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第4編:88星座巡礼編
第91章 境界を越えて
しおりを挟む銀河の果《は》ては、静寂だった。
巡礼の軌跡を描《えが》くように散《ち》りばめられた星々が、遠《とお》くで淡《あわ》く脈打《みゃくう》つ。その中心《ちゅうしん》に漂《ただよ》う僧侶たちは、言葉《ことば》もなく互《たが》いの呼吸《こきゅう》を感《かん》じていた。
「ここが、終点……いや、始まりか」
そう呟《つぶや》いたのは長老僧だった。声《こえ》は震《ふる》えていない。けれど、その掌の上《うえ》で僅《わず》かに祈りの数珠が揺《ゆ》れている。
八十八の星座をめぐる旅《たび》は、歓喜も、苦悩も、別れも、すべてを呑《の》み込《こ》んで彼《かれ》らをここへ導《みちび》いた。
心《こころ》の奥底《おくそこ》には、ただ一《ひと》つの問いが響《ひび》く。
――この扉を越《こ》えた先《さき》に、何《なに》があるのか。
僧侶たちは目《め》を閉《と》じた。
意識と宇宙の律動が重《かさ》なり合《あ》い、輪郭が溶《と》けていく。重力も時間も、色も音も、ひとつの光に収束して――。
その瞬間だった。
「おーい。やっと来《き》よったか、ほんまに遅《おそ》かったなあ!」
唐突に割《わ》り込《こ》んだ、場違《ばちが》いなほど軽《かる》い関西弁の声《こえ》。
意識の海のどこかで、星屑をはらったような影が、にやりと笑《わら》った。
「|ポポカ……!」
若《わか》い僧侶のひとりが思《おも》わずその名《な》を呼《よ》ぶ。何度《なんど》か夢《ゆめ》のように現《あらわ》れては消《き》えた、あの得体《えたい》の知《し》れない存在だ。
「せや、ワイや。いやー、ここまで来《く》るのに時間《じかん》かかったなあ。
でもまあ、よう頑張《がんば》ったわ。おかげで道、開《ひら》けたんやで」
|ポポカの声は、かすかな懐かしさを伴《ともな》って響《ひび》いた。
僧侶たちの緊張が、少《すこ》しだけ緩《ゆる》む。
「これから先《さき》、見《み》たこともないもんが待《ま》っとる。
怖《こわ》がることはあらへん。ただ、ちゃんと“見届ける”ことや。
あんたらが歩《あゆ》んできた巡礼は、そのための稽古やったんやからな」
そう告《つ》げたとき、光が閃《ひらめ》いた。
宇宙の奥底《おくそこ》で眠《ねむ》っていた何《なに》かが目覚《めざ》めるように、すべてが震《ふる》えた。
時間が縦横《じゅうおう》に捻《ね》じれ、記憶と未来がひとつの織物のように絡《から》み合《あ》う。
そして、世界が――反転した。
色も、形も、重さも、言葉もない場所。
ただ、存在そのものの「輪郭」だけが、柔《やわ》らかく脈打《みゃくう》っていた。
僧侶たちはそれを、恐れではなく、安らぎとして受《う》け取《と》った。
「ようこそ、ケノン文明の門へ」
光の中《なか》で、|ポポカがにやりと笑った。
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