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エングラントの槍編
そして
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「師匠、師匠!」
バオホを縄で縛って柱にもたれさせた後、ミカはシュタインに駆け寄り頬をペチペチ叩いて呼んだ。シュタインはすぐに目を覚ましたが、かなり疲弊していた。
「やあ、ミカ……バオホの意識は……あるかい?」
「いいえ。今兵隊さんに監視してもらってますが……」
シュタインは床に置いたシュネーバルを左手で取り立ち上がった。バオホの元へ歩み寄る。
「バオホ、起きるんだ」
シュタインはバオホの体を揺すぶってみたがバオホは起きなかった。シュタインもその場に座り込んでフーと一息ついた。
「やり過ぎちゃっただろうか」
「バオホは死んだんですか?」
「いや、息をしてるだろ。気を失っているだけだよ」
バオホもシュタインも、特に精神的に疲れ切っていた。シュタインは少し休むことにした。階段に隠れていた兵士達も既に上がってきていて、バオホを中心に円陣を組むように休憩していた。
一人の兵士が言った。
「シュタイン様。バオホは死んでないのですか?」
「そうだよ」
「では今のうちに殺してしまいましょう」
「それは困る。バオホは符呪魔法の第一人者だからね。そんな人を失うのは勿体ない。それに僕はバオホに聞きたい事があるんだ」
「そう言われましても我が国に対する脅威です」
怪我をしてない兵士が声を荒げて言った。
「いやいや。バオホは頼まれてやっただけの事。この状況になった今、もう二度とポーレシアに侵攻したりはしない」
「何故そう言えるのですか?」
「バオホと言うのはそう言う男なのさ」
そんな会話をしていて数十分した時だ。
「さて。バオホの意識が戻ったようだよ」
シュタインがそう言うと、もたれていたバオホの首が上に向いてバオホが目を覚ました。
「シュタインよ。見事だった。最後のあの魔法は古代魔法なんだろ?」
「そうさ。お前を倒すにはあれしかないと思ってね」
「飛翔の魔法で逃げ回ると見せかけて、魔法陣を描いていたのか。見破れなかった」
「まあ、そんな事はどうでもいいさ」
「私の完敗だ。採掘場は諦めよう」
「お前ならそう言うと思ったよ」
バオホは縛られたまま徐ろに立ち上がった。
「上の階に弟子がいる。ローエ・ロートを取りに行かせて欲しいのだが、呼び寄せても良いだろうか?」
「構わないよ」
するとバオホは吹き抜けの下に歩み寄り上の階に向かって大きな声で叫んだ。
「ミナトス! ミナトスはいるか!」
暫くするとミナトスと思しき人物が上のフロアから弱々しく顔を出した。
「ミナトス。ローエ・ロートを持ってくるのだ」
「分かりました」
暫くするとミナトスがローエ・ロートを持って現れた。
「それをこのシュタインに向けて投げよ」
「え! 良いのですか?」
「構わん。早くしろ」
するとミナトスはシュタインに向けてローエ・ロートを放り投げた。シュタインは右手でローエ・ロートを受け取った。
「おいおい。良いのか? これ程の宝物を」
「お前にローエ・ロートを奪われでもしなければ奴らは納得しないだろう」
「奪ったわけじゃないんだがね」
シュタインはローエ・ロートをミカに手渡した。
「これからは少しずつ剣術も覚えたほうがいい」
「え? 私がですか?」
シュタインはにっこりと微笑んだ。
「さて、バオホよ。僕がここに来たのはお前に冀求の指輪の在処を聞く為だよ」
「ふふふ。お前らしいな」
バオホはその場に腰を下ろして話し始めた。
「冀求の指輪はその昔、七十二個作られたが、その殆どは失われているよ。私も一時期探そうと思った事があってね」
「見つかったのか?」
「ああ。文献に書かれていたよ。どこにあるとも知れないジッポンと言う国のシヅモシュラインと言う寺院に祀られているらしい」
「ジッポン……」
「しかも未だ使われてはいないようだ。それが誠ならすごい発見なのだがな」
「何故ジッポンを目指さなかった?」
「他にも目を惹くものがあったのでな。あるのかないのか分からない国を目指す気にはなれなかっただけだよ」
「なるほどね……さてと。じゃあ帰るとするか」
「バオホはどうするのですか?」
「このままここに置いていくよ。ミナトスがこのフロアに降りて来られるならすぐに戒めは解けるし放っておいても大丈夫だろう」
「あ、いえ。そうではなくて、侵略者ですぞ。それを放っておくと言うのですか?」
「言っただろ? バオホ程の探究者を失う事はとてつもない損失なのさ。それに僕はバオホの命を取りに来たわけではない。冀求の指輪の事を聞きに来ただけなのさ」
*
シュタイン達は階下のオーク達の詰所の奥にあった魔法陣で簡単に塔の外に出られた。程なくして待機していた輸送隊と合流。エングラント側に知られないうちにポーレシアに戻る事が出来た。
なんやかんやと説明するのも面倒なのでシュタインとミカはドワーフコリドーを抜けてから先は隊と別れる事にした。隊の者達は引き止めた。
「ミカ、走って逃げよう」
そう言ってシュタインは山道を走り出した。
「あ、師匠。待って」
ミカも後に続く。怪我をしてない二人の兵士は怪我人を置いて追ってきた。
「なあ、ミカ。ムースはまだいるだろうか?」
「待っていて欲しいとは言いませんでしたからね」
「ムースならジッポンがどこか分かるだろうが……」
「直ぐにでもジッポンに向かうのですか?」
「いや、カーテンカーテンに行くよ。それがムースの望みだ」
カーテンカーテンはポーレシアの南だ。兵士達が迫ってきている。シュタインは一度振り向いて兵士達との距離を見た。
「取り敢えず飛ぶよ」
そう言うとシュタインはミカの体を引き寄せて抱いた。
「オブザード マ ザード 解き放て」
バオホを縄で縛って柱にもたれさせた後、ミカはシュタインに駆け寄り頬をペチペチ叩いて呼んだ。シュタインはすぐに目を覚ましたが、かなり疲弊していた。
「やあ、ミカ……バオホの意識は……あるかい?」
「いいえ。今兵隊さんに監視してもらってますが……」
シュタインは床に置いたシュネーバルを左手で取り立ち上がった。バオホの元へ歩み寄る。
「バオホ、起きるんだ」
シュタインはバオホの体を揺すぶってみたがバオホは起きなかった。シュタインもその場に座り込んでフーと一息ついた。
「やり過ぎちゃっただろうか」
「バオホは死んだんですか?」
「いや、息をしてるだろ。気を失っているだけだよ」
バオホもシュタインも、特に精神的に疲れ切っていた。シュタインは少し休むことにした。階段に隠れていた兵士達も既に上がってきていて、バオホを中心に円陣を組むように休憩していた。
一人の兵士が言った。
「シュタイン様。バオホは死んでないのですか?」
「そうだよ」
「では今のうちに殺してしまいましょう」
「それは困る。バオホは符呪魔法の第一人者だからね。そんな人を失うのは勿体ない。それに僕はバオホに聞きたい事があるんだ」
「そう言われましても我が国に対する脅威です」
怪我をしてない兵士が声を荒げて言った。
「いやいや。バオホは頼まれてやっただけの事。この状況になった今、もう二度とポーレシアに侵攻したりはしない」
「何故そう言えるのですか?」
「バオホと言うのはそう言う男なのさ」
そんな会話をしていて数十分した時だ。
「さて。バオホの意識が戻ったようだよ」
シュタインがそう言うと、もたれていたバオホの首が上に向いてバオホが目を覚ました。
「シュタインよ。見事だった。最後のあの魔法は古代魔法なんだろ?」
「そうさ。お前を倒すにはあれしかないと思ってね」
「飛翔の魔法で逃げ回ると見せかけて、魔法陣を描いていたのか。見破れなかった」
「まあ、そんな事はどうでもいいさ」
「私の完敗だ。採掘場は諦めよう」
「お前ならそう言うと思ったよ」
バオホは縛られたまま徐ろに立ち上がった。
「上の階に弟子がいる。ローエ・ロートを取りに行かせて欲しいのだが、呼び寄せても良いだろうか?」
「構わないよ」
するとバオホは吹き抜けの下に歩み寄り上の階に向かって大きな声で叫んだ。
「ミナトス! ミナトスはいるか!」
暫くするとミナトスと思しき人物が上のフロアから弱々しく顔を出した。
「ミナトス。ローエ・ロートを持ってくるのだ」
「分かりました」
暫くするとミナトスがローエ・ロートを持って現れた。
「それをこのシュタインに向けて投げよ」
「え! 良いのですか?」
「構わん。早くしろ」
するとミナトスはシュタインに向けてローエ・ロートを放り投げた。シュタインは右手でローエ・ロートを受け取った。
「おいおい。良いのか? これ程の宝物を」
「お前にローエ・ロートを奪われでもしなければ奴らは納得しないだろう」
「奪ったわけじゃないんだがね」
シュタインはローエ・ロートをミカに手渡した。
「これからは少しずつ剣術も覚えたほうがいい」
「え? 私がですか?」
シュタインはにっこりと微笑んだ。
「さて、バオホよ。僕がここに来たのはお前に冀求の指輪の在処を聞く為だよ」
「ふふふ。お前らしいな」
バオホはその場に腰を下ろして話し始めた。
「冀求の指輪はその昔、七十二個作られたが、その殆どは失われているよ。私も一時期探そうと思った事があってね」
「見つかったのか?」
「ああ。文献に書かれていたよ。どこにあるとも知れないジッポンと言う国のシヅモシュラインと言う寺院に祀られているらしい」
「ジッポン……」
「しかも未だ使われてはいないようだ。それが誠ならすごい発見なのだがな」
「何故ジッポンを目指さなかった?」
「他にも目を惹くものがあったのでな。あるのかないのか分からない国を目指す気にはなれなかっただけだよ」
「なるほどね……さてと。じゃあ帰るとするか」
「バオホはどうするのですか?」
「このままここに置いていくよ。ミナトスがこのフロアに降りて来られるならすぐに戒めは解けるし放っておいても大丈夫だろう」
「あ、いえ。そうではなくて、侵略者ですぞ。それを放っておくと言うのですか?」
「言っただろ? バオホ程の探究者を失う事はとてつもない損失なのさ。それに僕はバオホの命を取りに来たわけではない。冀求の指輪の事を聞きに来ただけなのさ」
*
シュタイン達は階下のオーク達の詰所の奥にあった魔法陣で簡単に塔の外に出られた。程なくして待機していた輸送隊と合流。エングラント側に知られないうちにポーレシアに戻る事が出来た。
なんやかんやと説明するのも面倒なのでシュタインとミカはドワーフコリドーを抜けてから先は隊と別れる事にした。隊の者達は引き止めた。
「ミカ、走って逃げよう」
そう言ってシュタインは山道を走り出した。
「あ、師匠。待って」
ミカも後に続く。怪我をしてない二人の兵士は怪我人を置いて追ってきた。
「なあ、ミカ。ムースはまだいるだろうか?」
「待っていて欲しいとは言いませんでしたからね」
「ムースならジッポンがどこか分かるだろうが……」
「直ぐにでもジッポンに向かうのですか?」
「いや、カーテンカーテンに行くよ。それがムースの望みだ」
カーテンカーテンはポーレシアの南だ。兵士達が迫ってきている。シュタインは一度振り向いて兵士達との距離を見た。
「取り敢えず飛ぶよ」
そう言うとシュタインはミカの体を引き寄せて抱いた。
「オブザード マ ザード 解き放て」
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