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第7章 呪われた血筋
204.生と死が一つになる日 side レイナルド
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テントの外。
焚き火の側でレンが作り置いてくれた夕飯を食べながら夜空を見上げれば一面に散りばめられた星の輝きの中に半月があった。
レンを自宅に帰させたのは、もちろん主神様の嫉妬に焼かれるのは御免被りたいからという意図もあったが、もしかしたら今日かもしれないという予感があったからだ。
「……らしくないな」
思わず漏らした呟きの先には二つに割った魔石の片割れ。
あの日、レンから「恋人に渡せ」という言葉と共に渡された通信用のそれだ。
森人族は満月、もしくは新月の日に生まれる。
他の種族より魔力が多い森人族だが、満月の日に生まれると光属性に長け、新月の日に生まれると闇魔法に長けるなどその日の特徴めいた事柄は幾つかあるのに加え、その生涯に月の満ち欠けが大きく影響しているというのは知る人ぞ知る常識。
だからエトワールという名の女性の心臓が今夜を待っていたことも、月が出たら止まることも知っていた。
森人族が人としての生を終え、其の身は羽をもつ者たちの止まり木に、魂は羽とともに世界を調整するという新たな生を受ける――それは光と闇を併せ持つ月が浮かぶ夜と決まっているからだ。
半月。
生と死が分かたれる。
最後にトゥルヌソルで会った日のハーマイトシュシューを思い出す。
本当なら彼が言っていた通り1年半前に二人の関係は終わっていた。いつ戻れるかも判らなかった自分と、もういつ心臓が止まってもおかしくなかった彼。再会する予定がないなら終わらせておいた方が気が楽だと言って先に「サヨナラ」を口にしたのはハーマイトシュシューの方だった。
彼が始めたことだ。
終わりをいつにするかも彼が決めれば良い、その思いは今も変わっていない。
ただ、彼が強がっていることに気付かないほど鈍くはないだけだ。
愛せなかった。
愛するつもりがなかった。
特別はすでに在る。
国のため、民のため、国王陛下のため――身も心も、命さえも、もはや自分のものではない。残るのは抜け殻同然の器だから、ハーマイトシュシューも本音を隠して老い先短い自分と恋人ごっこをしようなんて提案が出来たんだと知っている。
例えば、期待して傷つかないための自衛。
最初からそういうものだと割り切った上で、他の人とは性的な接触は持たないというたった一つの約束で互いを唯一にした。
そんな関係を何年続けただろうか。
10年にはならないが、……短くない時間だ。
普通なら絆されたり愛に変わったりするのかもしれないが自分たちは結局最後まで変わらなかった。
(……いや。シューは後悔していたかもな)
男体のままだと準備が面倒臭いなんて理由で儀式を受けて雌体になり、どうせ子どもなんて出来ないと悟ったフリで中に欲しがった哀れな森人族。
他にやることもないなんてセリフで冒険者ギルドのトップになって特殊な立場にある自分が負うべき重責を負担し続けた頑固な森人族。
頑なな態度の裏側で真摯に尽くしてくれた相手ですら仲間以上には想えない、ろくでもない男に引っ掛かった愚かな森人族。
(恨み言くらい)
言ってくれても良かったと言い掛けて、その思考に苦笑する。
(言うワケないか……おまえはそうなる自分が嫌でずっと強がっていたんだから)
再び空を仰ぐ。
半月はかなり西に傾いている。
終わりと始まりの夜が始まってもう数時間が経過した。
普通に考えたらとうに時間切れだ。
(けど、おまえは頑固だからな)
頑固だし、すぐ強がるし、……そのくせ誰よりも寂しがりだ。
小さな通信機を手に握り込んで耳元に寄せる。
魔力を流す。
反応はなかった。
でも繋がった。
反応は、何一つなかったけど。
風の音が聴こえる。
葉擦れの音も。
冬の、森の、木々の歌も。
そして今にも途切れそうな細い呼吸。
揺らぐ魔力。
(……やっぱり今日だった)
間違いない。
ハーマイトシュシューの心の鼓動はもう間もなく止まる。
(――……)
それを実感しても掛ける言葉が見つからなかった。
通信の魔導具を渡しに行った時だってこれの珍しさには興味を示したものの、関係を終えたにも関わらず会いに来た自分に彼の態度は冷ややかだった。
一応は受け取っても「使うつもりはないよ」と言い切って部屋の棚に置いてしまった。
(……あぁ、けど森には持って行ったんだな)
そうでなければいまこうして繋がるはずがない。
あんな風に言っていたにも関わらず自分が持つ魔石と対になるそれを持って最期を迎えようというハーマイトシュシューに、心臓が締め付けられるような息苦しさを覚えた。
(……バカだな)
バカだ。
おまえも、俺も。
「……シュー。全部終わったら会いに行くよ」
ゆっくりと弱まっていく鼓動に。
細く揺らめく魔力に。
最後の。
「その片割れを探して、会いに行くから、絶対に落とさないで持ってろ」
空気が、震えて。
『……レイ……眠いんだ……』
「ああ」
『もう眠いから……また、……』
「ああ」
心の音。
「おやすみ」
プツリと切れた魔力の糸を風がふわりと掻き消した。
海の向こう、遠く離れた故郷。
「……おやすみ。シュー」
風はひどく冷たかった。
焚き火の側でレンが作り置いてくれた夕飯を食べながら夜空を見上げれば一面に散りばめられた星の輝きの中に半月があった。
レンを自宅に帰させたのは、もちろん主神様の嫉妬に焼かれるのは御免被りたいからという意図もあったが、もしかしたら今日かもしれないという予感があったからだ。
「……らしくないな」
思わず漏らした呟きの先には二つに割った魔石の片割れ。
あの日、レンから「恋人に渡せ」という言葉と共に渡された通信用のそれだ。
森人族は満月、もしくは新月の日に生まれる。
他の種族より魔力が多い森人族だが、満月の日に生まれると光属性に長け、新月の日に生まれると闇魔法に長けるなどその日の特徴めいた事柄は幾つかあるのに加え、その生涯に月の満ち欠けが大きく影響しているというのは知る人ぞ知る常識。
だからエトワールという名の女性の心臓が今夜を待っていたことも、月が出たら止まることも知っていた。
森人族が人としての生を終え、其の身は羽をもつ者たちの止まり木に、魂は羽とともに世界を調整するという新たな生を受ける――それは光と闇を併せ持つ月が浮かぶ夜と決まっているからだ。
半月。
生と死が分かたれる。
最後にトゥルヌソルで会った日のハーマイトシュシューを思い出す。
本当なら彼が言っていた通り1年半前に二人の関係は終わっていた。いつ戻れるかも判らなかった自分と、もういつ心臓が止まってもおかしくなかった彼。再会する予定がないなら終わらせておいた方が気が楽だと言って先に「サヨナラ」を口にしたのはハーマイトシュシューの方だった。
彼が始めたことだ。
終わりをいつにするかも彼が決めれば良い、その思いは今も変わっていない。
ただ、彼が強がっていることに気付かないほど鈍くはないだけだ。
愛せなかった。
愛するつもりがなかった。
特別はすでに在る。
国のため、民のため、国王陛下のため――身も心も、命さえも、もはや自分のものではない。残るのは抜け殻同然の器だから、ハーマイトシュシューも本音を隠して老い先短い自分と恋人ごっこをしようなんて提案が出来たんだと知っている。
例えば、期待して傷つかないための自衛。
最初からそういうものだと割り切った上で、他の人とは性的な接触は持たないというたった一つの約束で互いを唯一にした。
そんな関係を何年続けただろうか。
10年にはならないが、……短くない時間だ。
普通なら絆されたり愛に変わったりするのかもしれないが自分たちは結局最後まで変わらなかった。
(……いや。シューは後悔していたかもな)
男体のままだと準備が面倒臭いなんて理由で儀式を受けて雌体になり、どうせ子どもなんて出来ないと悟ったフリで中に欲しがった哀れな森人族。
他にやることもないなんてセリフで冒険者ギルドのトップになって特殊な立場にある自分が負うべき重責を負担し続けた頑固な森人族。
頑なな態度の裏側で真摯に尽くしてくれた相手ですら仲間以上には想えない、ろくでもない男に引っ掛かった愚かな森人族。
(恨み言くらい)
言ってくれても良かったと言い掛けて、その思考に苦笑する。
(言うワケないか……おまえはそうなる自分が嫌でずっと強がっていたんだから)
再び空を仰ぐ。
半月はかなり西に傾いている。
終わりと始まりの夜が始まってもう数時間が経過した。
普通に考えたらとうに時間切れだ。
(けど、おまえは頑固だからな)
頑固だし、すぐ強がるし、……そのくせ誰よりも寂しがりだ。
小さな通信機を手に握り込んで耳元に寄せる。
魔力を流す。
反応はなかった。
でも繋がった。
反応は、何一つなかったけど。
風の音が聴こえる。
葉擦れの音も。
冬の、森の、木々の歌も。
そして今にも途切れそうな細い呼吸。
揺らぐ魔力。
(……やっぱり今日だった)
間違いない。
ハーマイトシュシューの心の鼓動はもう間もなく止まる。
(――……)
それを実感しても掛ける言葉が見つからなかった。
通信の魔導具を渡しに行った時だってこれの珍しさには興味を示したものの、関係を終えたにも関わらず会いに来た自分に彼の態度は冷ややかだった。
一応は受け取っても「使うつもりはないよ」と言い切って部屋の棚に置いてしまった。
(……あぁ、けど森には持って行ったんだな)
そうでなければいまこうして繋がるはずがない。
あんな風に言っていたにも関わらず自分が持つ魔石と対になるそれを持って最期を迎えようというハーマイトシュシューに、心臓が締め付けられるような息苦しさを覚えた。
(……バカだな)
バカだ。
おまえも、俺も。
「……シュー。全部終わったら会いに行くよ」
ゆっくりと弱まっていく鼓動に。
細く揺らめく魔力に。
最後の。
「その片割れを探して、会いに行くから、絶対に落とさないで持ってろ」
空気が、震えて。
『……レイ……眠いんだ……』
「ああ」
『もう眠いから……また、……』
「ああ」
心の音。
「おやすみ」
プツリと切れた魔力の糸を風がふわりと掻き消した。
海の向こう、遠く離れた故郷。
「……おやすみ。シュー」
風はひどく冷たかった。
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