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嫁ポジション存在のたどり着く場所2
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久しぶりの我が家は蒔のおかげで快適である。
荷物をざっくりと片付け、土産などを見せながら話をする。
「蒔、今日は勤務ではなかったのか?」
「宝典が出張に行っている間の休日業務などは代りにでるようにしてたから代休はたくさんあるんだ。
あと…俺の会社の人たちも宝典のことを心配してくれていて、帰国するときには絶対に空港に迎えに行くようにって言われてた。
宝典の休みはいつかを聞いて、休日を合わせるようにって言われてる。
こんなこと、今までないんだけど。どうしたらいいのか…」
恵まれた環境で仕事をしていることへ感謝しなければならない。
「そうだったのか、このあと、少し報告を作成するだけで、1週間休みをもらっている。
蒔も知らせるといい。
折角の好意だから受け取るべきだろう。
明日、会社に挨拶に行こう。土産も持っていったらいい」
改めて、蒔のことを見る。
目元が赤いのは空港で泣いていたからだろう。
目元の黒子を思わず指先で触れてみる。
蒔の黒髪はよく似合う。
耳にかけている黒髪をそっと触れる。
その間、蒔はじっと固まったまま宝典の顔を見て表情を伺っている。
こんなに近くにいるのに、想いを伝えてもいない。
こんなにお互いのことを思い過ごしたことは一度もない。
「・・・蒔、今回の事件の時、一瞬、もうダメかもしれないと思った。
会いたいって思ったのは蒔だった。
それからは、蒔と一緒なら、こうするのか?
食事する時も、これを蒔が食べたらどんな顔をしてくれるんだろうって。
そんなことばかり考えるようになってた。
重症だろう。
一緒に過ごせるための時間を作るために、新人の時から経験積んで他人から批判されないような仕事をするように頑張った。
今回で最後の海外だったんだ。
勝手だろ?
まだ、気持ちすら伝えてないのに
…そう、思ったら早く蒔に会いたくなった。
桐嶋 蒔さん、俺は、あなたがすきだ。
あなたが大切です。
ずっと一緒にいて欲しい。俺のすべてを知ってほしい」
蒔は宝典の話を静かに聞いていた。
宝典の指がかすかに震えているのに気づきながらも触れられることに戸惑いはなかった。
まるで触れていることでお互いにそこにいることを確認しているかのよう。
目を閉じて触れられている感覚を感じる。
宝典に触れられたことで自分の周りにキラキラと嬉しい気持ちが浮かびあがっていくような感覚。
目を開け、話を聞き、宝典の気持ちを知る。
今回、この気持ちを抱えたまま、長いフライトも耐えて自分たちの家まで帰ってきてくれたのだ。
ただ静かにお互いの表情を見る。
「今まで、こんなつまらない面倒くさい人間である俺をどうして気に入ってくれているのだろうって不思議だったんだ。
このまま宝典のそばにいることが本当にいいことなのか、って。
…頭でそう考えるんだけど。
宝典からたくさんのことを教えてもらった自分だからそんな考え方をするようになったのかなって。
誰からも、もらえなかった形に残らない宝物を俺は宝典からもらっていたんだね。
…俺も、思ったよ。
買い物を一緒にして、荷物を分けて持って帰ったり、家に帰ったら部屋に灯りがついていてドアを開けると『おかえり』って。…『ただいま』って。
そう、思ったら宝典のことばかり考えるんだ。
だからかな、洗濯ものを畳むのも、食器を片付けるのも、結構、つらかったんだ。
だって、宝典のものは使われずにいるんだよ。
なんだか、だんだん、切なくなってきた時もあった。
もう、この部屋に帰るのを止そうかって。
本当はいつも「行ってらっしゃい」って言うのはしんどかった。
でも、困らせたくないじゃん。
だから帰ってきている間、日本にいる間はしっかり宝典のことを一番にしてた。
俺も好きだよ。
人を好きになれると、思わなかった。
宝典、好きだよ」
お互い自然と近づき、そして静かに口づけをした。
休暇を1週間とる手続きを済ませた翌日。
お互いの勤務先に土産を持って行って挨拶をした。
蒔の勤務先では、わざわざ顔をだして挨拶をしたことが好評だったようで、一週間の休暇も誰一人、不満はなかったようである。
宝典の勤務先は規模がでかいため、そして、例の事件で関係者以外の立ち入りが制限されているため、上司のみの挨拶となった。
「蒔くん、よかったね。
電話口の声が泣きそうだったのが、聞いていてオジサンもぐっとくるものがあったんだよ」
…その話はやめてほしい
‥が、仕方がない。
「今後とも、頼らせてもらう存在でいて欲しいです」
宝典からのお願いに、
「僕もね、我が子がいたら、こんな感じなんだろうね。
オジサン、独身だから二人とも、かわいがるよ」
本当に自分たちは幸せだ。
「…やっとくっついたみたいだね」
蒔が赤面して頷く前に、返事をしてしまったようなものである。
その後、一緒に買い物をして休日を過ごすことなった。
夕食を宝典がつくろうという話になり、キッチンで野菜などの処理をしていく。
蒔は今まで見たことのない様子のため、少し、離れたところで心配そうに見ている。
宝典はまったく家事ができないわけではない。
海外では自分で料理をして長期滞在を経験したこともあり、そのことは蒔も知っている。
「そんなに、心配しなくても、変なものは作らないよ。自分も食べるんだし」
「なんだか教えてもらった時にも思ったけど想像つかないんだ。
でも、手つきを見たらわかる。
嘘じゃない。アハハ」
料理をしたことがある手つきで作業を進めている。
完成した食事を一緒にとっているとき、宝典が
「今度の休みに実家に帰ろうと思う。
パートナーとして家族として蒔を紹介する。一緒に行って欲しい」
――・・・・――
「無理だよ。なんて紹介するの!?
そんなわざわざ問題を起こしにいくことないじゃん!」
「あ、もう、予定は開けてもらってる。
「嫁を連れて帰るって。」・・・OK?」
「OKじゃない。
全然、よくない。宝典はわかってない!
世間では同性は嫌悪を持たれる対象だって!」
マナー違反だけど、アピールする。
立ち上がって食事中の箸を置き、自分の部屋に引きこもる。
どうして。
昨日、やっとお互いの気持ちが通じ合ったばかりである。
いきなりそんなことを言われても困る。
「蒔、待て!!」
ドア越しで話をすることになるが仕方がない。
「宝典は勝手だ!!なんで?!
いきなりそんなこと言われても困る。普通じゃないんだよ」
・・・
「ごめん。蒔、ごめん。話をしたいから顔を見せて」
珍しく不機嫌そうな表情の蒔がゆっくりと自分の部屋のドアを開ける。
「部屋に入っていい?」
視線を合わせず、頷き、ベッドに二人座る。
向き合った状態で蒔の手をそっとつなぐ。
「驚かせてごめん、でも、真剣なんだ。
思いつきで言っているわけでもない。
蒔が気持ちを受け止めてくれたら、そうするつもりだったんだ。
…蒔には話をしてないが、どうしても実績を積んでいくと、結婚や家族の話が出てくる。
以前、会社を経由して海外から見合いの話がでたことがあったんだ」
ずっと下を向いたまま聞いていた蒔も初耳の新事実に思わず顔を上げる。
「安心して。
上司に断るように伝えた。
断ってもらったし、そういう話がきたら全部断ってもらってる」
動揺している蒔は
「え、そんなことは普通、無理だよな。
断ったら評価が落ちたり、嫌がらせされたり・・・」
少し笑いながら、
「まぁ、多少はあるかもね。
でも、そんなことをされないために今まで、頑張って嫌なこともやってきた。
前に初めて上司に会ってもらったことがあるだろ。
その時に連絡先も交換したよな。
実はその時期、今の話が出てて納得してもらうので、会ってもらった。
ごめん。黙ってて」
宝典がそこまでして周りを説得していたのに、驚きである。
「これから先、実家からもそういう話がでてきてもおかしく無いと、思う。
その前に、自分には選んだ大切な人がいることを知らせておきたい。
認めてもらえるかはわからない。
実家を出てから一度も顔をだしていないから、多少、怒られるとは思うけど・・・。
それに、うちの家族。
特に両親はいきなり否定はしないと思う。
不安だと思う。
俺も不安がないとは言えない。
でも、自分の家族に認めてもらえなくても、蒔と離れるつもりはない。
それから、蒔が逃げても逃がさない。諦めて」
宝典はそういって、蒔の体を包み込むようにそっと抱きしめた。
どれくらいそのままだっただろう。
「わかった。
ご両親に会いにいく。
うちの親のような人ではなさそうだな。
でも、もし、縁を切るって言われたら・・・その時は家族を選んで」
肩を捕まれ、強引に視線を合わさせられる。
「お前は!
蒔!
俺は絶対に蒔を選ぶ。
・・・もし、縁を切られて蒔に捨てられたなら、俺は生きてはいないだろうな。
自殺?
そんなことはしないよ。
知ったら罪悪感で蒔を苦しめてしまう。
生きるよ。
ただ、何もないだろうな。
つまらない人生だと思う。
誰とも結婚もしないよ。誰かを好きにもならない」
いつも蒔を守ってくれる宝典とは違い、想像したのだろう、目元に涙が見える。
ふと、自分の頬に流れるものを触り、そこで自分が泣いていることに気づく。
こんなに自分を必要としてくれている人がいる。
こんなに幸せなのだと。
蒔は涙で視界がぼやけるが宝典の涙をそっと自分の袖口でふき取る。
「もう、言わない。
ごめん。家族を選んでなんて、言わない。
…宝典、重いぐらいの気持ち、ありがとう。
それが嬉しい」
少し上目遣いで、皮肉な表現で返事をする。
お互い、涙を流して笑っている。
「でも、なんで俺が嫁なの?」
落ち着いて食事を再開するために温めなおしているときに質問してみた。
「俺、こう見えても長男なんで。見た目も俺が嫁だとおかしいだろ」
・・・・
「いや。俺も十分、男ですけど… どこに女要素がある!」
宝典はじっとみて
「俺は蒔がエロい時があるのを知っている。
特に、この泣き簿黒、あと、顎から項にかけての黒髪のコントラストがエロイ。
そして、俺以外にそれを知ってもらう必要はない。
皆無だ」
!!!!
「エ、エ、エロイって…」
「だから、今まで我慢してたんだから妄想とかいろいろあふれてるから」
後ろに下がって引いてしまった。
「!?!?」
意地悪な顔を隠しもせず、近づき壁に追われる…これって、壁ドンって
「ドンはしない。蒔」
名前を呼ばれた瞬間、顔を上げた一瞬を待っているかのように甘い口づけをされる。
二人視線を逸らすことなく、溺れるように互いの深い所に入りこむように。
これがとろける様なキスなのか…と、どこか客観的に感心していると、太ももの内側をそうように撫でられた。
「ん…んにゃぁ」
!!!???
口元を抑え、自然と口から出た言葉に目を見開いて驚く。
「ネコ?だにゃぁ」
揶揄うような声にムッとして見上げたら宝典はお腹を抱えて笑っていた。
「!!スケベ野郎」
腰を抱き寄せられ、耳元に呟かれる。
「スケベ上等!」
この調子で今日から休暇を一緒に過ごすのか…
自分がどこまで対応できるか不安を抱いてしまった蒔だった。
「何かしたいことはない?なかったら俺のしたいことがあるんだけど」
「…それは内容を聞いてからにする」
「日本の温泉に入って懐石料理を食べて観光したい」
そういえば、一緒に旅行はなかったなぁ。
「いいよ」
「じゃぁ、準備しよう」
!?
「いつ行くの?」
「明日の朝」
「宿とか場所とかは決めてるの?」
「それは、全部俺が決めるよ。いい?」
そんないきなりは無理だと思うが、任せよう。
「いい」
どんなことになるのかわからないが、宝典といっしょなら楽しく過ごせることだろう。
荷物をざっくりと片付け、土産などを見せながら話をする。
「蒔、今日は勤務ではなかったのか?」
「宝典が出張に行っている間の休日業務などは代りにでるようにしてたから代休はたくさんあるんだ。
あと…俺の会社の人たちも宝典のことを心配してくれていて、帰国するときには絶対に空港に迎えに行くようにって言われてた。
宝典の休みはいつかを聞いて、休日を合わせるようにって言われてる。
こんなこと、今までないんだけど。どうしたらいいのか…」
恵まれた環境で仕事をしていることへ感謝しなければならない。
「そうだったのか、このあと、少し報告を作成するだけで、1週間休みをもらっている。
蒔も知らせるといい。
折角の好意だから受け取るべきだろう。
明日、会社に挨拶に行こう。土産も持っていったらいい」
改めて、蒔のことを見る。
目元が赤いのは空港で泣いていたからだろう。
目元の黒子を思わず指先で触れてみる。
蒔の黒髪はよく似合う。
耳にかけている黒髪をそっと触れる。
その間、蒔はじっと固まったまま宝典の顔を見て表情を伺っている。
こんなに近くにいるのに、想いを伝えてもいない。
こんなにお互いのことを思い過ごしたことは一度もない。
「・・・蒔、今回の事件の時、一瞬、もうダメかもしれないと思った。
会いたいって思ったのは蒔だった。
それからは、蒔と一緒なら、こうするのか?
食事する時も、これを蒔が食べたらどんな顔をしてくれるんだろうって。
そんなことばかり考えるようになってた。
重症だろう。
一緒に過ごせるための時間を作るために、新人の時から経験積んで他人から批判されないような仕事をするように頑張った。
今回で最後の海外だったんだ。
勝手だろ?
まだ、気持ちすら伝えてないのに
…そう、思ったら早く蒔に会いたくなった。
桐嶋 蒔さん、俺は、あなたがすきだ。
あなたが大切です。
ずっと一緒にいて欲しい。俺のすべてを知ってほしい」
蒔は宝典の話を静かに聞いていた。
宝典の指がかすかに震えているのに気づきながらも触れられることに戸惑いはなかった。
まるで触れていることでお互いにそこにいることを確認しているかのよう。
目を閉じて触れられている感覚を感じる。
宝典に触れられたことで自分の周りにキラキラと嬉しい気持ちが浮かびあがっていくような感覚。
目を開け、話を聞き、宝典の気持ちを知る。
今回、この気持ちを抱えたまま、長いフライトも耐えて自分たちの家まで帰ってきてくれたのだ。
ただ静かにお互いの表情を見る。
「今まで、こんなつまらない面倒くさい人間である俺をどうして気に入ってくれているのだろうって不思議だったんだ。
このまま宝典のそばにいることが本当にいいことなのか、って。
…頭でそう考えるんだけど。
宝典からたくさんのことを教えてもらった自分だからそんな考え方をするようになったのかなって。
誰からも、もらえなかった形に残らない宝物を俺は宝典からもらっていたんだね。
…俺も、思ったよ。
買い物を一緒にして、荷物を分けて持って帰ったり、家に帰ったら部屋に灯りがついていてドアを開けると『おかえり』って。…『ただいま』って。
そう、思ったら宝典のことばかり考えるんだ。
だからかな、洗濯ものを畳むのも、食器を片付けるのも、結構、つらかったんだ。
だって、宝典のものは使われずにいるんだよ。
なんだか、だんだん、切なくなってきた時もあった。
もう、この部屋に帰るのを止そうかって。
本当はいつも「行ってらっしゃい」って言うのはしんどかった。
でも、困らせたくないじゃん。
だから帰ってきている間、日本にいる間はしっかり宝典のことを一番にしてた。
俺も好きだよ。
人を好きになれると、思わなかった。
宝典、好きだよ」
お互い自然と近づき、そして静かに口づけをした。
休暇を1週間とる手続きを済ませた翌日。
お互いの勤務先に土産を持って行って挨拶をした。
蒔の勤務先では、わざわざ顔をだして挨拶をしたことが好評だったようで、一週間の休暇も誰一人、不満はなかったようである。
宝典の勤務先は規模がでかいため、そして、例の事件で関係者以外の立ち入りが制限されているため、上司のみの挨拶となった。
「蒔くん、よかったね。
電話口の声が泣きそうだったのが、聞いていてオジサンもぐっとくるものがあったんだよ」
…その話はやめてほしい
‥が、仕方がない。
「今後とも、頼らせてもらう存在でいて欲しいです」
宝典からのお願いに、
「僕もね、我が子がいたら、こんな感じなんだろうね。
オジサン、独身だから二人とも、かわいがるよ」
本当に自分たちは幸せだ。
「…やっとくっついたみたいだね」
蒔が赤面して頷く前に、返事をしてしまったようなものである。
その後、一緒に買い物をして休日を過ごすことなった。
夕食を宝典がつくろうという話になり、キッチンで野菜などの処理をしていく。
蒔は今まで見たことのない様子のため、少し、離れたところで心配そうに見ている。
宝典はまったく家事ができないわけではない。
海外では自分で料理をして長期滞在を経験したこともあり、そのことは蒔も知っている。
「そんなに、心配しなくても、変なものは作らないよ。自分も食べるんだし」
「なんだか教えてもらった時にも思ったけど想像つかないんだ。
でも、手つきを見たらわかる。
嘘じゃない。アハハ」
料理をしたことがある手つきで作業を進めている。
完成した食事を一緒にとっているとき、宝典が
「今度の休みに実家に帰ろうと思う。
パートナーとして家族として蒔を紹介する。一緒に行って欲しい」
――・・・・――
「無理だよ。なんて紹介するの!?
そんなわざわざ問題を起こしにいくことないじゃん!」
「あ、もう、予定は開けてもらってる。
「嫁を連れて帰るって。」・・・OK?」
「OKじゃない。
全然、よくない。宝典はわかってない!
世間では同性は嫌悪を持たれる対象だって!」
マナー違反だけど、アピールする。
立ち上がって食事中の箸を置き、自分の部屋に引きこもる。
どうして。
昨日、やっとお互いの気持ちが通じ合ったばかりである。
いきなりそんなことを言われても困る。
「蒔、待て!!」
ドア越しで話をすることになるが仕方がない。
「宝典は勝手だ!!なんで?!
いきなりそんなこと言われても困る。普通じゃないんだよ」
・・・
「ごめん。蒔、ごめん。話をしたいから顔を見せて」
珍しく不機嫌そうな表情の蒔がゆっくりと自分の部屋のドアを開ける。
「部屋に入っていい?」
視線を合わせず、頷き、ベッドに二人座る。
向き合った状態で蒔の手をそっとつなぐ。
「驚かせてごめん、でも、真剣なんだ。
思いつきで言っているわけでもない。
蒔が気持ちを受け止めてくれたら、そうするつもりだったんだ。
…蒔には話をしてないが、どうしても実績を積んでいくと、結婚や家族の話が出てくる。
以前、会社を経由して海外から見合いの話がでたことがあったんだ」
ずっと下を向いたまま聞いていた蒔も初耳の新事実に思わず顔を上げる。
「安心して。
上司に断るように伝えた。
断ってもらったし、そういう話がきたら全部断ってもらってる」
動揺している蒔は
「え、そんなことは普通、無理だよな。
断ったら評価が落ちたり、嫌がらせされたり・・・」
少し笑いながら、
「まぁ、多少はあるかもね。
でも、そんなことをされないために今まで、頑張って嫌なこともやってきた。
前に初めて上司に会ってもらったことがあるだろ。
その時に連絡先も交換したよな。
実はその時期、今の話が出てて納得してもらうので、会ってもらった。
ごめん。黙ってて」
宝典がそこまでして周りを説得していたのに、驚きである。
「これから先、実家からもそういう話がでてきてもおかしく無いと、思う。
その前に、自分には選んだ大切な人がいることを知らせておきたい。
認めてもらえるかはわからない。
実家を出てから一度も顔をだしていないから、多少、怒られるとは思うけど・・・。
それに、うちの家族。
特に両親はいきなり否定はしないと思う。
不安だと思う。
俺も不安がないとは言えない。
でも、自分の家族に認めてもらえなくても、蒔と離れるつもりはない。
それから、蒔が逃げても逃がさない。諦めて」
宝典はそういって、蒔の体を包み込むようにそっと抱きしめた。
どれくらいそのままだっただろう。
「わかった。
ご両親に会いにいく。
うちの親のような人ではなさそうだな。
でも、もし、縁を切るって言われたら・・・その時は家族を選んで」
肩を捕まれ、強引に視線を合わさせられる。
「お前は!
蒔!
俺は絶対に蒔を選ぶ。
・・・もし、縁を切られて蒔に捨てられたなら、俺は生きてはいないだろうな。
自殺?
そんなことはしないよ。
知ったら罪悪感で蒔を苦しめてしまう。
生きるよ。
ただ、何もないだろうな。
つまらない人生だと思う。
誰とも結婚もしないよ。誰かを好きにもならない」
いつも蒔を守ってくれる宝典とは違い、想像したのだろう、目元に涙が見える。
ふと、自分の頬に流れるものを触り、そこで自分が泣いていることに気づく。
こんなに自分を必要としてくれている人がいる。
こんなに幸せなのだと。
蒔は涙で視界がぼやけるが宝典の涙をそっと自分の袖口でふき取る。
「もう、言わない。
ごめん。家族を選んでなんて、言わない。
…宝典、重いぐらいの気持ち、ありがとう。
それが嬉しい」
少し上目遣いで、皮肉な表現で返事をする。
お互い、涙を流して笑っている。
「でも、なんで俺が嫁なの?」
落ち着いて食事を再開するために温めなおしているときに質問してみた。
「俺、こう見えても長男なんで。見た目も俺が嫁だとおかしいだろ」
・・・・
「いや。俺も十分、男ですけど… どこに女要素がある!」
宝典はじっとみて
「俺は蒔がエロい時があるのを知っている。
特に、この泣き簿黒、あと、顎から項にかけての黒髪のコントラストがエロイ。
そして、俺以外にそれを知ってもらう必要はない。
皆無だ」
!!!!
「エ、エ、エロイって…」
「だから、今まで我慢してたんだから妄想とかいろいろあふれてるから」
後ろに下がって引いてしまった。
「!?!?」
意地悪な顔を隠しもせず、近づき壁に追われる…これって、壁ドンって
「ドンはしない。蒔」
名前を呼ばれた瞬間、顔を上げた一瞬を待っているかのように甘い口づけをされる。
二人視線を逸らすことなく、溺れるように互いの深い所に入りこむように。
これがとろける様なキスなのか…と、どこか客観的に感心していると、太ももの内側をそうように撫でられた。
「ん…んにゃぁ」
!!!???
口元を抑え、自然と口から出た言葉に目を見開いて驚く。
「ネコ?だにゃぁ」
揶揄うような声にムッとして見上げたら宝典はお腹を抱えて笑っていた。
「!!スケベ野郎」
腰を抱き寄せられ、耳元に呟かれる。
「スケベ上等!」
この調子で今日から休暇を一緒に過ごすのか…
自分がどこまで対応できるか不安を抱いてしまった蒔だった。
「何かしたいことはない?なかったら俺のしたいことがあるんだけど」
「…それは内容を聞いてからにする」
「日本の温泉に入って懐石料理を食べて観光したい」
そういえば、一緒に旅行はなかったなぁ。
「いいよ」
「じゃぁ、準備しよう」
!?
「いつ行くの?」
「明日の朝」
「宿とか場所とかは決めてるの?」
「それは、全部俺が決めるよ。いい?」
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