つかれやすい殿下のために掃除婦として就くことになりました

樹里

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第121話 欲しい物

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「ジェラルド様、お騒がせして申し訳ありませんでした」

 私はユリアから離れるとジェラルドさんに謝る。
 気持ちが落ち着いたら、馬車の中でユリアと言い合って騒いでいたことに気付いたから。……いえ、騒いだのは私だけかも。

「いいえ。ロザンヌ様の気高さに、ユリアさんの思いに、お二人のご関係にとても心が打たれました」
「お恥ずかしい限りです」

 穏やかに笑みを浮かべるジェラルドさんに、私は体を小さくした。

「そんなことはありません。……羨ましいです」

 最後の言葉はジェラルドさんらしくなく、呟くような声で。
 殿下とのご関係のことを思っていらっしゃるのだろうか。きっと殿下もジェラルドさんは誠実で心を許しても大丈夫だと考えられていると思うけれど、ご自分の立場上、なかなかそれができないのだろう。ジェラルドさんもそれが分かっているから、疑問に思っていることも尋ねられないでいる。

 殿下を差し置いて、私から言えることは何もない。ただ、互いを思っているのに告げられないのは、第三者でも見ていてつらいなと思うのみだ。

「あ。ああ、そうだわ」

 何だか場が重くなったので私は手を叩いて空気を変える。
 それに身勝手ながら自分のことばかりで、ユリアのことを聞くのをすっかり忘れていたのだ。

「ところでユリア、今日はクラウディア様の接触はなかった?」
「はい。ありませんでした」
「そう。でもあのようにおっしゃったわけだから、またあなたに会いに見えるでしょうね」

 彼女は影が見えないようだし、ユリアの体調や心の変化を見ながらでしか判断がつかないのだから、何度でも現れるかもしれない。その内、興味を失ってくれるといいけれど。

「だとしてもまた断ります」
「ええ。でもクラウディア様を煽らないように言葉を選びましょうね……。あと、今度は何を落とされても、気付かないふりして立ち去りましょう」

 私が影祓いするからいいけれど、それでもユリアに呪術をかけられるかと思うと気分がいいものではない。

「もしクラウディア様が落ちた物を拾えと、ご命令されたらどうするのです」
「そうねぇ」

 私は顎に指を当てて考える。

「あ、そうだわ。ほうきを持ち歩き、柄の部分で拾ってお渡ししたらどうかしら」
「ロザンヌ様の方が煽っているかと」
「だって。下民が触れると汚れるとおっしゃるのだもの。仕方ないわよ。ほうき越しなら良いでしょう」

 直接触れて汚れるのを気にされているのだから、ほうき越しなら文句ないでしょ!

「承知いたしました」
「いえ、もちろん冗談よ。本気にしないで……」

 ユリアなら本気でやりかねないから私はすぐさま否定した。

「とにかくできるだけ回避しつつ、出会ってしまった時には柔らかい対応をお願いね」
「柔らかい?」

 ユリアは首を傾げる。
 武術ばかりではなくて、人の上手いさばき方をジェラルドさんから学んでほしいものである。
 苦笑して顔を正面に戻したその時。

「……あ」
「どうされました。―――ああ」

 一つにまとめているリボンが解けたのを感じた。いや、解けたというよりも切れたということろか。
 ユリアが私の髪からリボンを手に取ると、もうすっかりくたびれているのが分かった。長く使いすぎたようだ。

「今朝、切れそうだなと思っていました」
「思っていたなら、なぜこれを使ったのよ……」
「いつものお気に入りのリボンでとおっしゃっていたので、一日なら持つかと。ここに予備を持ってきました」

 予測通りですと自慢げだけど、そういう問題ではないと思うの。
 私は再び苦笑いの目を向けてしまうが、ユリアは構わず私の髪を簡単に一まとめにすると、リボンをつけてくれた。

「ありがとう。これは別の飾りに使うとして、もうそろそろ新しい物が欲しいわね」

 王宮に来てから学校との往復のみで、買い物などに出かけた記憶がない。ん? 出かけたりしても良いのだろうか。
 ジェラルドさんにまず伺ってみる。

「ジェラルド様、以前、殿下は路上生活者の方々の元に視察に訪れたことがあるとおっしゃっていたのですが、市井に出られることは多いのですか?」
「いえ。殿下は人の多い所に行かれると体調を崩されるので、必要最低限にとどめられているようです」

 何も知らなかったら、人に酔うとは軟弱者めと罵っていただろうけれど、おそらく殿下は影に憑かれるのだろう。大勢の場所は影もより多いだろうから。

「そうなのですか。お買い物に出て良いのかなど、殿下に一度ご相談してみます」

 ユリアと一緒に城下町のお洒落な雑貨屋さんや、お菓子屋さんを回れるかと思うと、わくわくした気持ちが湧き起こってくる。

「ユリアは? ユリアはもし町に出られるとしたら、何か欲しい物はある?」

 私はユリアに話を振ってみたところ、彼女は少し考え。

「そうですね。短剣が欲しいです」

 と、のたまった……。
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