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第7章 呪われた血筋
202.森に眠る
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陽が沈み、夜空には半月が浮かんでいた。
夕飯を食べてしばらく他愛のない会話をしていたら、エトワールの体が柔らかな光に包まれた。
「えっ」
俺は驚いたけど、レイナルドさんは判っていたようで静かに成り行きを見守っている。
夜闇にも埋もれない淡い緑色の光がエトワールの痩せ細った体をふわりと宙に浮かせた。レイナルドさんは敷いていた寝袋を取り除く。
その間も緑色の光りは輝きを増し、横になっていた体を起こさせる。
「……⁈」
自分の目を疑った。
エトワールの体が光の中に埋もれたと思った瞬間に、光は柱となって大地から空へ突き抜けた。
その間、僅か数秒だ。
柱の太さが増していくほどに光が弱まり、完全に消えたと思ったら、そこには一本の木があった。高さは1メートルにも満たず、葉もない、細い木。
「え……え?」
「……森人族は命が尽きると木になる」
「えっ?」
語彙力死んだとかそういうレベルじゃない。
目の前で見ても理解が追いつかなくて、頭の中が真っ白なままの俺にレイナルドさんは小さく笑う。
「木はゆっくり時間を掛けて育つ。春に咲く花、夏に生い茂る葉、秋に実る果実、冬に蓄える魔力――それらを虫や、鳥が、大陸全土、時には海の向こうへ運ぶ。植物の受粉、種子の拡散、植物にとって良くない害虫の駆除や、繁殖し過ぎた貝や小動物の間引きなんかもしてくれてる。……森人族の祖先が鳥族なのは知ってるだろ」
「っ、それは、はい」
「森人族は翼を捨てられなかったんだとさ」
もう、右から左に音が流れていく。
そうとしか感じられないくらい頭に入って来ない。
レイナルドさんもそれを理解してくれているみたいで、ゆっくり、ゆっくりと時間を掛けて説明してくれた。
森人族は、ご先祖様がいろんな種族の人たちと血を交わらせてロテュスの大地に根付いた5種族の一つだけど、この世界に移住してきた当初に鳥族はリーデン様と約束した。
翼を持たない普通の人として暮らしたい。
しかし翼を失うは鳥族の誇りを失うも同じ。
だから二つの生を与えて欲しい。
「寿命が短いんじゃないんだ」
森人族は木になり、その花に、葉に、果実に、魔力に分かたれた命を溶かし、鳥に、虫に知識を委ねてより賢く環境を整える存在となって世界を守る――それが森人族と主神の約束。
「それ……森人族の時の記憶とか、想いとか、そういうのは……」
「さぁな。だが親しい森人族がいなくなった後に鳥に懐かれたとか、そういう記録がないってことは引き継がれないんだろう」
「……っ」
なんだろう。
判らない。
でも胸の奥がぐるぐるする。
それでなくても感情がいっぱいいっぱいなのに、レイナルドさんは更なる爆弾を落として来た。
「森人族の木は約100年で枯れる。その枯れた後に、新たな森人族が生まれるんだ」
「は……」
は?
「枯れた木の根元に、4、5歳くらいの子どもが現れる。これが満月と新月の夜と決まっている。プラーントゥ大陸とキクノ大陸は、その日に必ず森人族の森を見廻る。森に棲んでいる森人族がいるならいいが、いない場合は子どもを保護するためにな」
他の大陸もかつては王族主導のもとで森人族の保護を行っていたが、貴族の我欲、奴隷制度の悪用など様々な理由が重なって森人族自身が大陸を離れるようになった。
いまも森人族の森があるのは奴隷制度が廃止され人々の権利を守るのが基本のプラーントゥ大陸と、自然を尊重し森人族の森への不可侵を約束しているキクノ大陸だけで、かといっていま生存しているすべての森人族がどちらかの出身かというと、そうでもない。
過去に攫われ奴隷契約を結ばされた森人族は、死んだ土地で木になる。
森人族の生と死を知るのは王族と特殊な職務にある者だけだと言ったって情報はどこから漏れるとも知れないし、生まれた時から親がいない以上は、その子を保護または手に入れた者が主だ。
「誰が保護したかによって森人族の知識は偏る。けど、森人族としての本能っつーか、魂がな。森に還りたいって訴えるんだ。森人族の森があるのはプラーントゥ大陸とキクノ大陸だって彼らは知ってる。そこに戻りさえすれば残り半分の寿命を主神様との約束通りに使えるって、詳細は判らないまま、それでも……」
それでも、還りたいって。
「……っ」
両親がいないんじゃない。
最初からいないんだ。
森人族は寿命が短いんじゃない。
残り半分で世界を守っている。
他種族との間に子どもが出来難い?
当然だ。
木から生まれ、木になる森人族は他の種族とそもそもが違い過ぎる。
「そ……そういう、生き方……体質、とか。森人族本人は知っているんですか……?」
「森に暮らす森人族は知っているだろうが、他はどうだろうな。自分に都合よく洗脳しようとする奴が傍にいればテキトーな知識を植え付けられるだろうし、……知らない方が幸せな奴もいる。長く生きられないのが祖先のせいだって思う奴もいるだろうしさ」
じゃあ、シューさんは?
問い掛けは、喉元までせり上がって来たのに声にはならなかった。
夕飯を食べてしばらく他愛のない会話をしていたら、エトワールの体が柔らかな光に包まれた。
「えっ」
俺は驚いたけど、レイナルドさんは判っていたようで静かに成り行きを見守っている。
夜闇にも埋もれない淡い緑色の光がエトワールの痩せ細った体をふわりと宙に浮かせた。レイナルドさんは敷いていた寝袋を取り除く。
その間も緑色の光りは輝きを増し、横になっていた体を起こさせる。
「……⁈」
自分の目を疑った。
エトワールの体が光の中に埋もれたと思った瞬間に、光は柱となって大地から空へ突き抜けた。
その間、僅か数秒だ。
柱の太さが増していくほどに光が弱まり、完全に消えたと思ったら、そこには一本の木があった。高さは1メートルにも満たず、葉もない、細い木。
「え……え?」
「……森人族は命が尽きると木になる」
「えっ?」
語彙力死んだとかそういうレベルじゃない。
目の前で見ても理解が追いつかなくて、頭の中が真っ白なままの俺にレイナルドさんは小さく笑う。
「木はゆっくり時間を掛けて育つ。春に咲く花、夏に生い茂る葉、秋に実る果実、冬に蓄える魔力――それらを虫や、鳥が、大陸全土、時には海の向こうへ運ぶ。植物の受粉、種子の拡散、植物にとって良くない害虫の駆除や、繁殖し過ぎた貝や小動物の間引きなんかもしてくれてる。……森人族の祖先が鳥族なのは知ってるだろ」
「っ、それは、はい」
「森人族は翼を捨てられなかったんだとさ」
もう、右から左に音が流れていく。
そうとしか感じられないくらい頭に入って来ない。
レイナルドさんもそれを理解してくれているみたいで、ゆっくり、ゆっくりと時間を掛けて説明してくれた。
森人族は、ご先祖様がいろんな種族の人たちと血を交わらせてロテュスの大地に根付いた5種族の一つだけど、この世界に移住してきた当初に鳥族はリーデン様と約束した。
翼を持たない普通の人として暮らしたい。
しかし翼を失うは鳥族の誇りを失うも同じ。
だから二つの生を与えて欲しい。
「寿命が短いんじゃないんだ」
森人族は木になり、その花に、葉に、果実に、魔力に分かたれた命を溶かし、鳥に、虫に知識を委ねてより賢く環境を整える存在となって世界を守る――それが森人族と主神の約束。
「それ……森人族の時の記憶とか、想いとか、そういうのは……」
「さぁな。だが親しい森人族がいなくなった後に鳥に懐かれたとか、そういう記録がないってことは引き継がれないんだろう」
「……っ」
なんだろう。
判らない。
でも胸の奥がぐるぐるする。
それでなくても感情がいっぱいいっぱいなのに、レイナルドさんは更なる爆弾を落として来た。
「森人族の木は約100年で枯れる。その枯れた後に、新たな森人族が生まれるんだ」
「は……」
は?
「枯れた木の根元に、4、5歳くらいの子どもが現れる。これが満月と新月の夜と決まっている。プラーントゥ大陸とキクノ大陸は、その日に必ず森人族の森を見廻る。森に棲んでいる森人族がいるならいいが、いない場合は子どもを保護するためにな」
他の大陸もかつては王族主導のもとで森人族の保護を行っていたが、貴族の我欲、奴隷制度の悪用など様々な理由が重なって森人族自身が大陸を離れるようになった。
いまも森人族の森があるのは奴隷制度が廃止され人々の権利を守るのが基本のプラーントゥ大陸と、自然を尊重し森人族の森への不可侵を約束しているキクノ大陸だけで、かといっていま生存しているすべての森人族がどちらかの出身かというと、そうでもない。
過去に攫われ奴隷契約を結ばされた森人族は、死んだ土地で木になる。
森人族の生と死を知るのは王族と特殊な職務にある者だけだと言ったって情報はどこから漏れるとも知れないし、生まれた時から親がいない以上は、その子を保護または手に入れた者が主だ。
「誰が保護したかによって森人族の知識は偏る。けど、森人族としての本能っつーか、魂がな。森に還りたいって訴えるんだ。森人族の森があるのはプラーントゥ大陸とキクノ大陸だって彼らは知ってる。そこに戻りさえすれば残り半分の寿命を主神様との約束通りに使えるって、詳細は判らないまま、それでも……」
それでも、還りたいって。
「……っ」
両親がいないんじゃない。
最初からいないんだ。
森人族は寿命が短いんじゃない。
残り半分で世界を守っている。
他種族との間に子どもが出来難い?
当然だ。
木から生まれ、木になる森人族は他の種族とそもそもが違い過ぎる。
「そ……そういう、生き方……体質、とか。森人族本人は知っているんですか……?」
「森に暮らす森人族は知っているだろうが、他はどうだろうな。自分に都合よく洗脳しようとする奴が傍にいればテキトーな知識を植え付けられるだろうし、……知らない方が幸せな奴もいる。長く生きられないのが祖先のせいだって思う奴もいるだろうしさ」
じゃあ、シューさんは?
問い掛けは、喉元までせり上がって来たのに声にはならなかった。
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