茅の侍女〜皇太子の婚約者の侍女をして婚約破棄した伯爵令嬢の話〜

レオパのレ

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中編

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翌週の食事会にはレオザルト殿下もきちんと参加された。

頬をいつもより赤く染めチラチラとレオザルト殿下を見つめるルルリアナ様は本当に愛らしかった。

 会話が盛り上がっていなかったせいか、レオザルト殿下は昼食を食べ終えるとすぐに帰られてしまったけれど。

 それを見送る時のルルリアナ様がいかに寂しそうかレオザルト殿下はきっと知る日は来ないだろう。颯爽と立ち去る彼がルルリアナ様に振り返ることなどないのだから。

 私が侍女になって約一か月がたった頃だった。

 お休みだった私は、ルルリアナ様の侍女を務めたことがある友人とお茶を飲みながら互いの近情を話していた。

「雪の華様はお元気にしているかしら?」

「えぇ、立派に公務をこなしていられるわ。ただ…」

 私は久しぶりの休日だったこともありつい口が滑り、レオザルト殿下が昼食会をよく欠席することを話してしまったのだ。すると友人は私に王立学院での話題になっている噂について教えてくれたのだ。

「レオザルト殿下は今、雪の華様の実妹でいらっしゃるベルリアナ様に夢中なのよ。ルルリアナ様の方がもちろん美しいけれど、ベルリアナ様は感情豊かでよくお笑いになられるから、氷の様につめたいルルリアナ様といるよりも楽しいのかもしれないわね。神が選んだ花嫁と結婚しなければならないレオザルト殿下は気の毒だわ」

 何を言っているのかしら?可哀そうなのはルルリアナ様の方ではないか。レオザルト殿下は自由に外を歩き、ご友人と交友を結ぶことだってできる。ルルリアナ様は生活から交友関係まで何一つ自由にできないというのに。それに…。

「雪の華様は決して冷たい方ではないわ」

「そうかしら?私は完璧すぎて少し怖く感じたのだ。それはあなたも同じではなくて?」

「…それはそうだけれど、レオザルト殿下と一緒にいる雪の華様はとても愛らしくて同い年の少女だと思ったのよ」

「まぁ!そんなこと思うだなんて雪の華様に失礼よ。雪の華様は神に選ばれた御方なのよ。私たちと同じと思っては失礼だわ。それに雪の華様はきっと、私たちの顔も名前も覚えていらっしゃらないわよ。所詮、私たちはたったの三か月で交代する召使いにしかすぎないのだから」

 私は友人のその言葉が頭から離れず、ようやく眠りについたのは真夜中もとっくに過ぎたころだった。

 そのせいなのか私は人生で初めて寝坊というものをしてしまった。

 言い訳をさせてもらえば王立学院で専属の侍女を持てるのは侯爵家以上で、誰も私を起こしてくれる人はいなかったのだ。

 カルロ侍女長に怒られてしまうと、慌てて神殿に顔を出せばカルロ侍女長のいつもの不機嫌な顔で迎えられる。

 怒られることもなければ、嫌味を言われることもなかった。私はおかしいなと感じつつルルリアナ様の私室へと向かう。

 大きな机に座るルルリアナ様が真剣な顔で書類と向き合っていた。いつもより乱れた御髪で。

 ルルリアナ様の髪は産まれてから切られたことがなく、まるで花嫁衣裳のベールのように長い。

 ルルリアナ様はきっと自分の手が届く範囲で髪を梳かしたのだろう、髪の上側は綺麗なのに手が届かない後ろや下の髪は乱れていた。

私が本来なら手伝う朝の身支度をルルリアナ様は一人で行われたのだ。

「雪の華様、おはようございます。寝坊してしまい大変申し訳ありませんでした」

 私は地面に触れ伏し謝罪する。

「…何のことでしょうか?あなたは私が頼んだ本を図書館に取りに行っていたはずだったと思いますが?そうでしょ、ミナ?それよりも今朝の続きをしてくれないかしら?髪を梳かす途中だったと思うのだけれど…。」

 私は顔を上げもう一度謝罪すると、手を洗い繊細な銀細工の櫛でルルリアナ様の綺麗な銀髪の髪を梳かし始める。

 ルルリアナ様の髪は本当に綺麗で、梳かすたびに艶と輝きが増す。私はこの仕事が一番好きで、一番好きな時間だった。ゆっくり引っ張りすぎないように流れるように丁寧に梳かしていく。

「…私の名前、憶えていてくれたのですね」

「紹介されたもの、憶えるのは当然ではなくて?」

「もしかして今までの侍女たちのことも覚えているのえすか?」

「…えぇ。きっと彼女たちは私の事を思い出すことはないと思うけれど、たったの三か月とはいえこんな私に仕えてくれたのだから今でも感謝しているの」

「私は一生忘れません!雪の華様にお仕えできたこと、誇りと思いながら生きていきます!子供や孫たちにも雪の華様のことを話して聞かせます」

 フンスと鼻息を荒くしてルルリアナ様に誓う。

「そこまでしてもらわなくてもいいです…」

 恥ずかしそうに消えそうな声で囁くルルリアナ様はとても愛らしかった。

「私、侍女の期間が終わったらルルリアナ様にお手紙を書いてもいいですか?」

 ルルリアナ様が驚かいたように後ろを振り返る。灰色の綺麗な瞳が私のハシバミ色の瞳とぶつかる。

    その瞳は私の言っていることを信じてはいなかった。

     だからもう一度誓う。

「絶対です!」

 再び誓えば、ルルリアナ様は「楽しみにしています」とそっと微笑まれたのだった。

それだけでルルリアナ様の美しさは花が開いたように咲き誇っていた。

ルルリアナ様は笑うともっと綺麗なんだ…。もっとお笑いになられればいいのに。

 私はそれから少しでもルルリアナ様が過ごしやすいように精一杯今まで以上に尽くした。

 苦手だったお茶もたくさん練習した。休みの日は王立学院の先生に教えを請いに行ったりもしたのだ。そして茶葉を変えてり、淹れ方を工夫してはルルリアナ様の反応を細かく観察するようにした。この知識はノートに残して、次の侍女に受け継いでもらおうと思いつく。

    丁寧な字でわかりやすく、ルルリアナ様の髪にそっくりな銀白のノートに記載する。

 でも、私がどんなに努力をしてもルルリアナ様の幸せはレオザルト殿下次第で、ルルリアナ様の幸せに無関心なレオザルト殿下によって簡単に崩されてしまう。

 レオザルト殿下は一か月無断で食事会を欠席されたのだ。

 そして友人からレオザルト殿下とルルリアナ様の妹ベルリアナ様は前よりも仲睦まじい姿をよく見るようになったと知らされたのだった。
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