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偽善者④
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マーファの教会の孤児院もぼろぼろだったが、ここは更に上を行く。
隙間だらけだし、ドアとか外れそうよ。
子供はいるが、建物の隙間から伺っていて、かなり警戒されている。
コラソン君が、中に入り先生を呼んできてくれた。中年の女性だ。
「コラソン、あんた何をしたんだい?」
「何もしてないよ。この人が話を聞きたいって」
女性は私達に警戒。
「子供は誰1人渡さないよッ」
「違うよ、マーヤ先生、違うって」
きっと借金関係の連中だと思われたんだ。
形相が凄まじいが、ただ単に子供達を守ろうとしているだけだ。
ジョアンさんが私達の前に立つが、後ろに下がってもらい、私はフードを外して、ペコリ。
「突然押し掛けて申し訳ありません。私はユイ・ミズサワと申します」
挨拶すると、中年女性は戸惑いの表情に。
「コラソン、こちらの方は?」
「あのテイマーさんだよ。ウルフとジャガーの」
『クリムゾンジャガーよ』
ルージュがコラソン君に突っ込み。
だが、女性、マーヤさんはまだ疑いの眼差しだ。
「ルージュ、出てん」
そう言うと、ルージュが光の魔法を解除し、姿が現れる。
「ひぃっ」
「ね、あのテイマーさんだよ」
「も、申し訳ありませんっ」
マーヤさんは腰が折れるような勢いで頭を下げた。
『ユイ、早くね、早くね』
「分かった分かった」
ルージュが姿を出し、安全だと分かって、子供達がルージュに群がる。
私と晃太、ジョアンさんはマーヤさんの案内で廃屋、失礼、孤児院の中に。
中は、うん、ぼろぼろだ。
とりあえず一室に案内される。ドアにはジョアンさんが待機。
「コラソン君から話を聞きましたが、詳しい事情を教えてもらえないですか?」
「はい」
マーヤさんの話はこうだ。
先代の先生は、元Bランクの冒険者で、夫妻でここをひっそりと経営していた。数年前に奥さんが亡くなり、去年その元Bランク冒険者が亡くなり、息子さん夫婦が引き継いだ。
なんとか遣り繰りしながら、自転車操業でやっていたが、数日前にいきなり金貸しがやってきた。
「あいつらはお義父さんが多額の借金をしているなんて言い出して。でも、主人も私も全く知らないんです。しかもお義父さんが亡くなって1年もしてからです。だから、そんなの嘘だと突っぱねていたんですが、書面があるって言い出して」
おかしな話や。
「だったら見せろ、と主人が抵抗しました。確認もしないで、払えないと」
マーヤさんが深くため息。
「見せる代わりに、ここに隠れている子供達の存在を親や、他の金貸しにばらすと言い出してきたんです」
うわ、最低。
なんでもひどい虐待を受けて避難している子供が数人、借金を残したまま姿を消した親の子供もいる。皆隠れているのに、ばらすなんて最低だ。抵抗できない子供を盾にするなんて。
だけど話を聞くと、なんだか変だ、絶対におかしい。本当に借金なんてあるんだろうか。
「で、どうするんですか?」
「まず、利息分払えば書面を見せるなんて言っていますが」
それで金策にマーヤさんの旦那さんが走っていっているんだ。とにかく避難している子供達の存在を出したくない。その一心だと。
「どう思う?」
晃太に意見を求める。
「詐欺やな絶対」
ばっさりと答える晃太。
「私もそう思うけど。他に助けてくれそうな人は? 領主のハルスフォン様は?」
今思い付く最高権力者。
だが、マーヤさんは首を振る。
「ハルスフォン様にはこれ以上ご迷惑はかけられません。それに行政が関われば、子供達の存在が知られてしまいます」
なんでも以前から、この無認可の孤児院を、認可しようと話があったが、やはり存在を隠したい子供がいるために二の足を踏んでいるそうだ。ハルスフォン様からは、時折ポケットマネーで支援してくれたり、伯爵所有の果樹園で採れた規格外の果実を回してくれたりしていると。ただ、おおっぴらにできないのが実情だ。
「マーヤさん、確かに隠したい子供達がいるのは分かりますが、このままではいいことありませんよ」
「それはそうですが………」
「利息分はいくらなんです?」
「それも、払う意志がなければ教えられない、と」
「詐欺や、絶対詐欺や」
晃太がばっさり。
そう、思うが、どうやってそれを立証するかだ。
その利息分払えば書面を見せるか? いや、絶対にないだろう。次に持ってくるとか、なんとか誤魔化すはず。
どうしたものか。
晃太と悩んでいると、マーヤさんの旦那さんが帰って来る。ルージュを見て野太い悲鳴をあげてた。
とりあえず、挨拶を済ませる。旦那さん、ザックさんは疲れた顔だ。金策、うまくいってないんだね。
ザックさんもマーヤさんも、ただ、子供達を守りたいがどうしようもない状況だと。
「その書面が本物だと、見たらすぐに分かりますか?」
私が聞くも、2人とも首を振る。
「見せる、と言っても、おそらく、ちらっとしか見せませんよ。これで見せたとか言ってね」
疲れた顔のザックさん。
卑怯やな。
利息分の額も教えないなんて、おかしい。絶対におかしい。
どうしたものか。
悩んでいると、ルージュが木窓を鼻で押し開けて覗いてくる。ひぃ、となるザックさん夫婦。
「どうしたん?」
『ユイ、害意がこちらに向かって来るわ』
「子供達を中にっ」
外にいた子供達を中に誘導する。
皆、分かっているのか、マーヤさんの指示に従い屋内に。
「ルージュ、姿を消して、合図したらよか?」
『いいわ。だけどユイに手を出したら、消すわよ』
何を? 息の根?
「唸るだけにしてね」
「姉ちゃん、大丈夫な?」
「やるだけやるよ。さあ、はったりかますよ」
私は晃太、ザックさん、ジョアンさんと建物の前に。
ルージュがすぐ近くで待機。
私は息を吸って、気持ちを落ち着かせる。
やるだけ、やろう。怯んではいけない。後ろには理不尽な理由で、逃げ場のない子供達がいるんだ。
なんとかせんと、いかん。
私の覚悟が決まる頃、あからさまにがらの悪そうな男達を引き連れた男が来た。趣味の悪いコートだ。
趣味の悪い男は、ニヤニヤ笑いでザックさんを見ている。それから私達を見て、鼻で笑う。
「さあ、ザック先生、利息分は御用意できましたかな?」
完全にバカにしている。
「前から言っている。いくらの借金に対しての利息なのかと。その額を提示し正当性がなければ、払う義理はないッ」
ザックさんが吠える。
「おやあ? そんなこと言っていいんですかあ? 子供達がどうなっても?」
こいつ、腹立つ。
私は冷静を装いながら、ザックさんの前に立つ。心臓バクバクしている。あらかじめ、私に任せてもらうように話してある。
「いくらや? その借金?」
「なんだお前は?」
趣味の悪い男は、私をじろじろ、うわあ、気持ち悪い。
「ここの支援者や、さあ、借金を証明する書面ば出さんね」
「ああ、書面ですかあ。あいにく今日は持ってきてないんですよ」
白々しい。
『ユイ、こいつの言葉は嘘だらけよ』
ルージュが小声で教えてくれる。やっぱり詐欺やな。
よし、絶対に弱みを見せない、こちらが優位だと思わせないと。印籠を使う時や。
「だったら明日の夕方に、書面一式揃えるんやね。もし、後からまだ有りました、なんて言ったらどうなるか分かっとうやろうね」
「はっ」
趣味の悪い男は鼻で笑う。
「ケンカを売ろうって言うんですかあ? 私が誰だか分かっているんですかねえ、おばさん? 年いったお前なんかたいした額にもならないだろうに」
かちん。
「先にケンカを売ったのはそっちや。ありもしない借金でっち上げて、子供達を盾にお金を巻き上げようなんて、肝の小さか男やね」
私は吐き捨てる。
だが、その言葉に、趣味の悪い男の形相が変わる。
「クソアマッ」
趣味の悪い男が掴み掛かってくる。
私は身構えてから、叫ぶ。
「ルージュッ」
グルアァァァァァァァッ
咆哮と共に、趣味の悪い男が吹き飛ぶ。
一斉にガラの悪い男達が身構える。だが、全員、どこに向かって身構えたらいいか分からないな様子だ。
私は小さく、拘束、と呟く。
『私はクリムゾンジャガー、血の轍を紡ぐもの』
吹き飛ばされた趣味の悪い男は、起き上がろうとして、もがくが、潰された声を出す。だが、何かに押さえられているように起き上がれない。姿を消したルージュだ。ちらり、と空間が歪んだ。
『闇よ、我の手足となれ、我、主人に仇なすものたちの全てを縛り付けよ』
すう、とルージュが姿を表す。
ルージュは前肢を、趣味の悪い男の胸を押さえつけている。その眼前には、眉間に深い皺、剥き出される鋭い牙。趣味の悪い男の顔色が一気に悪くなる。恐怖だけではない、物理的に顔色が悪くなる。
ガラの悪い男達は、ルージュの迫力に戸惑う。
「早く、助けろ……」
微かに絞り出す趣味の悪い男の声に、ためらいながらもガラの悪い男達はナイフを抜く。
だが、それまでだ。
『拘束モード 闇の束縛者(ウブラ・カウティーラ)』
白いルージュのからだに、黒いゼブラ模様が浮かび上がり、ルージュの影から真っ黒な触手が伸びる。
「「「うわぁぁぁぁぁぁっ」」」
触手は一斉に男達に巻き付き、持ち上げる。建物の屋根くらいまで持ち上げる。ガラの悪い男達は必死に抵抗しているが、びくともしない。
「さあ、金貸しさん」
私はルージュの前肢で押さえられている趣味の悪い男を見下ろす。
「これで私が誰だか分かったね?」
「ぐう………こんな事して、いいのか…………ここのガキどもがどうなっても………」
「ふん。安い脅しに乗るわけないやろ? 子供達は守れる。例え誰が来ようがね」
私は鼻で笑って見せる。嫌みだろうが、構わない。子供達に手は出せないと思わせないと。
趣味の悪い男は、歯ぎしりしている。
「私はフォレストガーディアンウルフとクリムゾンジャガーを従魔に持つテイマーや。そして私の後見人はご意見番のダイチ・サエキ様。意味分かる? あんたは私にケンカを売った、買ってやろうやないね。明日の夕方に書面ば耳を揃えて持ってきい、逃げるんやないよ。ルージュ、こいつらの顔、覚えたね?」
『ええ、覚えたわ』
趣味の悪い男の顔色が更に悪くなる。
ルージュに押さえられているだけではない。サエキ様の名前が出た時点で、一気にその顔から更に余裕がなくなる。印籠的な感じで名前を出したが、効果絶大や。
「もし、明日の指定時間以外にここに来て何かするようなら容赦せんよ。うちのルージュは優秀やからね。このマーファ全体の気配を感知できる。害意を持ってここに近付けば、数分も立たずにここに来る。そん時は、ルージュだけやない、フォレストガーディアンウルフのビアンカもおるけんね」
言いながら、どっちが悪役か分からなくなってきた。
だが、引くわけにはいかん。
「さ、とっとと、お引き取り頂きましょうかね。ルージュ」
ルージュが前肢を退けて、体からゼブラ模様が消える。
屋根まで高く持ち上げられたガラの悪い男達を拘束していた、真っ黒な触手が消えて、一斉に地面に。痛そうな音を立てて、地面に転がる。
「こ、こんなことして、許されると思うなよッ」
「文句があるなら、ダイチ・サエキ様に言うんやね」
再び印籠を出す。
効果絶大。
首都にいったら、お礼言わないと。
来た時から想像できない顔で、趣味の悪い男は、逃げるように走って行った。それから、ルージュがガラの悪い男の服を咥えて、ぽい、とする。〆に、唸り声。一斉に逃げていった。
はあ、なんとかなったあ。
私は緊張からへたりこむ。嫌みな顔を作っていたのでこめかみがひきつる。
「お疲れ姉ちゃん」
「まあな、なんとかなったなあ。ルージュ、ありがとうね」
『いいのよ。でも良かったの? 色々食いちぎったのに』
「やめて、大惨事や」
私は立ち上がる。
「あの、ミズサワさん、どうするんですか? あんな啖呵を切って」
見守ってくれていたジョアンさんが心配そうだ。それ以上にザックさんが心配そう。
「あの、お金、あまり集まってないんです」
「それならご心配なく。全部嘘ですよ。向こうは正式な借金だと証明できないはず」
「ですが、それが嘘だと、どうやって証明をするんですか?」
ザックさんの不安が拭えない。
「伝手がありますから」
「姉ちゃん、親父に頼むんやろ? 親父だけやと、無理やない? 偽造だと証言、論破出来るだけの人が必要や」
晃太が待ったをかける。
「こう言う時のギルドや。書類関係に強か人ば助っ人に来てもらおう」
晃太のアドバイス。私も同じことを考えていた。リティアさんか、タージェルさんにお願いしよう。
「そうやな」
「待ってください、そんな事したら、子供達が………」
「そこは事情を汲んでもらいます。もう、行政に頼らないと、いけない時期に来ているんではないですか?」
ザックさんは言葉を飲む。
「子供達の事情は、汲んでもらい、存在を秘匿状態にしてもらいましょう。多分、あいつらがここを察知しているなら、既にあちこち知られている可能性があります。そうなれば、ザックさん達だけでは、守りきれませんよ」
「………おっしゃる通りです」
私の指摘に、絞り出すようなザックさん。もしお金を払っても同じことするだろうし、子供達の情報を売りかねない。今回どうにかなっても、またあいつらみたいなのが絶対に出てくる。下手したら、すでに情報が出回っている可能性もある。それに、ここにあいつが来ている以上、すでに情報がどこからか漏れているから、時間の問題のはず。私達が常にマーファにいないから、やはり行政の介入が必要なはずだ。ギルドでお願いして、ハルスフォン様に介入のお願いをしないと。
「とにかく、明日次第です。私は一旦ギルドに行きます。晃太、後は頼めるね? ルージュはここに居ってね」
「よかよ」
『いいけど、ユイ、大丈夫?』
「ジョアンさんおるけんね」
私はフードを被り、ジョアンさんと孤児院を出て、スラム街を抜けてギルドに向かった。
近所の家から、数人が覗いていた。
隙間だらけだし、ドアとか外れそうよ。
子供はいるが、建物の隙間から伺っていて、かなり警戒されている。
コラソン君が、中に入り先生を呼んできてくれた。中年の女性だ。
「コラソン、あんた何をしたんだい?」
「何もしてないよ。この人が話を聞きたいって」
女性は私達に警戒。
「子供は誰1人渡さないよッ」
「違うよ、マーヤ先生、違うって」
きっと借金関係の連中だと思われたんだ。
形相が凄まじいが、ただ単に子供達を守ろうとしているだけだ。
ジョアンさんが私達の前に立つが、後ろに下がってもらい、私はフードを外して、ペコリ。
「突然押し掛けて申し訳ありません。私はユイ・ミズサワと申します」
挨拶すると、中年女性は戸惑いの表情に。
「コラソン、こちらの方は?」
「あのテイマーさんだよ。ウルフとジャガーの」
『クリムゾンジャガーよ』
ルージュがコラソン君に突っ込み。
だが、女性、マーヤさんはまだ疑いの眼差しだ。
「ルージュ、出てん」
そう言うと、ルージュが光の魔法を解除し、姿が現れる。
「ひぃっ」
「ね、あのテイマーさんだよ」
「も、申し訳ありませんっ」
マーヤさんは腰が折れるような勢いで頭を下げた。
『ユイ、早くね、早くね』
「分かった分かった」
ルージュが姿を出し、安全だと分かって、子供達がルージュに群がる。
私と晃太、ジョアンさんはマーヤさんの案内で廃屋、失礼、孤児院の中に。
中は、うん、ぼろぼろだ。
とりあえず一室に案内される。ドアにはジョアンさんが待機。
「コラソン君から話を聞きましたが、詳しい事情を教えてもらえないですか?」
「はい」
マーヤさんの話はこうだ。
先代の先生は、元Bランクの冒険者で、夫妻でここをひっそりと経営していた。数年前に奥さんが亡くなり、去年その元Bランク冒険者が亡くなり、息子さん夫婦が引き継いだ。
なんとか遣り繰りしながら、自転車操業でやっていたが、数日前にいきなり金貸しがやってきた。
「あいつらはお義父さんが多額の借金をしているなんて言い出して。でも、主人も私も全く知らないんです。しかもお義父さんが亡くなって1年もしてからです。だから、そんなの嘘だと突っぱねていたんですが、書面があるって言い出して」
おかしな話や。
「だったら見せろ、と主人が抵抗しました。確認もしないで、払えないと」
マーヤさんが深くため息。
「見せる代わりに、ここに隠れている子供達の存在を親や、他の金貸しにばらすと言い出してきたんです」
うわ、最低。
なんでもひどい虐待を受けて避難している子供が数人、借金を残したまま姿を消した親の子供もいる。皆隠れているのに、ばらすなんて最低だ。抵抗できない子供を盾にするなんて。
だけど話を聞くと、なんだか変だ、絶対におかしい。本当に借金なんてあるんだろうか。
「で、どうするんですか?」
「まず、利息分払えば書面を見せるなんて言っていますが」
それで金策にマーヤさんの旦那さんが走っていっているんだ。とにかく避難している子供達の存在を出したくない。その一心だと。
「どう思う?」
晃太に意見を求める。
「詐欺やな絶対」
ばっさりと答える晃太。
「私もそう思うけど。他に助けてくれそうな人は? 領主のハルスフォン様は?」
今思い付く最高権力者。
だが、マーヤさんは首を振る。
「ハルスフォン様にはこれ以上ご迷惑はかけられません。それに行政が関われば、子供達の存在が知られてしまいます」
なんでも以前から、この無認可の孤児院を、認可しようと話があったが、やはり存在を隠したい子供がいるために二の足を踏んでいるそうだ。ハルスフォン様からは、時折ポケットマネーで支援してくれたり、伯爵所有の果樹園で採れた規格外の果実を回してくれたりしていると。ただ、おおっぴらにできないのが実情だ。
「マーヤさん、確かに隠したい子供達がいるのは分かりますが、このままではいいことありませんよ」
「それはそうですが………」
「利息分はいくらなんです?」
「それも、払う意志がなければ教えられない、と」
「詐欺や、絶対詐欺や」
晃太がばっさり。
そう、思うが、どうやってそれを立証するかだ。
その利息分払えば書面を見せるか? いや、絶対にないだろう。次に持ってくるとか、なんとか誤魔化すはず。
どうしたものか。
晃太と悩んでいると、マーヤさんの旦那さんが帰って来る。ルージュを見て野太い悲鳴をあげてた。
とりあえず、挨拶を済ませる。旦那さん、ザックさんは疲れた顔だ。金策、うまくいってないんだね。
ザックさんもマーヤさんも、ただ、子供達を守りたいがどうしようもない状況だと。
「その書面が本物だと、見たらすぐに分かりますか?」
私が聞くも、2人とも首を振る。
「見せる、と言っても、おそらく、ちらっとしか見せませんよ。これで見せたとか言ってね」
疲れた顔のザックさん。
卑怯やな。
利息分の額も教えないなんて、おかしい。絶対におかしい。
どうしたものか。
悩んでいると、ルージュが木窓を鼻で押し開けて覗いてくる。ひぃ、となるザックさん夫婦。
「どうしたん?」
『ユイ、害意がこちらに向かって来るわ』
「子供達を中にっ」
外にいた子供達を中に誘導する。
皆、分かっているのか、マーヤさんの指示に従い屋内に。
「ルージュ、姿を消して、合図したらよか?」
『いいわ。だけどユイに手を出したら、消すわよ』
何を? 息の根?
「唸るだけにしてね」
「姉ちゃん、大丈夫な?」
「やるだけやるよ。さあ、はったりかますよ」
私は晃太、ザックさん、ジョアンさんと建物の前に。
ルージュがすぐ近くで待機。
私は息を吸って、気持ちを落ち着かせる。
やるだけ、やろう。怯んではいけない。後ろには理不尽な理由で、逃げ場のない子供達がいるんだ。
なんとかせんと、いかん。
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趣味の悪い男は、ニヤニヤ笑いでザックさんを見ている。それから私達を見て、鼻で笑う。
「さあ、ザック先生、利息分は御用意できましたかな?」
完全にバカにしている。
「前から言っている。いくらの借金に対しての利息なのかと。その額を提示し正当性がなければ、払う義理はないッ」
ザックさんが吠える。
「おやあ? そんなこと言っていいんですかあ? 子供達がどうなっても?」
こいつ、腹立つ。
私は冷静を装いながら、ザックさんの前に立つ。心臓バクバクしている。あらかじめ、私に任せてもらうように話してある。
「いくらや? その借金?」
「なんだお前は?」
趣味の悪い男は、私をじろじろ、うわあ、気持ち悪い。
「ここの支援者や、さあ、借金を証明する書面ば出さんね」
「ああ、書面ですかあ。あいにく今日は持ってきてないんですよ」
白々しい。
『ユイ、こいつの言葉は嘘だらけよ』
ルージュが小声で教えてくれる。やっぱり詐欺やな。
よし、絶対に弱みを見せない、こちらが優位だと思わせないと。印籠を使う時や。
「だったら明日の夕方に、書面一式揃えるんやね。もし、後からまだ有りました、なんて言ったらどうなるか分かっとうやろうね」
「はっ」
趣味の悪い男は鼻で笑う。
「ケンカを売ろうって言うんですかあ? 私が誰だか分かっているんですかねえ、おばさん? 年いったお前なんかたいした額にもならないだろうに」
かちん。
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私は吐き捨てる。
だが、その言葉に、趣味の悪い男の形相が変わる。
「クソアマッ」
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私は身構えてから、叫ぶ。
「ルージュッ」
グルアァァァァァァァッ
咆哮と共に、趣味の悪い男が吹き飛ぶ。
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私は小さく、拘束、と呟く。
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『闇よ、我の手足となれ、我、主人に仇なすものたちの全てを縛り付けよ』
すう、とルージュが姿を表す。
ルージュは前肢を、趣味の悪い男の胸を押さえつけている。その眼前には、眉間に深い皺、剥き出される鋭い牙。趣味の悪い男の顔色が一気に悪くなる。恐怖だけではない、物理的に顔色が悪くなる。
ガラの悪い男達は、ルージュの迫力に戸惑う。
「早く、助けろ……」
微かに絞り出す趣味の悪い男の声に、ためらいながらもガラの悪い男達はナイフを抜く。
だが、それまでだ。
『拘束モード 闇の束縛者(ウブラ・カウティーラ)』
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「さあ、金貸しさん」
私はルージュの前肢で押さえられている趣味の悪い男を見下ろす。
「これで私が誰だか分かったね?」
「ぐう………こんな事して、いいのか…………ここのガキどもがどうなっても………」
「ふん。安い脅しに乗るわけないやろ? 子供達は守れる。例え誰が来ようがね」
私は鼻で笑って見せる。嫌みだろうが、構わない。子供達に手は出せないと思わせないと。
趣味の悪い男は、歯ぎしりしている。
「私はフォレストガーディアンウルフとクリムゾンジャガーを従魔に持つテイマーや。そして私の後見人はご意見番のダイチ・サエキ様。意味分かる? あんたは私にケンカを売った、買ってやろうやないね。明日の夕方に書面ば耳を揃えて持ってきい、逃げるんやないよ。ルージュ、こいつらの顔、覚えたね?」
『ええ、覚えたわ』
趣味の悪い男の顔色が更に悪くなる。
ルージュに押さえられているだけではない。サエキ様の名前が出た時点で、一気にその顔から更に余裕がなくなる。印籠的な感じで名前を出したが、効果絶大や。
「もし、明日の指定時間以外にここに来て何かするようなら容赦せんよ。うちのルージュは優秀やからね。このマーファ全体の気配を感知できる。害意を持ってここに近付けば、数分も立たずにここに来る。そん時は、ルージュだけやない、フォレストガーディアンウルフのビアンカもおるけんね」
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だが、引くわけにはいかん。
「さ、とっとと、お引き取り頂きましょうかね。ルージュ」
ルージュが前肢を退けて、体からゼブラ模様が消える。
屋根まで高く持ち上げられたガラの悪い男達を拘束していた、真っ黒な触手が消えて、一斉に地面に。痛そうな音を立てて、地面に転がる。
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効果絶大。
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はあ、なんとかなったあ。
私は緊張からへたりこむ。嫌みな顔を作っていたのでこめかみがひきつる。
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「まあな、なんとかなったなあ。ルージュ、ありがとうね」
『いいのよ。でも良かったの? 色々食いちぎったのに』
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「あの、ミズサワさん、どうするんですか? あんな啖呵を切って」
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「あの、お金、あまり集まってないんです」
「それならご心配なく。全部嘘ですよ。向こうは正式な借金だと証明できないはず」
「ですが、それが嘘だと、どうやって証明をするんですか?」
ザックさんの不安が拭えない。
「伝手がありますから」
「姉ちゃん、親父に頼むんやろ? 親父だけやと、無理やない? 偽造だと証言、論破出来るだけの人が必要や」
晃太が待ったをかける。
「こう言う時のギルドや。書類関係に強か人ば助っ人に来てもらおう」
晃太のアドバイス。私も同じことを考えていた。リティアさんか、タージェルさんにお願いしよう。
「そうやな」
「待ってください、そんな事したら、子供達が………」
「そこは事情を汲んでもらいます。もう、行政に頼らないと、いけない時期に来ているんではないですか?」
ザックさんは言葉を飲む。
「子供達の事情は、汲んでもらい、存在を秘匿状態にしてもらいましょう。多分、あいつらがここを察知しているなら、既にあちこち知られている可能性があります。そうなれば、ザックさん達だけでは、守りきれませんよ」
「………おっしゃる通りです」
私の指摘に、絞り出すようなザックさん。もしお金を払っても同じことするだろうし、子供達の情報を売りかねない。今回どうにかなっても、またあいつらみたいなのが絶対に出てくる。下手したら、すでに情報が出回っている可能性もある。それに、ここにあいつが来ている以上、すでに情報がどこからか漏れているから、時間の問題のはず。私達が常にマーファにいないから、やはり行政の介入が必要なはずだ。ギルドでお願いして、ハルスフォン様に介入のお願いをしないと。
「とにかく、明日次第です。私は一旦ギルドに行きます。晃太、後は頼めるね? ルージュはここに居ってね」
「よかよ」
『いいけど、ユイ、大丈夫?』
「ジョアンさんおるけんね」
私はフードを被り、ジョアンさんと孤児院を出て、スラム街を抜けてギルドに向かった。
近所の家から、数人が覗いていた。
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生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。
しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。
「すまない。私は父としての責任を果たす」
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だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。
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