111 / 315
第111話 騎士の鑑のジェラルド様と意表を突くユリア
しおりを挟む
校舎から校門まで、私の歩調に合わせて二人は付いて来た。
何と面白い光景だろう。これは滅多に見られないと思う。ぜひ殿下にも見せてさしあげたい。
……と思ったところで、この後また顔合わせするのだと気付いたら、少しだけ憂鬱になった。でも憂鬱の中にも早く殿下にお会いしてお話ししたいという気持ちもあって、複雑だ。
馬車への乗り込み時は、閉じた傘を受け取ったユリアがそのまま手を貸してくれた。
もちろんその間、ジェラルドさんは傘を差してくれている。こうやって役割分担してくれれば、これからも助かるのだけれどね。
そのまま見ていると、ユリアはまたジェラルドさんの手を借りて乗り込んできた。そして傘を自分の横に立て置く。
ふむ。ユリアはこれからこの形式で行くのかな。たとえ、間合いを取る練習(?)だとしてもその行動はありがたい。ユリアに素っ気なく振られて手持ち無沙汰になるジェラルドさんを見るのは涙を禁じ得なかったので。
「ロザンヌ様、ハンカチをどうぞ」
「ああ、ありがとう。わたくしは大丈夫よ。ハンカチなら自分で持っているし、濡れていないから」
ユリアは差し出してくれたけれど、私は断った。
「そうですか」
見たところ、ユリアも濡れてはない様子だ。
「それでは参りましょう」
乗り込んできたジェラルドさんは御者に合図を送ると、こちらに振り返った。
「今日は雨ですので、ゆっくり走らせますね。――あ、ユリアさん。よろしければ傘はこちらに置きましょうか?」
側に置いておくと服が濡れると考えたのか、ジェラルドさんはユリアにそう言ってくださる。
にべもなく断るかもしれないのに、手をユリアの方へ差し伸べたジェラルドさんの勇敢さを全国民に知らしめて、彼を誉め称えてほしいと切に思う。
事の成り行きを静かに見守っているとユリアは傘を持たず、ただ手を重ねた。
――は、ふぁあああっ!?
突飛すぎるユリアの行動に、私は思わず飛び上がって叫びかけた。
理性を総動員してかろうじて自分を制したけれど、動悸の方は収まらない。
な、何してるの!? え、何なの!?
私はびっくりドン引きしてしまったし、当然、ジェラルドさんも驚かれていたけれど、すぐに何かに気付いたようだ。
ユリアはそのまま手を引っ込めた。
「傘は大丈夫です。ハンカチをどうぞ。傘を持っていただいて、ありがとうございました」
あ、な、なるほどね。ハンカチ、ハンカチね……。私からは見えなかったけれど、手に隠し持っていたのね。確かにジェラルドさんの右側が濡れている。ユリアが濡れないようにできるだけ傘を寄せてくれたのだろう。さすがは紳士なジェラルドさんだ。
いやでも、まさかユリア自ら言い出すとはね。しかもジェラルドさんにお礼まで言って。人って日々、成長するのね。
感動で、涙ほろりと来そうだ。
「よろしいのですか?」
「よろしくなければお貸しいたしません」
……うん。言い方ね。言い方をもっと勉強しようね、ユリア。
ほろりと来そうだった雫が目の奥へとすぐに引っ込んだ。
「そうですか。では。ありがたくお借りいたします」
笑顔で受け取るジェラルドさん。
大人だー。ジェラルドさんは大人だー。さすが騎士の鑑です。
私はひたすらジェラルドさんを心の中で賛美していた。
王宮に到着し、まずはジェラルドさんが降り、続いてユリアが降りた。
もう手をお借りする形を貫く気らしい。ジェラルドさんも笑顔で自然に手を取った。
もしかしたら無表情のユリアの心の中では、間合い間合いと唱えているかもしれないと想像すると、ちょっと可笑しい。
ふやけたニヤケ顔のまま私も二人の手を取って降車したところ、前方に人の気配を感じた。
「お帰り」
視線を向けた私と目が合った殿下は、ふっと笑った。
「で、殿下!? どうなさったのです」
え!? 私の帰宅に合わせてここに来られるだなんて、また影でおつらいとか!?
私は慌てて駆け寄って小声で尋ねる。
「お体の調子が? 今ここで影祓いいたしますか」
「いや。そうではなくて……」
歯切れの悪い言い方に私は首を傾げた。
「昨日の君の様子が気になったから。今朝は会わなかったし、もう戻って来る頃だと思ったから来てみただけだ」
「そ、そうでしたか。申し訳ございませんでした。……殿下? どうかなさったのですか?」
笑顔なのにどこか陰りがある殿下の様子に思わず尋ねてしまう。
「君は二人の手を取ることができるんだな」
答える気がなさそうなくらい殿下は小さな声で呟く。
その声が自嘲しているような、羨ましそうな声にも聞こえた。
殿下を差し置いて、二人の手をお借りしていることが気に障ったのだろうか。それとも……。
「申し訳ございません。乗降の補助はどちらか一人でいいですと前に申したのですが」
「ああ、いや。そういう意味じゃない」
「……では、どういう意味ですか?」
尋ねてみたけれど殿下は何でもないと、何でもなくない表情で微笑むばかりだった。
何と面白い光景だろう。これは滅多に見られないと思う。ぜひ殿下にも見せてさしあげたい。
……と思ったところで、この後また顔合わせするのだと気付いたら、少しだけ憂鬱になった。でも憂鬱の中にも早く殿下にお会いしてお話ししたいという気持ちもあって、複雑だ。
馬車への乗り込み時は、閉じた傘を受け取ったユリアがそのまま手を貸してくれた。
もちろんその間、ジェラルドさんは傘を差してくれている。こうやって役割分担してくれれば、これからも助かるのだけれどね。
そのまま見ていると、ユリアはまたジェラルドさんの手を借りて乗り込んできた。そして傘を自分の横に立て置く。
ふむ。ユリアはこれからこの形式で行くのかな。たとえ、間合いを取る練習(?)だとしてもその行動はありがたい。ユリアに素っ気なく振られて手持ち無沙汰になるジェラルドさんを見るのは涙を禁じ得なかったので。
「ロザンヌ様、ハンカチをどうぞ」
「ああ、ありがとう。わたくしは大丈夫よ。ハンカチなら自分で持っているし、濡れていないから」
ユリアは差し出してくれたけれど、私は断った。
「そうですか」
見たところ、ユリアも濡れてはない様子だ。
「それでは参りましょう」
乗り込んできたジェラルドさんは御者に合図を送ると、こちらに振り返った。
「今日は雨ですので、ゆっくり走らせますね。――あ、ユリアさん。よろしければ傘はこちらに置きましょうか?」
側に置いておくと服が濡れると考えたのか、ジェラルドさんはユリアにそう言ってくださる。
にべもなく断るかもしれないのに、手をユリアの方へ差し伸べたジェラルドさんの勇敢さを全国民に知らしめて、彼を誉め称えてほしいと切に思う。
事の成り行きを静かに見守っているとユリアは傘を持たず、ただ手を重ねた。
――は、ふぁあああっ!?
突飛すぎるユリアの行動に、私は思わず飛び上がって叫びかけた。
理性を総動員してかろうじて自分を制したけれど、動悸の方は収まらない。
な、何してるの!? え、何なの!?
私はびっくりドン引きしてしまったし、当然、ジェラルドさんも驚かれていたけれど、すぐに何かに気付いたようだ。
ユリアはそのまま手を引っ込めた。
「傘は大丈夫です。ハンカチをどうぞ。傘を持っていただいて、ありがとうございました」
あ、な、なるほどね。ハンカチ、ハンカチね……。私からは見えなかったけれど、手に隠し持っていたのね。確かにジェラルドさんの右側が濡れている。ユリアが濡れないようにできるだけ傘を寄せてくれたのだろう。さすがは紳士なジェラルドさんだ。
いやでも、まさかユリア自ら言い出すとはね。しかもジェラルドさんにお礼まで言って。人って日々、成長するのね。
感動で、涙ほろりと来そうだ。
「よろしいのですか?」
「よろしくなければお貸しいたしません」
……うん。言い方ね。言い方をもっと勉強しようね、ユリア。
ほろりと来そうだった雫が目の奥へとすぐに引っ込んだ。
「そうですか。では。ありがたくお借りいたします」
笑顔で受け取るジェラルドさん。
大人だー。ジェラルドさんは大人だー。さすが騎士の鑑です。
私はひたすらジェラルドさんを心の中で賛美していた。
王宮に到着し、まずはジェラルドさんが降り、続いてユリアが降りた。
もう手をお借りする形を貫く気らしい。ジェラルドさんも笑顔で自然に手を取った。
もしかしたら無表情のユリアの心の中では、間合い間合いと唱えているかもしれないと想像すると、ちょっと可笑しい。
ふやけたニヤケ顔のまま私も二人の手を取って降車したところ、前方に人の気配を感じた。
「お帰り」
視線を向けた私と目が合った殿下は、ふっと笑った。
「で、殿下!? どうなさったのです」
え!? 私の帰宅に合わせてここに来られるだなんて、また影でおつらいとか!?
私は慌てて駆け寄って小声で尋ねる。
「お体の調子が? 今ここで影祓いいたしますか」
「いや。そうではなくて……」
歯切れの悪い言い方に私は首を傾げた。
「昨日の君の様子が気になったから。今朝は会わなかったし、もう戻って来る頃だと思ったから来てみただけだ」
「そ、そうでしたか。申し訳ございませんでした。……殿下? どうかなさったのですか?」
笑顔なのにどこか陰りがある殿下の様子に思わず尋ねてしまう。
「君は二人の手を取ることができるんだな」
答える気がなさそうなくらい殿下は小さな声で呟く。
その声が自嘲しているような、羨ましそうな声にも聞こえた。
殿下を差し置いて、二人の手をお借りしていることが気に障ったのだろうか。それとも……。
「申し訳ございません。乗降の補助はどちらか一人でいいですと前に申したのですが」
「ああ、いや。そういう意味じゃない」
「……では、どういう意味ですか?」
尋ねてみたけれど殿下は何でもないと、何でもなくない表情で微笑むばかりだった。
44
あなたにおすすめの小説
王宮に薬を届けに行ったなら
佐倉ミズキ
恋愛
王宮で薬師をしているラナは、上司の言いつけに従い王子殿下のカザヤに薬を届けに行った。
カザヤは生まれつき体が弱く、臥せっていることが多い。
この日もいつも通り、カザヤに薬を届けに行ったラナだが仕事終わりに届け忘れがあったことに気が付いた。
慌ててカザヤの部屋へ行くと、そこで目にしたものは……。
弱々しく臥せっているカザヤがベッドから起き上がり、元気に動き回っていたのだ。
「俺の秘密を知ったのだから部屋から出すわけにはいかない」
驚くラナに、カザヤは不敵な笑みを浮かべた。
「今日、国王が崩御する。だからお前を部屋から出すわけにはいかない」
※ベリーズカフェにも掲載中です。そちらではラナの設定が変わっています。(貴族→庶民)それにより、内容も少し変更しておりますのであわせてお楽しみください。
身分差婚~あなたの妻になれないはずだった~
椿蛍
恋愛
「息子と別れていただけないかしら?」
私を脅して、別れを決断させた彼の両親。
彼は高級住宅地『都久山』で王子様と呼ばれる存在。
私とは住む世界が違った……
別れを命じられ、私の恋が終わった。
叶わない身分差の恋だったはずが――
※R-15くらいなので※マークはありません。
※視点切り替えあり。
※2日間は1日3回更新、3日目から1日2回更新となります。
牢で死ぬはずだった公爵令嬢
鈴元 香奈
恋愛
婚約していた王子に裏切られ無実の罪で牢に入れられてしまった公爵令嬢リーゼは、牢番に助け出されて見知らぬ男に託された。
表紙女性イラストはしろ様(SKIMA)、背景はくらうど職人様(イラストAC)、馬上の人物はシルエットACさんよりお借りしています。
小説家になろうさんにも投稿しています。
アンジェリーヌは一人じゃない
れもんぴーる
恋愛
義母からひどい扱いされても我慢をしているアンジェリーヌ。
メイドにも冷遇され、昔は仲が良かった婚約者にも冷たい態度をとられ居場所も逃げ場所もなくしていた。
そんな時、アルコール入りのチョコレートを口にしたアンジェリーヌの性格が激変した。
まるで別人になったように、言いたいことを言い、これまで自分に冷たかった家族や婚約者をこぎみよく切り捨てていく。
実は、アンジェリーヌの中にずっといた魂と入れ替わったのだ。
それはアンジェリーヌと一緒に生まれたが、この世に誕生できなかったアンジェリーヌの双子の魂だった。
新生アンジェリーヌはアンジェリーヌのため自由を求め、家を出る。
アンジェリーヌは満ち足りた生活を送り、愛する人にも出会うが、この身体は自分の物ではない。出来る事なら消えてしまった可哀そうな自分の半身に幸せになってもらいたい。でもそれは自分が消え、愛する人との別れの時。
果たしてアンジェリーヌの魂は戻ってくるのか。そしてその時もう一人の魂は・・・。
*タグに「平成の歌もあります」を追加しました。思っていたより歌に注目していただいたので(*´▽`*)
(なろうさま、カクヨムさまにも投稿予定です)
いくら政略結婚だからって、そこまで嫌わなくてもいいんじゃないですか?いい加減、腹が立ってきたんですけど!
夢呼
恋愛
伯爵令嬢のローゼは大好きな婚約者アーサー・レイモンド侯爵令息との結婚式を今か今かと待ち望んでいた。
しかし、結婚式の僅か10日前、その大好きなアーサーから「私から愛されたいという思いがあったら捨ててくれ。それに応えることは出来ない」と告げられる。
ローゼはその言葉にショックを受け、熱を出し寝込んでしまう。数日間うなされ続け、やっと目を覚ました。前世の記憶と共に・・・。
愛されることは無いと分かっていても、覆すことが出来ないのが貴族間の政略結婚。日本で生きたアラサー女子の「私」が八割心を占めているローゼが、この政略結婚に臨むことになる。
いくら政略結婚といえども、親に孫を見せてあげて親孝行をしたいという願いを持つローゼは、何とかアーサーに振り向いてもらおうと頑張るが、鉄壁のアーサーには敵わず。それどころか益々嫌われる始末。
一体私の何が気に入らないんだか。そこまで嫌わなくてもいいんじゃないんですかね!いい加減腹立つわっ!
世界観はゆるいです!
カクヨム様にも投稿しております。
※10万文字を超えたので長編に変更しました。
0歳児に戻った私。今度は少し口を出したいと思います。
アズやっこ
恋愛
❈ 追記 長編に変更します。
16歳の時、私は第一王子と婚姻した。
いとこの第一王子の事は好き。でもこの好きはお兄様を思う好きと同じ。だから第二王子の事も好き。
私の好きは家族愛として。
第一王子と婚約し婚姻し家族愛とはいえ愛はある。だから何とかなる、そう思った。
でも人の心は何とかならなかった。
この国はもう終わる…
兄弟の対立、公爵の裏切り、まるでボタンの掛け違い。
だから歪み取り返しのつかない事になった。
そして私は暗殺され…
次に目が覚めた時0歳児に戻っていた。
❈ 作者独自の世界観です。
❈ 作者独自の設定です。こういう設定だとご了承頂けると幸いです。
【完結】地味な私と公爵様
ベル
恋愛
ラエル公爵。この学園でこの名を知らない人はいないでしょう。
端正な顔立ちに甘く低い声、時折見せる少年のような笑顔。誰もがその美しさに魅了され、女性なら誰もがラエル様との結婚を夢見てしまう。
そんな方が、平凡...いや、かなり地味で目立たない伯爵令嬢である私の婚約者だなんて一体誰が信じるでしょうか。
...正直私も信じていません。
ラエル様が、私を溺愛しているなんて。
きっと、きっと、夢に違いありません。
お読みいただきありがとうございます。短編のつもりで書き始めましたが、意外と話が増えて長編に変更し、無事完結しました(*´-`)
【完結】一番腹黒いのはだあれ?
やまぐちこはる
恋愛
■□■
貧しいコイント子爵家のソンドールは、貴族学院には進学せず、騎士学校に通って若くして正騎士となった有望株である。
三歳でコイント家に養子に来たソンドールの生家はパートルム公爵家。
しかし、関わりを持たずに生きてきたため、自分が公爵家生まれだったことなどすっかり忘れていた。
ある日、実の父がソンドールに会いに来て、自分の出自を改めて知り、勝手なことを言う実父に憤りながらも、生家の騒動に巻き込まれていく。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる