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スクナビコナとろくろ首⑪―ついに決着!スクナビコナは?チュルヒコは??ろくろ首は???はたして!!―
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「フフンだっ!お前ら、ぜーんぜん大したことないな!」
スクナビコナは中年の男の首のほうを見ながら言い放つ。
中年の首の号令とともに襲いかかってきた四つの首は、すでにスクナビコナの素早い身のこなしと鋭い針による攻撃の前に、いずこかへと逃げ去った。
四つの首は最初のうちこそ威勢よくスクナビコナのほうへと立ち向かってきた。しかし、やはりスクナビコナがその身にまとっているヨモギとショウブの葉に対する苦手意識が消えないのか、いざスクナビコナに攻撃をしようとするときには動きが鈍くなりがちであった。
そのためスクナビコナの針の格好の餌食になり、その厳しい攻撃に耐えかねて、あっさり退散してしまったのである。
『…クッ、あいつらめっ!こうも簡単にやられるとは……』
中年の男は他の首たちのあまりの不甲斐なさに歯ぎしりする。
「ハハッ、どうするんだ?あとはお前だけだぞ!」
スクナビコナは自信に満ち溢れた様子で中年の男に対して言う。四つの首を追い払ったことでもはや得意の絶頂である。
『うぬぬっ!言っておくが、この俺は他の者たちとは違うぞ!』
「ハン、無理に強がらなくていいぞ!どうせお前は絶対に助からないんだ。だったら楽に死んだほうがいいと思わないか?今ならお前を見逃してやってもいいぞ!」
スクナビコナは中年の男の首を挑発する。もはやその〝自信〟は〝傲慢〟に変わりつつある。
『おのれぇ、言わせておけばぁ!覚悟しろっ!』
中年の男は一直線にスクナビコナのほうに向かってくる。
『フフン、面倒だ!こっちから行ってやるよ!』
スクナビコナも自ら中年の男のほうに向かっていく。
『くらえーッ!』
『トリャアーッ!』
男とスクナビコナは真正面からぶつかる。…と思われたそのとき。
「…あれ……?」
スクナビコナの針がむなしく空を切る。視界から突然男の首が消えてしまったのである。
「…どこだ……?」
スクナビコナは必死に辺りを見回し、男の姿を探す。
『…ここだッ!』
いきなりスクナビコナの頭上から野太い声がする。
「えっ!」
スクナビコナが見上げた先にはすでに目前まで迫っている男の首が!男はヨモギとショウブの葉に唯一守られていない頭を狙ってきたのである。
「ク、クソッ!」
スクナビコナは必死に体をひねって避けようとする。しかしスクナビコナの素早い身のこなしをもってしても逃げ切れないほど、男は容赦なく突進してくる。
「うわあっ!」
よけるのに失敗したスクナビコナはそのまま激しく地面に衝突し、横向きに倒れてしまう。
「…い、いてて……」
スクナビコナは地面に倒れたまま起き上がることができない。なんとか頭への直撃は避けることができたが、足に激しい痛みを感じる。
『…フハハッ!まさかあの至近距離から俺の攻撃をよけるとはな。なかなかやるじゃないか……』
そう言いながら、男はニヤリと笑う。その顔に浮かべた笑みからは〝勝者の余裕〟とでも言うべき雰囲気が漂っている。
「…うっ、…あ、足が……」
実はスクナビコナは倒れてから何度も立ち上がろうと試みている。しかし痛めた右足がどうしても言うことを聞かない。
『ハッハッハッハッ!どうやら足を痛めたらしいな!』
男はスクナビコナを見下ろしながら高笑いする。
「う、動け!動いてくれ!」
スクナビコナは男の言葉は無視して、必死に右足を地面に立てようとする。だがその右足は決してスクナビコナの意志通りに動くことはない。
「…そ、そんな……」
スクナビコナは全身から血の気が引いていくのを感じる。
『ハッハッハッハッ!お前の命運もここで尽きるというわけだな!』
男はなおも愉快そうに笑い続ける。もはや形勢は完全に逆転した。
「…ああ、油断した……」
スクナビコナは自分が調子に乗りすぎていたことを心の底から悔いる。この失敗は間違いなくスクナビコナの人生の中で最悪のものである。失敗そのものは高天原にいたころにも何度かあった。しかしそれはせいぜい、いたずらを仕掛けたのがスサノオに見つかって、ツボの中に閉じ込められた、といった程度のものである。今回のそれはそういったものとはわけが違う。何しろ今は殺される一歩手前なのである。これならツボの中に一年くらい閉じ込められたほうがまだましというものである。
「…僕ってやっぱりつめが甘いのかな……?」
スクナビコナは昔いたずらを見つかり、スサノオに捕まったときに言われたことを思い出す。
スサノオに言わせればスクナビコナはつめが甘いのだと。
いたずらを仕掛けるときは自分がやったとばれないように十分気をつけなければならないのだと。
「…確かにそのとおりだよな……」
もっと細心の注意を払ってろくろ首たちと戦うべきだったのである。
それを怠ってしまったがゆえのこの結果である。
『…ハッハッハッハッ!さてとそろそろ終わりにしてやるかな……』
男は笑うのを止め、凶悪な顔つきでスクナビコナのほうを見る。
『…死ねーッ!』
男はそう叫びながら、スクナビコナに向かってこようとする。万策尽きたスクナビコナは思わず目をつぶる。
そのとき前方からドンッ、という鈍い音がする。驚いたスクナビコナは閉じていた目を再び開ける。
『スクナーッ!』
すると、前方からスクナビコナがよく知っているネズミが名前を叫びながら駆け寄ってくる。
「…チュルヒコ!」
スクナビコナはチュルヒコが駆けつけてきてくれたことを心から喜ぶ。
『スクナッ!よかったぁ、無事だったんだね!』
チュルヒコはスクナビコナの生存を確認してほっと胸を撫で下ろす。
「…無事か。…確かに命はまだあるんだけど……」
チュルヒコの言葉にスクナビコナは複雑な表情を浮かべながら、自分の足のほうを見る。
『…スクナ、ひょっとして足を!』
スクナビコナの視線を見て、チュルヒコもスクナビコナの足の怪我に気づく。
「…ああ、…そ、そんなことよりあいつはどうなった!」
スクナビコナは男の首がいるはずの方向を見る。
「…あれっ?」
するとそこには横向きに倒れている男の首が。
『ああ、あいつだったらさっき僕が横から体当たりしたら倒れちゃったよ』
驚いているスクナビコナにチュルヒコがあっさりと説明する。
『…あいつ、死んじゃったのかな?』
「バカッ!たかだか体当たりくらいで死ぬわけないだろ!」
『…じゃ、じゃあ……?』
「たぶん脳震とうか何かで倒れているだけだ。もうしばらくすれば起き上がってくるはずさ」
『…そ、そんな!』
スクナビコナの言葉にチュルヒコは慌てる素振りを見せる。
「くそっ!僕の足さえ動けば!」
スクナビコナは悔しそうに、うつぶせの体勢のまま地面を握りこぶしで叩く。
『…スクナの足さえ動けば…?…そうだっ!』
チュルヒコは何かを思いついた様子でスクナの顔を見る。
『僕がスクナの〝足〟になればいいんだよ!』
「お前が僕の足に…。それってどういう意味だ?」
スクナビコナは怪訝そうな表情を浮かべて、チュルヒコに尋ねる。
『スクナが僕の背中の上に乗ればいいのさ!』
「…僕がお前の背中の上に…、大丈夫なのか?」
『今はそんなことを言っている場合じゃ…、えっ?』
「んっ?」
そのとき、男のうううっ、といううめき声がチュルヒコとスクナビコナの耳に入ってくる。
『ああっ、目を覚ましたよ!』
「くっ、まずいな!」
男は目を覚ますと、再び空中に浮かび上がる。
『…うううっ、変なヤツがいきなりぶつかってきやがった……』
男は周囲を見回すと、すぐにスクナビコナとチュルヒコの姿を見つける。
『…フンッ、さてはさっきぶつかってきたのはそこにいるネズミか!』
男はチュルヒコのほうをにらみつけながら言う。
『…スクナッ!とにかくやるしかないよっ!』
チュルヒコはスクナビコナに〝決断〟を促がす。
「…わかった!」
チュルヒコに促がされたスクナビコナはついに〝決断〟する。
スクナビコナはまず両手でチュルヒコの背中につかまりながら、左足一本だけで立ち上がる。
そしてなんとか右足でチュルヒコの体をまたぎ、チュルヒコの背中の上に完全に乗っかる。
「…行けるか?」
スクナビコナは心配そうにチュルヒコに尋ねる。
『…やってみる!』
そう言うと、チュルヒコは両足に力を込める。
『…ウウウウウウウウウーッ!』
するとチュルヒコは見事に踏ん張って、スクナビコナを乗せたまま立ち上がることに成功する!
「よしっ!」
『立てたっ!』
スクナビコナとチュルヒコは同時に喜びの声を上げる。
「このまま動けそうか?」
スクナビコナの言葉にチュルヒコは試しに動いてみることで答える。前後左右に一歩ずつ動き、さらに一回転してみせる。
『うん、大丈夫だ!』
「よっしゃ!」
チュルヒコが自分の想像以上に機敏に動いて見せたことにスクナビコナは手応えを感じる。
『フフン、何を喜んでいるんだ?』
スクナビコナとチュルヒコの様子を見た男は、一人と一匹を冷やかすように言う。
「フン、首野郎!お前が調子に乗っていられるのも今のうちだ!」
スクナビコナはチュルヒコの背にまたがったまま、右手の針を男のほうに向けて挑発する。
『…ずいぶんと元気になったものだな?小僧!』
男はスクナビコナが以前の調子を取り戻したことにいらだつ。
「今度こそお前を倒す!行くぞ、チュルヒコ!」
『うん!』
チュルヒコはスクナビコナを乗せたまま男に向かって猛然と突進する。
『ハハッ、返り討ちにしてやる!』
男も一人と一匹を迎え撃つ。
「くらえっ!」
スクナビコナはチュルヒコの上から素早く針を男に向かって突き出す。チュルヒコもスクナビコナとの呼吸を合わせて機敏に動き回る。
『こしゃくなっ!』
男はスクナビコナの針をかわしながら、口を開けてその歯でスクナビコナたちを噛み砕こうとする。
しかし時間がたつにつれて、チュルヒコとも完全に一体化した動きで攻撃を繰り出すスクナビコナの針が確実に男の顔をとらえ始める。
「もうお前の動きは見切った!」
『何を!』
男の動きは少しずつ鈍くなり始める。その表情にも疲労と焦りの色が浮かぶ。
「止めだ!」
そしてついにスクナビコナの渾身の一撃が男の眉間をとらえる。
『グワアアアアアアアアーッ!』
男は断末魔の叫びを上げたあと、ぐったりと横向きに倒れたまま動かなくなる。その眉間には深々と突き刺さった針が。
『…やったの?』
チュルヒコは動かなくなった男を見ながら、つぶやくように言う。
「…ああ、やった……」
スクナビコナはチュルヒコの背中から降りて、男の様子を確認したあと言う。
『…やった!僕たち勝ったんだ!』
「ああ、そうだ!」
自分たちの〝勝利〟を確信したスクナビコナとチュルヒコはともに喜び合う。
「…チュルヒコ、…よく来てくれたな。こうしていられるのもお前のおかげだ」
スクナビコナはチュルヒコに心からの感謝の言葉をかける。
『…とにかくスクナのことが心配だったんだ……』
チュルヒコは少し涙ぐみながら言葉を返す。
「お前は僕の真の相棒だ!今後もよろしくな!」
『…スクナ……』
スクナビコナの言葉にチュルヒコはついに感極まる。
「…おいおい、なにを泣いて…、って…、うん?」
そのとき周囲がぱっと明るくなる。東の空から太陽が顔を出してきたのである。
「…朝か……」
『…夜が明けちゃったんだね……』
スクナビコナとチュルヒコはともに朝日を見ながらつぶやく。
『…あっ、スクナ、こっち見てよ!』
ふと地面に横たわっている男のほうを見たチュルヒコが〝異変〟を訴える。
「…ん……?」
その声を聞いたスクナビコナが男のほうを見てみる。するとそこには跡形もなく崩れて〝土くれ〟になってしまった男の体が。
「…こいつらはもともと人間じゃなかったし、元の姿にも戻れなくなった以上、朝になったらこうなる運命さ……」
『…そうなんだ……』
「ああ、おそらく他の首も今頃こうなっているはず……」
スクナビコナは〝土の塊〟を見ながら言うのだった。
こうしてろくろ首たちはこの世から完全に消滅した。
このあと、スクナビコナたちは〝七つのナスの実が全部東を向いてなっている茎〟を畑に採りに行った。
そしてそれを馬小屋に捕らわれていた馬たちに食べさせたのである。
すると馬たちはすぐに元の子供の姿に戻った。
スクナビコナたちは子供たちをふもとの村へと送り届け、子供たちは両親との再会を果たすことができた。
両親たちはスクナビコナたちに大いに感謝し、村全体でスクナビコナたちに感謝する宴を催した。
その盛大な宴に参加したあと、スクナビコナたちは元の住みかへと帰っていったのだった。
めでたし、めでたし。
スクナビコナは中年の男の首のほうを見ながら言い放つ。
中年の首の号令とともに襲いかかってきた四つの首は、すでにスクナビコナの素早い身のこなしと鋭い針による攻撃の前に、いずこかへと逃げ去った。
四つの首は最初のうちこそ威勢よくスクナビコナのほうへと立ち向かってきた。しかし、やはりスクナビコナがその身にまとっているヨモギとショウブの葉に対する苦手意識が消えないのか、いざスクナビコナに攻撃をしようとするときには動きが鈍くなりがちであった。
そのためスクナビコナの針の格好の餌食になり、その厳しい攻撃に耐えかねて、あっさり退散してしまったのである。
『…クッ、あいつらめっ!こうも簡単にやられるとは……』
中年の男は他の首たちのあまりの不甲斐なさに歯ぎしりする。
「ハハッ、どうするんだ?あとはお前だけだぞ!」
スクナビコナは自信に満ち溢れた様子で中年の男に対して言う。四つの首を追い払ったことでもはや得意の絶頂である。
『うぬぬっ!言っておくが、この俺は他の者たちとは違うぞ!』
「ハン、無理に強がらなくていいぞ!どうせお前は絶対に助からないんだ。だったら楽に死んだほうがいいと思わないか?今ならお前を見逃してやってもいいぞ!」
スクナビコナは中年の男の首を挑発する。もはやその〝自信〟は〝傲慢〟に変わりつつある。
『おのれぇ、言わせておけばぁ!覚悟しろっ!』
中年の男は一直線にスクナビコナのほうに向かってくる。
『フフン、面倒だ!こっちから行ってやるよ!』
スクナビコナも自ら中年の男のほうに向かっていく。
『くらえーッ!』
『トリャアーッ!』
男とスクナビコナは真正面からぶつかる。…と思われたそのとき。
「…あれ……?」
スクナビコナの針がむなしく空を切る。視界から突然男の首が消えてしまったのである。
「…どこだ……?」
スクナビコナは必死に辺りを見回し、男の姿を探す。
『…ここだッ!』
いきなりスクナビコナの頭上から野太い声がする。
「えっ!」
スクナビコナが見上げた先にはすでに目前まで迫っている男の首が!男はヨモギとショウブの葉に唯一守られていない頭を狙ってきたのである。
「ク、クソッ!」
スクナビコナは必死に体をひねって避けようとする。しかしスクナビコナの素早い身のこなしをもってしても逃げ切れないほど、男は容赦なく突進してくる。
「うわあっ!」
よけるのに失敗したスクナビコナはそのまま激しく地面に衝突し、横向きに倒れてしまう。
「…い、いてて……」
スクナビコナは地面に倒れたまま起き上がることができない。なんとか頭への直撃は避けることができたが、足に激しい痛みを感じる。
『…フハハッ!まさかあの至近距離から俺の攻撃をよけるとはな。なかなかやるじゃないか……』
そう言いながら、男はニヤリと笑う。その顔に浮かべた笑みからは〝勝者の余裕〟とでも言うべき雰囲気が漂っている。
「…うっ、…あ、足が……」
実はスクナビコナは倒れてから何度も立ち上がろうと試みている。しかし痛めた右足がどうしても言うことを聞かない。
『ハッハッハッハッ!どうやら足を痛めたらしいな!』
男はスクナビコナを見下ろしながら高笑いする。
「う、動け!動いてくれ!」
スクナビコナは男の言葉は無視して、必死に右足を地面に立てようとする。だがその右足は決してスクナビコナの意志通りに動くことはない。
「…そ、そんな……」
スクナビコナは全身から血の気が引いていくのを感じる。
『ハッハッハッハッ!お前の命運もここで尽きるというわけだな!』
男はなおも愉快そうに笑い続ける。もはや形勢は完全に逆転した。
「…ああ、油断した……」
スクナビコナは自分が調子に乗りすぎていたことを心の底から悔いる。この失敗は間違いなくスクナビコナの人生の中で最悪のものである。失敗そのものは高天原にいたころにも何度かあった。しかしそれはせいぜい、いたずらを仕掛けたのがスサノオに見つかって、ツボの中に閉じ込められた、といった程度のものである。今回のそれはそういったものとはわけが違う。何しろ今は殺される一歩手前なのである。これならツボの中に一年くらい閉じ込められたほうがまだましというものである。
「…僕ってやっぱりつめが甘いのかな……?」
スクナビコナは昔いたずらを見つかり、スサノオに捕まったときに言われたことを思い出す。
スサノオに言わせればスクナビコナはつめが甘いのだと。
いたずらを仕掛けるときは自分がやったとばれないように十分気をつけなければならないのだと。
「…確かにそのとおりだよな……」
もっと細心の注意を払ってろくろ首たちと戦うべきだったのである。
それを怠ってしまったがゆえのこの結果である。
『…ハッハッハッハッ!さてとそろそろ終わりにしてやるかな……』
男は笑うのを止め、凶悪な顔つきでスクナビコナのほうを見る。
『…死ねーッ!』
男はそう叫びながら、スクナビコナに向かってこようとする。万策尽きたスクナビコナは思わず目をつぶる。
そのとき前方からドンッ、という鈍い音がする。驚いたスクナビコナは閉じていた目を再び開ける。
『スクナーッ!』
すると、前方からスクナビコナがよく知っているネズミが名前を叫びながら駆け寄ってくる。
「…チュルヒコ!」
スクナビコナはチュルヒコが駆けつけてきてくれたことを心から喜ぶ。
『スクナッ!よかったぁ、無事だったんだね!』
チュルヒコはスクナビコナの生存を確認してほっと胸を撫で下ろす。
「…無事か。…確かに命はまだあるんだけど……」
チュルヒコの言葉にスクナビコナは複雑な表情を浮かべながら、自分の足のほうを見る。
『…スクナ、ひょっとして足を!』
スクナビコナの視線を見て、チュルヒコもスクナビコナの足の怪我に気づく。
「…ああ、…そ、そんなことよりあいつはどうなった!」
スクナビコナは男の首がいるはずの方向を見る。
「…あれっ?」
するとそこには横向きに倒れている男の首が。
『ああ、あいつだったらさっき僕が横から体当たりしたら倒れちゃったよ』
驚いているスクナビコナにチュルヒコがあっさりと説明する。
『…あいつ、死んじゃったのかな?』
「バカッ!たかだか体当たりくらいで死ぬわけないだろ!」
『…じゃ、じゃあ……?』
「たぶん脳震とうか何かで倒れているだけだ。もうしばらくすれば起き上がってくるはずさ」
『…そ、そんな!』
スクナビコナの言葉にチュルヒコは慌てる素振りを見せる。
「くそっ!僕の足さえ動けば!」
スクナビコナは悔しそうに、うつぶせの体勢のまま地面を握りこぶしで叩く。
『…スクナの足さえ動けば…?…そうだっ!』
チュルヒコは何かを思いついた様子でスクナの顔を見る。
『僕がスクナの〝足〟になればいいんだよ!』
「お前が僕の足に…。それってどういう意味だ?」
スクナビコナは怪訝そうな表情を浮かべて、チュルヒコに尋ねる。
『スクナが僕の背中の上に乗ればいいのさ!』
「…僕がお前の背中の上に…、大丈夫なのか?」
『今はそんなことを言っている場合じゃ…、えっ?』
「んっ?」
そのとき、男のうううっ、といううめき声がチュルヒコとスクナビコナの耳に入ってくる。
『ああっ、目を覚ましたよ!』
「くっ、まずいな!」
男は目を覚ますと、再び空中に浮かび上がる。
『…うううっ、変なヤツがいきなりぶつかってきやがった……』
男は周囲を見回すと、すぐにスクナビコナとチュルヒコの姿を見つける。
『…フンッ、さてはさっきぶつかってきたのはそこにいるネズミか!』
男はチュルヒコのほうをにらみつけながら言う。
『…スクナッ!とにかくやるしかないよっ!』
チュルヒコはスクナビコナに〝決断〟を促がす。
「…わかった!」
チュルヒコに促がされたスクナビコナはついに〝決断〟する。
スクナビコナはまず両手でチュルヒコの背中につかまりながら、左足一本だけで立ち上がる。
そしてなんとか右足でチュルヒコの体をまたぎ、チュルヒコの背中の上に完全に乗っかる。
「…行けるか?」
スクナビコナは心配そうにチュルヒコに尋ねる。
『…やってみる!』
そう言うと、チュルヒコは両足に力を込める。
『…ウウウウウウウウウーッ!』
するとチュルヒコは見事に踏ん張って、スクナビコナを乗せたまま立ち上がることに成功する!
「よしっ!」
『立てたっ!』
スクナビコナとチュルヒコは同時に喜びの声を上げる。
「このまま動けそうか?」
スクナビコナの言葉にチュルヒコは試しに動いてみることで答える。前後左右に一歩ずつ動き、さらに一回転してみせる。
『うん、大丈夫だ!』
「よっしゃ!」
チュルヒコが自分の想像以上に機敏に動いて見せたことにスクナビコナは手応えを感じる。
『フフン、何を喜んでいるんだ?』
スクナビコナとチュルヒコの様子を見た男は、一人と一匹を冷やかすように言う。
「フン、首野郎!お前が調子に乗っていられるのも今のうちだ!」
スクナビコナはチュルヒコの背にまたがったまま、右手の針を男のほうに向けて挑発する。
『…ずいぶんと元気になったものだな?小僧!』
男はスクナビコナが以前の調子を取り戻したことにいらだつ。
「今度こそお前を倒す!行くぞ、チュルヒコ!」
『うん!』
チュルヒコはスクナビコナを乗せたまま男に向かって猛然と突進する。
『ハハッ、返り討ちにしてやる!』
男も一人と一匹を迎え撃つ。
「くらえっ!」
スクナビコナはチュルヒコの上から素早く針を男に向かって突き出す。チュルヒコもスクナビコナとの呼吸を合わせて機敏に動き回る。
『こしゃくなっ!』
男はスクナビコナの針をかわしながら、口を開けてその歯でスクナビコナたちを噛み砕こうとする。
しかし時間がたつにつれて、チュルヒコとも完全に一体化した動きで攻撃を繰り出すスクナビコナの針が確実に男の顔をとらえ始める。
「もうお前の動きは見切った!」
『何を!』
男の動きは少しずつ鈍くなり始める。その表情にも疲労と焦りの色が浮かぶ。
「止めだ!」
そしてついにスクナビコナの渾身の一撃が男の眉間をとらえる。
『グワアアアアアアアアーッ!』
男は断末魔の叫びを上げたあと、ぐったりと横向きに倒れたまま動かなくなる。その眉間には深々と突き刺さった針が。
『…やったの?』
チュルヒコは動かなくなった男を見ながら、つぶやくように言う。
「…ああ、やった……」
スクナビコナはチュルヒコの背中から降りて、男の様子を確認したあと言う。
『…やった!僕たち勝ったんだ!』
「ああ、そうだ!」
自分たちの〝勝利〟を確信したスクナビコナとチュルヒコはともに喜び合う。
「…チュルヒコ、…よく来てくれたな。こうしていられるのもお前のおかげだ」
スクナビコナはチュルヒコに心からの感謝の言葉をかける。
『…とにかくスクナのことが心配だったんだ……』
チュルヒコは少し涙ぐみながら言葉を返す。
「お前は僕の真の相棒だ!今後もよろしくな!」
『…スクナ……』
スクナビコナの言葉にチュルヒコはついに感極まる。
「…おいおい、なにを泣いて…、って…、うん?」
そのとき周囲がぱっと明るくなる。東の空から太陽が顔を出してきたのである。
「…朝か……」
『…夜が明けちゃったんだね……』
スクナビコナとチュルヒコはともに朝日を見ながらつぶやく。
『…あっ、スクナ、こっち見てよ!』
ふと地面に横たわっている男のほうを見たチュルヒコが〝異変〟を訴える。
「…ん……?」
その声を聞いたスクナビコナが男のほうを見てみる。するとそこには跡形もなく崩れて〝土くれ〟になってしまった男の体が。
「…こいつらはもともと人間じゃなかったし、元の姿にも戻れなくなった以上、朝になったらこうなる運命さ……」
『…そうなんだ……』
「ああ、おそらく他の首も今頃こうなっているはず……」
スクナビコナは〝土の塊〟を見ながら言うのだった。
こうしてろくろ首たちはこの世から完全に消滅した。
このあと、スクナビコナたちは〝七つのナスの実が全部東を向いてなっている茎〟を畑に採りに行った。
そしてそれを馬小屋に捕らわれていた馬たちに食べさせたのである。
すると馬たちはすぐに元の子供の姿に戻った。
スクナビコナたちは子供たちをふもとの村へと送り届け、子供たちは両親との再会を果たすことができた。
両親たちはスクナビコナたちに大いに感謝し、村全体でスクナビコナたちに感謝する宴を催した。
その盛大な宴に参加したあと、スクナビコナたちは元の住みかへと帰っていったのだった。
めでたし、めでたし。
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世羅は滑るように落ち、気を失いました。
そして、目が覚めたらそこは。
住んでいた所とはまるで違う、見知らぬ世界だったのです。
気が強いけれど寂しがり屋の女の子と、ワケ有りでいつも諦めることに慣れてしまった綺麗な男の子。
二人がお互いの心に寄り添い、成長するお話です。
全年齢ですが、けがをしたり、命を狙われたりする描写と「死」の表現があります。
苦手な方は回れ右をお願いいたします。
よろしくお願いいたします。
私が子どもの頃から温めてきたお話のひとつで、小説家になろうの冬の童話際2022に参加した作品です。
石河 翠さまが開催されている個人アワード『石河翠プレゼンツ勝手に冬童話大賞2022』で大賞をいただきまして、イラストはその副賞に相内 充希さまよりいただいたファンアートです。ありがとうございます(^-^)!
こちらは他サイトにも掲載しています。
ノースキャンプの見張り台
こいちろう
児童書・童話
時代劇で見かけるような、古めかしい木づくりの橋。それを渡ると、向こう岸にノースキャンプがある。アーミーグリーンの北門と、その傍の監視塔。まるで映画村のセットだ。
進駐軍のキャンプ跡。周りを鉄さびた有刺鉄線に囲まれた、まるで要塞みたいな町だった。進駐軍が去ってからは住宅地になって、たくさんの子どもが暮らしていた。
赤茶色にさび付いた監視塔。その下に広がる広っぱは、子どもたちの最高の遊び場だ。見張っているのか、見守っているのか、鉄塔の、あのてっぺんから、いつも誰かに見られているんじゃないか?ユーイチはいつもそんな風に感じていた。
極甘独占欲持ち王子様は、優しくて甘すぎて。
猫菜こん
児童書・童話
私は人より目立たずに、ひっそりと生きていたい。
だから大きな伊達眼鏡で、毎日を静かに過ごしていたのに――……。
「それじゃあこの子は、俺がもらうよ。」
優しく引き寄せられ、“王子様”の腕の中に閉じ込められ。
……これは一体どういう状況なんですか!?
静かな場所が好きで大人しめな地味子ちゃん
できるだけ目立たないように過ごしたい
湖宮結衣(こみやゆい)
×
文武両道な学園の王子様
実は、好きな子を誰よりも独り占めしたがり……?
氷堂秦斗(ひょうどうかなと)
最初は【仮】のはずだった。
「結衣さん……って呼んでもいい?
だから、俺のことも名前で呼んでほしいな。」
「さっきので嫉妬したから、ちょっとだけ抱きしめられてて。」
「俺は前から結衣さんのことが好きだったし、
今もどうしようもないくらい好きなんだ。」
……でもいつの間にか、どうしようもないくらい溺れていた。
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