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【番外編:ユリア編】
第311話 伝えている言葉。届かない思い(三)
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「可愛いお花ね。わたくし、こういうお花が好きだわ。ありが――あ! 今日のお菓子もわたくしが好きな物! 紅茶も良い香りね。好きな香りだわ。味はどれどれ。美味しい! これも好きな紅茶の一つになりそうだわ。色々用意してくれてありがとう。ユリア、大好――」
「ロザンヌ様。好きを連呼しないでください。言葉が軽くなってしまいます」
「わ、わかっはぁ……。のれ、てをはなひて」
ロザンヌ様が情けなそうに眉を落として訴え来た。
そこでようやく私はロザンヌ様の口元を思いっきり横に伸ばしていたことに気付く。
「失礼いたしました」
ロザンヌ様が口元を両手でさすっている姿を見ながら謝罪する。
「いいわよ……。でもどうしてそんなに急に好きという言葉にこだわりだしたの?」
「別にこだわっていません」
「そう。ユリアは、好きか嫌いか分かっていれば良いと言っていたでしょう。だからわたくしはユリアにならって、好きなものは好きと言っているだけよ?」
何となく面白がっている様子で口角を上げるロザンヌ様。
「好きなものは好きだけでは伝わらないこともあります」
「そうね。あなたは最初に言葉を軽く扱いすぎたものね」
「ロザンヌ様に言われるのは心外なのですが」
ロザンヌ様は頬に手を当ててため息をつくが、その言葉に関してはそのままお返ししたい。
「ユリアは好きだって伝えたい――人がいるの?」
「そういうわけでは。……分かりません」
伝わらなくてもいいと思っていた。けれど伝えているのに届かない言葉はもどかしさや虚しさを感じた。胸に痛みを覚えた。
一方で伝えていいものなのか分からない。
「あのね、ユリア。わたくしは自分の思いをきちんと伝えなかったことを後悔したわ。皆にも迷惑をかけたし、わたくしの行為は間違いだったと思う。伝えることがいつも正しいとは思わないけれど、自分の心に嘘をついて後悔することだけはしないでね」
「……はい」
「ユリア、執務室に行って来るわね」
学校から帰り、侍女服で身を包んだロザンヌ様は私に声をかけた。
侍女姿もすっかり板についている。
「はい。明日の鍛錬の許可をジェラルド様に頂きたいので、私も一緒に行きます」
「そうなの。では行きましょう」
部屋を出て二人、執務室へと向かう。
「最近、こちらの都合でユリアを連れ回してばかりだったものね。ごめんなさい」
「いいえ。とても興味深かったです」
サンルーモでロザンヌ様に仕えている時も不満に思ったことなどなかったが、環境が変わってこれまでとは違うものに関わっていくこともそう悪くないと思った。
「だったらいいのだけれど。……ところで。ユリアが好きなものは何? お茶以外で」
「何ですか、藪から棒に」
「わたくし、あまりユリアのことを知らなかったなと思ったの。ご家族のことも知らなかったし、お母様のお名前も先日知ったところだったわ。ごめんなさい」
ロザンヌ様は申し訳なさそうに眉を落とす。
私の方がこれまで話してこなかっただけだ。それに、必要以上に追及されなかったからこそ、今語れる自分がいるのだと思う。
「いいえ。知ってくださろうとしてありがとうございます。嬉しいです」
「うん! それでユリアが好きなものは? 今欲しいものとかね」
「それは考えたことがないので分からないです」
「あ、そう……」
今度はがっかりしたように肩を落とした。
「失礼いたします」
ロザンヌ様に続いて護衛官室に足を踏み入れると、ジェラルド様はいつものように席から立ち上がり笑顔で迎えてくれた。
「ロザンヌ様。……ユリアさん?」
「明日のご相談で今日はユリアも一緒に来たのです」
特別な用事がない限り、鍛錬をお願いするジェラルド様がお休みの日しか私は来ないので疑問に思われたようだ。
ロザンヌ様が私に代わり答えてくれた。
「そうでしたか。ではまずロザンヌ様をご案内いたしますね」
「ありがとうございます。ではね、ユリア」
「はい」
ジェラルド様は殿下から入室許可を取り、ロザンヌ様は執務室へと入っていった。
「お待たせいたしました、ユリアさん」
振り返ったジェラルドさんは穏やかな笑みを浮かべている。
「いいえ。明日のお休みについてですが」
「ええ。鍛錬ですね。明日は大丈夫です。このところ何かと忙しかったので、久々ですね」
「いえ。ジェラルド様のご指導は結構です」
「……え?」
しまった。
今の言い方はあまりにも単調で、まるで突き放すような口調になった。
「あ、いえ。要領は分かっていますし、許可だけ頂ければと。他の方と手合わせしていただきますし」
急いで言葉を補足したが、それでも笑みを消したジェラルド様は私をじっと見つめる。
静寂に沈むこの空間に息苦しさを感じた時、ジェラルド様が口を開いた。
「私がご一緒してはご迷惑でしょうか」
「い、え」
ジェラルド様の穏やかな口調は何一つ変わらないのに、なぜか動揺して声が掠れる。
「ジェラルド様は重大任務で日々、粉骨砕身されているお方です。私のために貴重なお時間を削っていただくことに申し訳なさを感じています」
「私はあなたとご一緒できる時間を幸せに感じています。私はユリアさんが好きですから」
また胸に響く言葉に息が詰まってしまう。けれど黙ったまま返答を待つジェラルド様を前に私は口を開く。
「私もご一緒できれば嬉しく思います。私も……ジェラルド様が好きですから」
「ありがとうございます」
ジェラルド様はようやくいつもの笑みを取り戻した。
伝えてもらって響いた言葉。伝えているのに届かない思い。
本当にこれで…………。
「ロザンヌ様。好きを連呼しないでください。言葉が軽くなってしまいます」
「わ、わかっはぁ……。のれ、てをはなひて」
ロザンヌ様が情けなそうに眉を落として訴え来た。
そこでようやく私はロザンヌ様の口元を思いっきり横に伸ばしていたことに気付く。
「失礼いたしました」
ロザンヌ様が口元を両手でさすっている姿を見ながら謝罪する。
「いいわよ……。でもどうしてそんなに急に好きという言葉にこだわりだしたの?」
「別にこだわっていません」
「そう。ユリアは、好きか嫌いか分かっていれば良いと言っていたでしょう。だからわたくしはユリアにならって、好きなものは好きと言っているだけよ?」
何となく面白がっている様子で口角を上げるロザンヌ様。
「好きなものは好きだけでは伝わらないこともあります」
「そうね。あなたは最初に言葉を軽く扱いすぎたものね」
「ロザンヌ様に言われるのは心外なのですが」
ロザンヌ様は頬に手を当ててため息をつくが、その言葉に関してはそのままお返ししたい。
「ユリアは好きだって伝えたい――人がいるの?」
「そういうわけでは。……分かりません」
伝わらなくてもいいと思っていた。けれど伝えているのに届かない言葉はもどかしさや虚しさを感じた。胸に痛みを覚えた。
一方で伝えていいものなのか分からない。
「あのね、ユリア。わたくしは自分の思いをきちんと伝えなかったことを後悔したわ。皆にも迷惑をかけたし、わたくしの行為は間違いだったと思う。伝えることがいつも正しいとは思わないけれど、自分の心に嘘をついて後悔することだけはしないでね」
「……はい」
「ユリア、執務室に行って来るわね」
学校から帰り、侍女服で身を包んだロザンヌ様は私に声をかけた。
侍女姿もすっかり板についている。
「はい。明日の鍛錬の許可をジェラルド様に頂きたいので、私も一緒に行きます」
「そうなの。では行きましょう」
部屋を出て二人、執務室へと向かう。
「最近、こちらの都合でユリアを連れ回してばかりだったものね。ごめんなさい」
「いいえ。とても興味深かったです」
サンルーモでロザンヌ様に仕えている時も不満に思ったことなどなかったが、環境が変わってこれまでとは違うものに関わっていくこともそう悪くないと思った。
「だったらいいのだけれど。……ところで。ユリアが好きなものは何? お茶以外で」
「何ですか、藪から棒に」
「わたくし、あまりユリアのことを知らなかったなと思ったの。ご家族のことも知らなかったし、お母様のお名前も先日知ったところだったわ。ごめんなさい」
ロザンヌ様は申し訳なさそうに眉を落とす。
私の方がこれまで話してこなかっただけだ。それに、必要以上に追及されなかったからこそ、今語れる自分がいるのだと思う。
「いいえ。知ってくださろうとしてありがとうございます。嬉しいです」
「うん! それでユリアが好きなものは? 今欲しいものとかね」
「それは考えたことがないので分からないです」
「あ、そう……」
今度はがっかりしたように肩を落とした。
「失礼いたします」
ロザンヌ様に続いて護衛官室に足を踏み入れると、ジェラルド様はいつものように席から立ち上がり笑顔で迎えてくれた。
「ロザンヌ様。……ユリアさん?」
「明日のご相談で今日はユリアも一緒に来たのです」
特別な用事がない限り、鍛錬をお願いするジェラルド様がお休みの日しか私は来ないので疑問に思われたようだ。
ロザンヌ様が私に代わり答えてくれた。
「そうでしたか。ではまずロザンヌ様をご案内いたしますね」
「ありがとうございます。ではね、ユリア」
「はい」
ジェラルド様は殿下から入室許可を取り、ロザンヌ様は執務室へと入っていった。
「お待たせいたしました、ユリアさん」
振り返ったジェラルドさんは穏やかな笑みを浮かべている。
「いいえ。明日のお休みについてですが」
「ええ。鍛錬ですね。明日は大丈夫です。このところ何かと忙しかったので、久々ですね」
「いえ。ジェラルド様のご指導は結構です」
「……え?」
しまった。
今の言い方はあまりにも単調で、まるで突き放すような口調になった。
「あ、いえ。要領は分かっていますし、許可だけ頂ければと。他の方と手合わせしていただきますし」
急いで言葉を補足したが、それでも笑みを消したジェラルド様は私をじっと見つめる。
静寂に沈むこの空間に息苦しさを感じた時、ジェラルド様が口を開いた。
「私がご一緒してはご迷惑でしょうか」
「い、え」
ジェラルド様の穏やかな口調は何一つ変わらないのに、なぜか動揺して声が掠れる。
「ジェラルド様は重大任務で日々、粉骨砕身されているお方です。私のために貴重なお時間を削っていただくことに申し訳なさを感じています」
「私はあなたとご一緒できる時間を幸せに感じています。私はユリアさんが好きですから」
また胸に響く言葉に息が詰まってしまう。けれど黙ったまま返答を待つジェラルド様を前に私は口を開く。
「私もご一緒できれば嬉しく思います。私も……ジェラルド様が好きですから」
「ありがとうございます」
ジェラルド様はようやくいつもの笑みを取り戻した。
伝えてもらって響いた言葉。伝えているのに届かない思い。
本当にこれで…………。
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