2 / 4
中編
しおりを挟む
翌週の食事会にはレオザルト殿下もきちんと参加された。
頬をいつもより赤く染めチラチラとレオザルト殿下を見つめるルルリアナ様は本当に愛らしかった。
会話が盛り上がっていなかったせいか、レオザルト殿下は昼食を食べ終えるとすぐに帰られてしまったけれど。
それを見送る時のルルリアナ様がいかに寂しそうかレオザルト殿下はきっと知る日は来ないだろう。颯爽と立ち去る彼がルルリアナ様に振り返ることなどないのだから。
私が侍女になって約一か月がたった頃だった。
お休みだった私は、ルルリアナ様の侍女を務めたことがある友人とお茶を飲みながら互いの近情を話していた。
「雪の華様はお元気にしているかしら?」
「えぇ、立派に公務をこなしていられるわ。ただ…」
私は久しぶりの休日だったこともありつい口が滑り、レオザルト殿下が昼食会をよく欠席することを話してしまったのだ。すると友人は私に王立学院での話題になっている噂について教えてくれたのだ。
「レオザルト殿下は今、雪の華様の実妹でいらっしゃるベルリアナ様に夢中なのよ。ルルリアナ様の方がもちろん美しいけれど、ベルリアナ様は感情豊かでよくお笑いになられるから、氷の様につめたいルルリアナ様といるよりも楽しいのかもしれないわね。神が選んだ花嫁と結婚しなければならないレオザルト殿下は気の毒だわ」
何を言っているのかしら?可哀そうなのはルルリアナ様の方ではないか。レオザルト殿下は自由に外を歩き、ご友人と交友を結ぶことだってできる。ルルリアナ様は生活から交友関係まで何一つ自由にできないというのに。それに…。
「雪の華様は決して冷たい方ではないわ」
「そうかしら?私は完璧すぎて少し怖く感じたのだ。それはあなたも同じではなくて?」
「…それはそうだけれど、レオザルト殿下と一緒にいる雪の華様はとても愛らしくて同い年の少女だと思ったのよ」
「まぁ!そんなこと思うだなんて雪の華様に失礼よ。雪の華様は神に選ばれた御方なのよ。私たちと同じと思っては失礼だわ。それに雪の華様はきっと、私たちの顔も名前も覚えていらっしゃらないわよ。所詮、私たちはたったの三か月で交代する召使いにしかすぎないのだから」
私は友人のその言葉が頭から離れず、ようやく眠りについたのは真夜中もとっくに過ぎたころだった。
そのせいなのか私は人生で初めて寝坊というものをしてしまった。
言い訳をさせてもらえば王立学院で専属の侍女を持てるのは侯爵家以上で、誰も私を起こしてくれる人はいなかったのだ。
カルロ侍女長に怒られてしまうと、慌てて神殿に顔を出せばカルロ侍女長のいつもの不機嫌な顔で迎えられる。
怒られることもなければ、嫌味を言われることもなかった。私はおかしいなと感じつつルルリアナ様の私室へと向かう。
大きな机に座るルルリアナ様が真剣な顔で書類と向き合っていた。いつもより乱れた御髪で。
ルルリアナ様の髪は産まれてから切られたことがなく、まるで花嫁衣裳のベールのように長い。
ルルリアナ様はきっと自分の手が届く範囲で髪を梳かしたのだろう、髪の上側は綺麗なのに手が届かない後ろや下の髪は乱れていた。
私が本来なら手伝う朝の身支度をルルリアナ様は一人で行われたのだ。
「雪の華様、おはようございます。寝坊してしまい大変申し訳ありませんでした」
私は地面に触れ伏し謝罪する。
「…何のことでしょうか?あなたは私が頼んだ本を図書館に取りに行っていたはずだったと思いますが?そうでしょ、ミナ?それよりも今朝の続きをしてくれないかしら?髪を梳かす途中だったと思うのだけれど…。」
私は顔を上げもう一度謝罪すると、手を洗い繊細な銀細工の櫛でルルリアナ様の綺麗な銀髪の髪を梳かし始める。
ルルリアナ様の髪は本当に綺麗で、梳かすたびに艶と輝きが増す。私はこの仕事が一番好きで、一番好きな時間だった。ゆっくり引っ張りすぎないように流れるように丁寧に梳かしていく。
「…私の名前、憶えていてくれたのですね」
「紹介されたもの、憶えるのは当然ではなくて?」
「もしかして今までの侍女たちのことも覚えているのえすか?」
「…えぇ。きっと彼女たちは私の事を思い出すことはないと思うけれど、たったの三か月とはいえこんな私に仕えてくれたのだから今でも感謝しているの」
「私は一生忘れません!雪の華様にお仕えできたこと、誇りと思いながら生きていきます!子供や孫たちにも雪の華様のことを話して聞かせます」
フンスと鼻息を荒くしてルルリアナ様に誓う。
「そこまでしてもらわなくてもいいです…」
恥ずかしそうに消えそうな声で囁くルルリアナ様はとても愛らしかった。
「私、侍女の期間が終わったらルルリアナ様にお手紙を書いてもいいですか?」
ルルリアナ様が驚かいたように後ろを振り返る。灰色の綺麗な瞳が私のハシバミ色の瞳とぶつかる。
その瞳は私の言っていることを信じてはいなかった。
だからもう一度誓う。
「絶対です!」
再び誓えば、ルルリアナ様は「楽しみにしています」とそっと微笑まれたのだった。
それだけでルルリアナ様の美しさは花が開いたように咲き誇っていた。
ルルリアナ様は笑うともっと綺麗なんだ…。もっとお笑いになられればいいのに。
私はそれから少しでもルルリアナ様が過ごしやすいように精一杯今まで以上に尽くした。
苦手だったお茶もたくさん練習した。休みの日は王立学院の先生に教えを請いに行ったりもしたのだ。そして茶葉を変えてり、淹れ方を工夫してはルルリアナ様の反応を細かく観察するようにした。この知識はノートに残して、次の侍女に受け継いでもらおうと思いつく。
丁寧な字でわかりやすく、ルルリアナ様の髪にそっくりな銀白のノートに記載する。
でも、私がどんなに努力をしてもルルリアナ様の幸せはレオザルト殿下次第で、ルルリアナ様の幸せに無関心なレオザルト殿下によって簡単に崩されてしまう。
レオザルト殿下は一か月無断で食事会を欠席されたのだ。
そして友人からレオザルト殿下とルルリアナ様の妹ベルリアナ様は前よりも仲睦まじい姿をよく見るようになったと知らされたのだった。
頬をいつもより赤く染めチラチラとレオザルト殿下を見つめるルルリアナ様は本当に愛らしかった。
会話が盛り上がっていなかったせいか、レオザルト殿下は昼食を食べ終えるとすぐに帰られてしまったけれど。
それを見送る時のルルリアナ様がいかに寂しそうかレオザルト殿下はきっと知る日は来ないだろう。颯爽と立ち去る彼がルルリアナ様に振り返ることなどないのだから。
私が侍女になって約一か月がたった頃だった。
お休みだった私は、ルルリアナ様の侍女を務めたことがある友人とお茶を飲みながら互いの近情を話していた。
「雪の華様はお元気にしているかしら?」
「えぇ、立派に公務をこなしていられるわ。ただ…」
私は久しぶりの休日だったこともありつい口が滑り、レオザルト殿下が昼食会をよく欠席することを話してしまったのだ。すると友人は私に王立学院での話題になっている噂について教えてくれたのだ。
「レオザルト殿下は今、雪の華様の実妹でいらっしゃるベルリアナ様に夢中なのよ。ルルリアナ様の方がもちろん美しいけれど、ベルリアナ様は感情豊かでよくお笑いになられるから、氷の様につめたいルルリアナ様といるよりも楽しいのかもしれないわね。神が選んだ花嫁と結婚しなければならないレオザルト殿下は気の毒だわ」
何を言っているのかしら?可哀そうなのはルルリアナ様の方ではないか。レオザルト殿下は自由に外を歩き、ご友人と交友を結ぶことだってできる。ルルリアナ様は生活から交友関係まで何一つ自由にできないというのに。それに…。
「雪の華様は決して冷たい方ではないわ」
「そうかしら?私は完璧すぎて少し怖く感じたのだ。それはあなたも同じではなくて?」
「…それはそうだけれど、レオザルト殿下と一緒にいる雪の華様はとても愛らしくて同い年の少女だと思ったのよ」
「まぁ!そんなこと思うだなんて雪の華様に失礼よ。雪の華様は神に選ばれた御方なのよ。私たちと同じと思っては失礼だわ。それに雪の華様はきっと、私たちの顔も名前も覚えていらっしゃらないわよ。所詮、私たちはたったの三か月で交代する召使いにしかすぎないのだから」
私は友人のその言葉が頭から離れず、ようやく眠りについたのは真夜中もとっくに過ぎたころだった。
そのせいなのか私は人生で初めて寝坊というものをしてしまった。
言い訳をさせてもらえば王立学院で専属の侍女を持てるのは侯爵家以上で、誰も私を起こしてくれる人はいなかったのだ。
カルロ侍女長に怒られてしまうと、慌てて神殿に顔を出せばカルロ侍女長のいつもの不機嫌な顔で迎えられる。
怒られることもなければ、嫌味を言われることもなかった。私はおかしいなと感じつつルルリアナ様の私室へと向かう。
大きな机に座るルルリアナ様が真剣な顔で書類と向き合っていた。いつもより乱れた御髪で。
ルルリアナ様の髪は産まれてから切られたことがなく、まるで花嫁衣裳のベールのように長い。
ルルリアナ様はきっと自分の手が届く範囲で髪を梳かしたのだろう、髪の上側は綺麗なのに手が届かない後ろや下の髪は乱れていた。
私が本来なら手伝う朝の身支度をルルリアナ様は一人で行われたのだ。
「雪の華様、おはようございます。寝坊してしまい大変申し訳ありませんでした」
私は地面に触れ伏し謝罪する。
「…何のことでしょうか?あなたは私が頼んだ本を図書館に取りに行っていたはずだったと思いますが?そうでしょ、ミナ?それよりも今朝の続きをしてくれないかしら?髪を梳かす途中だったと思うのだけれど…。」
私は顔を上げもう一度謝罪すると、手を洗い繊細な銀細工の櫛でルルリアナ様の綺麗な銀髪の髪を梳かし始める。
ルルリアナ様の髪は本当に綺麗で、梳かすたびに艶と輝きが増す。私はこの仕事が一番好きで、一番好きな時間だった。ゆっくり引っ張りすぎないように流れるように丁寧に梳かしていく。
「…私の名前、憶えていてくれたのですね」
「紹介されたもの、憶えるのは当然ではなくて?」
「もしかして今までの侍女たちのことも覚えているのえすか?」
「…えぇ。きっと彼女たちは私の事を思い出すことはないと思うけれど、たったの三か月とはいえこんな私に仕えてくれたのだから今でも感謝しているの」
「私は一生忘れません!雪の華様にお仕えできたこと、誇りと思いながら生きていきます!子供や孫たちにも雪の華様のことを話して聞かせます」
フンスと鼻息を荒くしてルルリアナ様に誓う。
「そこまでしてもらわなくてもいいです…」
恥ずかしそうに消えそうな声で囁くルルリアナ様はとても愛らしかった。
「私、侍女の期間が終わったらルルリアナ様にお手紙を書いてもいいですか?」
ルルリアナ様が驚かいたように後ろを振り返る。灰色の綺麗な瞳が私のハシバミ色の瞳とぶつかる。
その瞳は私の言っていることを信じてはいなかった。
だからもう一度誓う。
「絶対です!」
再び誓えば、ルルリアナ様は「楽しみにしています」とそっと微笑まれたのだった。
それだけでルルリアナ様の美しさは花が開いたように咲き誇っていた。
ルルリアナ様は笑うともっと綺麗なんだ…。もっとお笑いになられればいいのに。
私はそれから少しでもルルリアナ様が過ごしやすいように精一杯今まで以上に尽くした。
苦手だったお茶もたくさん練習した。休みの日は王立学院の先生に教えを請いに行ったりもしたのだ。そして茶葉を変えてり、淹れ方を工夫してはルルリアナ様の反応を細かく観察するようにした。この知識はノートに残して、次の侍女に受け継いでもらおうと思いつく。
丁寧な字でわかりやすく、ルルリアナ様の髪にそっくりな銀白のノートに記載する。
でも、私がどんなに努力をしてもルルリアナ様の幸せはレオザルト殿下次第で、ルルリアナ様の幸せに無関心なレオザルト殿下によって簡単に崩されてしまう。
レオザルト殿下は一か月無断で食事会を欠席されたのだ。
そして友人からレオザルト殿下とルルリアナ様の妹ベルリアナ様は前よりも仲睦まじい姿をよく見るようになったと知らされたのだった。
0
あなたにおすすめの小説
〈完結〉だってあなたは彼女が好きでしょう?
ごろごろみかん。
恋愛
「だってあなたは彼女が好きでしょう?」
その言葉に、私の婚約者は頷いて答えた。
「うん。僕は彼女を愛している。もちろん、きみのことも」
婚約破棄されたので、もうあなたを想うのはやめます
藤原遊
恋愛
王城の舞踏会で、公爵令息から一方的に婚約破棄を告げられた令嬢。
彼の仕事を支えるため領地運営を担ってきたが、婚約者でなくなった以上、その役目を続ける理由はない。
去った先で彼女の能力を正当に評価したのは、軍事を握る王弟辺境伯だった。
想うことをやめた先で、彼女は“対等に必要とされる場所”を手に入れる。
つまらない妃と呼ばれた日
柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。
舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。
さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。
リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。
――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。
幼馴染以上、婚約者未満の王子と侯爵令嬢の関係
紫月 由良
恋愛
第二王子エインの婚約者は、貴族には珍しい赤茶色の髪を持つ侯爵令嬢のディアドラ。だが彼女の冷たい瞳と無口な性格が気に入らず、エインは婚約者の義兄フィオンとともに彼女を疎んじていた。そんな中、ディアドラが学院内で留学してきた男子学生たちと親しくしているという噂が広まる。注意しに行ったエインは彼女の見知らぬ一面に心を乱された。しかし婚約者の異母兄妹たちの思惑が問題を引き起こして……。
顔と頭が良く性格が悪い男の失恋ストーリー。
※流血シーンがあります。(各話の前書きに注意書き+次話前書きにあらすじがあるので、飛ばし読み可能です)
「『お前に書く手紙などない』と言った婚約者へ、私は7年間手紙を書き続けた——ただし、届け先は別の人でした」
歩人
ファンタジー
辺境伯令嬢リゼットは、婚約者に7年間手紙を書き続けた。返事は一度もなかった。
「お前に書く手紙などない。顔も覚えていない」——婚約破棄。しかしリゼットは
泣かなかった。手紙の本当の届け先は、最初から別にあったから。前世の情報分析
能力で辺境の異変を読み解き、暗号として織り込んだ7年分の手紙。それを受け取り
続けていたのは第一王子。リゼットは誰にも知られず、王国を守っていた。
婚約破棄の翌朝、王子からの手紙が届く。「7年間、ありがとう。迎えに行く」
【完結】婚約者と養い親に不要といわれたので、幼馴染の側近と国を出ます
衿乃 光希
恋愛
卒業パーティーの最中、婚約者から突然婚約破棄を告げられたシェリーヌ。
婚約者の心を留めておけないような娘はいらないと、養父からも不要と言われる。
シェリーヌは16年過ごした国を出る。
生まれた時からの側近アランと一緒に・・・。
第18回恋愛小説大賞エントリーしましたので、第2部を執筆中です。
第2部祖国から手紙が届き、養父の体調がすぐれないことを知らされる。迷いながらも一時戻ってきたシェリーヌ。見舞った翌日、養父は天に召された。葬儀後、貴族の死去が相次いでいるという不穏な噂を耳にする。恋愛小説大賞は51位で終了しました。皆さま、投票ありがとうございました。
【完結】あなた方が後悔しても私にはどうでもいいことです
風見ゆうみ
恋愛
チャルブッレ辺境伯家の次女である私――リファーラは幼い頃から家族に嫌われ、森の奥で一人で暮らしていた。
私を目の敵にする姉は、私の婚約者や家族と結託して、大勢の前で婚約を破棄を宣言し私を笑いものにしようとした。
しかし、姉たちの考えなどお見通しである。
婚約の破棄は大歓迎。ですが、恥ずかしい思いをするのは、私ではありませんので。
※アナグラムが気になる可能性がありますのでお気をつけくださいませ。
悪役断罪?そもそも何かしましたか?
SHIN
恋愛
明日から王城に最終王妃教育のために登城する、懇談会パーティーに参加中の私の目の前では多人数の男性に囲まれてちやほやされている少女がいた。
男性はたしか婚約者がいたり妻がいたりするのだけど、良いのかしら。
あら、あそこに居ますのは第二王子では、ないですか。
えっ、婚約破棄?別に構いませんが、怒られますよ。
勘違い王子と企み少女に巻き込まれたある少女の話し。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる