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仮説
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「そう言えば一成。主はイサミのことを聞きたがっておったな?」
「ああ、その話か。なんかもう、どうでも良くなったよ。」
俺は灰を落としながら答える。
ノブナガは俺の返答に首を傾げた。
「良いのか?これが最後なんだぞ?」
「最後だからだよ。他人の話じゃなく、お前の話が聞きてぇ。」
ノブナガの目を見ながら答えた俺に、ノブナガは大きく笑った。
「ハッハッハ!!やはり主は我が見込んだ通りの男だ。イサミとは違う強さと優しさを持っておる。」
「俺はお前に感謝してるんだよ。あの時、この部屋の扉を蹴破った時、俺は多分俺じゃなくなってた。」
奴隷達の惨劇を見ながらこの部屋に辿り着き、すり減らし続けた精神は限界を迎えていた。
あの人間の言葉を借りる訳じゃないが、防衛本能で歪に笑い続ける俺は、あの時もう壊れていたんだろう。
それを治してくれたのは紛れもなくレインとノブナガだった。
「だから俺はお前には感謝してもしきれねぇんだよ。」
ノブナガは少し考えたあと口を開いた。
「その言葉は目を覚ましたこいつに言ってやれ。」
そう言って親指を自分に指す。
「この世界に主が来て、最も主を近くで見続けていたのはレインだ。誰よりも主を思い、主と共に戦い続けてきた。昨日今日知り合った我がその言葉を聞くのはレインに失礼だからな。」
その言葉を聞いて俺はハッとした。
その通りじゃないか。
俺がどんな無茶を言っても、どんな態度をとっても常に一緒にいてくれた。
何度命を救われたか分からない。
ずっと俺は1人で戦い、1人でなんでも解決しなければならないと思い込んでいた。
その結果が今回の不始末。
俺が1人で勝手に壊れて暴走した。
守ると誓った相手に守られていたことにずっと気付いていなかったんだな。
「……そう……だな。その通りだ。」
「ハッハッハ!!意外と素直じゃないか。反省したところで少し我の話に付き合ってくれるか?」
「なんだ?」
改まった様子でノブナガは俺に体の向きを直す。
「これはレインの中に入った上での我の考えだが、主の体は常人のそれを遥かに超えている。正確に言えば、最早人間の域を脱している。」
「まぁ、転生者だしな?」
「それはそうだが、構造上は人間の体のはずだろう?主、我に首を切られた時のことを覚えておるか?」
なんべんも切られてたからどれの事だか分からねぇよ。
俺がそんな顔をしていると、ノブナガは続けた。
「首で山切を止めた時だ。あの時の行動が我はずっと違和感だった。」
ああ、確かにそんなこともあったな。息ができなかった記憶がある。
「あれはレインが、俺が死ぬことを認識する前に回復してくれていたから助かったんじゃないのか?」
「それはそうなのだが、問題はそこでは無い。我はあの時、主の動きを停止させるために、主の脊髄を遮断したのだ。脳からの命令を体に伝達できないようにするためにな。だが、主は首に山切が刺さった状態で我に殴りかかってきた。」
確かに言われてみればおかしな話だ。
脳の信号が体に伝わっていないのに、なぜ俺は動けたんだ?
「そこでひとつの仮説に辿り着いた。主は体に一成以外の何者かも宿している。」
「どういう事だ?」
手を握ったり開いたりしながら俺は答える。
今まで俺の体が言うことをきかないなんてことはなかった。
「主は時折、明らかに熟練された達人の動きをすることがあるな?それも含めてだ。主の体に別の何者かが介入していると考えられる。」
「あれは体が動きやすいように動かしているだけだぞ?」
「そう。主は主の思いのままに体を動かした結果そうなっておる。それがレインとの違いなのだ。レインは主導権そのものを渡さない限りそういった動きは出来ない。」
「結局何が言いたいんだ?」
だんだん話に頭がついていかなくなってくるぞ?
「つまり、主の体の中には、主以外の意志を持った精神が複数存在する可能性がある、ということだ。」
「ああ、その話か。なんかもう、どうでも良くなったよ。」
俺は灰を落としながら答える。
ノブナガは俺の返答に首を傾げた。
「良いのか?これが最後なんだぞ?」
「最後だからだよ。他人の話じゃなく、お前の話が聞きてぇ。」
ノブナガの目を見ながら答えた俺に、ノブナガは大きく笑った。
「ハッハッハ!!やはり主は我が見込んだ通りの男だ。イサミとは違う強さと優しさを持っておる。」
「俺はお前に感謝してるんだよ。あの時、この部屋の扉を蹴破った時、俺は多分俺じゃなくなってた。」
奴隷達の惨劇を見ながらこの部屋に辿り着き、すり減らし続けた精神は限界を迎えていた。
あの人間の言葉を借りる訳じゃないが、防衛本能で歪に笑い続ける俺は、あの時もう壊れていたんだろう。
それを治してくれたのは紛れもなくレインとノブナガだった。
「だから俺はお前には感謝してもしきれねぇんだよ。」
ノブナガは少し考えたあと口を開いた。
「その言葉は目を覚ましたこいつに言ってやれ。」
そう言って親指を自分に指す。
「この世界に主が来て、最も主を近くで見続けていたのはレインだ。誰よりも主を思い、主と共に戦い続けてきた。昨日今日知り合った我がその言葉を聞くのはレインに失礼だからな。」
その言葉を聞いて俺はハッとした。
その通りじゃないか。
俺がどんな無茶を言っても、どんな態度をとっても常に一緒にいてくれた。
何度命を救われたか分からない。
ずっと俺は1人で戦い、1人でなんでも解決しなければならないと思い込んでいた。
その結果が今回の不始末。
俺が1人で勝手に壊れて暴走した。
守ると誓った相手に守られていたことにずっと気付いていなかったんだな。
「……そう……だな。その通りだ。」
「ハッハッハ!!意外と素直じゃないか。反省したところで少し我の話に付き合ってくれるか?」
「なんだ?」
改まった様子でノブナガは俺に体の向きを直す。
「これはレインの中に入った上での我の考えだが、主の体は常人のそれを遥かに超えている。正確に言えば、最早人間の域を脱している。」
「まぁ、転生者だしな?」
「それはそうだが、構造上は人間の体のはずだろう?主、我に首を切られた時のことを覚えておるか?」
なんべんも切られてたからどれの事だか分からねぇよ。
俺がそんな顔をしていると、ノブナガは続けた。
「首で山切を止めた時だ。あの時の行動が我はずっと違和感だった。」
ああ、確かにそんなこともあったな。息ができなかった記憶がある。
「あれはレインが、俺が死ぬことを認識する前に回復してくれていたから助かったんじゃないのか?」
「それはそうなのだが、問題はそこでは無い。我はあの時、主の動きを停止させるために、主の脊髄を遮断したのだ。脳からの命令を体に伝達できないようにするためにな。だが、主は首に山切が刺さった状態で我に殴りかかってきた。」
確かに言われてみればおかしな話だ。
脳の信号が体に伝わっていないのに、なぜ俺は動けたんだ?
「そこでひとつの仮説に辿り着いた。主は体に一成以外の何者かも宿している。」
「どういう事だ?」
手を握ったり開いたりしながら俺は答える。
今まで俺の体が言うことをきかないなんてことはなかった。
「主は時折、明らかに熟練された達人の動きをすることがあるな?それも含めてだ。主の体に別の何者かが介入していると考えられる。」
「あれは体が動きやすいように動かしているだけだぞ?」
「そう。主は主の思いのままに体を動かした結果そうなっておる。それがレインとの違いなのだ。レインは主導権そのものを渡さない限りそういった動きは出来ない。」
「結局何が言いたいんだ?」
だんだん話に頭がついていかなくなってくるぞ?
「つまり、主の体の中には、主以外の意志を持った精神が複数存在する可能性がある、ということだ。」
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