彼女は変わらない

水の味しかしない

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王国とは何か

それを問われれば王を冠にいただく国と答えるものもいるだろう。

では王とは何か、そう問われれば何と答えるだろう。

国の冠たる王。その王に必要なもの。

それは支配者の資質か、はたまた人格か、それとも…。

王とは何か、そう問われてもミディリアははっきり一言では言い表せないが
王族という者ならば一言で言えると思う。

それは王家の血を引くものたちのこと。
血のみ、生まれのみで生まれながらに定められ王族。
ミディリアの幼馴染で婚約者で、この国の王族である第二王子もそうである。

サリフィス・オーランド

白銀の美しい髪に美貌の妾妃から譲り受けた紫の瞳。異国の踊り子だった妃から
受け継いだこの国の人々よりも濃い色の褐色の肌。

長身で引き締まった肉体に人を魅了してやまない彼はエキゾチックで
艶のある笑みで人気の王子だ。

彼もまた例にもれず王家の王の血を引いている。故に正当な王子である。

正当であるが、王子としてふさわしいか?

ミディリアはもしこう問われたら、そうだと即答できただろうか。

次々に疑問が浮かぶのは、今のミディリアの状況をミディリアが無意識に拒否していて
理解を拒んでいるためか。

ふと力を抜けば立っていることさえ危ういミディリアはぼんやりと
目の前の昨日まで親しいと思っていたはずの婚約者を眺めた。


「ミディリアとの婚約は破棄する」

自分を後ろから取り押さえた第二王子の取り巻きでこの国の騎士団長の息子である
同級生のアレント。
この学校の担任であるロンバード、大司教の甥のマレン。
この三人が第二王子とともにミディリアを侮蔑と憎悪を込めた瞳で睨みつけ
その唇から、ミディリアが予測もしない言葉を次から次へと紡いでいく。

彼らの後ろにいる紅一点、男爵家のシャーロンをかばう様に後ろに隠しながら。

ミディリアに覚えのない冤罪を次々にあげ、糾弾していく。

なにをいっているの?
私がだれをつかって彼女を陥れた?
暴力?差別?物を壊した?

本来なら今日は長い時を過ごした学園で行われる卒業パーティーで
ミディリアは今、彼女を断罪している王子にエスコートされ
このパーティーの主役の華として学園の中心でほほ笑んでいるはずだった。

しかし、それとは真逆で、今日のパーティーで彼女は断罪される罪人で
そんな女性がいたのかと知りもしなかった人物がミディリアの代わりの王子の傍らにいて
ミディリアを見下ろしている。

このパーティーに集まっている人間の顔は様々な表情で、まるで何かを避けるように
しんと静まり、王子たちの動向を見守っている。

「お前にはシャーロンが受けた以上の屈辱をもって、自分の行いがどれほど愚かなものかしらしめよう」

今まで婚約者と、昨日まで未来の夫と思っていた王子が侮蔑の瞳で
あざけりの笑みを浮かべてミディリアを見下ろし、ミディリアを断罪した時
まるで自分は正義の代行者で、今、最も良き裁きを行った。とそう芯から思っている
そう思える自信と満足にあふれた笑みを浮かべた。

その笑みに、ミディリアはこれまでのすべてが打ち砕かれた思いがした。


私が信じてきたもの、信念、教わったもの
それが今、意味をなくしたんだわ。









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