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ラックの話(あとライター)
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タバコを吸いながらラックに近寄ると、鼻をピクピクさせ、匂いで俺だということに気づいたのか顔を上げた。
「い、一成さぁん……」
気の抜けた一言目だった。目から涙が零れ落ちている。
ラックはそのまま俺の服の裾を掴み、俺の服で涙と鼻水を拭いてやがる。
俺達はラックに目線を合わせてしゃがみ、話を聞くことにした。
「んで、何があったんだ?」
「実は……」
ラックは暗部の人間より少し遅れてここに到着したという。
辿り着いた時はまだ戦闘は始まっておらず、全員に隠密魔法を暗部の人間がかけてくれ、そのまま中へと入り込んだ。
しかし流石にエルフの探知能力はその程度の魔法では突破できず、入ってすぐの部屋で一行はエルフに囲まれた。
もう無理だと思って目を閉じていたら、暗部の人間たちはエルフたちに切り込み、1人また1人と殺していったという。
「つまり、尋問をする素振りも見せず全員皆殺しにしたんですね?」
ルシウスがラックに尋ねるとラックは首を縦に振った。
「巫女様の居場所も聞かず、只々殺していました。まるで最初からそれが狙いだったみたいに。」
「ルシウス、暗部の責任者は誰だ?」
「申し訳ありませんが、暗部に関しては完全秘匿。私たち隊長ですら知りえない情報なんです。命令を出している者すら分かりません。」
そこまで徹底して秘匿するからジークもあれだけしっかりと漏れた情報が無いか調べていたのか。
「そんなんでよく成立してんな帝国軍。」
「兄ちゃんそれは言わねぇ約束だぜ?」
ジークが背後から肩を組んでくる。
タバコをあげたことで随分気にいられたようだ。
「嬢ちゃんの話、俺にも聞かせてくれねぇか?ほれ、飴ちゃんあげるから。」
「この人、なんか怖いから嫌です……」
泣き顔で即答するラックに、差し出した飴を悲しそうにポケットにしまい、あとは任せたと言わんばかりに俺とルシウスの肩を叩いて現場に戻って行った。なんならジークもちょっと泣いてた。
「今知り得る情報はこのぐらいか。」
「そうですね。ソールもかなり疲れているでしょうしそろそろ城に帰りましょうか。」
「あら、あなた達もう帰るの?」
作業着に屈強で高身長。
ゴリゴリの大男が女口調で身体をクネクネしながらやって来た。
見ちゃいけないものを見ている気がする。
「ミラさん。何故ここに?」
「あんた達の戦いの最後にとんでもない魔力吸収があったでしょ?それで大半の魔道具イカれちゃってね。ジークの野郎に調査用の魔道具の修理頼まれたのよ。徹夜はお肌の大敵なのに。」
そう言いながらジークの方を睨む目は完全にヤーサンだった。
レインはその事を聞いて申し訳なさそうな顔をしていたが、ミラが直ぐに俺の顔をじっくりと見てきて、俺に無理矢理握手してきた。
「あら、貴方一成ちゃん?この間の試合、かっこよかったわよ?見とれちゃったわー!!」
「は、はぁ、それは、どうも……」
「なーに?シャイボーイ?かーわいい!!」
俺はただ単に目を合わせちゃいけない人種だと思って目を伏せて引きつった愛想笑いをしていただけなんだが、背中をバシバシ叩いてくる。めっちゃ痛い。下手な男のそれより痛い。
「……紹介しますね。彼は開発隊のミラさんです。」
「彼とは何よ。心は女よ。」
ドスの効いた声で言われても説得力がないんだが。
「なんか困ったことがあったら言いなさいね?」
人差し指を立てながらウインクしている。
色々と濃すぎて息が詰まるので、ポケットからタバコを出して咥え、火を付けようとしたところでライターのオイルが無いことを思い出した。
「あ、そういえば……」
「あら?あなた珍しい道具持ってるわね?」
「これ、直せたりとかします?」
俺はミラにライターを渡した。
ミラは受け取ったライター虫眼鏡のようなものでじっくりと観察しながら、
「へー、ここが火打石になってて、ここを擦ると火花が飛んで……」
と、一瞬でほぼ完璧にライターの機構を理解していた。
「あんたこれあたしに少し預けてくれない?」
「構いませんが、直せそうですか?」
「任せなさい。あたしは泣く子も黙る帝国軍開発隊長よ?逆にあたしに直せなかったらこの世界で直せる人間なんて居ないわ。」
そう言いながら颯爽と帰ろうとしていたミラをジークが呼び止める。
「おいオカマ野郎!!何帰ろうとしてやがる!!さっさとこっちの道具直せ!!」
「そんな誰でも直せる道具にあたしは興味無いの。てかてめぇ今なんつった!?」
お互い一触即発。隊長同士の魔力のぶつかり合いとなれば空気すら震える。
そんな状況なのにみんな慣れているのか作業に集中して全く2人の方を見ていない。
ブチ切れたミラが俺のライターをカチンと開けた時、ライターの蓋が盛大に飛んでいった。
結果これが功を奏した。
「あ、ヒンジもダメだったか……」
「ごめーん一成ちゃん!!ちゃんと直して返すわ!!」
「帰ろうとしてんじゃねぇぞおい!!」
「隊の子呼んだから文句ないでしょ?じゃーねー。」
ミラはヒラヒラを手を振りながら路地へと消えて行った。
マジで嵐が去ったかのようだった。
「い、一成さぁん……」
気の抜けた一言目だった。目から涙が零れ落ちている。
ラックはそのまま俺の服の裾を掴み、俺の服で涙と鼻水を拭いてやがる。
俺達はラックに目線を合わせてしゃがみ、話を聞くことにした。
「んで、何があったんだ?」
「実は……」
ラックは暗部の人間より少し遅れてここに到着したという。
辿り着いた時はまだ戦闘は始まっておらず、全員に隠密魔法を暗部の人間がかけてくれ、そのまま中へと入り込んだ。
しかし流石にエルフの探知能力はその程度の魔法では突破できず、入ってすぐの部屋で一行はエルフに囲まれた。
もう無理だと思って目を閉じていたら、暗部の人間たちはエルフたちに切り込み、1人また1人と殺していったという。
「つまり、尋問をする素振りも見せず全員皆殺しにしたんですね?」
ルシウスがラックに尋ねるとラックは首を縦に振った。
「巫女様の居場所も聞かず、只々殺していました。まるで最初からそれが狙いだったみたいに。」
「ルシウス、暗部の責任者は誰だ?」
「申し訳ありませんが、暗部に関しては完全秘匿。私たち隊長ですら知りえない情報なんです。命令を出している者すら分かりません。」
そこまで徹底して秘匿するからジークもあれだけしっかりと漏れた情報が無いか調べていたのか。
「そんなんでよく成立してんな帝国軍。」
「兄ちゃんそれは言わねぇ約束だぜ?」
ジークが背後から肩を組んでくる。
タバコをあげたことで随分気にいられたようだ。
「嬢ちゃんの話、俺にも聞かせてくれねぇか?ほれ、飴ちゃんあげるから。」
「この人、なんか怖いから嫌です……」
泣き顔で即答するラックに、差し出した飴を悲しそうにポケットにしまい、あとは任せたと言わんばかりに俺とルシウスの肩を叩いて現場に戻って行った。なんならジークもちょっと泣いてた。
「今知り得る情報はこのぐらいか。」
「そうですね。ソールもかなり疲れているでしょうしそろそろ城に帰りましょうか。」
「あら、あなた達もう帰るの?」
作業着に屈強で高身長。
ゴリゴリの大男が女口調で身体をクネクネしながらやって来た。
見ちゃいけないものを見ている気がする。
「ミラさん。何故ここに?」
「あんた達の戦いの最後にとんでもない魔力吸収があったでしょ?それで大半の魔道具イカれちゃってね。ジークの野郎に調査用の魔道具の修理頼まれたのよ。徹夜はお肌の大敵なのに。」
そう言いながらジークの方を睨む目は完全にヤーサンだった。
レインはその事を聞いて申し訳なさそうな顔をしていたが、ミラが直ぐに俺の顔をじっくりと見てきて、俺に無理矢理握手してきた。
「あら、貴方一成ちゃん?この間の試合、かっこよかったわよ?見とれちゃったわー!!」
「は、はぁ、それは、どうも……」
「なーに?シャイボーイ?かーわいい!!」
俺はただ単に目を合わせちゃいけない人種だと思って目を伏せて引きつった愛想笑いをしていただけなんだが、背中をバシバシ叩いてくる。めっちゃ痛い。下手な男のそれより痛い。
「……紹介しますね。彼は開発隊のミラさんです。」
「彼とは何よ。心は女よ。」
ドスの効いた声で言われても説得力がないんだが。
「なんか困ったことがあったら言いなさいね?」
人差し指を立てながらウインクしている。
色々と濃すぎて息が詰まるので、ポケットからタバコを出して咥え、火を付けようとしたところでライターのオイルが無いことを思い出した。
「あ、そういえば……」
「あら?あなた珍しい道具持ってるわね?」
「これ、直せたりとかします?」
俺はミラにライターを渡した。
ミラは受け取ったライター虫眼鏡のようなものでじっくりと観察しながら、
「へー、ここが火打石になってて、ここを擦ると火花が飛んで……」
と、一瞬でほぼ完璧にライターの機構を理解していた。
「あんたこれあたしに少し預けてくれない?」
「構いませんが、直せそうですか?」
「任せなさい。あたしは泣く子も黙る帝国軍開発隊長よ?逆にあたしに直せなかったらこの世界で直せる人間なんて居ないわ。」
そう言いながら颯爽と帰ろうとしていたミラをジークが呼び止める。
「おいオカマ野郎!!何帰ろうとしてやがる!!さっさとこっちの道具直せ!!」
「そんな誰でも直せる道具にあたしは興味無いの。てかてめぇ今なんつった!?」
お互い一触即発。隊長同士の魔力のぶつかり合いとなれば空気すら震える。
そんな状況なのにみんな慣れているのか作業に集中して全く2人の方を見ていない。
ブチ切れたミラが俺のライターをカチンと開けた時、ライターの蓋が盛大に飛んでいった。
結果これが功を奏した。
「あ、ヒンジもダメだったか……」
「ごめーん一成ちゃん!!ちゃんと直して返すわ!!」
「帰ろうとしてんじゃねぇぞおい!!」
「隊の子呼んだから文句ないでしょ?じゃーねー。」
ミラはヒラヒラを手を振りながら路地へと消えて行った。
マジで嵐が去ったかのようだった。
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