よくできました、先生

ぶんどき

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Dom連続殺人事件編

8話《いらない》

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 現在、晴宮探偵事務所が抱えている事件は警察からの依頼だった。先生ほどの名探偵ともなると、度々警察からも捜査協力依頼が来るのだ。警察からの依頼、それはつまり警察の力だけではお手上げな難事件を意味する。先生はもう一時間も捜査資料とにらめっこをしている。
「先生、お疲れ様です。珈琲のおかわり、どうぞ」
「……ん、ああ、ありがとう」
 空いたカップに珈琲を注ぐと、先生は小さく笑った。
「今回の事件、どうですか? 警察の方でも捜査が難航しているみたいですし……」
「……君はこの捜査資料を見てどう思う?」
 事件の概要が書かれた資料は先ほど僕も目を通した。──巷で起きている連続殺人事件の資料だ。既に三人が犠牲になっている。この事件の被害者達には明確な共通点がある。それは、Domということ。殺害の手口からしても、同一犯の可能性が高く、警察は連続殺人事件と認識しているようだった。
「……Domを狙った連続殺人事件、ですよね」
「ああ、その通りだ。恐らくその線で間違いはないだろう」
 そう言いつつも先生はどこか釈然としない様子に見えた。
「何か気になる点でも?」
「いや……私の考えすぎかもしれない。とりあえず現場に向かおうか」
「はい、すぐ準備します!」





 一通り調査を終えた頃にはもう日も沈みかけていた。事務所への帰り道、助手席に座る先生に声をかける。
「遺体の状況、酷かったですね……犯人にはDomに対する憎悪のようなものがあったのでしょうか」
「……どうだろうね。そう決めつけるのはまだ早いかもしれないよ。先入観に囚われてはいけない」
「そ、そうでした。様々な観点から物事を捉え、可能性を考慮することが大事……って、先生いつもおっしゃってますもんね」
 先生は静かに頷いた。きっと、先生の推理は僕よりも何歩も先を行っているのだろう。その中で、この事件がそう単純なものではないと勘づいているのかもしれない。まだ証拠が足りていないから話せない、そんな時の先生の顔だ。
 事務所に戻ってきて、今日の調査結果をまとめる作業に入る。それからしばらくして、机の整理をしていた先生がふと手を止め口を開いた。
「……この薬も、もういらないな」
 先生はSub用の抑制剤を見つめた。今でこそ、僕と先生はプレイによって互いの欲求の発散をしているが以前先生は自分がSubであることを隠していた。誰ともプレイをせず抑制剤だけで心身を保っていたのだ。
「助手君、私は君みたいな人がDomでよかったと思っているよ」
「え……?」
「……世の中には自分勝手なDomも少なくないからね」
「先生……」
 犯人は何を思ってDomを殺害したのだろうか。DomとSubは立場上は対等だ。互いの信頼のうえで成り立つ関係性なのだ。それは学校教育でも教えられる基本中の基本。しかし、実際の力関係としてSubはDomには敵わない。Domが発するコマンドにSubは逆らえない。Domのランクが高ければ高いほどその力は強くなる。無茶なプレイによってSubがSub dropに陥る、そんな事件は後を絶たないのだ。そして先生はその被害者の一人でもある。──先生は、今回の事件をどう思っているのだろうか。
「さて、明日も調査の続きがあるし今日はもう休むとしようか」
「そうですね、僕も今日はここに泊まっていきます」
「ああ、もう夜も遅いしそうするといい」
 晴宮探偵事務所は二階が先生の私室となっている。僕は自宅から毎日通っているが、今回のように調査が連日続くときはいつでも泊まれるように準備をしてあるのだ。

 客用の布団を敷いて眠ろうとした時、スマートフォンに誰かからメールが来たことに気づいた。こんな時間に一体誰が、と開くとそれは知らないアドレスからだった。

『雨崎司、指定した場所に今からお前一人で来い。警察にも晴宮照にも言うな。言ったら晴宮照の命はないと思え。』

 そんな簡潔なメッセージ。下の方にはどこかの住所が書いてあった。
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