約束

よしだひろ

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約束

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「僕がママの事を幸せにするからもう泣かないで」
 まだ小学生だった頃、親父が事故で他界した。葬儀で泣き続ける母親を見て、死の意味もわからないまま俺は母親を励ましていた。
「ありがとう、義弘。じゃあ約束してくれる?」
「うん、約束するよ」
 涙を堪えながら母親は無理して笑顔を作っていた。
 しかし俺は母親を幸せになんかしてやれなかった。
 運動会の前日、急な予定が入り母親が運動会に来れなくなった。
「ママの嘘つき! 運動会に来てくれるって言ったじゃないか!」
「ごめんね、義弘。明日はどうしてもダメなんだよ」
「もういいよ!」
 運動会の当日、先生達と一緒に過ごした昼休みはとても寂しかった。
 その帰り道、母親の帰りと重なった。
「義弘。今日は運動会がんばったかい?」
「……」
「今日は義弘の好きなハンバーグにするからね。奮発して高いお肉買ってきたよ」
「いらないよ! ママの嘘つき!」
 俺はどうしても悲しくて涙が溢れそうになった。気がつけば駆け出して河原へと向かっていた。
 その後河原まで母親が迎えにきてくれたんだったな。
 そんな事があってもう二十年。今、その母親が棺の中で眠っている。
"僕がママの事を幸せにするから……"
 結局母親の事は幸せにできなかった。申し訳ない気持ちでいっぱいだ。
 俺は知らない内に泣いていた。頬を涙が伝って落ちた。
「パパ、何で泣いてるの? どこか痛いの?」
 まだ幼い娘が心配して顔を覗き込んでいる。
「ごめんな。体が痛いんじゃないんだよ。お婆ちゃんが死んでしまって悲しいんだよ」
「だったら私がパパの事を幸せにしてあげるね!」
 その時俺は気がついた。俺は母親を幸せにできなかったと思っているけど、我が子がそんな優しい言葉を言ってくれた時点で、親は幸せなんだと。
 俺はそんな優しい子に育ってくれた娘を抱きしめて泣いた。
「ありがとう、ありがとうな」
「約束するからね。パパが幸せになりますようにって」
 悲しい涙は嬉しい涙に変わっていた。
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