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第202話 自分のために生きてほしい
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ひとまずこれ以上の呪いに関しての手掛かりは無さそうだということで、本日はここで終了という形になった。
ユリアの翻訳は国王陛下に確認の上ということになる。そもそも王族側も、一般庶民に歴史書を解読させるにあたって審議が必要だろうから。
もっともこの件に関して主導権があるのは、ユリアであるということは間違いない。
「本日は解散ということになるけれど。ユリア、お部屋に戻る?」
私がユリアに話を振ると彼女はジェラルドさんを見た。
まさかこれからまた鍛練ですか。と言うか、目で訴えるのは止めなさい。
視線に気付いたジェラルドさんは微笑む。
「お時間があるようでしたらこの後、鍛練いたしますか」
ジェラルド様から誘ってくださるとは、やはりお優しい方です。
「はい。お願いいたします。ロザンヌ様はどうなさいますか」
「わたくしはお部屋に戻って休みます」
「それではお部屋にお茶のご用意をしてから」
「いいえ。いらないわ。そのまま行ってくれればいいから。ここで解散いたしましょう」
「かしこまりました」
ユリアにそう言うと、今度はジェラルドさんが殿下を見た。
「それではまずお部屋までお送りいたします」
「いや。私もいい。少しロザンヌ嬢と話があるから、君たちは先に行ってくれ」
ジェラルドさんとユリアは顔を見合わせたけれど、それぞれ私たちが頷いたことにより、承知いたしましたと声を合わせて頷いた。
「ではお先に失礼いたします」
「失礼いたします」
礼を取ると二人は書庫室から退室した。
室内が静かになったところで、殿下は私に声をかける。
「ロザンヌ嬢、座ってくれ」
「はい」
殿下とはまた向かい合わせで座った。
私と視線の高さが近くなるなり殿下は話を切り出す。
「ユリア・ラドロ、ユリア・ジャンメールのことだが、君は彼女の路上生活以前のことは聞いたことがなかったのか?」
「はい。わたくしも出会った頃は幼かったですし、この年になるまで彼女の過去は知りませんでした。知らなくても良いと思っていたのです。過去ではなくて今が大切だからと。でも」
私は自嘲する。
自分のこれまでの接し方は間違っていたのかもしれないと。
「過去を乗り越えて今のユリアがあるのですよね。過去もやはり彼女の人生の一部。本当にユリアを守りたいと思うならば、彼女の過去をもっと深く堀りこんで聞き出すべきだったのかもしれません」
「誰にだって触れられたくない傷はある。今までその傷に触れずにいたから、時を経て癒えてきた傷について話せたのかもしれない」
「……ありがとうございます」
殿下の気遣いに私は笑みを作った。
「先ほどは試すような口調で申し訳ございませんでした」
「試すというか、脅し口調だったと思うが?」
殿下はからかい半分、苦笑いした。
うん。確かにそうとも言うかもしれない。私もすみませんと苦笑を返した。
「ユリアはこれまでほとんど自分から望みを口にしませんでした。王宮に来てからも鍛練がしたいとか、ナイフが欲しいとかそれらは全てわたくしのため。自分のための望みではありません。ずっと人のために生きてきたのです」
お父様から預かった言語もまたそうだろう。それを引き継ぐために必死で命を繋いできたのかもしれない。そして殿下に翻訳を頼まれて引き受けたのも、きっと私のため。私たちダングルベール家のため。
「だからこれからは誰かのためではなく、自分のために生きてほしいのです。ユリアが自身で望むことをしてほしい。ですからユリアが拒否するのならば、わたくしはたとえ王家からでも全力で彼女を守ります」
非力かもしれない。それでも精一杯食いついてやる。
王家に反抗すべき闘志を見せる私に対して、なぜか殿下は眩しそうに目を細めた。
「……君もまた彼女のために生きてきたのではないのか?」
「いいえ、殿下。わたくしは自分がそうしたくて生きてまいりました」
私は胸を張って手を当てると、殿下はふっと笑みを零した。
「では彼女もきっとそうだろう。誰かのために生きてきたのではない。彼女自身がそうしたくて生きてきたはずだ」
「え……」
「あまり彼女を見くびらない方がいい。今度こそ真っ当な生き方で独り立ちできるほど成長し、先立つ物もできただろう。本当に嫌ならば君の元から去っているはずだ」
ユリアは今、自分のために生きているのだろうか。私になど言われなくたって、心は自由に生きているのだろうか。自分で望んで私の側にいてくれるのだろうか。
「だとしたら……そんなに嬉しいことはありませんね」
私は自然に顔をほころばせた。
ユリアの翻訳は国王陛下に確認の上ということになる。そもそも王族側も、一般庶民に歴史書を解読させるにあたって審議が必要だろうから。
もっともこの件に関して主導権があるのは、ユリアであるということは間違いない。
「本日は解散ということになるけれど。ユリア、お部屋に戻る?」
私がユリアに話を振ると彼女はジェラルドさんを見た。
まさかこれからまた鍛練ですか。と言うか、目で訴えるのは止めなさい。
視線に気付いたジェラルドさんは微笑む。
「お時間があるようでしたらこの後、鍛練いたしますか」
ジェラルド様から誘ってくださるとは、やはりお優しい方です。
「はい。お願いいたします。ロザンヌ様はどうなさいますか」
「わたくしはお部屋に戻って休みます」
「それではお部屋にお茶のご用意をしてから」
「いいえ。いらないわ。そのまま行ってくれればいいから。ここで解散いたしましょう」
「かしこまりました」
ユリアにそう言うと、今度はジェラルドさんが殿下を見た。
「それではまずお部屋までお送りいたします」
「いや。私もいい。少しロザンヌ嬢と話があるから、君たちは先に行ってくれ」
ジェラルドさんとユリアは顔を見合わせたけれど、それぞれ私たちが頷いたことにより、承知いたしましたと声を合わせて頷いた。
「ではお先に失礼いたします」
「失礼いたします」
礼を取ると二人は書庫室から退室した。
室内が静かになったところで、殿下は私に声をかける。
「ロザンヌ嬢、座ってくれ」
「はい」
殿下とはまた向かい合わせで座った。
私と視線の高さが近くなるなり殿下は話を切り出す。
「ユリア・ラドロ、ユリア・ジャンメールのことだが、君は彼女の路上生活以前のことは聞いたことがなかったのか?」
「はい。わたくしも出会った頃は幼かったですし、この年になるまで彼女の過去は知りませんでした。知らなくても良いと思っていたのです。過去ではなくて今が大切だからと。でも」
私は自嘲する。
自分のこれまでの接し方は間違っていたのかもしれないと。
「過去を乗り越えて今のユリアがあるのですよね。過去もやはり彼女の人生の一部。本当にユリアを守りたいと思うならば、彼女の過去をもっと深く堀りこんで聞き出すべきだったのかもしれません」
「誰にだって触れられたくない傷はある。今までその傷に触れずにいたから、時を経て癒えてきた傷について話せたのかもしれない」
「……ありがとうございます」
殿下の気遣いに私は笑みを作った。
「先ほどは試すような口調で申し訳ございませんでした」
「試すというか、脅し口調だったと思うが?」
殿下はからかい半分、苦笑いした。
うん。確かにそうとも言うかもしれない。私もすみませんと苦笑を返した。
「ユリアはこれまでほとんど自分から望みを口にしませんでした。王宮に来てからも鍛練がしたいとか、ナイフが欲しいとかそれらは全てわたくしのため。自分のための望みではありません。ずっと人のために生きてきたのです」
お父様から預かった言語もまたそうだろう。それを引き継ぐために必死で命を繋いできたのかもしれない。そして殿下に翻訳を頼まれて引き受けたのも、きっと私のため。私たちダングルベール家のため。
「だからこれからは誰かのためではなく、自分のために生きてほしいのです。ユリアが自身で望むことをしてほしい。ですからユリアが拒否するのならば、わたくしはたとえ王家からでも全力で彼女を守ります」
非力かもしれない。それでも精一杯食いついてやる。
王家に反抗すべき闘志を見せる私に対して、なぜか殿下は眩しそうに目を細めた。
「……君もまた彼女のために生きてきたのではないのか?」
「いいえ、殿下。わたくしは自分がそうしたくて生きてまいりました」
私は胸を張って手を当てると、殿下はふっと笑みを零した。
「では彼女もきっとそうだろう。誰かのために生きてきたのではない。彼女自身がそうしたくて生きてきたはずだ」
「え……」
「あまり彼女を見くびらない方がいい。今度こそ真っ当な生き方で独り立ちできるほど成長し、先立つ物もできただろう。本当に嫌ならば君の元から去っているはずだ」
ユリアは今、自分のために生きているのだろうか。私になど言われなくたって、心は自由に生きているのだろうか。自分で望んで私の側にいてくれるのだろうか。
「だとしたら……そんなに嬉しいことはありませんね」
私は自然に顔をほころばせた。
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