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第7章 呪われた血筋
205.その夜
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俺と一晩二人きりで過ごすのは怖いと言われて、レイナルドさんの考え過ぎだとは言い切れなくて神具『住居兼用移動車両』Ex.に戻ったものの、部屋にリーデン様はいなかった。
「そういえば今日は遅くなるようなこと言ってたっけ……」
靴を脱いで、手洗いうがい。
それからキッチンで冷えた果実水をグラスに注ぐ。
柑橘の爽やかな匂いにホッとしながら喉を潤した。
と、無意識に長い息が零れる。
「はあ……」
正直、いまもまだ頭や心の中はぐちゃぐちゃだ。
わずかな時間で与えられた情報量が多過ぎて、実際に目の前で見たはずの現象さえ夢だったんじゃないかと疑いたくなる。
だって、それまで間違いなく人だったのに光ったと思ったら木になった。
彼女は森に還りたがっていた。
レイナルドさんが持っていたような知識は一切なかっただろうに、死を自覚したことで森に行きたがる、そして亡くなったら木になる。
それってつまり森人族の森と呼ばれているそこの木々は……全部じゃないにしたってそういうことになるよね?
「……そりゃあ王族と特殊な任務に就く人だけの秘密になるよ……」
考えれば考えるほど気持ちが複雑になる。
特に親交のなかったエトワールさんの最期だってこんなに衝撃的だったんだよ。
「シューさんもいつか……」
想像するだけで全身に震えが走った。
トゥルヌソルの冒険者ギルドのトップにいるハーマイトシュシュ―さんだって、特殊な身の上という理由が無ければ冒険者としての活動くらいでしか接することのない相手だったが、同じパーティの仲間で保護者同然のレイナルドさんの大事な人だ。
彼を亡くしたらレイナルドさんがどんなに悲しむだろうと思うと胸が痛い。
呼吸が苦しくなる。
同時に思い出した。
正確な年齢は聞いたことがないがレイナルドより年上だと言っていた。
森人族は40まで生きられないというなら彼が森に還るのもそう遠くないかもしれなくて、もしかしたらそれは――。
「……っ」
そんなはず、と。
思わずあちらに戻ろうとするも見えない力に足を掴まれたように動けなくなり、いつかのリーデン様の言葉が蘇る。
レイナルドさんとシューさん、二人が何も言わないのなら見守るだけにした方が良い。
知らないフリが出来ないなら何も知らない方が良い。
こうなってみて、リーデン様の言っていたことが正しいと痛感する。
これからどんな顔をしてシューさんに会ったら良いのか判らない。シューさんだけじゃなく、他の森人族の人たちにも。
「シューさんは大丈夫なのかな」
海を挟むほど遠く離れ離れになった二人が、せめて通話だけでも出来るようにと思って通信の魔導具を渡した。もしシューさんにその日が来たら、さすがにレイナルドさんもトゥルヌソルに戻りたいと声を掛けてくれると思う。
そしたら扉を使って、一瞬で彼をあの街に連れていける。
「大丈夫だよね……?」
戻った方が良い気がした。
でも、戻ってはいけないような気もする。
胸騒ぎ。
予感。
迷って、躊躇して、それでも何とか踏み出した一歩。
「っ……あ、え?」
チリン
不意に窓辺の風鈴が鳴り響きリーデン様の帰宅を知らせる。
「リーデン様」
「レン」
現れたリーデン様はいつもつい見惚れてしまう綺麗な顔をいまは微かに歪めて腕を伸ばして来た。
腕は、戸惑ってなにも言えずにいる俺を抱き締めた。
「……あの……?」
「……今夜はもう此処にいろ」
ぎゅって、腕の力が増す。
リーデン様はその態勢のまま俺の耳元で静かに告げた。
俺は、そのまま床に座り込むしかなかった。
「そういえば今日は遅くなるようなこと言ってたっけ……」
靴を脱いで、手洗いうがい。
それからキッチンで冷えた果実水をグラスに注ぐ。
柑橘の爽やかな匂いにホッとしながら喉を潤した。
と、無意識に長い息が零れる。
「はあ……」
正直、いまもまだ頭や心の中はぐちゃぐちゃだ。
わずかな時間で与えられた情報量が多過ぎて、実際に目の前で見たはずの現象さえ夢だったんじゃないかと疑いたくなる。
だって、それまで間違いなく人だったのに光ったと思ったら木になった。
彼女は森に還りたがっていた。
レイナルドさんが持っていたような知識は一切なかっただろうに、死を自覚したことで森に行きたがる、そして亡くなったら木になる。
それってつまり森人族の森と呼ばれているそこの木々は……全部じゃないにしたってそういうことになるよね?
「……そりゃあ王族と特殊な任務に就く人だけの秘密になるよ……」
考えれば考えるほど気持ちが複雑になる。
特に親交のなかったエトワールさんの最期だってこんなに衝撃的だったんだよ。
「シューさんもいつか……」
想像するだけで全身に震えが走った。
トゥルヌソルの冒険者ギルドのトップにいるハーマイトシュシュ―さんだって、特殊な身の上という理由が無ければ冒険者としての活動くらいでしか接することのない相手だったが、同じパーティの仲間で保護者同然のレイナルドさんの大事な人だ。
彼を亡くしたらレイナルドさんがどんなに悲しむだろうと思うと胸が痛い。
呼吸が苦しくなる。
同時に思い出した。
正確な年齢は聞いたことがないがレイナルドより年上だと言っていた。
森人族は40まで生きられないというなら彼が森に還るのもそう遠くないかもしれなくて、もしかしたらそれは――。
「……っ」
そんなはず、と。
思わずあちらに戻ろうとするも見えない力に足を掴まれたように動けなくなり、いつかのリーデン様の言葉が蘇る。
レイナルドさんとシューさん、二人が何も言わないのなら見守るだけにした方が良い。
知らないフリが出来ないなら何も知らない方が良い。
こうなってみて、リーデン様の言っていたことが正しいと痛感する。
これからどんな顔をしてシューさんに会ったら良いのか判らない。シューさんだけじゃなく、他の森人族の人たちにも。
「シューさんは大丈夫なのかな」
海を挟むほど遠く離れ離れになった二人が、せめて通話だけでも出来るようにと思って通信の魔導具を渡した。もしシューさんにその日が来たら、さすがにレイナルドさんもトゥルヌソルに戻りたいと声を掛けてくれると思う。
そしたら扉を使って、一瞬で彼をあの街に連れていける。
「大丈夫だよね……?」
戻った方が良い気がした。
でも、戻ってはいけないような気もする。
胸騒ぎ。
予感。
迷って、躊躇して、それでも何とか踏み出した一歩。
「っ……あ、え?」
チリン
不意に窓辺の風鈴が鳴り響きリーデン様の帰宅を知らせる。
「リーデン様」
「レン」
現れたリーデン様はいつもつい見惚れてしまう綺麗な顔をいまは微かに歪めて腕を伸ばして来た。
腕は、戸惑ってなにも言えずにいる俺を抱き締めた。
「……あの……?」
「……今夜はもう此処にいろ」
ぎゅって、腕の力が増す。
リーデン様はその態勢のまま俺の耳元で静かに告げた。
俺は、そのまま床に座り込むしかなかった。
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