上 下
2 / 9

怪しい部活

しおりを挟む
 悲しい……なんて悲しいんだ……
 ここまで聞けば多少は私に同情する人も出てくるのではなかろうか。
 まあ、そういうわけで部活選びは慎重にならざるを得ないのだ。
 私は手元にあるパンフレットを見てうーんと考え込んだ。
 運動系の部活は絶対にダメだ。
 すると文科系の部活に限られてくるな。
 友達も出来てないから人数も多い方がいい。
 やっぱりこれかな?
 私は吹奏楽部のページを凝視した。
 人数も多いし文科系の中でもかなりいけてるイメージがある。
 それに何といっても女の子の数が……いやいや、そんなやましい理由で部活を選ぶつもりは毛頭ない。
 ただのついで……そう! ついでだ!

「後、3セット!」
 私の目の前には汗水垂らしながら筋トレに励む吹奏楽部員達がいた。
 なぜ、吹奏楽部なのに筋トレをしているんだ?
 これじゃあ運動部と大して変わらないじゃないか!
 私の心の声が聞こえたのか吹奏楽部の顧問がこの状況について説明をしてくれた。
「皆さんは何故吹奏楽部なのにこんな事をしているのかと疑問に思っていることでしょう。
その理由は一つ。吹奏楽をする上で必ず必要となってくるのが体力だからです。だから、我々は毎日筋トレを欠かしません。そしていつか大会で優勝してみせます!」
 私はその場から逃げ出した。
 これじゃあ中学時代のバスケ部と何も変わらないじゃないか!
 きっと私がいけないのだ。
 私が少しとはいえ女の子とイチャイチャできるかもしれないと考えてしまったために天空にいる神様が怒って吹奏楽部をバスケ部と同じように変えてしまったのだ。
 こいつは何も変わっちゃいないな……そんなアホにはこうだ!
 中学時代のトラウマをもう一度味わうがいい!というように。
 もう女の子の事は絶対に考えない!
 なあに、部活はまだまだたくさんある。
 焦る必要はない。

 不味い、このままだと非常に不味い!
 私は1階の廊下を歩きながらパンフレットを睨み付けていた。
 放送部、演劇部、料理部、茶道部……他にも様々な文科系の部活を見てみたが私の部活選びの条件を満たすところは1つもなかった。
 条件を2つに設定したのがいけないのか?
 どちらか1つに妥協した方がいいのだろうか?
 いっその事、部活に入らないというのはどうだろう?
「あの、すいません」
 私が出来の悪い頭で必死に考えを巡らせていると誰かに声をかけられた。
「君、1年生だよね? よかったら僕の部活見学していかない?」
 声をかけてきたのはもじゃもじゃ髪に出っ歯が目立つひょろなが体系の男だった。
 その見た目はどこか胡散臭くねずみ男を連想させる。
「はあ、何の部活でしょうか?」
 警戒しってる」ながら尋ねる私に対しねずみ男はニヤリとしながら答えた。
「理学部だよ。ちなみに僕はそこで部長をやってる」
 理学部? 
 その言葉を聞いただけで頭が痛くなってくる。
 理学部だって?
 理科が大の苦手な私にはとてもじゃないが務まりそうにない。
「理学部はちょっと……」
 私が断ろうとするとねずみ男が慌てて言った。
「理学部といっても難しい事は全然しないよ。
もし、理科が苦手でも大丈夫!」
「でも……」
私が尚もためらっているとねずみ男は周囲を見回し耳打ちをしてきた。
「ここだけの話、僕らは実験なんて滅多にしない。基本、遊んでるだけだ。顧問は面倒臭がりだから僕らの事をほったらかしにしてる。
それに何の苦労もせずに部活動所属の経歴が付くなんて素晴らしいと思わないか?まあ、君がやる気のある部活に入りたいのなら無理にとは言わないけど……」
 私の考えなどお見通しだという態度に少しイラっとしたが悪くない。部活選びの条件を2つとも満たしている。
 しかし、本当にそんな部活が存在するのだろうか?
 ねずみ男の言う事が本当だとすれば行ってみる価値はあるが……
「じゃあ、見学だけ」
「よし!」
 ねずみ男は嬉しそうにポンと手を叩いた。
「僕の後について来て! 部室はすぐそこだからさ!」
 私はねずみ男に言われるまま歩き出した。

 部室は1階の廊下の隅にひっそりとあった。
 部屋のプレートには科学室と書かれている。
「普段は科学や物理の授業で使われてるんだ。
放課後だけ僕らの部室になる」
 ねずみ男は私にそう説明すると勢いよく部屋の引き戸を開けた。
 勢いをつけすぎたせいで廊下に音が鳴り響く。
 ねずみ男はそんなことはお構いなしといった様子で部室の中へと入っていく。
私も後に続いた。
「お前ら! 1年生が入ったぞ!」
 ねずみ男の声に反応し部室にいるメンバー全員が一斉に私の方を見た。
「うおっ!」
 私は思わず後退りした。見るからに冴えなさそうな4人の男達と目が合ったからだ。
 心成しかどす黒いオーラまで見える。
 こんな所にいては私の高校生活が終わってしまうだろう。
「やっぱり帰り……」
 ねずみ男は帰ろうとする私を無視して言った。
「あっちへ行こうか。君と同じ1年生が2人いるからさ」
 よく見ると窓側の隅の席に男が2人座っている。
「いえ、やっぱり帰ります」
「まあまあ、いいからいいから」
 何がいいからなのかさっぱり分からないがねずみ男はバカの一つ覚えのようにいいからいいからと繰り返し私を無理やり窓側の端の席に連れて行った。
「同じ1年生同士親交を深めてくれたまえ」
 ねずみ男はそう言い残すと4人の部員と軽く会話を交わし部屋を出ていった。
 恐らく新たな1年生を探しに行ったのだろう。
 他の4人は私含む1年生には目もくれずお喋りを始めた。
 はあ、なんでこんな目に……
 これだったら部活に入らない方がいいのかもしれない。
 私は溜息をつき俯いた。
「お前も災難だったな、上条」
 私の前に座っている1年生が声をかけてきた。うん? 何で私の名前を知っているんだ? この高校に友達はいないはずなのに。
 私は顔を上げ目の前の相手をじっと見た。
「君は……中井君」
「お! 俺のこと覚えてくれてたのか!」
 中井は嬉しそうに言った。
 彼の事を覚えているのは当然だ。
 逆に忘れる方が難しい。
 私が中井君の事を知ったのは朝、クラスで行った自己紹介の時であった。
しおりを挟む
1 / 3

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

ムカってした事

エッセイ・ノンフィクション / 連載中 24h.ポイント:0pt お気に入り:0

棺と男

現代文学 / 完結 24h.ポイント:0pt お気に入り:0

処理中です...