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第25話 宿の食堂
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ふっと何かに引き寄せられるに寝返りを打つと、ギシリと柔らかいベッドに身体が沈む。
肌触りのいいシーツにふかふかの毛布、それにすごく暖かい……ん? これはなに? 分厚い掛け布団? でもこんなに重い布団なんてあったっけ……?
そんなことを考えながらもう一度寝返りを打とうとすると、重たい掛け布団が邪魔をする。
だからそれをどかそうと掴むと────
「起きたのか?」
「…………!」
突然間近から聞こえてきた低い声に、私の意識は一気に覚醒した。
目が覚めたら上半身裸のイケメンに抱き締められてるとか、咄嗟に悲鳴を我慢した私は偉いと思う。うん、自分を褒めてあげたい。
じゃなくて、なんで隣にアイザックが寝てるの? 一体いつから!?
目を見開いたまま固まっていると、大きな掌が顔に近づいてきた。
「うん、熱はねえようだな。体調はどうだ? どっかおかしなところはねえか?」
「だ、大丈夫。あの、おはよう。でもアイザックはどうしてここに……?」
「昨日はお前、飯も食わずに寝ちまったからな。心配してたんだ」
そうか、昨日は確かベッドでゴロゴロしてるうちにものすごく眠くなって……もしかしてそのまま眠っちゃったのかな。
そんなことを考えていると、アイザックはさっとベッドから起き上がった。
「腹減っただろう? 飯食いに行くぞ。支度しろ」
「ご飯?」
「ああ。下の食堂に行こう」
「……ったくよ、なんでそんな色気のねえ服しか持ってねえんだお前は」
「はいはい。そんなのどうでもいいじゃん。あ、おばちゃん、シチューはこっちだよ」
「本日の肉料理とスープお待たせ! 坊や、このパンはおかわり自由だからね、欲しかったら言っとくれ!」
「うん、ありがとう!」
宿の一階にある食堂兼酒場は、早朝だというのに既にどのテーブルも満席になってる。きっと人気のお店に違いない。
朝食は肉料理かスープ料理のどちらかを選ぶ仕組みで、どんな料理が出てくるかはその日の仕入れ次第なんだって。
ちなみに今日の肉料理はロックバードのステーキで、スープは同じくロックバードのシチュー。
冒険者は一日二食が基本。だから朝はしっかり食べるって聞いてたけど、圧倒的にステーキを頼んでる人が多いのは、お店のお客さんに冒険者が多いのかもしれない。
そして私の予想に違わずステーキを頼んだアイザックの前に置かれたのは、皮がカリカリに焼かれたロックバードのステーキ。たっぷりかかった飴色のソースからすごく香ばしい香りが漂う。
そして私のシチューは……
「美味しい……!」
大きな肉がごろごろ入ったシチューは、最早これは肉料理だよね? って思うボリュームだ。コクのある白いスープがすごく美味しい。
この白いスープはなんだろう。牛乳……じゃないよね? ここにきて牛乳って見たことないし。でもこれにとろみがついたら、完璧に大好物のクリームシチューになるんじゃないかなあ。
「……ずいぶん嬉しそうだな」
「え? うん、これすごく美味しいよ」
「ふーん?」
「朝からこんなに美味しい物が食べられるなんて最高に幸せ。アイザックありがとうね」
「おや坊や、嬉しいこと言ってくれるねえ。ほら、パンのおかわり沢山お食べ」
「うわー、ありがとう!」
食堂のおばちゃんにおかわりのパンを沢山もらってご機嫌な私とは反対に、何故かアイザックは不機嫌そう。
それでも大きく切り分けた肉を次々と口に放り込み、合間に付け合わせのポテトとパンを綺麗に平らげていく。
「しかしよ、なんで俺と一緒なのに男のフリなんてしてんだお前」
「男のフリって……アイザック、一つ言っておくけど」
「お、おうなんだ」
突然手を止めてきちんと目を合わせた私に、アイザックは背筋を伸ばす。
「私ね、自分から男だなんて言ったこと一度もないから」
「は?」
「この街に来た途端いきなり坊主扱いされて、それでもう面倒くさいから訂正してないだけだから」
「……は?」
「服は男の子用の方がサイズが合うからだし、さらしだってブラがないから巻いてるだけだし、そりゃあ男だって思われてた方が安全だと思うから、それで構わないんだけど」
「お、おう、ブラとかなんのことかよくわかんねえが、そうか」
「ちょっと言葉遣いを変えただけで男の子で通用する私の気持ち、わかる?」
「……なんか、すまなかった」
「ふん!」
肌触りのいいシーツにふかふかの毛布、それにすごく暖かい……ん? これはなに? 分厚い掛け布団? でもこんなに重い布団なんてあったっけ……?
そんなことを考えながらもう一度寝返りを打とうとすると、重たい掛け布団が邪魔をする。
だからそれをどかそうと掴むと────
「起きたのか?」
「…………!」
突然間近から聞こえてきた低い声に、私の意識は一気に覚醒した。
目が覚めたら上半身裸のイケメンに抱き締められてるとか、咄嗟に悲鳴を我慢した私は偉いと思う。うん、自分を褒めてあげたい。
じゃなくて、なんで隣にアイザックが寝てるの? 一体いつから!?
目を見開いたまま固まっていると、大きな掌が顔に近づいてきた。
「うん、熱はねえようだな。体調はどうだ? どっかおかしなところはねえか?」
「だ、大丈夫。あの、おはよう。でもアイザックはどうしてここに……?」
「昨日はお前、飯も食わずに寝ちまったからな。心配してたんだ」
そうか、昨日は確かベッドでゴロゴロしてるうちにものすごく眠くなって……もしかしてそのまま眠っちゃったのかな。
そんなことを考えていると、アイザックはさっとベッドから起き上がった。
「腹減っただろう? 飯食いに行くぞ。支度しろ」
「ご飯?」
「ああ。下の食堂に行こう」
「……ったくよ、なんでそんな色気のねえ服しか持ってねえんだお前は」
「はいはい。そんなのどうでもいいじゃん。あ、おばちゃん、シチューはこっちだよ」
「本日の肉料理とスープお待たせ! 坊や、このパンはおかわり自由だからね、欲しかったら言っとくれ!」
「うん、ありがとう!」
宿の一階にある食堂兼酒場は、早朝だというのに既にどのテーブルも満席になってる。きっと人気のお店に違いない。
朝食は肉料理かスープ料理のどちらかを選ぶ仕組みで、どんな料理が出てくるかはその日の仕入れ次第なんだって。
ちなみに今日の肉料理はロックバードのステーキで、スープは同じくロックバードのシチュー。
冒険者は一日二食が基本。だから朝はしっかり食べるって聞いてたけど、圧倒的にステーキを頼んでる人が多いのは、お店のお客さんに冒険者が多いのかもしれない。
そして私の予想に違わずステーキを頼んだアイザックの前に置かれたのは、皮がカリカリに焼かれたロックバードのステーキ。たっぷりかかった飴色のソースからすごく香ばしい香りが漂う。
そして私のシチューは……
「美味しい……!」
大きな肉がごろごろ入ったシチューは、最早これは肉料理だよね? って思うボリュームだ。コクのある白いスープがすごく美味しい。
この白いスープはなんだろう。牛乳……じゃないよね? ここにきて牛乳って見たことないし。でもこれにとろみがついたら、完璧に大好物のクリームシチューになるんじゃないかなあ。
「……ずいぶん嬉しそうだな」
「え? うん、これすごく美味しいよ」
「ふーん?」
「朝からこんなに美味しい物が食べられるなんて最高に幸せ。アイザックありがとうね」
「おや坊や、嬉しいこと言ってくれるねえ。ほら、パンのおかわり沢山お食べ」
「うわー、ありがとう!」
食堂のおばちゃんにおかわりのパンを沢山もらってご機嫌な私とは反対に、何故かアイザックは不機嫌そう。
それでも大きく切り分けた肉を次々と口に放り込み、合間に付け合わせのポテトとパンを綺麗に平らげていく。
「しかしよ、なんで俺と一緒なのに男のフリなんてしてんだお前」
「男のフリって……アイザック、一つ言っておくけど」
「お、おうなんだ」
突然手を止めてきちんと目を合わせた私に、アイザックは背筋を伸ばす。
「私ね、自分から男だなんて言ったこと一度もないから」
「は?」
「この街に来た途端いきなり坊主扱いされて、それでもう面倒くさいから訂正してないだけだから」
「……は?」
「服は男の子用の方がサイズが合うからだし、さらしだってブラがないから巻いてるだけだし、そりゃあ男だって思われてた方が安全だと思うから、それで構わないんだけど」
「お、おう、ブラとかなんのことかよくわかんねえが、そうか」
「ちょっと言葉遣いを変えただけで男の子で通用する私の気持ち、わかる?」
「……なんか、すまなかった」
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