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第5章 三宅梓編
第2話 結婚式を挙げよう
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「おっ、気がついた」
目を覚ますと、僕は保健室のベッドに寝ていたことに気がついた。
「幾太君が倒れたからって中野先生から連絡があったからボクが様子を見に来たんだ」
寮長の責務として、三宅先輩がやって来たようだ。
「中野先生は用事があるからって出かけたよ」
「すみません、三宅先輩」
「大丈夫? 立てるかい? なんならボクがお姫様抱っこで寮まで連れて行こうか?」
「だ、大丈夫です。歩けますから」
体にダルさが残っているが、歩くことはできた。
寮に戻って一息つく。
「しかし、三宅先輩。お姫様抱っこできるんですか? かなり力がいりそうですけど」
「毎年、文化祭の劇では男役ばかりだったからな。お姫様抱っこするのは慣れてるんだよ。重いのは確かだけど、コツさえ掴んじゃえばいけるよ」
「確かに三宅先輩、男役似合いそうですよね」
「ボクは小さいときに父親を亡くしてるんだ。母親と妹の女所帯。だから必然的にボクが男性の代わりにならなくちゃって思ってね。以来、一人称もボクってわけさ。
そんなわけで、中等部でも後輩女子によくモテたよ。いっぱいラブレターもらってね。
期待に応えるために更に男に磨きをかけたりしてさ。
だから演劇は自動的に王子様役……」
一瞬、三宅先輩の顔に陰りが見えた気がした。
「ひょっとして、ホントはお姫様の役をやってみたかったとか?」
「いやいや、そんなこと……」
「ホントですか?」
「……まぁ、ちょっとはな……。なんかこのままだと自分の結婚式でもウェディングドレスじゃなく、タキシードを着そうだし」
「確かに、三宅先輩タキシード似合いそうですし……じゃなくて、三宅先輩ウェディングドレス似合いますよ」
「そ、そうかな」
「三宅先輩のウェディングドレス姿見てみたいなぁ」
三宅先輩は目を瞑り、一呼吸置いてから再び目を開けた。
「私が思うに、あのカーテンを使ってウェディングドレス作れるんじゃないかな」
出てきた人格はマリさんのようだ。
「面白そうですね。結婚式ごっこしましょうか」
僕は小さい頃、妹に付き合って何度も結婚式ごっこをしたことがある。ちょっと面白そうだな。
「子供じみてないか? そんなの」
マリさんの人格は引っ込み、三宅先輩に代わっていた。
「まぁまぁ、今日だけでも」
僕はレースのカーテンを外して、三宅先輩の体に巻きつけた。スカートの後ろも引きずるようにして、なんとなくそれっぽい。
「なんか照れるな」
恥ずかしそうにする表情の中にもこぼれる笑みが見える。
三宅先輩の横に並んで立ち、結婚式の口上を読み上げる。
「健やかなるときも病める時も、死が二人を分かつまで愛することを誓いますか?」
「……はい」
「では、誓いのキスを」
僕はキスをするフリだけをするつもりだった。が、三宅先輩の唇は僕の唇にそっと触れた。
長い沈黙のあと、顔を離した三宅先輩は言った。
「ボク……私、いいお嫁さになれるかな?」
こくんと頷くと、三宅先輩の顔が徐々に紅潮しはじめ、数秒後には真っ赤になった。
「あわわわわ、違うんだ。えっと、その……ボク、部屋に戻るね」
カーテンを引きずりながら駆け足で出て行った三宅先輩。
翌朝、食堂へ行くとカーテンは元通りに戻っていた。
「おはよー」
三宅先輩の様子はいつもと変わらなかった。
食事を運び、三宅先輩の前に座ると、三宅先輩は顔を近づけて囁いた。
「夕べはお互い忘れられない夜だったな」
「なっ!?」
「ボクを女にしたくせに」
テーブルの下では三宅先輩の右脚が僕のスネを何度も何度も蹴っていた。
目を覚ますと、僕は保健室のベッドに寝ていたことに気がついた。
「幾太君が倒れたからって中野先生から連絡があったからボクが様子を見に来たんだ」
寮長の責務として、三宅先輩がやって来たようだ。
「中野先生は用事があるからって出かけたよ」
「すみません、三宅先輩」
「大丈夫? 立てるかい? なんならボクがお姫様抱っこで寮まで連れて行こうか?」
「だ、大丈夫です。歩けますから」
体にダルさが残っているが、歩くことはできた。
寮に戻って一息つく。
「しかし、三宅先輩。お姫様抱っこできるんですか? かなり力がいりそうですけど」
「毎年、文化祭の劇では男役ばかりだったからな。お姫様抱っこするのは慣れてるんだよ。重いのは確かだけど、コツさえ掴んじゃえばいけるよ」
「確かに三宅先輩、男役似合いそうですよね」
「ボクは小さいときに父親を亡くしてるんだ。母親と妹の女所帯。だから必然的にボクが男性の代わりにならなくちゃって思ってね。以来、一人称もボクってわけさ。
そんなわけで、中等部でも後輩女子によくモテたよ。いっぱいラブレターもらってね。
期待に応えるために更に男に磨きをかけたりしてさ。
だから演劇は自動的に王子様役……」
一瞬、三宅先輩の顔に陰りが見えた気がした。
「ひょっとして、ホントはお姫様の役をやってみたかったとか?」
「いやいや、そんなこと……」
「ホントですか?」
「……まぁ、ちょっとはな……。なんかこのままだと自分の結婚式でもウェディングドレスじゃなく、タキシードを着そうだし」
「確かに、三宅先輩タキシード似合いそうですし……じゃなくて、三宅先輩ウェディングドレス似合いますよ」
「そ、そうかな」
「三宅先輩のウェディングドレス姿見てみたいなぁ」
三宅先輩は目を瞑り、一呼吸置いてから再び目を開けた。
「私が思うに、あのカーテンを使ってウェディングドレス作れるんじゃないかな」
出てきた人格はマリさんのようだ。
「面白そうですね。結婚式ごっこしましょうか」
僕は小さい頃、妹に付き合って何度も結婚式ごっこをしたことがある。ちょっと面白そうだな。
「子供じみてないか? そんなの」
マリさんの人格は引っ込み、三宅先輩に代わっていた。
「まぁまぁ、今日だけでも」
僕はレースのカーテンを外して、三宅先輩の体に巻きつけた。スカートの後ろも引きずるようにして、なんとなくそれっぽい。
「なんか照れるな」
恥ずかしそうにする表情の中にもこぼれる笑みが見える。
三宅先輩の横に並んで立ち、結婚式の口上を読み上げる。
「健やかなるときも病める時も、死が二人を分かつまで愛することを誓いますか?」
「……はい」
「では、誓いのキスを」
僕はキスをするフリだけをするつもりだった。が、三宅先輩の唇は僕の唇にそっと触れた。
長い沈黙のあと、顔を離した三宅先輩は言った。
「ボク……私、いいお嫁さになれるかな?」
こくんと頷くと、三宅先輩の顔が徐々に紅潮しはじめ、数秒後には真っ赤になった。
「あわわわわ、違うんだ。えっと、その……ボク、部屋に戻るね」
カーテンを引きずりながら駆け足で出て行った三宅先輩。
翌朝、食堂へ行くとカーテンは元通りに戻っていた。
「おはよー」
三宅先輩の様子はいつもと変わらなかった。
食事を運び、三宅先輩の前に座ると、三宅先輩は顔を近づけて囁いた。
「夕べはお互い忘れられない夜だったな」
「なっ!?」
「ボクを女にしたくせに」
テーブルの下では三宅先輩の右脚が僕のスネを何度も何度も蹴っていた。
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