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47離れる、そして、絶つ2
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明け方と呼ぶには、まだ早い時間、パンの仕込みを開始する。
ここのパン屋は、機械ではなく、手で一つ一つを作っている。
そのため、身体には負担がかかるが、やりがいのあることだ。
あくまでも、おじいさんの補助だが。
終わって、失敗のパンをかじりながら次の現場にいく。
昼のランチに向けての仕込みで慌しくしている場所は、大都会東京にはたくさんある。
それが、繁華街ならたくさんだ。
俺は、掛け持ちでいろんな場所の助っ人をした。
でも、メインは夕方から朝方の営業であるカフェ兼バーのスタッフとして働いている。
あくまでも、俺は補助だが。
「要君、助かる…
ちょっと働いてもすぐに辞めちゃうのよ…」
この人は、厨房を任されている女性。
「…男の多い業種でしょ?
女の下で働くなんていやだっ!
って、みんな補助をしてもやめてくのよ」
―そうか、少しも望まれているのなら、いい。
調理師の仕事は、あまり給料は多くを望めない。
でも、俺はこれでも満足をしていた。
拘束される時間の分だけ、確実に稼ぐことが出来ていた。
こうして俺は、転職し稼ぎ稼ぎ稼ぎまくった。
ミハルさんの家にあった物は、自分の物だけもってでた。
使わずにおいていた家電は売りにだした。
以前一人で住んでいたときも、家具を最小限にしていた俺は、よりいっそう、生活を切り詰めていった。
でも、一つだけ、どうしても手元から離せない物があった。
ミハルさんの家の鍵だった。
家をでたのだから返すべきだ。
忙しいと言って、連絡も最小限しかしてなかった俺を少しずつ、ミハルさんも心配していた。
―もう、限界かもしれない。
俺は、まだ教えてもらっていた予定に余裕があったので、仕事の合間に、マンションに行き、鍵を返した。
―これで、全て絶つことになる。
カランと郵便受けに音がなる。
誰かに会うかと思うと、すぐにその場を離れる。
…もう、ここには…戻らない。
繋がることを全て絶った。
俺は、出会った頃、逃げまくったようにスマホを解約した。
もう、必要最小限でいい。
解約するまでは、まぁまぁな代金を払っていたスマホ代も、SIMを代えて値段を抑えた。
人間、こだわりを持たなければどんどん落とすことができる。
習慣だった新しいBLCDも探すことをやめた。
いや、正確には、声優の声を聞かないように極力避けた。
予定通りなら、もうミハルさんは帰国している。
誰もいなくなった部屋をみて探すだろうな。
疲れているだろうな。
土産をたくさん、買ったくれてるんだろうな。
―要君‥
ミハルさんの声が、頭の中をめぐっていく。
こんな酷い俺だ。
自分でも、本当に酷いと思う。
事情を説明せずに、ミハルさんの元にいることもできた。
でも、それは、自分が許せなかった。
けれど、人生とは、うまく行くときと、いかないときがあるものだ。
どこで人生は転落するかわからない。
この日、父が亡くなった。
その知らせは、とても無機質なものだった。
「警察のものですが」
仕事が終わり次の場所へと移動しているときに、留守電が入っていた。
俺は、抜けることので出来そうな世話になっているじいさんに説明をして、休みをもらった。
―間に合わなかった
人間、どんな時も冷静にいれば、状況は見えてくる。
父の言葉を思い出している。
それも、遅い。
父は仕事を始めるために準備をすると言っていた。
何をしていたのか、わからない。
海に何をしにいったのだろう。
たまたま、足を滑らせたのだろうか。
わからない。
話によると、犬の散歩をしていた人が、海に浮かんでいるのを見つけたらしい。
俺は、発見者にお礼を伝えてもらうべく、警察にお願いした。
父のために働いたお金は、全て違うものへと変わっていった。
準備をしていた父は、自分の最期を書き記していた。
亡くなった後のこと、墓の事、家のこと。
父は、病を抱えていた。
会社を辞めたのは、体調も悪かったそうだ。
そう教えてくれたのは、書き残したメモに書かれていたお寺の住職。
「…ずっと、悔やまれていましたよ。
どうして、子どものことを守らなかったのかって…
でも、奥さんも離せなかった。
病気も抱えていたみたいでした。
「母さんが先か、俺が先か…」なんて冗談で言っていました。
…お父さんは、墓などは要らないと言っていましたよ。
そのお金があるのなら、自分のことに使うようにと言っていました。
…私もそう思いますよ。
でも、それではあなたが納得できない。
…ずっと、囚われたままになる。
そう、考えたのでしょう。
お父さんは、こちらで預かりますよ。
もう、その手続きも済ませています」
―どうして…
「…父は、自分で命を…」
震える声で尋ねる。
住職は、静かに
「…どうなんでしょうね」
人の終わり方は様々だ。
でも、流石にこれは…
俺は、しばらく、寺を離れることはできなかった。
「…お父さんからの伝言です。
後悔をするな
だ、そうです」
―酷い…
俺、後悔でいっぱいなんだけど…
自分を棚に上げてよくいう…
本当に、独りになってしまった。
俺は、父の残した家を見て思った。
がむしゃらなぶんだけ、人は、無気欲になる。
普段と変わらない生活をしても、気持ちがどこかにいってしまうと、疎かになるものだ。
俺は次第にミスをするようになっていた。
掛け持ちしていたランチの仕事も切られてしまった。
凹んでしまう…
俺は、どうすることもできず、抜け殻に近い状態のまま、日常を淡々と過ごしていた。
ここのパン屋は、機械ではなく、手で一つ一つを作っている。
そのため、身体には負担がかかるが、やりがいのあることだ。
あくまでも、おじいさんの補助だが。
終わって、失敗のパンをかじりながら次の現場にいく。
昼のランチに向けての仕込みで慌しくしている場所は、大都会東京にはたくさんある。
それが、繁華街ならたくさんだ。
俺は、掛け持ちでいろんな場所の助っ人をした。
でも、メインは夕方から朝方の営業であるカフェ兼バーのスタッフとして働いている。
あくまでも、俺は補助だが。
「要君、助かる…
ちょっと働いてもすぐに辞めちゃうのよ…」
この人は、厨房を任されている女性。
「…男の多い業種でしょ?
女の下で働くなんていやだっ!
って、みんな補助をしてもやめてくのよ」
―そうか、少しも望まれているのなら、いい。
調理師の仕事は、あまり給料は多くを望めない。
でも、俺はこれでも満足をしていた。
拘束される時間の分だけ、確実に稼ぐことが出来ていた。
こうして俺は、転職し稼ぎ稼ぎ稼ぎまくった。
ミハルさんの家にあった物は、自分の物だけもってでた。
使わずにおいていた家電は売りにだした。
以前一人で住んでいたときも、家具を最小限にしていた俺は、よりいっそう、生活を切り詰めていった。
でも、一つだけ、どうしても手元から離せない物があった。
ミハルさんの家の鍵だった。
家をでたのだから返すべきだ。
忙しいと言って、連絡も最小限しかしてなかった俺を少しずつ、ミハルさんも心配していた。
―もう、限界かもしれない。
俺は、まだ教えてもらっていた予定に余裕があったので、仕事の合間に、マンションに行き、鍵を返した。
―これで、全て絶つことになる。
カランと郵便受けに音がなる。
誰かに会うかと思うと、すぐにその場を離れる。
…もう、ここには…戻らない。
繋がることを全て絶った。
俺は、出会った頃、逃げまくったようにスマホを解約した。
もう、必要最小限でいい。
解約するまでは、まぁまぁな代金を払っていたスマホ代も、SIMを代えて値段を抑えた。
人間、こだわりを持たなければどんどん落とすことができる。
習慣だった新しいBLCDも探すことをやめた。
いや、正確には、声優の声を聞かないように極力避けた。
予定通りなら、もうミハルさんは帰国している。
誰もいなくなった部屋をみて探すだろうな。
疲れているだろうな。
土産をたくさん、買ったくれてるんだろうな。
―要君‥
ミハルさんの声が、頭の中をめぐっていく。
こんな酷い俺だ。
自分でも、本当に酷いと思う。
事情を説明せずに、ミハルさんの元にいることもできた。
でも、それは、自分が許せなかった。
けれど、人生とは、うまく行くときと、いかないときがあるものだ。
どこで人生は転落するかわからない。
この日、父が亡くなった。
その知らせは、とても無機質なものだった。
「警察のものですが」
仕事が終わり次の場所へと移動しているときに、留守電が入っていた。
俺は、抜けることので出来そうな世話になっているじいさんに説明をして、休みをもらった。
―間に合わなかった
人間、どんな時も冷静にいれば、状況は見えてくる。
父の言葉を思い出している。
それも、遅い。
父は仕事を始めるために準備をすると言っていた。
何をしていたのか、わからない。
海に何をしにいったのだろう。
たまたま、足を滑らせたのだろうか。
わからない。
話によると、犬の散歩をしていた人が、海に浮かんでいるのを見つけたらしい。
俺は、発見者にお礼を伝えてもらうべく、警察にお願いした。
父のために働いたお金は、全て違うものへと変わっていった。
準備をしていた父は、自分の最期を書き記していた。
亡くなった後のこと、墓の事、家のこと。
父は、病を抱えていた。
会社を辞めたのは、体調も悪かったそうだ。
そう教えてくれたのは、書き残したメモに書かれていたお寺の住職。
「…ずっと、悔やまれていましたよ。
どうして、子どものことを守らなかったのかって…
でも、奥さんも離せなかった。
病気も抱えていたみたいでした。
「母さんが先か、俺が先か…」なんて冗談で言っていました。
…お父さんは、墓などは要らないと言っていましたよ。
そのお金があるのなら、自分のことに使うようにと言っていました。
…私もそう思いますよ。
でも、それではあなたが納得できない。
…ずっと、囚われたままになる。
そう、考えたのでしょう。
お父さんは、こちらで預かりますよ。
もう、その手続きも済ませています」
―どうして…
「…父は、自分で命を…」
震える声で尋ねる。
住職は、静かに
「…どうなんでしょうね」
人の終わり方は様々だ。
でも、流石にこれは…
俺は、しばらく、寺を離れることはできなかった。
「…お父さんからの伝言です。
後悔をするな
だ、そうです」
―酷い…
俺、後悔でいっぱいなんだけど…
自分を棚に上げてよくいう…
本当に、独りになってしまった。
俺は、父の残した家を見て思った。
がむしゃらなぶんだけ、人は、無気欲になる。
普段と変わらない生活をしても、気持ちがどこかにいってしまうと、疎かになるものだ。
俺は次第にミスをするようになっていた。
掛け持ちしていたランチの仕事も切られてしまった。
凹んでしまう…
俺は、どうすることもできず、抜け殻に近い状態のまま、日常を淡々と過ごしていた。
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