ドラゴン・ハンター

づぃぢーぁ

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うっすらとした意識の中誰かが部屋に入ってきた。


 あの女だった。大きな何かを持ってきたらしくドサッという鈍い音を立てて荷物を床に粗末に放り投げたのだ。


「やっと戻ってこれたよ、コレだから話の長い男は……」


 その後腰に手をあてブツブツと喋りながら上着を脱ぎテーブルから黒いものをとる。また今から始まるのだ、痛みを与えられる苦痛の時間が。


「そうそう面白いものがあるんだ、これは君のかい?」


 黒い袋に入った大きな何かを取り出した。


 少しばかり腐敗し袋から出た瞬間に異臭が立ちこみ部屋全体に一気に広がり鼻をつままないといけないほどツーンとした酸っぱい匂いが広がっていた。


「顔は少し歪んでいるけど見覚えあるかい?」


 女は首根っこを掴むと片手で持ち上げ乱暴に死体を持ち上げたのだ。既に腐敗が進んでいるためか体は痛んでおり、あまりいい死に方をしなかったらしく胸には無数の刺された痕が残っており服もビリビリニ――まてなぜ体が震えている。確かに見た目は女の子で俺よりも歳の下の子だろうが、なぜ恐怖している。自分が同じ状況になると察したから……違う。そんな事じゃない。見覚えがあるのだあの服に。なぜだ。なぜなんだ。


 混乱していた。ここ数日まともに過ごせていないのと精神的に追い込まれているせいでまともな判断が出来ないでいた。


「その顔。いいねぇ、いいよ」


 女は喜んでいた。最初から俺の反応を読んでいたように。いや、そう仕向けているのだ俺に恐怖を与えるために。


「お前さんが見つかったところから随分離れた所で私の部下が殺してしまったんだけれどねぇ、君より年下の女の子だったらしく。タルルお兄ちゃんと呟いていたね」


「クソガアアああああああああああああああああしねええええええええええええええ」


 枷を壊そうと体を激しく動かし、うねり、女を睨んでいた。俺はこいつを殺さないといけない、でないと俺は……俺は。


「さすがだよ、私の期待を裏切らない」


 笑っていた。前と同じように口の端を上げながら俺をいやらしい目で見ているのだ。前みたいにされる。いやだ、こいつは殺さないといけない。俺は殺す。ころす。ころす。


「さて昨日の続きをしたいんだけどね、まずはしつけをしないとね」


 黒い先端で全身を起用に叩き、叩かれると同時にうめき声を上げていた。こんなの思う壷だ、だけれど俺の怒りは収まってくれない。俺は。おれは。


 俺は考えるのをやめていた。何十回・何百回叩かれたかわからない。すでに怒ることすらやめて、叱られた子犬のように静かに主人の行動を待っているだけの飼い犬に成り果てていた。どうやら快楽に身を委ねてしまえば辛い事なんてなくなるのかもしれない。


「もう鳴くのはおしまいかい?」


 また今日も上着を脱ぎ、二つの豊満な胸をはだけさせるとさらに下を脱ぎ女は裸となり一歩と近づいてくる。唇を舌で舐め今からでもあの時のような事が起きるのだと恐怖していた。


 股間をさすり女は耳元で「壊れてもいいのだよ」とささやかれた。そうだ俺はもう無理なんだ、生きられないんだよ……女がズボンに手を伸ばした瞬間、ドンと大きな音と共に扉が音を立てて倒れたのだ。


「見つけたぞリトルキラー」


 髪を後ろに束ね無精ひげの生えた男が剣? にしては随分刃の小さい剣を手にしていた。


 女は裸のまま振り向くと黒い物体を振り回した。怒りでどうかしてしまったという訳ではないみたいだ。今まで聞いたことの無い音を立てて男を威嚇していたのだ。


「剣を持たない青い傭兵には勝っても嬉しくないがね」


 男は一瞬にして消えてしまった。女は両手で黒いものを持ちバシィと音を立てると左にバツを描くように振り回す。足音が聞こえるとそこには男が剣を構えながら立っていた。見えなかった。いつからそこに立っていたのか……それにこの女も男の動きを見切っていた。


「裸のお陰ですばやく動けるのかい?」


 女は男と対峙するようにバックステップを取り間合いを開けながら黒いものを音を立てて男を威嚇する。


「その刀、どうやら噂に聞く剣豪さんみたいだね」


 女は焦っていた。俺から見ても分かり。刃物にあの黒いものなんて叶うはずが無いのだ。戦う前から負けているのだ。勝機など見えないがまだ諦める様子も無く顔を引きつらせながら女は淡々と喋り始めた。


「疑問がいくつもあったんだよ、あの男どうやら私を売ったみたいだね。私がいなければ軍なんてまともな動きも出来ずに帝国など築き上げるなんて無理だったのさ、それを恩を仇で返すなど」


「卑怯だと思うなよ、お互い様なんだ」


 男の顔は部屋の暗さのせいでうっすらとしか見えないが、鬼の形相で女を睨んでいた。


「私、ペトス=キリヒは負けるなんてありえないのさ」


 ペトスと名乗る女は黒いものを左右に振りながら男に突進していく。


「切捨て御免」


 男は女の横を通り抜けると同時にペトスの悲鳴が上がった。


 ペトスの腕は鈍い音を立てて地面に落ちると肩から先の無くなった腕だった場所からは噴水のように血が流れ女は崩れるように膝立ちになった。


「まだだ、私のオモチャを壊さないと」


 立ち上がり右手につかまれたままの黒いものを左手で器用にはがし左手で数回振り回し高くジャンプし叩きつけるように攻撃する。だが既に男は目を瞑っていた。


「なめやがってぇええええええええええええ」


 黒いものの先は男の横に綺麗に叩きつけられていて、男は目を瞑ったまま軽く食事でもするような感覚で避けたのだ。勝負は既についている。


「くそがああああああああああ」


 女は叫んでいた、既にやけくそに黒いものを振り回し男には一度も当たる事が無かった。それもそうだ男は既に溜息をついていたのだ。


「あまり痛めつけるのも嫌いでねすぐに楽にしてやる」


 男の剣の刃はキラリと光に反射した瞬間にはすぐに腰にぶら下げていた鞘に収めていた。カチャリと剣が鞘に収まった瞬間女の首はスローモーションのようにペトスの首は崩れ落ちた。


 男は哀れむような視線を俺に向けると器用に枷を真っ二つに切り腕の締め付ける感触が消えてくれた。俺は宙に浮いていたが今回は足で着地することが出来た。
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