ヘビースモーカーと枯れ木の魔女

I.B

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生きるために

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 会議が終わった後俺達は、その足でグリフォンが目撃された森へと歩みを進めた。

 先頭に周囲を索敵できるブル。

 その後ろを直ぐにスイッチできるようランスが付き、俺とレインが並んでその後ろ。

 さらに後ろにマーリンとアルが構えるという布陣で進んだ。

 ブルがしっかりと索敵をしながらランスが向かう方向を指示し、かなり頼れる2人である。

 後衛2人も後方確認を怠らず、皆しっかり役割をこなしている。


 ルシウスが言った通り目撃された場所までは距離があるようで、初日は依頼主からの話や顔合わせもあってか、野宿を挟むことになった。


「なぁ、なんかこうワープする魔法みたいなの無いのか?」


「あんなコスパの悪い非効率的な魔法使うのエルフだけよ。」


 一瞬で目的地にワープできるってファンタジーの世界ではあるあるだし便利だと思うんだけどな。

 納得のいかない俺の表情を見て、マーリンは付け足す。


「移動系の魔法は物凄く魔力消費が多いのよ。一回使ったらその日はもう魔法が使えないくらいにね。それに魔力量が人より多少多い私でも運べる人数は2人が限界だし、何より移動先にも魔法陣書かなきゃいけないから二度手間なのよね。」


「準備やコスパの面で使いづらいってことか。エルフはどうなんだ?」


「知ってると思うけどエルフは元々圧倒的に魔力量が多いのよ。それに閉鎖的な種族であまり人前に出たがらないから魔力を消費しても人目につかない移動系魔法を好むのよ。」


 そういえば魔力が多いだとかは本に書いてあった気がする。

 魔力量なんか今の俺じゃ大してわからんけどな。

 会話を聞いてランスが口を挟む。


「私たち冒険者が歩く理由は他にもありますけどね。」


「と言うと?」


「まぁ言ってしまえば、宝探しですね。」


 意味がわからん。


「そのうち分かりますよ。」


 人の心を読むな。



 翌朝森に入ってすぐ、ランスが言ったことが理解出来た。

 平原と森とでは魔物の強さが大きく違う。

 平原がスライムだとすると、森はオーク位違う。

 森の魔物は不意打ちや自然を利用した攻撃を多彩に繰り出し、そもそも一体一体が強い。

 平原まではランスとブルにほとんど頼りっきりだった戦闘が、総動員での戦闘に切り替わった。


「お、お宝があったぜ?」


 ゴブリンの群れとの戦闘を終え、撃ち漏らしがないか確認しているブルが何かを発見したようだ。


「これは、冒険者の死体か?」


 頭が痛くなる腐敗臭がする。

 半分白骨化しているが、装備は傷んでいない。

 恐らく先のゴブリンのような魔物に不意打ちを食らって果てた冒険者だろう。


「ありがてぇ。剣は殆ど新品じゃねぇか。」


 ブルが徐ろに死体を漁り出す。

 ランスやマーリンもそれに続き、死体は身ぐるみを全て剥がされ、ほぼ全裸の状態で投げ捨てられた。


「なるほどな。だから宝探しか。」


「そういう事です。申し訳なさはありますが、私達にとってはこれも貴重な収入源の1つなんですよ。立派な装備を付けて意気揚々と旅に出た初心者たちが、森に入った途端に殺されるのはよくある話です。」


「倫理的に申し訳ないという気持ちが残っているのであれば、俺はそれで良いと思うぞ。その気持ちさえ失わなければな。」


 生きるために仕方ない。俺は死体への追い剥ぎを見た時そう割り切った。

 追い剥ぎをする前に、全員がきちんと死者に手を合わせていたからじゃない。

 身元を確認してメモを取り、職安に報告しようとしていたからでもない。

 ただ生きるために、生きるための金を稼ぐためにはコイツらにはこの選択肢しかなかったのだろう。

 そして自分達の倫理観と反することをあえて宝探しということで少しでも自分を納得させたかったのだと、そう思った。


「一成さん。私は何だか少し悲しいです。」


 追い剥ぎの現場に直面して、レインは呟いた。


「俺もそう思うよ。でも、そういうのは今を必死で生きようとするアイツらに対して失礼だとも思う。」


「そうですね。私は随分恵まれていたんだと改めて実感しました。」


「アイツら自身はきっと自分達を恵まれていないと思っている訳じゃないんだよ。それは俺やレインのような言わば他人が口にして良い言葉じゃないと思うぞ。」


「その通りですね。私は望まない事をしなければ生きていけない今のこの世界が、少しでも良い方向に進むことを望みたいです。」


 レインは優しい。

 多分同じ状況になったらたとえ飢え死にするとしても彼女は追い剥ぎなどしないだろう。そういう子だ。


 元いた世界では絶対に見ることのなかった光景。

 俺なら一体どうしていただろうか。

 この世界の現実に直面した俺は、タバコを吸いながら故郷の平和すぎた光景を思い出し、もう戻らない退屈で窮屈だった日々を少しだけ恋しく思った。

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