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第201話 条件をつける
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「殿下。少しお待ちくださいな」
殿下とユリアのやり取りを静観していたけれど、彼女が殿下の下命を承るという言葉に私は口を開いた。
「何だ?」
「ユリアはわたくしの侍女です。まずわたくしにお伺いを立てていただきましょうか」
私は座ったままでふてぶてしく腕を組んでみせる。
「しかし彼女は今、承ると」
「わたくしはまだユリアを翻訳者としてここに仕わすことを承知しておりませんが。そうよね、ユリア」
「はい。ロザンヌ様のお許しが得られないのならば、今の話は無かったことに致します」
ユリアならたとえ王命よりも私を優先してくれると考えた上でのことだったが、彼女はやはりあっさりと頷いてくれた。
殿下も、私に背いてまで頑固な彼女は動くことはないと感じたのだろう。ため息を吐く。
「何が望みだ?」
ここは絶対に引いてはならないことである。
私は少しでも態度が大きく見えるように椅子から立ち上がると、右手の指を一本立てる。
「まずはユリアの身の安全です」
「身の安全?」
「ユリアはおそらくこの国で唯一、失われた旧字を翻訳できる人間でしょう。利用価値は計り知れません。頻繁に書庫室に出入りするのを万が一、誰かに見られたりしたら、目をつけられることになるかもしれません。ですから絶対に人気のない時に出入りさせること。あるいは出入りしても不自然ではない職に建前上、就かせること」
誰かというと、この書庫に出入りできる唯一の貴族、ベルモンテ侯爵家ということだけれど、そこまでは言わない。殿下も分かっているはず。
「それはもちろんだ」
頷く殿下を確認して私は二本目の指を立てる。
「次にユリアの侍女の仕事量を減らし、お給金を上げること。特別手当でも構いません」
「分かった。父上、陛下に相談するが承認されるはずだ」
「では、三つ目」
私は指を三本立てた。
「ユリアが物事の優先順位を決め、嫌になったら彼女の意思を尊重し、ご下命を直ちに撤回した上、自由にしてそれ以降はユリアの生活を侵害しないこと」
「なかなか要求が多いな」
「あら。まだ続きますよ」
苦笑いする殿下に私は薄ら笑いを返し、四本目の指を立てる。
「以上のことを書面に残し、ユリアに渡すこと」
「分かった。それだけか?」
「いいえ。最後に」
私は五本目の指を全て立てて、手の平を見せた。
「これが一番重要で最初にしていただくことです。ユリアのお父様に依頼したのは王家であるのか、陛下にご確認すること。なお、もし虚偽が分かれば、直ちにわたくし共は引き上げさせていただきます」
自分の利のためだけに嘘をつかれたらそれ以降、信頼することなどできない。私も今の職を辞させていただくことにする。
「……念の為に聞くが、もし、王家が依頼したと分かった場合は?」
「わたくしはただ真実をユリアに伝えてほしいだけです。王家が依頼したとしても、わたくしは殿下の影祓いを続けさせていただきます。ただし」
私はユリアを見た。
相変わらず感情の色を表面には見せず、私をただひたすらに見つめている。
「ただし、翻訳のことに関しての最終判断はユリアの意思に任せます」
ユリアの家庭を奪ったのが王家による依頼が原因だったとして、それが彼女に憎しみや嫌悪感を抱かせるのならば私はそんな真似をさせない。けれどお父様の意思を引き継ぎたいと彼女が望むのならば、そうさせてあげたい。全てはユリア次第だ。
「彼女に……。君は彼女のことばかりだな」
「ええ。わたくしがユリアをこの王宮に無理やり連れてきて巻き込んだ以上、わたくしには彼女の身と自由を守る責任があります。ユリアは条件をつけないでしょうから、わたくしが代わりに申し上げます」
「なるほど」
殿下は大きくため息をついた。
「分かった。結果はどうあろうと、君は私の側にいるんだな」
「はい。誠意さえ見せていただければ」
「それだけは約束しよう。君を失うことだけはしたくない」
言葉だけ聞くとまるで恋い慕っているような台詞だ。まあ、今のこの緊迫した空気には全くそぐわないが。
「わたくしもできれば今後も、殿下のお力添えをさせていただきたいと思っております。どうぞ嘘偽りのありませんようにお願い申し上げます」
私はしずしずと礼を取った。
殿下とユリアのやり取りを静観していたけれど、彼女が殿下の下命を承るという言葉に私は口を開いた。
「何だ?」
「ユリアはわたくしの侍女です。まずわたくしにお伺いを立てていただきましょうか」
私は座ったままでふてぶてしく腕を組んでみせる。
「しかし彼女は今、承ると」
「わたくしはまだユリアを翻訳者としてここに仕わすことを承知しておりませんが。そうよね、ユリア」
「はい。ロザンヌ様のお許しが得られないのならば、今の話は無かったことに致します」
ユリアならたとえ王命よりも私を優先してくれると考えた上でのことだったが、彼女はやはりあっさりと頷いてくれた。
殿下も、私に背いてまで頑固な彼女は動くことはないと感じたのだろう。ため息を吐く。
「何が望みだ?」
ここは絶対に引いてはならないことである。
私は少しでも態度が大きく見えるように椅子から立ち上がると、右手の指を一本立てる。
「まずはユリアの身の安全です」
「身の安全?」
「ユリアはおそらくこの国で唯一、失われた旧字を翻訳できる人間でしょう。利用価値は計り知れません。頻繁に書庫室に出入りするのを万が一、誰かに見られたりしたら、目をつけられることになるかもしれません。ですから絶対に人気のない時に出入りさせること。あるいは出入りしても不自然ではない職に建前上、就かせること」
誰かというと、この書庫に出入りできる唯一の貴族、ベルモンテ侯爵家ということだけれど、そこまでは言わない。殿下も分かっているはず。
「それはもちろんだ」
頷く殿下を確認して私は二本目の指を立てる。
「次にユリアの侍女の仕事量を減らし、お給金を上げること。特別手当でも構いません」
「分かった。父上、陛下に相談するが承認されるはずだ」
「では、三つ目」
私は指を三本立てた。
「ユリアが物事の優先順位を決め、嫌になったら彼女の意思を尊重し、ご下命を直ちに撤回した上、自由にしてそれ以降はユリアの生活を侵害しないこと」
「なかなか要求が多いな」
「あら。まだ続きますよ」
苦笑いする殿下に私は薄ら笑いを返し、四本目の指を立てる。
「以上のことを書面に残し、ユリアに渡すこと」
「分かった。それだけか?」
「いいえ。最後に」
私は五本目の指を全て立てて、手の平を見せた。
「これが一番重要で最初にしていただくことです。ユリアのお父様に依頼したのは王家であるのか、陛下にご確認すること。なお、もし虚偽が分かれば、直ちにわたくし共は引き上げさせていただきます」
自分の利のためだけに嘘をつかれたらそれ以降、信頼することなどできない。私も今の職を辞させていただくことにする。
「……念の為に聞くが、もし、王家が依頼したと分かった場合は?」
「わたくしはただ真実をユリアに伝えてほしいだけです。王家が依頼したとしても、わたくしは殿下の影祓いを続けさせていただきます。ただし」
私はユリアを見た。
相変わらず感情の色を表面には見せず、私をただひたすらに見つめている。
「ただし、翻訳のことに関しての最終判断はユリアの意思に任せます」
ユリアの家庭を奪ったのが王家による依頼が原因だったとして、それが彼女に憎しみや嫌悪感を抱かせるのならば私はそんな真似をさせない。けれどお父様の意思を引き継ぎたいと彼女が望むのならば、そうさせてあげたい。全てはユリア次第だ。
「彼女に……。君は彼女のことばかりだな」
「ええ。わたくしがユリアをこの王宮に無理やり連れてきて巻き込んだ以上、わたくしには彼女の身と自由を守る責任があります。ユリアは条件をつけないでしょうから、わたくしが代わりに申し上げます」
「なるほど」
殿下は大きくため息をついた。
「分かった。結果はどうあろうと、君は私の側にいるんだな」
「はい。誠意さえ見せていただければ」
「それだけは約束しよう。君を失うことだけはしたくない」
言葉だけ聞くとまるで恋い慕っているような台詞だ。まあ、今のこの緊迫した空気には全くそぐわないが。
「わたくしもできれば今後も、殿下のお力添えをさせていただきたいと思っております。どうぞ嘘偽りのありませんようにお願い申し上げます」
私はしずしずと礼を取った。
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