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前編
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私の名前は、ミナ・アヴリー・エスアルーレは伯爵家の侍女で、侯爵家の跡継ぎと婚約している。
容姿も茅色の茶髪にハシバミ色の目をしたごく平凡な容姿だったが、ぷっくりとした形の良い唇だけは私の自慢だった。
私は、私の幸せは親が望む通りの人生を歩めば手に入ると思っていた。
エギザベリア神国の王立学院を卒業し、上流貴族である侯爵家の跡継ぎと結婚し次世代の侯爵を産む。それが私の人生で運命なのだと信じて疑わなかった。
そう、雪の華様であるルルリアナ様に出会うまでは。
私は親の言いつけ通り箔付のため王立学院を三か月休学し、「雪の華様」の侍女をすることになった。高貴な身分にお仕えすることは行儀見習いの意味もある。
雪の華様がお住まいになっている神殿は王立学院と同じ敷地内にあり、寮で生活をいた私には近くてぴったりな職場だった。
雪の華様と言うのはエギザベリア神国皇帝または皇太子の婚約者の通称である。つまり国母となられる御方だ。
エギザベリア神国の王族は特殊な力を持って生まれてくる。
この星には青海と言う一つの大きな海でできており、その青海にある陸地は私が今住んでいる雪の結晶の形をしたアイスクリスタ大陸しか存在しない。
その青海の水量はエギザベリア神国の王族が調節し、世界のバランスを担っているのだ。
この世界において欠くことができない才能を次世代に受け継がせるため、世界を創造したというロクストシティリ神の神託によって花嫁が選ばれる。その花嫁を「雪の華」と私たちは呼んでいるのだ。
雪の華様は国の保護下におかれそれはそれは大切に育まれる。最近は少々保護が行き過ぎていると噂で聞いたが、私はその噂をまともに考えたことはなかった。
だって唯一神によって皇帝の花嫁に選ばれる女性は、世界で一番の幸せ者だと思っていたからだ。
「雪の華」はこの世界中の女の子の憧れだった。神に選ばれた花嫁が、宗主国である王様に愛され幸せになるといった物語は世界に溢れていた。
幼かった私も何度も何度も「雪の華様」と皇帝を題材にした物語を母親に読み聞かせて貰っていた。
冷淡な母も雪の華になることを憧れていたようで幼かった私に「寝る前に毎日、神様、どうかわたしを雪の華に選んでください」とお願いしたのだと話してくれた。
贅沢な衣装や装飾品で身を飾り、美味しい食事や甘いお菓子を食べ、ステキな王子様に愛されている。雪の華になれば恵まれた運命で、約束された幸せが待っている。そう、私たちは信じていたのだ。
今世の雪の華様は名門中の名門である、あのソルティキア公爵家の令嬢だ。
ソルティキア公爵には雪の華様以外にも六人お子様がいらっしゃって、誰もが目を見張るほどの美貌を持っていた。ソルティキア公爵夫妻が見目麗しいのだから当然だ。社交界の華であるソルティキア家出身の雪の華様が美しくないわけがないのである。
歴代の雪の華の中には平民から選ばれた者もいて、貴族の風当たりも強かったと聞いたことがある。
しかし今世の雪の華様ま容姿も出身も文句ひとつない完璧な御方なのだ。
そのため今世の雪の華様の侍女は大変人気で、すごい倍率の試験を突破しなければならない。
私は雪の華様が私と同じ年ごろと言うこともあり、花嫁修業とともに雪の華様の侍女となるべく勉強も厳しく身につけさせられた。でも、私はめげなかった。
どうしても雪の華様の侍女になって、幸せな雪の華様の生活を覗いてみたかったからだ。
雪の華の侍女は三か月で入れ替えられるため、三か月という短い期間も私にとっては都合の良いものであった。その間、王立学院は休学することになるが留年が必要なほど長く休む必要がないからだ。
そのためなのか私の友人たちも数名雪の華の侍女を務めていた。
私は今でも初めて雪の華様であるルルリアナ様に会った日のことを、はっきりと手に取るように思い出すことができた。
あの日は私が侍女として初めて神殿を訪れた日だった。
春先で少し寒さが残るそんな日だった。
私は肌触りだけは無駄にいい支給された白の修道女服に着替え、カルロというきつい表情(性格もきつい)の侍女長に雪に華が住む神殿を案内された。
侍女長だけは侍女よりも就任期間が一年と長い。
私の想像とは違いまるで牢獄のような神殿に、私はやっていけるのだろうかと不安を募らせていた。壁を飾る絵画や部屋を彩る花ですらこの神殿にはないのだ。ただ灰色の世界が広がっているだけ。
一番奥の日の当たらない冷え冷えとした部屋に案内され、そこが雪の華の執務室兼私室だと聞いた時、私は驚きを隠せなかった。
私の家の召使いたちの方がもっといいお部屋を与えられてたのだから。
侍女長がノックをし、部屋の中から鈴を転がすような声で中に入るように告げられる。
ゆっくりとドアを開き、大きな机で埋もれそうなほどの書類と本に囲まれていたのは私が今までに見た中で一番美しい女性だった。
透き通るような銀髪に憂いを帯びた灰色の瞳、顔のパーツすべてが完璧で、あるべきところに収まったそれらはまさに完璧な美そのものであった。
ルルリアナ・マル・フィア・ソルティキア。
それが今の雪の華の名前であった。
私は雪の華様ほど完璧な女性に会ったことがなかった。
山のような執務に家庭教師たちの遠慮のない宿題を完璧にこなし、飢えを凌ぐためだけのようなまずい食事、体の芯から凍えるような冷たい床での礼拝にも文句ひとつ言わずにこなす。
とても同じ年頃の女性とは思えないほど雪の華様は完璧だったのだ。
ただ、雪の華様の笑顔を見たことがないことが私の心に小さなわだかまりを作っていた。
雪の華様は侍女、神官、護衛兵たちなど誰にでも平等に扱い公平に接してきた。それはとても立派なことで未来の王妃様には必要なことなのに、私は完璧な雪の華様を冷たく感じてしまったのだ。
侍女に就任して一週間、この日は雪の華様と婚約者であるレオザルト殿下の週に一回の食事会の日であった。
雪の華様は珍しく朝からソワソワされ、お茶をこぼすなど些細なミスを繰り返していた。
髪も念入りに梳かさせ、何度も何度も鏡を見てはおかしなところがないか確認する雪の華様を見て、あぁ、雪の華様はレオザルト殿下のことが好きなのだと気が付いたのだった。
鏡を見つめる雪の華様が私と何も変わらない十六歳の少女に見えた。
なかなか姿を現しにならないレオザルト殿下にそわそわと期待するように何度も何度も扉に視線を向ける雪の華様はまるで、父親の帰りを待つ子供の様に愛らしかった。
しかし、レオザルト殿下はその日の食事会に姿を見せることはなかった。
レオザルト殿下の欠席の知らせが届いたのは、待ちくたびれたカルロ侍女長が使いをやり大神殿の鐘の音がお昼休みの終わりを告げたころだった。
明らかにしょんぼりとした様子で昼食を食べ始めたルルリアナ様を、カルロ侍女長は時間ないのだからと数口で終わらせ、執務室へと追いやったのだ。ただでさえ食の細い雪の華様だというのに。
カルロ侍女長は雪の華様にとても厳しすぎる態度を取っていた。
雪の華様のミスでないようなミスを探しては、聞いているこちらも気分が悪くなる嫌味を持って厳しく指摘するのだ。
お優しい雪の華様はカルロ侍女長にミスを指摘されるたび、ミスを指摘してくれたことに対するお礼を述べ「次はミスをしないようにするわね」と優しく微笑むのだった。
そのことが気に入らないようで、カルロ侍女長はますます雪の華様に対する態度は厳しい物へと変わっていったのだった。
雪の華様が明らかに具合が悪そうにしているのにあえて入浴のお湯を冷たくしたり、雪の華様がせっかく書き終えた書類に私たち侍女がミスをして水をこぼしたと嘘をついたり、あげればきりがないがそんな心の狭い嫌がらせをカルロ侍女長は繰り返していた。
それを私は知っていて止めなかったのだから、カルロ侍女長と同罪だ。
でも、誰を頼ればいいのかわからなかったのだ。
神官たちや護衛兵ですら見て見ぬふりをしていたし、雪の華様に会いに来ようとしないレオザルト殿下にももちろん頼ることなどできない。
雪の華は大切に国に保護されていると聞いたのに、それは大きな嘘だったのだ。
贅沢な衣装や装飾品もほんのささやかなものすらなく、味がしない質素な食事に果物すら並ばない、ステキな王子様はいるが雪の華様を愛していない。
あこがれた物語とはかけ離れた生活、それが雪の華様ルルリアナ様の生活だった。
ルルリアナ様の生活は、まるで中身のない薄い一冊の本を繰り返し読み続けているようなものだった。
ルルリアナ様の人生においての楽しみは本当にレオザルト殿下の訪れだけだったのだ。
容姿も茅色の茶髪にハシバミ色の目をしたごく平凡な容姿だったが、ぷっくりとした形の良い唇だけは私の自慢だった。
私は、私の幸せは親が望む通りの人生を歩めば手に入ると思っていた。
エギザベリア神国の王立学院を卒業し、上流貴族である侯爵家の跡継ぎと結婚し次世代の侯爵を産む。それが私の人生で運命なのだと信じて疑わなかった。
そう、雪の華様であるルルリアナ様に出会うまでは。
私は親の言いつけ通り箔付のため王立学院を三か月休学し、「雪の華様」の侍女をすることになった。高貴な身分にお仕えすることは行儀見習いの意味もある。
雪の華様がお住まいになっている神殿は王立学院と同じ敷地内にあり、寮で生活をいた私には近くてぴったりな職場だった。
雪の華様と言うのはエギザベリア神国皇帝または皇太子の婚約者の通称である。つまり国母となられる御方だ。
エギザベリア神国の王族は特殊な力を持って生まれてくる。
この星には青海と言う一つの大きな海でできており、その青海にある陸地は私が今住んでいる雪の結晶の形をしたアイスクリスタ大陸しか存在しない。
その青海の水量はエギザベリア神国の王族が調節し、世界のバランスを担っているのだ。
この世界において欠くことができない才能を次世代に受け継がせるため、世界を創造したというロクストシティリ神の神託によって花嫁が選ばれる。その花嫁を「雪の華」と私たちは呼んでいるのだ。
雪の華様は国の保護下におかれそれはそれは大切に育まれる。最近は少々保護が行き過ぎていると噂で聞いたが、私はその噂をまともに考えたことはなかった。
だって唯一神によって皇帝の花嫁に選ばれる女性は、世界で一番の幸せ者だと思っていたからだ。
「雪の華」はこの世界中の女の子の憧れだった。神に選ばれた花嫁が、宗主国である王様に愛され幸せになるといった物語は世界に溢れていた。
幼かった私も何度も何度も「雪の華様」と皇帝を題材にした物語を母親に読み聞かせて貰っていた。
冷淡な母も雪の華になることを憧れていたようで幼かった私に「寝る前に毎日、神様、どうかわたしを雪の華に選んでください」とお願いしたのだと話してくれた。
贅沢な衣装や装飾品で身を飾り、美味しい食事や甘いお菓子を食べ、ステキな王子様に愛されている。雪の華になれば恵まれた運命で、約束された幸せが待っている。そう、私たちは信じていたのだ。
今世の雪の華様は名門中の名門である、あのソルティキア公爵家の令嬢だ。
ソルティキア公爵には雪の華様以外にも六人お子様がいらっしゃって、誰もが目を見張るほどの美貌を持っていた。ソルティキア公爵夫妻が見目麗しいのだから当然だ。社交界の華であるソルティキア家出身の雪の華様が美しくないわけがないのである。
歴代の雪の華の中には平民から選ばれた者もいて、貴族の風当たりも強かったと聞いたことがある。
しかし今世の雪の華様ま容姿も出身も文句ひとつない完璧な御方なのだ。
そのため今世の雪の華様の侍女は大変人気で、すごい倍率の試験を突破しなければならない。
私は雪の華様が私と同じ年ごろと言うこともあり、花嫁修業とともに雪の華様の侍女となるべく勉強も厳しく身につけさせられた。でも、私はめげなかった。
どうしても雪の華様の侍女になって、幸せな雪の華様の生活を覗いてみたかったからだ。
雪の華の侍女は三か月で入れ替えられるため、三か月という短い期間も私にとっては都合の良いものであった。その間、王立学院は休学することになるが留年が必要なほど長く休む必要がないからだ。
そのためなのか私の友人たちも数名雪の華の侍女を務めていた。
私は今でも初めて雪の華様であるルルリアナ様に会った日のことを、はっきりと手に取るように思い出すことができた。
あの日は私が侍女として初めて神殿を訪れた日だった。
春先で少し寒さが残るそんな日だった。
私は肌触りだけは無駄にいい支給された白の修道女服に着替え、カルロというきつい表情(性格もきつい)の侍女長に雪に華が住む神殿を案内された。
侍女長だけは侍女よりも就任期間が一年と長い。
私の想像とは違いまるで牢獄のような神殿に、私はやっていけるのだろうかと不安を募らせていた。壁を飾る絵画や部屋を彩る花ですらこの神殿にはないのだ。ただ灰色の世界が広がっているだけ。
一番奥の日の当たらない冷え冷えとした部屋に案内され、そこが雪の華の執務室兼私室だと聞いた時、私は驚きを隠せなかった。
私の家の召使いたちの方がもっといいお部屋を与えられてたのだから。
侍女長がノックをし、部屋の中から鈴を転がすような声で中に入るように告げられる。
ゆっくりとドアを開き、大きな机で埋もれそうなほどの書類と本に囲まれていたのは私が今までに見た中で一番美しい女性だった。
透き通るような銀髪に憂いを帯びた灰色の瞳、顔のパーツすべてが完璧で、あるべきところに収まったそれらはまさに完璧な美そのものであった。
ルルリアナ・マル・フィア・ソルティキア。
それが今の雪の華の名前であった。
私は雪の華様ほど完璧な女性に会ったことがなかった。
山のような執務に家庭教師たちの遠慮のない宿題を完璧にこなし、飢えを凌ぐためだけのようなまずい食事、体の芯から凍えるような冷たい床での礼拝にも文句ひとつ言わずにこなす。
とても同じ年頃の女性とは思えないほど雪の華様は完璧だったのだ。
ただ、雪の華様の笑顔を見たことがないことが私の心に小さなわだかまりを作っていた。
雪の華様は侍女、神官、護衛兵たちなど誰にでも平等に扱い公平に接してきた。それはとても立派なことで未来の王妃様には必要なことなのに、私は完璧な雪の華様を冷たく感じてしまったのだ。
侍女に就任して一週間、この日は雪の華様と婚約者であるレオザルト殿下の週に一回の食事会の日であった。
雪の華様は珍しく朝からソワソワされ、お茶をこぼすなど些細なミスを繰り返していた。
髪も念入りに梳かさせ、何度も何度も鏡を見てはおかしなところがないか確認する雪の華様を見て、あぁ、雪の華様はレオザルト殿下のことが好きなのだと気が付いたのだった。
鏡を見つめる雪の華様が私と何も変わらない十六歳の少女に見えた。
なかなか姿を現しにならないレオザルト殿下にそわそわと期待するように何度も何度も扉に視線を向ける雪の華様はまるで、父親の帰りを待つ子供の様に愛らしかった。
しかし、レオザルト殿下はその日の食事会に姿を見せることはなかった。
レオザルト殿下の欠席の知らせが届いたのは、待ちくたびれたカルロ侍女長が使いをやり大神殿の鐘の音がお昼休みの終わりを告げたころだった。
明らかにしょんぼりとした様子で昼食を食べ始めたルルリアナ様を、カルロ侍女長は時間ないのだからと数口で終わらせ、執務室へと追いやったのだ。ただでさえ食の細い雪の華様だというのに。
カルロ侍女長は雪の華様にとても厳しすぎる態度を取っていた。
雪の華様のミスでないようなミスを探しては、聞いているこちらも気分が悪くなる嫌味を持って厳しく指摘するのだ。
お優しい雪の華様はカルロ侍女長にミスを指摘されるたび、ミスを指摘してくれたことに対するお礼を述べ「次はミスをしないようにするわね」と優しく微笑むのだった。
そのことが気に入らないようで、カルロ侍女長はますます雪の華様に対する態度は厳しい物へと変わっていったのだった。
雪の華様が明らかに具合が悪そうにしているのにあえて入浴のお湯を冷たくしたり、雪の華様がせっかく書き終えた書類に私たち侍女がミスをして水をこぼしたと嘘をついたり、あげればきりがないがそんな心の狭い嫌がらせをカルロ侍女長は繰り返していた。
それを私は知っていて止めなかったのだから、カルロ侍女長と同罪だ。
でも、誰を頼ればいいのかわからなかったのだ。
神官たちや護衛兵ですら見て見ぬふりをしていたし、雪の華様に会いに来ようとしないレオザルト殿下にももちろん頼ることなどできない。
雪の華は大切に国に保護されていると聞いたのに、それは大きな嘘だったのだ。
贅沢な衣装や装飾品もほんのささやかなものすらなく、味がしない質素な食事に果物すら並ばない、ステキな王子様はいるが雪の華様を愛していない。
あこがれた物語とはかけ離れた生活、それが雪の華様ルルリアナ様の生活だった。
ルルリアナ様の生活は、まるで中身のない薄い一冊の本を繰り返し読み続けているようなものだった。
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