つかれやすい殿下のために掃除婦として就くことになりました

樹里

文字の大きさ
202 / 315

第202話 自分のために生きてほしい

しおりを挟む
 ひとまずこれ以上の呪いに関しての手掛かりは無さそうだということで、本日はここで終了という形になった。

 ユリアの翻訳は国王陛下に確認の上ということになる。そもそも王族側も、一般庶民に歴史書を解読させるにあたって審議が必要だろうから。
 もっともこの件に関して主導権があるのは、ユリアであるということは間違いない。

「本日は解散ということになるけれど。ユリア、お部屋に戻る?」

 私がユリアに話を振ると彼女はジェラルドさんを見た。
 まさかこれからまた鍛練ですか。と言うか、目で訴えるのは止めなさい。

 視線に気付いたジェラルドさんは微笑む。

「お時間があるようでしたらこの後、鍛練いたしますか」

 ジェラルド様から誘ってくださるとは、やはりお優しい方です。

「はい。お願いいたします。ロザンヌ様はどうなさいますか」
「わたくしはお部屋に戻って休みます」
「それではお部屋にお茶のご用意をしてから」
「いいえ。いらないわ。そのまま行ってくれればいいから。ここで解散いたしましょう」
「かしこまりました」

 ユリアにそう言うと、今度はジェラルドさんが殿下を見た。

「それではまずお部屋までお送りいたします」
「いや。私もいい。少しロザンヌ嬢と話があるから、君たちは先に行ってくれ」

 ジェラルドさんとユリアは顔を見合わせたけれど、それぞれ私たちが頷いたことにより、承知いたしましたと声を合わせて頷いた。

「ではお先に失礼いたします」
「失礼いたします」

 礼を取ると二人は書庫室から退室した。
 室内が静かになったところで、殿下は私に声をかける。

「ロザンヌ嬢、座ってくれ」
「はい」

 殿下とはまた向かい合わせで座った。
 私と視線の高さが近くなるなり殿下は話を切り出す。

「ユリア・ラドロ、ユリア・ジャンメールのことだが、君は彼女の路上生活以前のことは聞いたことがなかったのか?」
「はい。わたくしも出会った頃は幼かったですし、この年になるまで彼女の過去は知りませんでした。知らなくても良いと思っていたのです。過去ではなくて今が大切だからと。でも」

 私は自嘲する。
 自分のこれまでの接し方は間違っていたのかもしれないと。

「過去を乗り越えて今のユリアがあるのですよね。過去もやはり彼女の人生の一部。本当にユリアを守りたいと思うならば、彼女の過去をもっと深く堀りこんで聞き出すべきだったのかもしれません」
「誰にだって触れられたくない傷はある。今までその傷に触れずにいたから、時を経て癒えてきた傷について話せたのかもしれない」
「……ありがとうございます」

 殿下の気遣いに私は笑みを作った。

「先ほどは試すような口調で申し訳ございませんでした」
「試すというか、脅し口調だったと思うが?」

 殿下はからかい半分、苦笑いした。
 うん。確かにそうとも言うかもしれない。私もすみませんと苦笑を返した。

「ユリアはこれまでほとんど自分から望みを口にしませんでした。王宮に来てからも鍛練がしたいとか、ナイフが欲しいとかそれらは全てわたくしのため。自分のための望みではありません。ずっと人のために生きてきたのです」

 お父様から預かった言語もまたそうだろう。それを引き継ぐために必死で命を繋いできたのかもしれない。そして殿下に翻訳を頼まれて引き受けたのも、きっと私のため。私たちダングルベール家のため。

「だからこれからは誰かのためではなく、自分のために生きてほしいのです。ユリアが自身で望むことをしてほしい。ですからユリアが拒否するのならば、わたくしはたとえ王家からでも全力で彼女を守ります」

 非力かもしれない。それでも精一杯食いついてやる。
 王家に反抗すべき闘志を見せる私に対して、なぜか殿下は眩しそうに目を細めた。

「……君もまた彼女のために生きてきたのではないのか?」
「いいえ、殿下。わたくしは自分がそうしたくて生きてまいりました」

 私は胸を張って手を当てると、殿下はふっと笑みを零した。

「では彼女もきっとそうだろう。誰かのために生きてきたのではない。彼女自身がそうしたくて生きてきたはずだ」
「え……」
「あまり彼女を見くびらない方がいい。今度こそ真っ当な生き方で独り立ちできるほど成長し、先立つ物もできただろう。本当に嫌ならば君の元から去っているはずだ」

 ユリアは今、自分のために生きているのだろうか。私になど言われなくたって、心は自由に生きているのだろうか。自分で望んで私の側にいてくれるのだろうか。

「だとしたら……そんなに嬉しいことはありませんね」

 私は自然に顔をほころばせた。
しおりを挟む
感想 262

あなたにおすすめの小説

身分差婚~あなたの妻になれないはずだった~

椿蛍
恋愛
「息子と別れていただけないかしら?」 私を脅して、別れを決断させた彼の両親。 彼は高級住宅地『都久山』で王子様と呼ばれる存在。 私とは住む世界が違った…… 別れを命じられ、私の恋が終わった。 叶わない身分差の恋だったはずが―― ※R-15くらいなので※マークはありません。 ※視点切り替えあり。 ※2日間は1日3回更新、3日目から1日2回更新となります。

牢で死ぬはずだった公爵令嬢

鈴元 香奈
恋愛
婚約していた王子に裏切られ無実の罪で牢に入れられてしまった公爵令嬢リーゼは、牢番に助け出されて見知らぬ男に託された。 表紙女性イラストはしろ様(SKIMA)、背景はくらうど職人様(イラストAC)、馬上の人物はシルエットACさんよりお借りしています。 小説家になろうさんにも投稿しています。

アンジェリーヌは一人じゃない

れもんぴーる
恋愛
義母からひどい扱いされても我慢をしているアンジェリーヌ。 メイドにも冷遇され、昔は仲が良かった婚約者にも冷たい態度をとられ居場所も逃げ場所もなくしていた。 そんな時、アルコール入りのチョコレートを口にしたアンジェリーヌの性格が激変した。 まるで別人になったように、言いたいことを言い、これまで自分に冷たかった家族や婚約者をこぎみよく切り捨てていく。 実は、アンジェリーヌの中にずっといた魂と入れ替わったのだ。 それはアンジェリーヌと一緒に生まれたが、この世に誕生できなかったアンジェリーヌの双子の魂だった。 新生アンジェリーヌはアンジェリーヌのため自由を求め、家を出る。 アンジェリーヌは満ち足りた生活を送り、愛する人にも出会うが、この身体は自分の物ではない。出来る事なら消えてしまった可哀そうな自分の半身に幸せになってもらいたい。でもそれは自分が消え、愛する人との別れの時。 果たしてアンジェリーヌの魂は戻ってくるのか。そしてその時もう一人の魂は・・・。 *タグに「平成の歌もあります」を追加しました。思っていたより歌に注目していただいたので(*´▽`*) (なろうさま、カクヨムさまにも投稿予定です)

【完結】地味な私と公爵様

ベル
恋愛
ラエル公爵。この学園でこの名を知らない人はいないでしょう。 端正な顔立ちに甘く低い声、時折見せる少年のような笑顔。誰もがその美しさに魅了され、女性なら誰もがラエル様との結婚を夢見てしまう。 そんな方が、平凡...いや、かなり地味で目立たない伯爵令嬢である私の婚約者だなんて一体誰が信じるでしょうか。 ...正直私も信じていません。 ラエル様が、私を溺愛しているなんて。 きっと、きっと、夢に違いありません。 お読みいただきありがとうございます。短編のつもりで書き始めましたが、意外と話が増えて長編に変更し、無事完結しました(*´-`)

0歳児に戻った私。今度は少し口を出したいと思います。

アズやっこ
恋愛
 ❈ 追記 長編に変更します。 16歳の時、私は第一王子と婚姻した。 いとこの第一王子の事は好き。でもこの好きはお兄様を思う好きと同じ。だから第二王子の事も好き。 私の好きは家族愛として。 第一王子と婚約し婚姻し家族愛とはいえ愛はある。だから何とかなる、そう思った。 でも人の心は何とかならなかった。 この国はもう終わる… 兄弟の対立、公爵の裏切り、まるでボタンの掛け違い。 だから歪み取り返しのつかない事になった。 そして私は暗殺され… 次に目が覚めた時0歳児に戻っていた。  ❈ 作者独自の世界観です。  ❈ 作者独自の設定です。こういう設定だとご了承頂けると幸いです。

いくら政略結婚だからって、そこまで嫌わなくてもいいんじゃないですか?いい加減、腹が立ってきたんですけど!

夢呼
恋愛
伯爵令嬢のローゼは大好きな婚約者アーサー・レイモンド侯爵令息との結婚式を今か今かと待ち望んでいた。 しかし、結婚式の僅か10日前、その大好きなアーサーから「私から愛されたいという思いがあったら捨ててくれ。それに応えることは出来ない」と告げられる。 ローゼはその言葉にショックを受け、熱を出し寝込んでしまう。数日間うなされ続け、やっと目を覚ました。前世の記憶と共に・・・。 愛されることは無いと分かっていても、覆すことが出来ないのが貴族間の政略結婚。日本で生きたアラサー女子の「私」が八割心を占めているローゼが、この政略結婚に臨むことになる。 いくら政略結婚といえども、親に孫を見せてあげて親孝行をしたいという願いを持つローゼは、何とかアーサーに振り向いてもらおうと頑張るが、鉄壁のアーサーには敵わず。それどころか益々嫌われる始末。 一体私の何が気に入らないんだか。そこまで嫌わなくてもいいんじゃないんですかね!いい加減腹立つわっ! 世界観はゆるいです! カクヨム様にも投稿しております。 ※10万文字を超えたので長編に変更しました。

ぐうたら令嬢は公爵令息に溺愛されています

Karamimi
恋愛
伯爵令嬢のレイリスは、今年で16歳。毎日ぐうたらした生活をしている。貴族としてはあり得ないような服を好んで着、昼間からゴロゴロと過ごす。 ただ、レイリスは非常に優秀で、12歳で王都の悪党どもを束ね揚げ、13歳で領地を立て直した腕前。 そんなレイリスに、両親や兄姉もあまり強く言う事が出来ず、専属メイドのマリアンだけが口うるさく言っていた。 このままやりたい事だけをやり、ゴロゴロしながら一生暮らそう。そう思っていたレイリスだったが、お菓子につられて参加したサフィーロン公爵家の夜会で、彼女の運命を大きく変える出来事が起こってしまって… ※ご都合主義のラブコメディです。 よろしくお願いいたします。 カクヨムでも同時投稿しています。

【完結】一番腹黒いのはだあれ?

やまぐちこはる
恋愛
■□■ 貧しいコイント子爵家のソンドールは、貴族学院には進学せず、騎士学校に通って若くして正騎士となった有望株である。 三歳でコイント家に養子に来たソンドールの生家はパートルム公爵家。 しかし、関わりを持たずに生きてきたため、自分が公爵家生まれだったことなどすっかり忘れていた。 ある日、実の父がソンドールに会いに来て、自分の出自を改めて知り、勝手なことを言う実父に憤りながらも、生家の騒動に巻き込まれていく。

処理中です...