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陸夜
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いつもとは違い、ギリギリまで休めた体は軽かった。長距離をエリオットにまたがって移動せずにすんだことも大きいのだろう。エリオットと走れることは楽しいが、連日長距離を移動するのは、アルバートにとってもエリオットにとっても負担が大きい。エリオットも今頃、久しぶりの休暇を楽しんでいるはずだ。
いつものように森を抜け、魔女の家に踏み入る。もはや勝手知ったる家であるが、今日はいつもと様子が違った。なにせ常はベッドにいるイザベラが、居間の椅子に腰掛けていたのだ。
肘をつき、苛ついた仕草でテーブルを叩いていたイザベラは、アルバートを見ると体をかたくする。怯えと嘆願が滲む瞳は、アルバートの一挙一動をじいと見ていた。その瞳に彼女の過去が透けている気がする。
「……どうしたんですか、そんなところで」
本当は他に言いたいことがあったのに、出てきたのはどうでもいい内容だ。言葉が足りない自分が恨めしくなった。
キッチンには、人型のロウが立っていた。昨晩と同じようにティーカップを持ってくる。「座れ」という彼に促され、イザベラの前に腰掛けた。屋敷の主人は未だ無愛想に口をつぐんでいる。
「ほら、イザベラ。アルバートに言うことがあるだろう」
「……わたしは悪くない。勝手に怒鳴り散らしたこいつが悪いだろう」
「だから、その話は昨日もしただろう。きちんと俺のことを説明せず、わざと誤解を招くような言い方をしたお前も悪い」
「……でもわたしは、なにも間違ったことは言ってない」
イザベラがむっつりとした顔で答える。彼女の言い分は、アルバートがレオンに対して言ったことと似ていた。それに気づき、自分達は頑固者の似た者同士なのかと、笑いそうになる。
「魔女様の言う通りです、あなたが俺に謝ることはありません」
「え……」
「ヒトとヒトの考え方が違うのは当たり前なんのに、きちんと話し合いをせず、怒鳴って帰った俺が悪かったんです。昨夜は申し訳ありませんでした」
そう言って深く頭を下げれば、イザベラがあからさまに狼狽える。
助けを求めてロウへ視線を向けたが、彼はイザベラを肘でつつくばかりだった。早くしろと促す彼に、だがイザベラはひたすら情けない顔で言い淀む。代わりに顔を上げたアルバートが、真剣な声で言葉をつむいだ。
「ロウ殿にも言いましたが、やはり俺は、家族に対してペットや従僕などと表現するべきではないと思います。モノ扱いされれば、心あるものは誰だって傷つきます」
モノ扱いされる、と言ったとき、イザベラの瞳が恐怖に揺れる。自分が傷つけられた顔をする彼女は、ここにないなにかを恐れていた。
青ざめた彼女の肩を、ロウが抱く。それでようやく呼吸ができるように、イザベラはロウへとしだれよった。
「……仕方がないだろう。他にどう言えばいいかわからないんだ。ロウはわたしのモノで、わたしだけに尽くして、絶対にわたしを裏切らない存在だからな」
「それなら色々呼び方はあるでしょう。家族でも、友人でも、」
──恋人でも、と言おうとして、寸前で押し黙る。
この二人が恋人だって? 冗談ではない。二人の間に横たわる、ドロドロとした執着と依存が、恋情や愛情などであるものか。
それはたった一週間側にいただけのアルバートにもよくわかった。俗世から離れ、二人きりで時間を編み続けた彼らは、危ういほど近すぎる。互いにとって互いがなくてはならない存在で、半身で、魂をわけあってすら見えるのだ。
魔女と使い魔は、こういう関係が普通なのだろうか。だとしても、彼らの未来には破滅しか思い描けない。
「家族も友達も、ろくでもないものだろう。そんなくだらん間柄で、ロウとわたしの関係をくくってくれるな」
イザベラの言葉で、ハッと意識が戻る。
視線を向ければ、不機嫌に歪められたイザベラの顔があった。魔女は家族や友人にいい感情がないらしい。そもそも魔女に親というものはいるのだろうか。
「魔女様とお話していて、お二人が表現しがたい関係であることはわかりました。ですが人をモノ扱いすることも、ペットと呼ぶことも倫理に反します」
「はあ、話の通じん奴だな。同じことの繰り返しじゃないか」
「既存の関係に当てはまらないからと、無理矢理非道徳な言葉を用いることは、思考の放棄に他なりません。家族と呼ぶことが嫌ならば、使い魔とお呼びすればよろしい。あなたに仕える、あなただけの魔物です。その表現にどんな間違いがあると?」
「……間違いはなくとも、違和感がある」
「ではあなたがたにだけ当てはまる呼び名を作ればいいんです。ロウ殿が大切なら、彼の存在を尊重し、魔女様自身も自立なさるべきです」
そうすれば、破滅への道も回避できるのではないか。という思いだけは、胸にとどめた。
拳を握りながら力説し、はて、これはどういう状況なのかとおかしくなってきた。説教されているイザベラは、拗ねた子供のように肩を丸めている。こんなにも幼い内面を持つ彼女が、本当に魔女なのか疑わしくなってきた。第一に、最初の頃の印象とずいぶん違うではないか!
「……まったくもって、おまえ様は本当に小言がうるさい。願いを叶えてもらう側のくせに、わたしへ説教するとはいい度胸だ」
うんざりとした様子で言われるが、そんなこと、アルバートは言われ慣れている。性格だから仕方ないと割り切ってすらいた。
「なんと思われようとかまいません。私は友人として、イザベラへ忠告を行っているんです」
「友人だと?」
イザベラ、と呼ぶ名前に力を込める。やはり言いにくかったが、浮かぶ苦々しさには気づかないフリをした。
アルバートの言葉を聞き、イザベラとロウは間抜けに目を丸めている。予想もしていなかったらしい。アルバートだって、本来は彼女を友人などと微塵も思ってはいなかった。
それでも敢えて友人だと言ったのは、やはり彼女とロウの関係が、不健康に思えて仕方なかったからだ。
二人が閉ざされた世界のせいで泥沼のごとき依存心を繋いでいるなら、そこに新しい存在として自分が入り込むことで、破滅を防げるかもしれない。
たった百晩の繋がりで、百夜通いが終わってしまえばここに来る意味もなくなる。イザベラとロウの関係を気にする義理だってない。それでも彼らを心配してしまうのは、昨晩のイザベラが頭から離れないせいだ。
幼子のように怯える彼女を慰め、世界には優しいものがたくさんあるのだと教えてやりたい。ロウ以外にも、彼女と触れ合い、共に支え合える人間がいるはずだ。そして強気に笑っている方が、彼女の触れがたい美しさには似合っているのだし。
だがイザベラは、しばらくすると嘲笑うように鼻を鳴らした。細い指先が、艶めかしく丸い顎をなぞる。
「友人とは面白い。まさか近衛兵様は、友達だからと特別に、多くの願いを叶えて欲しいと仰るつもりかな? だが、そうだな、もちろんだとも! 金か、力か? わたしが欲しいと言うなら、それもやぶさかではない! わたし達は友人だからな、君の願いならなんでも叶えてやろう!」
魔女は人を誑かし、誘惑する力があるらしい。なるほど、その身振りはあまりに蠱惑的だ。アルバートが単純で欲に忠実な男なら、すぐさま頷いていたことだろう。
しかしアルバートは堅物で生真面目な男で有名なのだ。真面目くさった顔で、侮辱するなとばかりに眉根を寄せる。
「願いとは、自分の力で叶えるから価値があるものなのです。たとえ世界平和をもたらしてくれると言われても、どんな対価があるかもしれない異形の力を頼る気はありません」
それは百夜通いに挑んでいる立場からすれば、ひどい矛盾をはらんだ意見だ。とはいえこれはアルバートの願いを叶えるためのものではないし、そもそも初めから乗り気ではない。どう足掻こうと、これがアルバートの本音だった。
ついでに思う。
イザベラはこういう女だった。だからこそ彼女が嫌いなのだ。そのことを情に流され、忘れてしまうなんて!
怒るアルバートに、イザベラがまたおどおどし始める。どうにも昨日怒鳴ったせいで、彼女の中で怖い人間に位置づけられてしまったらしい。その点はおおいに反省しているが、これくらいで怯えられるとさすがに傷ついた。
イザベラに服を掴まれ、ロウが面倒くさそうに自分の茶器へ手を伸ばす。彼は喉を潤すと、「アルバート」と唐突に名前を呼んできた。
「イザベラがまたよけいなことを言ってすまない。こいつはこうやってでしか、人間と関わる術を知らないんだ。悪気があるわけじゃないから許してくれ」
「ひ、人を社交性のかけた奴みたいに言うんじゃない!」
「事実だろう。お前は不器用すぎる。今日だって本当は、昨日の詫びでお茶に招待しようとしただけだろう。それがどうして寸前でへそを曲げ始めるんだ」
思わず「え」と言えば、イザベラの頬が一瞬で赤く染る。真っ赤な顔で狼狽える姿は、驚くほど愛らしい。
冷徹で傲慢で尊大無慈悲な魔女かと思っていたのに、こんな人間くさい一面があるなんて反則だ! しかも心を閉ざしかけたところで披露するんじゃない!
もうダメだった。アルバートは二度と、この魔女を嫌いになれないのだろう。人間くさく不器用で、子供じみた妖艶なこの女を、恐ろしい魔女として見れなくなっていた。
「う、ウィルソンまで微笑ましい顔で見るんじゃない! それ以上わたしを侮辱すればおまえなんかネズミに変えて、ロウに食らわせてやるからな!」
「俺に変なものを食わせようとするな」
「今さら偽悪者ぶっても遅いですよ、イザベラ。あなたは言葉ほどひどい人ではないし、是が非でも友達になりたくなりました! あなたにはやはり友達が必要なんです!」
「ぐ、うう……! こいつの押しつけがましいところ、つくづく腹が立つ……!」
キラキラと瞳を輝かせれば、イザベラは机に突っ伏し、細かく震え始めた。ロウはと言えば、「照れてるだけだから気にするな」と囁く。
買ってきた土産を渡し忘れたことに気づいたのは、森を出てからだった。頭上の月を眺めながら、どうしたものかと頭をかく。
少しだけ考え込み、また次に来たときでいいかと思う。なにせ百夜通いははじまったばかりで、まだあと三月は、あの愉快な二人と毎日会えるのだから。
その百夜が短いのか長いのかは、このときは特に考えてもいなかった。
いつものように森を抜け、魔女の家に踏み入る。もはや勝手知ったる家であるが、今日はいつもと様子が違った。なにせ常はベッドにいるイザベラが、居間の椅子に腰掛けていたのだ。
肘をつき、苛ついた仕草でテーブルを叩いていたイザベラは、アルバートを見ると体をかたくする。怯えと嘆願が滲む瞳は、アルバートの一挙一動をじいと見ていた。その瞳に彼女の過去が透けている気がする。
「……どうしたんですか、そんなところで」
本当は他に言いたいことがあったのに、出てきたのはどうでもいい内容だ。言葉が足りない自分が恨めしくなった。
キッチンには、人型のロウが立っていた。昨晩と同じようにティーカップを持ってくる。「座れ」という彼に促され、イザベラの前に腰掛けた。屋敷の主人は未だ無愛想に口をつぐんでいる。
「ほら、イザベラ。アルバートに言うことがあるだろう」
「……わたしは悪くない。勝手に怒鳴り散らしたこいつが悪いだろう」
「だから、その話は昨日もしただろう。きちんと俺のことを説明せず、わざと誤解を招くような言い方をしたお前も悪い」
「……でもわたしは、なにも間違ったことは言ってない」
イザベラがむっつりとした顔で答える。彼女の言い分は、アルバートがレオンに対して言ったことと似ていた。それに気づき、自分達は頑固者の似た者同士なのかと、笑いそうになる。
「魔女様の言う通りです、あなたが俺に謝ることはありません」
「え……」
「ヒトとヒトの考え方が違うのは当たり前なんのに、きちんと話し合いをせず、怒鳴って帰った俺が悪かったんです。昨夜は申し訳ありませんでした」
そう言って深く頭を下げれば、イザベラがあからさまに狼狽える。
助けを求めてロウへ視線を向けたが、彼はイザベラを肘でつつくばかりだった。早くしろと促す彼に、だがイザベラはひたすら情けない顔で言い淀む。代わりに顔を上げたアルバートが、真剣な声で言葉をつむいだ。
「ロウ殿にも言いましたが、やはり俺は、家族に対してペットや従僕などと表現するべきではないと思います。モノ扱いされれば、心あるものは誰だって傷つきます」
モノ扱いされる、と言ったとき、イザベラの瞳が恐怖に揺れる。自分が傷つけられた顔をする彼女は、ここにないなにかを恐れていた。
青ざめた彼女の肩を、ロウが抱く。それでようやく呼吸ができるように、イザベラはロウへとしだれよった。
「……仕方がないだろう。他にどう言えばいいかわからないんだ。ロウはわたしのモノで、わたしだけに尽くして、絶対にわたしを裏切らない存在だからな」
「それなら色々呼び方はあるでしょう。家族でも、友人でも、」
──恋人でも、と言おうとして、寸前で押し黙る。
この二人が恋人だって? 冗談ではない。二人の間に横たわる、ドロドロとした執着と依存が、恋情や愛情などであるものか。
それはたった一週間側にいただけのアルバートにもよくわかった。俗世から離れ、二人きりで時間を編み続けた彼らは、危ういほど近すぎる。互いにとって互いがなくてはならない存在で、半身で、魂をわけあってすら見えるのだ。
魔女と使い魔は、こういう関係が普通なのだろうか。だとしても、彼らの未来には破滅しか思い描けない。
「家族も友達も、ろくでもないものだろう。そんなくだらん間柄で、ロウとわたしの関係をくくってくれるな」
イザベラの言葉で、ハッと意識が戻る。
視線を向ければ、不機嫌に歪められたイザベラの顔があった。魔女は家族や友人にいい感情がないらしい。そもそも魔女に親というものはいるのだろうか。
「魔女様とお話していて、お二人が表現しがたい関係であることはわかりました。ですが人をモノ扱いすることも、ペットと呼ぶことも倫理に反します」
「はあ、話の通じん奴だな。同じことの繰り返しじゃないか」
「既存の関係に当てはまらないからと、無理矢理非道徳な言葉を用いることは、思考の放棄に他なりません。家族と呼ぶことが嫌ならば、使い魔とお呼びすればよろしい。あなたに仕える、あなただけの魔物です。その表現にどんな間違いがあると?」
「……間違いはなくとも、違和感がある」
「ではあなたがたにだけ当てはまる呼び名を作ればいいんです。ロウ殿が大切なら、彼の存在を尊重し、魔女様自身も自立なさるべきです」
そうすれば、破滅への道も回避できるのではないか。という思いだけは、胸にとどめた。
拳を握りながら力説し、はて、これはどういう状況なのかとおかしくなってきた。説教されているイザベラは、拗ねた子供のように肩を丸めている。こんなにも幼い内面を持つ彼女が、本当に魔女なのか疑わしくなってきた。第一に、最初の頃の印象とずいぶん違うではないか!
「……まったくもって、おまえ様は本当に小言がうるさい。願いを叶えてもらう側のくせに、わたしへ説教するとはいい度胸だ」
うんざりとした様子で言われるが、そんなこと、アルバートは言われ慣れている。性格だから仕方ないと割り切ってすらいた。
「なんと思われようとかまいません。私は友人として、イザベラへ忠告を行っているんです」
「友人だと?」
イザベラ、と呼ぶ名前に力を込める。やはり言いにくかったが、浮かぶ苦々しさには気づかないフリをした。
アルバートの言葉を聞き、イザベラとロウは間抜けに目を丸めている。予想もしていなかったらしい。アルバートだって、本来は彼女を友人などと微塵も思ってはいなかった。
それでも敢えて友人だと言ったのは、やはり彼女とロウの関係が、不健康に思えて仕方なかったからだ。
二人が閉ざされた世界のせいで泥沼のごとき依存心を繋いでいるなら、そこに新しい存在として自分が入り込むことで、破滅を防げるかもしれない。
たった百晩の繋がりで、百夜通いが終わってしまえばここに来る意味もなくなる。イザベラとロウの関係を気にする義理だってない。それでも彼らを心配してしまうのは、昨晩のイザベラが頭から離れないせいだ。
幼子のように怯える彼女を慰め、世界には優しいものがたくさんあるのだと教えてやりたい。ロウ以外にも、彼女と触れ合い、共に支え合える人間がいるはずだ。そして強気に笑っている方が、彼女の触れがたい美しさには似合っているのだし。
だがイザベラは、しばらくすると嘲笑うように鼻を鳴らした。細い指先が、艶めかしく丸い顎をなぞる。
「友人とは面白い。まさか近衛兵様は、友達だからと特別に、多くの願いを叶えて欲しいと仰るつもりかな? だが、そうだな、もちろんだとも! 金か、力か? わたしが欲しいと言うなら、それもやぶさかではない! わたし達は友人だからな、君の願いならなんでも叶えてやろう!」
魔女は人を誑かし、誘惑する力があるらしい。なるほど、その身振りはあまりに蠱惑的だ。アルバートが単純で欲に忠実な男なら、すぐさま頷いていたことだろう。
しかしアルバートは堅物で生真面目な男で有名なのだ。真面目くさった顔で、侮辱するなとばかりに眉根を寄せる。
「願いとは、自分の力で叶えるから価値があるものなのです。たとえ世界平和をもたらしてくれると言われても、どんな対価があるかもしれない異形の力を頼る気はありません」
それは百夜通いに挑んでいる立場からすれば、ひどい矛盾をはらんだ意見だ。とはいえこれはアルバートの願いを叶えるためのものではないし、そもそも初めから乗り気ではない。どう足掻こうと、これがアルバートの本音だった。
ついでに思う。
イザベラはこういう女だった。だからこそ彼女が嫌いなのだ。そのことを情に流され、忘れてしまうなんて!
怒るアルバートに、イザベラがまたおどおどし始める。どうにも昨日怒鳴ったせいで、彼女の中で怖い人間に位置づけられてしまったらしい。その点はおおいに反省しているが、これくらいで怯えられるとさすがに傷ついた。
イザベラに服を掴まれ、ロウが面倒くさそうに自分の茶器へ手を伸ばす。彼は喉を潤すと、「アルバート」と唐突に名前を呼んできた。
「イザベラがまたよけいなことを言ってすまない。こいつはこうやってでしか、人間と関わる術を知らないんだ。悪気があるわけじゃないから許してくれ」
「ひ、人を社交性のかけた奴みたいに言うんじゃない!」
「事実だろう。お前は不器用すぎる。今日だって本当は、昨日の詫びでお茶に招待しようとしただけだろう。それがどうして寸前でへそを曲げ始めるんだ」
思わず「え」と言えば、イザベラの頬が一瞬で赤く染る。真っ赤な顔で狼狽える姿は、驚くほど愛らしい。
冷徹で傲慢で尊大無慈悲な魔女かと思っていたのに、こんな人間くさい一面があるなんて反則だ! しかも心を閉ざしかけたところで披露するんじゃない!
もうダメだった。アルバートは二度と、この魔女を嫌いになれないのだろう。人間くさく不器用で、子供じみた妖艶なこの女を、恐ろしい魔女として見れなくなっていた。
「う、ウィルソンまで微笑ましい顔で見るんじゃない! それ以上わたしを侮辱すればおまえなんかネズミに変えて、ロウに食らわせてやるからな!」
「俺に変なものを食わせようとするな」
「今さら偽悪者ぶっても遅いですよ、イザベラ。あなたは言葉ほどひどい人ではないし、是が非でも友達になりたくなりました! あなたにはやはり友達が必要なんです!」
「ぐ、うう……! こいつの押しつけがましいところ、つくづく腹が立つ……!」
キラキラと瞳を輝かせれば、イザベラは机に突っ伏し、細かく震え始めた。ロウはと言えば、「照れてるだけだから気にするな」と囁く。
買ってきた土産を渡し忘れたことに気づいたのは、森を出てからだった。頭上の月を眺めながら、どうしたものかと頭をかく。
少しだけ考え込み、また次に来たときでいいかと思う。なにせ百夜通いははじまったばかりで、まだあと三月は、あの愉快な二人と毎日会えるのだから。
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