ渡ることなく種族もろとも滅んでしまえば良かったのだと、己の血族までも怨むほどに。
王と呼ばれても、彼はロテュスに暮らす一個の命でしかない。
だから彼には祖先の故郷がとうに崩壊し消えてしまっていることなど知るよしもないし、獄鬼がどういうつもりで声を掛けてきたのか理解することは永遠に有り得ない。
なのに自らも含めて滅んでしまえという怒りが、奇しくも獄鬼の目的と一致してしまった。
カンヨンの王は獄鬼に憑かれたわけではない。
洗脳されたわけでも、操られているわけでもない。
ただ。
ただ。
怒りに染めた魔力で、血で、望んだだけだ。
誰でもいい。
この世界を欠片も残さずに消してくれと――。
セイス国の王は混乱していた。
突然、なんの前触れもなく海から乗り込んできたプラーントゥ大陸の獣人たちは、自分達がこの大陸では忌避される見た目だと理解していないのか図々しく主導権を握り、あまつさえ国王代理だという大臣はこの国の王本人の許可を得るでもなく自国の兵を好き勝手に行動させる。
一応はこちらの指示にしたがっておとなしく城にやってきたが、彼らがやっていることは紛れもない領域侵犯だ。
相応の報復をさせてもらう。
相応の罰を受けてもらう、そのつもりだった。
だが――。
「なんの権限があってそのような勝手をなさるのか!」
王の心情を慮り声を荒げた宰相に、しかし余所の大臣が宣言する。
「世界に仇なす者を野放しにしているものはすべて同罪。我々は世界の法に乗っ取りこの大陸の罪人をすべて捕らえるために来た」
言うが早いか、大臣の護衛だった数人の騎士が戦闘態勢を取る。
セイス国の騎士たちも応戦し、……しかし突如として騎士の半数以上が苦しみ出した。胸をかきむしり、悲鳴をあげ、いやだ、やめろと他国の侵略者から逃げる。
理解できない光景に問いかけることも忘れて目を見開いていたセイス国の王に、宰相に、よそ者は呆れた息を吐いた。
「なるほど、王のそばに侍る騎士の半数が獄鬼に侵されていても気付かないならばカンヨン国の企みに気付けぬのも道理だな」
どういう意味かと問えばマーヘ大陸を代表するカンヨン国は六大陸の署名入りの国際会議を無断で欠席したと告げられた。
それだけではない。
二年前にプラーントゥ大陸所属の冒険者を誘拐しようとしたこと。
トゥルヌソルから奴隷を連れ帰るべく獄鬼と共闘関係にあったこと。
更にはこの半年でオセアン大陸トル国を征服せんと王族に獄鬼を憑かせ、征服が叶えばカンヨン国の奴隷だった、人間に似た姿を持つ彼らに支配を委ねるつもりだったらしいことまで聞かされて、もはや理解が追い付かなかった。
「し、知らん! そんなことはなにも……国際会議に招かれていたことだって何も……!!」
「知らないから罪はないなどと、そんな言い逃れがきくものか。これだけ獄鬼に侵食された王城で王たる貴様が国の異変を自覚することなく惰眠を貪っていたのならそれは紛れもない罪だ」
断言する余所者の傍に、いつの間にか魔物がいた。
大きな魔物は、しかし何故かプラーントゥ大陸の者の指示に従順で敵対するこちらに殺意を向けることもない。
なぜ、と。
それを疑問に思う余裕すら根こそぎ失われ、城はものの数分で制圧された。
セイス国の終わりである。
時を同じくしてオセアンの国軍が上陸したキンセ国。
キクノの国軍が上陸したヌエヴェ国が落ちた。。
一週間後には、やはりオセアン大陸が二手に分かれてカトルセ国とトレセ国を制圧。キクノ大陸も続けてスィエテ国を。グロット大陸は割り当てられたオンセ、ディエス、両国を順調に制圧した。
わずか一週間で大陸の半分を奪ったのだ。
例えそれが比較的獄鬼の脅威が小さい土地だったとしても大きな成果であることに変わりはない。
残るのが大きな脅威ばかりだとしても。
その、大きな脅威の一つがギァリッグ大陸の国軍が三部隊に分かれてそれぞれに上陸したマーヘ大陸北部の三か国、ウノ、ドス、トレスだ。
ギァリッグ大陸はマーヘ大陸カンヨン国から未踏破の白金級ダンジョンを攻略する手伝いをしてほしいという以来を受けて白金級の冒険者を30名派遣していた。
その30名がいまなおダンジョンの攻略を進めているとすれば、カンヨン、スィンコ、クワトロの国境が交わる辺りにいるはずだ。
今回の上陸戦に参加した騎士の中には、恋人や家族が30名の中にいる者が多い。
特別な関係にある彼らだけじゃない。
ギァリッグ大陸のすべての民が30人を無事に取り戻したいと願っている。
「時間はかかっていますが、確実に大陸に近付いています」
戦況の報告に来た団長が言う。
「プラーントゥ大陸から提供されているこれのおかげでしょう。以前のものも効果は確かですが、これを船首に下げておくだけで周辺の船の半数近くが後退していきました」
国境沿いに設置するよう依頼されているそれは、一度に20個までしか保有することが出来ないという意図が不明な条件付きの魔導具だが効果は証明されているし、仲間を取り戻すのに役立つなら多少の隠し事には気付かない振りもする。
「メッセンジャーのおかげで他の部隊との連絡も密に取れますし、プラーントゥ大陸とキクノ大陸の精鋭たちとも近々合流できる見通しです。なんとしても彼らを取り戻しましょう」
団長の言葉に、彼は。
ギァリッグ大陸の代表国フォレの第4王子殿下ロジェーヴァ・デオ・フォレは力強くうなずく。
絶対に彼らを取り戻してみせよう、と――。
***
読んで頂きありがとうございます、明日から第7章です。
また、マーヘ大陸15か国で執筆していたのですが、気付いたら12番目の国がなくなってましたorz 後日、マーヘ大陸は14カ国で統一、随時修正を入れていきます。ご了承くださいませ。
創世から1000年の月日を経て人間はすでに存在せず、ましてや姿形が似ている人族に虐げられた経験があるわけでもないし、もっと言うなら祖先がロテュスに移住して以降は見た目を理由にどうこう言われた事実さえないのだ。
それでもカンヨン国の王は人間を憎んでいる。
もはやそれは血に刻まれた呪いだ。
こんなにも憎んでいるのなら。
壊してしまいたいと望むのなら、いっそ1000年の昔にロテュスへ渡ることなく種族もろとも滅んでしまえば良かったのだと、己の血族までも怨むほどに。
王と呼ばれても、彼はロテュスに暮らす一個の命でしかない。
だから彼には祖先の故郷がとうに崩壊し消えてしまっていることなど知るよしもないし、獄鬼がどういうつもりで声を掛けてきたのか理解することは永遠に有り得ない。
なのに自らも含めて滅んでしまえという怒りが、奇しくも獄鬼の目的と一致してしまった。
カンヨンの王は獄鬼に憑かれたわけではない。
洗脳されたわけでも、操られているわけでもない。
ただ。
ただ。
怒りに染めた魔力で、血で、望んだだけだ。
誰でもいい。
この世界を欠片も残さずに消してくれと――。
セイス国の王は混乱していた。
突然、なんの前触れもなく海から乗り込んできたプラーントゥ大陸の獣人たちは、自分達がこの大陸では忌避される見た目だと理解していないのか図々しく主導権を握り、あまつさえ国王代理だという大臣はこの国の王本人の許可を得るでもなく自国の兵を好き勝手に行動させる。
一応はこちらの指示にしたがっておとなしく城にやってきたが、彼らがやっていることは紛れもない領域侵犯だ。
相応の報復をさせてもらう。
相応の罰を受けてもらう、そのつもりだった。
だが――。
「なんの権限があってそのような勝手をなさるのか!」
王の心情を慮り声を荒げた宰相に、しかし余所の大臣が宣言する。
「世界に仇なす者を野放しにしているものはすべて同罪。我々は世界の法に乗っ取りこの大陸の罪人をすべて捕らえるために来た」
言うが早いか、大臣の護衛だった数人の騎士が戦闘態勢を取る。
セイス国の騎士たちも応戦し、……しかし突如として騎士の半数以上が苦しみ出した。胸をかきむしり、悲鳴をあげ、いやだ、やめろと他国の侵略者から逃げる。
理解できない光景に問いかけることも忘れて目を見開いていたセイス国の王に、宰相に、よそ者は呆れた息を吐いた。
「なるほど、王のそばに侍る騎士の半数が獄鬼に侵されていても気付かないならばカンヨン国の企みに気付けぬのも道理だな」
どういう意味かと問えばマーヘ大陸を代表するカンヨン国は六大陸の署名入りの国際会議を無断で欠席したと告げられた。
それだけではない。
二年前にプラーントゥ大陸所属の冒険者を誘拐しようとしたこと。
トゥルヌソルから奴隷を連れ帰るべく獄鬼と共闘関係にあったこと。
更にはこの半年でオセアン大陸トル国を征服せんと王族に獄鬼を憑かせ、征服が叶えばカンヨン国の奴隷だった、人間に似た姿を持つ彼らに支配を委ねるつもりだったらしいことまで聞かされて、もはや理解が追い付かなかった。
「し、知らん! そんなことはなにも……国際会議に招かれていたことだって何も……!!」
「知らないから罪はないなどと、そんな言い逃れがきくものか。これだけ獄鬼に侵食された王城で王たる貴様が国の異変を自覚することなく惰眠を貪っていたのならそれは紛れもない罪だ」
断言する余所者の傍に、いつの間にか魔物がいた。
大きな魔物は、しかし何故かプラーントゥ大陸の者の指示に従順で敵対するこちらに殺意を向けることもない。
なぜ、と。
それを疑問に思う余裕すら根こそぎ失われ、城はものの数分で制圧された。
セイス国の終わりである。
時を同じくしてオセアンの国軍が上陸したキンセ国。
キクノの国軍が上陸したヌエヴェ国が落ちた。。
一週間後には、やはりオセアン大陸が二手に分かれてカトルセ国とトレセ国を制圧。キクノ大陸も続けてスィエテ国を。グロット大陸は割り当てられたオンセ、ディエス、両国を順調に制圧した。
わずか一週間で大陸の半分を奪ったのだ。
例えそれが比較的獄鬼の脅威が小さい土地だったとしても大きな成果であることに変わりはない。
残るのが大きな脅威ばかりだとしても。
その、大きな脅威の一つがギァリッグ大陸の国軍が三部隊に分かれてそれぞれに上陸したマーヘ大陸北部の三か国、ウノ、ドス、トレスだ。
ギァリッグ大陸はマーヘ大陸カンヨン国から未踏破の白金級ダンジョンを攻略する手伝いをしてほしいという以来を受けて白金級の冒険者を30名派遣していた。
その30名がいまなおダンジョンの攻略を進めているとすれば、カンヨン、スィンコ、クワトロの国境が交わる辺りにいるはずだ。
今回の上陸戦に参加した騎士の中には、恋人や家族が30名の中にいる者が多い。
特別な関係にある彼らだけじゃない。
ギァリッグ大陸のすべての民が30人を無事に取り戻したいと願っている。
「時間はかかっていますが、確実に大陸に近付いています」
戦況の報告に来た団長が言う。
「プラーントゥ大陸から提供されているこれのおかげでしょう。以前のものも効果は確かですが、これを船首に下げておくだけで周辺の船の半数近くが後退していきました」
国境沿いに設置するよう依頼されているそれは、一度に20個までしか保有することが出来ないという意図が不明な条件付きの魔導具だが効果は証明されているし、仲間を取り戻すのに役立つなら多少の隠し事には気付かない振りもする。
「メッセンジャーのおかげで他の部隊との連絡も密に取れますし、プラーントゥ大陸とキクノ大陸の精鋭たちとも近々合流できる見通しです。なんとしても彼らを取り戻しましょう」
団長の言葉に、彼は。
ギァリッグ大陸の代表国フォレの第4王子殿下ロジェーヴァ・デオ・フォレは力強くうなずく。
絶対に彼らを取り戻してみせよう、と――。
***
読んで頂きありがとうございます、明日から第7章です。
また、マーヘ大陸15か国で執筆していたのですが、気付いたら12番目の国がなくなってましたorz 後日、マーヘ大陸は14カ国で統一、随時修正を入れていきます。ご了承くださいませ。
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