彼女は変わらない

水の味しかしない

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王子の言葉に否やを挟むものはいなかった。

心の内では何を思っても、王族にこの場で立てつくのに何のメリットもない。
傍観者を決め込み、嵐が過ぎ去るのを待つ。そんな触らぬ神になんとやら。
この学園の生徒たちは沈黙を選んだ。

そして卒業パーティーの舞台から、その中心を飾るはずだった少女が
王子の息のかかった役人に連れ出される。

その後は簡単な王子の詫びの言葉が無機質に述べられ、止まっていた
ダンスの曲が再び鳴り響く。演奏家たちも、学生たちも
まるで何もなかったように、ひらひらと舞い。会話に花を咲かせる。

そしてパーティーの中心には王子とその傍らには公爵令嬢を追い落とした
男爵家の娘のシャーロン。そしてその取り巻きたちが座していた。


遠くにパーティーの賑わいと音楽を聴きながら、たとえ冤罪でも
罪人として役人に連れていかれる。ミディリアはどこか非現実的な思いで
月明りも見ず、下を見ながら道を進んでいた。

役人は王子がいなければ余計なことはしゃべらない。
相手が罪人とはいえ公爵令嬢と知っているから下手なことは言わないのだろう。
この後、王子の命とあれば大方は断罪されるにせよ、王家に次ぐ公爵家に
その娘に何かしたとなればその家から、または親しい親戚筋から報復があるかもしれない。
彼らはそう考えて口をつぐむ。

ただとぼとぼと歩く道のりはどこか虚しくひどく静かだった。

役人に案内されてついた場所は牢ではあるが、貴人、または要人用なのか
普通の何もない牢屋の大部屋でもなく、鉄格子越しではあるが個室で
小さな窓もあるし、わずかに調度品もそろった部屋だった。

普通の牢から考えれば破格かもしれない、臭くもない優遇された部屋だろうが
入れられた人間にとっては複雑な心境になる部屋だ。
それが貴族ならなおさら、普段からは考えられないみすぼらしい部屋に
悲観するのかもしれない。

無言で去っていく役人。それをまた無言で見送るミディリア。

パーティーのドレス姿のまま牢にいるミスマッチに軽く笑みを浮かべて
ミディリアは少しずつ現状を理解するために
今までのことを反芻して思い出した。

静かな牢屋ではよく頭が冴えた。


それからどれくらいたっただろう。ミディリアの部屋に複数の足音とガヤガヤと
誰かが笑いながら話す声とか近づいてきた。

誰かの来訪らしい。






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