121 / 315
第121話 欲しい物
しおりを挟む
「ジェラルド様、お騒がせして申し訳ありませんでした」
私はユリアから離れるとジェラルドさんに謝る。
気持ちが落ち着いたら、馬車の中でユリアと言い合って騒いでいたことに気付いたから。……いえ、騒いだのは私だけかも。
「いいえ。ロザンヌ様の気高さに、ユリアさんの思いに、お二人のご関係にとても心が打たれました」
「お恥ずかしい限りです」
穏やかに笑みを浮かべるジェラルドさんに、私は体を小さくした。
「そんなことはありません。……羨ましいです」
最後の言葉はジェラルドさんらしくなく、呟くような声で。
殿下とのご関係のことを思っていらっしゃるのだろうか。きっと殿下もジェラルドさんは誠実で心を許しても大丈夫だと考えられていると思うけれど、ご自分の立場上、なかなかそれができないのだろう。ジェラルドさんもそれが分かっているから、疑問に思っていることも尋ねられないでいる。
殿下を差し置いて、私から言えることは何もない。ただ、互いを思っているのに告げられないのは、第三者でも見ていてつらいなと思うのみだ。
「あ。ああ、そうだわ」
何だか場が重くなったので私は手を叩いて空気を変える。
それに身勝手ながら自分のことばかりで、ユリアのことを聞くのをすっかり忘れていたのだ。
「ところでユリア、今日はクラウディア様の接触はなかった?」
「はい。ありませんでした」
「そう。でもあのようにおっしゃったわけだから、またあなたに会いに見えるでしょうね」
彼女は影が見えないようだし、ユリアの体調や心の変化を見ながらでしか判断がつかないのだから、何度でも現れるかもしれない。その内、興味を失ってくれるといいけれど。
「だとしてもまた断ります」
「ええ。でもクラウディア様を煽らないように言葉を選びましょうね……。あと、今度は何を落とされても、気付かないふりして立ち去りましょう」
私が影祓いするからいいけれど、それでもユリアに呪術をかけられるかと思うと気分がいいものではない。
「もしクラウディア様が落ちた物を拾えと、ご命令されたらどうするのです」
「そうねぇ」
私は顎に指を当てて考える。
「あ、そうだわ。ほうきを持ち歩き、柄の部分で拾ってお渡ししたらどうかしら」
「ロザンヌ様の方が煽っているかと」
「だって。下民が触れると汚れるとおっしゃるのだもの。仕方ないわよ。ほうき越しなら良いでしょう」
直接触れて汚れるのを気にされているのだから、ほうき越しなら文句ないでしょ!
「承知いたしました」
「いえ、もちろん冗談よ。本気にしないで……」
ユリアなら本気でやりかねないから私はすぐさま否定した。
「とにかくできるだけ回避しつつ、出会ってしまった時には柔らかい対応をお願いね」
「柔らかい?」
ユリアは首を傾げる。
武術ばかりではなくて、人の上手いさばき方をジェラルドさんから学んでほしいものである。
苦笑して顔を正面に戻したその時。
「……あ」
「どうされました。―――ああ」
一つにまとめているリボンが解けたのを感じた。いや、解けたというよりも切れたということろか。
ユリアが私の髪からリボンを手に取ると、もうすっかりくたびれているのが分かった。長く使いすぎたようだ。
「今朝、切れそうだなと思っていました」
「思っていたなら、なぜこれを使ったのよ……」
「いつものお気に入りのリボンでとおっしゃっていたので、一日なら持つかと。ここに予備を持ってきました」
予測通りですと自慢げだけど、そういう問題ではないと思うの。
私は再び苦笑いの目を向けてしまうが、ユリアは構わず私の髪を簡単に一まとめにすると、リボンをつけてくれた。
「ありがとう。これは別の飾りに使うとして、もうそろそろ新しい物が欲しいわね」
王宮に来てから学校との往復のみで、買い物などに出かけた記憶がない。ん? 出かけたりしても良いのだろうか。
ジェラルドさんにまず伺ってみる。
「ジェラルド様、以前、殿下は路上生活者の方々の元に視察に訪れたことがあるとおっしゃっていたのですが、市井に出られることは多いのですか?」
「いえ。殿下は人の多い所に行かれると体調を崩されるので、必要最低限にとどめられているようです」
何も知らなかったら、人に酔うとは軟弱者めと罵っていただろうけれど、おそらく殿下は影に憑かれるのだろう。大勢の場所は影もより多いだろうから。
「そうなのですか。お買い物に出て良いのかなど、殿下に一度ご相談してみます」
ユリアと一緒に城下町のお洒落な雑貨屋さんや、お菓子屋さんを回れるかと思うと、わくわくした気持ちが湧き起こってくる。
「ユリアは? ユリアはもし町に出られるとしたら、何か欲しい物はある?」
私はユリアに話を振ってみたところ、彼女は少し考え。
「そうですね。短剣が欲しいです」
と、のたまった……。
私はユリアから離れるとジェラルドさんに謝る。
気持ちが落ち着いたら、馬車の中でユリアと言い合って騒いでいたことに気付いたから。……いえ、騒いだのは私だけかも。
「いいえ。ロザンヌ様の気高さに、ユリアさんの思いに、お二人のご関係にとても心が打たれました」
「お恥ずかしい限りです」
穏やかに笑みを浮かべるジェラルドさんに、私は体を小さくした。
「そんなことはありません。……羨ましいです」
最後の言葉はジェラルドさんらしくなく、呟くような声で。
殿下とのご関係のことを思っていらっしゃるのだろうか。きっと殿下もジェラルドさんは誠実で心を許しても大丈夫だと考えられていると思うけれど、ご自分の立場上、なかなかそれができないのだろう。ジェラルドさんもそれが分かっているから、疑問に思っていることも尋ねられないでいる。
殿下を差し置いて、私から言えることは何もない。ただ、互いを思っているのに告げられないのは、第三者でも見ていてつらいなと思うのみだ。
「あ。ああ、そうだわ」
何だか場が重くなったので私は手を叩いて空気を変える。
それに身勝手ながら自分のことばかりで、ユリアのことを聞くのをすっかり忘れていたのだ。
「ところでユリア、今日はクラウディア様の接触はなかった?」
「はい。ありませんでした」
「そう。でもあのようにおっしゃったわけだから、またあなたに会いに見えるでしょうね」
彼女は影が見えないようだし、ユリアの体調や心の変化を見ながらでしか判断がつかないのだから、何度でも現れるかもしれない。その内、興味を失ってくれるといいけれど。
「だとしてもまた断ります」
「ええ。でもクラウディア様を煽らないように言葉を選びましょうね……。あと、今度は何を落とされても、気付かないふりして立ち去りましょう」
私が影祓いするからいいけれど、それでもユリアに呪術をかけられるかと思うと気分がいいものではない。
「もしクラウディア様が落ちた物を拾えと、ご命令されたらどうするのです」
「そうねぇ」
私は顎に指を当てて考える。
「あ、そうだわ。ほうきを持ち歩き、柄の部分で拾ってお渡ししたらどうかしら」
「ロザンヌ様の方が煽っているかと」
「だって。下民が触れると汚れるとおっしゃるのだもの。仕方ないわよ。ほうき越しなら良いでしょう」
直接触れて汚れるのを気にされているのだから、ほうき越しなら文句ないでしょ!
「承知いたしました」
「いえ、もちろん冗談よ。本気にしないで……」
ユリアなら本気でやりかねないから私はすぐさま否定した。
「とにかくできるだけ回避しつつ、出会ってしまった時には柔らかい対応をお願いね」
「柔らかい?」
ユリアは首を傾げる。
武術ばかりではなくて、人の上手いさばき方をジェラルドさんから学んでほしいものである。
苦笑して顔を正面に戻したその時。
「……あ」
「どうされました。―――ああ」
一つにまとめているリボンが解けたのを感じた。いや、解けたというよりも切れたということろか。
ユリアが私の髪からリボンを手に取ると、もうすっかりくたびれているのが分かった。長く使いすぎたようだ。
「今朝、切れそうだなと思っていました」
「思っていたなら、なぜこれを使ったのよ……」
「いつものお気に入りのリボンでとおっしゃっていたので、一日なら持つかと。ここに予備を持ってきました」
予測通りですと自慢げだけど、そういう問題ではないと思うの。
私は再び苦笑いの目を向けてしまうが、ユリアは構わず私の髪を簡単に一まとめにすると、リボンをつけてくれた。
「ありがとう。これは別の飾りに使うとして、もうそろそろ新しい物が欲しいわね」
王宮に来てから学校との往復のみで、買い物などに出かけた記憶がない。ん? 出かけたりしても良いのだろうか。
ジェラルドさんにまず伺ってみる。
「ジェラルド様、以前、殿下は路上生活者の方々の元に視察に訪れたことがあるとおっしゃっていたのですが、市井に出られることは多いのですか?」
「いえ。殿下は人の多い所に行かれると体調を崩されるので、必要最低限にとどめられているようです」
何も知らなかったら、人に酔うとは軟弱者めと罵っていただろうけれど、おそらく殿下は影に憑かれるのだろう。大勢の場所は影もより多いだろうから。
「そうなのですか。お買い物に出て良いのかなど、殿下に一度ご相談してみます」
ユリアと一緒に城下町のお洒落な雑貨屋さんや、お菓子屋さんを回れるかと思うと、わくわくした気持ちが湧き起こってくる。
「ユリアは? ユリアはもし町に出られるとしたら、何か欲しい物はある?」
私はユリアに話を振ってみたところ、彼女は少し考え。
「そうですね。短剣が欲しいです」
と、のたまった……。
34
あなたにおすすめの小説
転生貧乏令嬢メイドは見なかった!
seo
恋愛
血筋だけ特殊なファニー・イエッセル・クリスタラーは、名前や身元を偽りメイド業に勤しんでいた。何もないただ広いだけの領地はそれだけでお金がかかり、古い屋敷も修繕費がいくらあっても足りない。
いつものようにお茶会の給仕に携わった彼女は、令息たちの会話に耳を疑う。ある女性を誰が口説き落とせるかの賭けをしていた。その対象は彼女だった。絶対こいつらに関わらない。そんな決意は虚しく、親しくなれるように手筈を整えろと脅され断りきれなかった。抵抗はしたものの身分の壁は高く、メイドとしても令嬢としても賭けの舞台に上がることに。
これは前世の記憶を持つ貧乏な令嬢が、見なかったことにしたかったのに巻き込まれ、自分の存在を見なかったことにしない人たちと出会った物語。
#逆ハー風なところあり
#他サイトさまでも掲載しています(作者名2文字違いもあり)
王宮に薬を届けに行ったなら
佐倉ミズキ
恋愛
王宮で薬師をしているラナは、上司の言いつけに従い王子殿下のカザヤに薬を届けに行った。
カザヤは生まれつき体が弱く、臥せっていることが多い。
この日もいつも通り、カザヤに薬を届けに行ったラナだが仕事終わりに届け忘れがあったことに気が付いた。
慌ててカザヤの部屋へ行くと、そこで目にしたものは……。
弱々しく臥せっているカザヤがベッドから起き上がり、元気に動き回っていたのだ。
「俺の秘密を知ったのだから部屋から出すわけにはいかない」
驚くラナに、カザヤは不敵な笑みを浮かべた。
「今日、国王が崩御する。だからお前を部屋から出すわけにはいかない」
※ベリーズカフェにも掲載中です。そちらではラナの設定が変わっています。(貴族→庶民)それにより、内容も少し変更しておりますのであわせてお楽しみください。
次期騎士団長の秘密を知ってしまったら、迫られ捕まってしまいました
Karamimi
恋愛
侯爵令嬢で貴族学院2年のルミナスは、元騎士団長だった父親を8歳の時に魔物討伐で亡くした。一家の大黒柱だった父を亡くしたことで、次期騎士団長と期待されていた兄は騎士団を辞め、12歳という若さで侯爵を継いだ。
そんな兄を支えていたルミナスは、ある日貴族学院3年、公爵令息カルロスの意外な姿を見てしまった。学院卒院後は騎士団長になる事も決まっているうえ、容姿端麗で勉学、武術も優れているまさに完璧公爵令息の彼とはあまりにも違う姿に、笑いが止まらない。
お兄様の夢だった騎士団長の座を奪ったと、一方的にカルロスを嫌っていたルミナスだが、さすがにこの秘密は墓場まで持って行こう。そう決めていたのだが、翌日カルロスに捕まり、鼻息荒く迫って来る姿にドン引きのルミナス。
挙句の果てに“ルミタン”だなんて呼ぶ始末。もうあの男に関わるのはやめよう、そう思っていたのに…
意地っ張りで素直になれない令嬢、ルミナスと、ちょっと気持ち悪いがルミナスを誰よりも愛している次期騎士団長、カルロスが幸せになるまでのお話しです。
よろしくお願いしますm(__)m
幼馴染の生徒会長にポンコツ扱いされてフラれたので生徒会活動を手伝うのをやめたら全てがうまくいかなくなり幼馴染も病んだ
猫カレーฅ^•ω•^ฅ
恋愛
ずっと付き合っていると思っていた、幼馴染にある日別れを告げられた。
そこで気づいた主人公の幼馴染への依存ぶり。
たった一つボタンを掛け違えてしまったために、
最終的に学校を巻き込む大事件に発展していく。
主人公は幼馴染を取り戻すことが出来るのか!?
嘘つきな唇〜もう貴方のことは必要ありません〜
みおな
恋愛
伯爵令嬢のジュエルは、王太子であるシリウスから求婚され、王太子妃になるべく日々努力していた。
そんなある日、ジュエルはシリウスが一人の女性と抱き合っているのを見てしまう。
その日以来、何度も何度も彼女との逢瀬を重ねるシリウス。
そんなに彼女が好きなのなら、彼女を王太子妃にすれば良い。
ジュエルが何度そう言っても、シリウスは「彼女は友人だよ」と繰り返すばかり。
堂々と嘘をつくシリウスにジュエルは・・・
身分差婚~あなたの妻になれないはずだった~
椿蛍
恋愛
「息子と別れていただけないかしら?」
私を脅して、別れを決断させた彼の両親。
彼は高級住宅地『都久山』で王子様と呼ばれる存在。
私とは住む世界が違った……
別れを命じられ、私の恋が終わった。
叶わない身分差の恋だったはずが――
※R-15くらいなので※マークはありません。
※視点切り替えあり。
※2日間は1日3回更新、3日目から1日2回更新となります。
悪役令息(冤罪)が婿に来た
花車莉咲
恋愛
前世の記憶を持つイヴァ・クレマー
結婚等そっちのけで仕事に明け暮れていると久しぶりに参加した王家主催のパーティーで王女が婚約破棄!?
王女が婚約破棄した相手は公爵令息?
王女と親しくしていた神の祝福を受けた平民に嫌がらせをした?
あれ?もしかして恋愛ゲームの悪役令嬢じゃなくて悪役令息って事!?しかも公爵家の元嫡男って…。
その時改めて婚約破棄されたヒューゴ・ガンダー令息を見た。
彼の顔を見た瞬間強い既視感を感じて前世の記憶を掘り起こし彼の事を思い出す。
そうオタク友達が話していた恋愛小説のキャラクターだった事を。
彼が嫌がらせしたなんて事実はないという事を。
その数日後王家から正式な手紙がくる。
ヒューゴ・ガンダー令息と婚約するようにと「こうなったらヒューゴ様は私が幸せする!!」
イヴァは彼を幸せにする為に奮闘する。
「君は…どうしてそこまでしてくれるんだ?」「貴方に幸せになってほしいからですわ!」
心に傷を負い悪役令息にされた男とそんな彼を幸せにしたい元オタク令嬢によるラブコメディ!
※ざまぁ要素はあると思います。
※何もかもファンタジーな世界観なのでふわっとしております。
アンジェリーヌは一人じゃない
れもんぴーる
恋愛
義母からひどい扱いされても我慢をしているアンジェリーヌ。
メイドにも冷遇され、昔は仲が良かった婚約者にも冷たい態度をとられ居場所も逃げ場所もなくしていた。
そんな時、アルコール入りのチョコレートを口にしたアンジェリーヌの性格が激変した。
まるで別人になったように、言いたいことを言い、これまで自分に冷たかった家族や婚約者をこぎみよく切り捨てていく。
実は、アンジェリーヌの中にずっといた魂と入れ替わったのだ。
それはアンジェリーヌと一緒に生まれたが、この世に誕生できなかったアンジェリーヌの双子の魂だった。
新生アンジェリーヌはアンジェリーヌのため自由を求め、家を出る。
アンジェリーヌは満ち足りた生活を送り、愛する人にも出会うが、この身体は自分の物ではない。出来る事なら消えてしまった可哀そうな自分の半身に幸せになってもらいたい。でもそれは自分が消え、愛する人との別れの時。
果たしてアンジェリーヌの魂は戻ってくるのか。そしてその時もう一人の魂は・・・。
*タグに「平成の歌もあります」を追加しました。思っていたより歌に注目していただいたので(*´▽`*)
(なろうさま、カクヨムさまにも投稿予定です)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる