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偽善者④
マーファの教会の孤児院もぼろぼろだったが、ここは更に上を行く。
隙間だらけだし、ドアとか外れそうよ。
子供はいるが、建物の隙間から伺っていて、かなり警戒されている。
コラソン君が、中に入り先生を呼んできてくれた。中年の女性だ。
「コラソン、あんた何をしたんだい?」
「何もしてないよ。この人が話を聞きたいって」
女性は私達に警戒。
「子供は誰1人渡さないよッ」
「違うよ、マーヤ先生、違うって」
きっと借金関係の連中だと思われたんだ。
形相が凄まじいが、ただ単に子供達を守ろうとしているだけだ。
ジョアンさんが私達の前に立つが、後ろに下がってもらい、私はフードを外して、ペコリ。
「突然押し掛けて申し訳ありません。私はユイ・ミズサワと申します」
挨拶すると、中年女性は戸惑いの表情に。
「コラソン、こちらの方は?」
「あのテイマーさんだよ。ウルフとジャガーの」
『クリムゾンジャガーよ』
ルージュがコラソン君に突っ込み。
だが、女性、マーヤさんはまだ疑いの眼差しだ。
「ルージュ、出てん」
そう言うと、ルージュが光の魔法を解除し、姿が現れる。
「ひぃっ」
「ね、あのテイマーさんだよ」
「も、申し訳ありませんっ」
マーヤさんは腰が折れるような勢いで頭を下げた。
『ユイ、早くね、早くね』
「分かった分かった」
ルージュが姿を出し、安全だと分かって、子供達がルージュに群がる。
私と晃太、ジョアンさんはマーヤさんの案内で廃屋、失礼、孤児院の中に。
中は、うん、ぼろぼろだ。
とりあえず一室に案内される。ドアにはジョアンさんが待機。
「コラソン君から話を聞きましたが、詳しい事情を教えてもらえないですか?」
「はい」
マーヤさんの話はこうだ。
先代の先生は、元Bランクの冒険者で、夫妻でここをひっそりと経営していた。数年前に奥さんが亡くなり、去年その元Bランク冒険者が亡くなり、息子さん夫婦が引き継いだ。
なんとか遣り繰りしながら、自転車操業でやっていたが、数日前にいきなり金貸しがやってきた。
「あいつらはお義父さんが多額の借金をしているなんて言い出して。でも、主人も私も全く知らないんです。しかもお義父さんが亡くなって1年もしてからです。だから、そんなの嘘だと突っぱねていたんですが、書面があるって言い出して」
おかしな話や。
「だったら見せろ、と主人が抵抗しました。確認もしないで、払えないと」
マーヤさんが深くため息。
「見せる代わりに、ここに隠れている子供達の存在を親や、他の金貸しにばらすと言い出してきたんです」
うわ、最低。
なんでもひどい虐待を受けて避難している子供が数人、借金を残したまま姿を消した親の子供もいる。皆隠れているのに、ばらすなんて最低だ。抵抗できない子供を盾にするなんて。
だけど話を聞くと、なんだか変だ、絶対におかしい。本当に借金なんてあるんだろうか。
「で、どうするんですか?」
「まず、利息分払えば書面を見せるなんて言っていますが」
それで金策にマーヤさんの旦那さんが走っていっているんだ。とにかく避難している子供達の存在を出したくない。その一心だと。
「どう思う?」
晃太に意見を求める。
「詐欺やな絶対」
ばっさりと答える晃太。
「私もそう思うけど。他に助けてくれそうな人は? 領主のハルスフォン様は?」
今思い付く最高権力者。
だが、マーヤさんは首を振る。
「ハルスフォン様にはこれ以上ご迷惑はかけられません。それに行政が関われば、子供達の存在が知られてしまいます」
なんでも以前から、この無認可の孤児院を、認可しようと話があったが、やはり存在を隠したい子供がいるために二の足を踏んでいるそうだ。ハルスフォン様からは、時折ポケットマネーで支援してくれたり、伯爵所有の果樹園で採れた規格外の果実を回してくれたりしていると。ただ、おおっぴらにできないのが実情だ。
「マーヤさん、確かに隠したい子供達がいるのは分かりますが、このままではいいことありませんよ」
「それはそうですが………」
「利息分はいくらなんです?」
「それも、払う意志がなければ教えられない、と」
「詐欺や、絶対詐欺や」
晃太がばっさり。
そう、思うが、どうやってそれを立証するかだ。
その利息分払えば書面を見せるか? いや、絶対にないだろう。次に持ってくるとか、なんとか誤魔化すはず。
どうしたものか。
晃太と悩んでいると、マーヤさんの旦那さんが帰って来る。ルージュを見て野太い悲鳴をあげてた。
とりあえず、挨拶を済ませる。旦那さん、ザックさんは疲れた顔だ。金策、うまくいってないんだね。
ザックさんもマーヤさんも、ただ、子供達を守りたいがどうしようもない状況だと。
「その書面が本物だと、見たらすぐに分かりますか?」
私が聞くも、2人とも首を振る。
「見せる、と言っても、おそらく、ちらっとしか見せませんよ。これで見せたとか言ってね」
疲れた顔のザックさん。
卑怯やな。
利息分の額も教えないなんて、おかしい。絶対におかしい。
どうしたものか。
悩んでいると、ルージュが木窓を鼻で押し開けて覗いてくる。ひぃ、となるザックさん夫婦。
「どうしたん?」
『ユイ、害意がこちらに向かって来るわ』
「子供達を中にっ」
外にいた子供達を中に誘導する。
皆、分かっているのか、マーヤさんの指示に従い屋内に。
「ルージュ、姿を消して、合図したらよか?」
『いいわ。だけどユイに手を出したら、消すわよ』
何を? 息の根?
「唸るだけにしてね」
「姉ちゃん、大丈夫な?」
「やるだけやるよ。さあ、はったりかますよ」
私は晃太、ザックさん、ジョアンさんと建物の前に。
ルージュがすぐ近くで待機。
私は息を吸って、気持ちを落ち着かせる。
やるだけ、やろう。怯んではいけない。後ろには理不尽な理由で、逃げ場のない子供達がいるんだ。
なんとかせんと、いかん。
私の覚悟が決まる頃、あからさまにがらの悪そうな男達を引き連れた男が来た。趣味の悪いコートだ。
趣味の悪い男は、ニヤニヤ笑いでザックさんを見ている。それから私達を見て、鼻で笑う。
「さあ、ザック先生、利息分は御用意できましたかな?」
完全にバカにしている。
「前から言っている。いくらの借金に対しての利息なのかと。その額を提示し正当性がなければ、払う義理はないッ」
ザックさんが吠える。
「おやあ? そんなこと言っていいんですかあ? 子供達がどうなっても?」
こいつ、腹立つ。
私は冷静を装いながら、ザックさんの前に立つ。心臓バクバクしている。あらかじめ、私に任せてもらうように話してある。
「いくらや? その借金?」
「なんだお前は?」
趣味の悪い男は、私をじろじろ、うわあ、気持ち悪い。
「ここの支援者や、さあ、借金を証明する書面ば出さんね」
「ああ、書面ですかあ。あいにく今日は持ってきてないんですよ」
白々しい。
『ユイ、こいつの言葉は嘘だらけよ』
ルージュが小声で教えてくれる。やっぱり詐欺やな。
よし、絶対に弱みを見せない、こちらが優位だと思わせないと。印籠を使う時や。
「だったら明日の夕方に、書面一式揃えるんやね。もし、後からまだ有りました、なんて言ったらどうなるか分かっとうやろうね」
「はっ」
趣味の悪い男は鼻で笑う。
「ケンカを売ろうって言うんですかあ? 私が誰だか分かっているんですかねえ、おばさん? 年いったお前なんかたいした額にもならないだろうに」
かちん。
「先にケンカを売ったのはそっちや。ありもしない借金でっち上げて、子供達を盾にお金を巻き上げようなんて、肝の小さか男やね」
私は吐き捨てる。
だが、その言葉に、趣味の悪い男の形相が変わる。
「クソアマッ」
趣味の悪い男が掴み掛かってくる。
私は身構えてから、叫ぶ。
「ルージュッ」
グルアァァァァァァァッ
咆哮と共に、趣味の悪い男が吹き飛ぶ。
一斉にガラの悪い男達が身構える。だが、全員、どこに向かって身構えたらいいか分からないな様子だ。
私は小さく、拘束、と呟く。
『私はクリムゾンジャガー、血の轍を紡ぐもの』
吹き飛ばされた趣味の悪い男は、起き上がろうとして、もがくが、潰された声を出す。だが、何かに押さえられているように起き上がれない。姿を消したルージュだ。ちらり、と空間が歪んだ。
『闇よ、我の手足となれ、我、主人に仇なすものたちの全てを縛り付けよ』
すう、とルージュが姿を表す。
ルージュは前肢を、趣味の悪い男の胸を押さえつけている。その眼前には、眉間に深い皺、剥き出される鋭い牙。趣味の悪い男の顔色が一気に悪くなる。恐怖だけではない、物理的に顔色が悪くなる。
ガラの悪い男達は、ルージュの迫力に戸惑う。
「早く、助けろ……」
微かに絞り出す趣味の悪い男の声に、ためらいながらもガラの悪い男達はナイフを抜く。
だが、それまでだ。
『拘束モード 闇の束縛者(ウブラ・カウティーラ)』
白いルージュのからだに、黒いゼブラ模様が浮かび上がり、ルージュの影から真っ黒な触手が伸びる。
「「「うわぁぁぁぁぁぁっ」」」
触手は一斉に男達に巻き付き、持ち上げる。建物の屋根くらいまで持ち上げる。ガラの悪い男達は必死に抵抗しているが、びくともしない。
「さあ、金貸しさん」
私はルージュの前肢で押さえられている趣味の悪い男を見下ろす。
「これで私が誰だか分かったね?」
「ぐう………こんな事して、いいのか…………ここのガキどもがどうなっても………」
「ふん。安い脅しに乗るわけないやろ? 子供達は守れる。例え誰が来ようがね」
私は鼻で笑って見せる。嫌みだろうが、構わない。子供達に手は出せないと思わせないと。
趣味の悪い男は、歯ぎしりしている。
「私はフォレストガーディアンウルフとクリムゾンジャガーを従魔に持つテイマーや。そして私の後見人はご意見番のダイチ・サエキ様。意味分かる? あんたは私にケンカを売った、買ってやろうやないね。明日の夕方に書面ば耳を揃えて持ってきい、逃げるんやないよ。ルージュ、こいつらの顔、覚えたね?」
『ええ、覚えたわ』
趣味の悪い男の顔色が更に悪くなる。
ルージュに押さえられているだけではない。サエキ様の名前が出た時点で、一気にその顔から更に余裕がなくなる。印籠的な感じで名前を出したが、効果絶大や。
「もし、明日の指定時間以外にここに来て何かするようなら容赦せんよ。うちのルージュは優秀やからね。このマーファ全体の気配を感知できる。害意を持ってここに近付けば、数分も立たずにここに来る。そん時は、ルージュだけやない、フォレストガーディアンウルフのビアンカもおるけんね」
言いながら、どっちが悪役か分からなくなってきた。
だが、引くわけにはいかん。
「さ、とっとと、お引き取り頂きましょうかね。ルージュ」
ルージュが前肢を退けて、体からゼブラ模様が消える。
屋根まで高く持ち上げられたガラの悪い男達を拘束していた、真っ黒な触手が消えて、一斉に地面に。痛そうな音を立てて、地面に転がる。
「こ、こんなことして、許されると思うなよッ」
「文句があるなら、ダイチ・サエキ様に言うんやね」
再び印籠を出す。
効果絶大。
首都にいったら、お礼言わないと。
来た時から想像できない顔で、趣味の悪い男は、逃げるように走って行った。それから、ルージュがガラの悪い男の服を咥えて、ぽい、とする。〆に、唸り声。一斉に逃げていった。
はあ、なんとかなったあ。
私は緊張からへたりこむ。嫌みな顔を作っていたのでこめかみがひきつる。
「お疲れ姉ちゃん」
「まあな、なんとかなったなあ。ルージュ、ありがとうね」
『いいのよ。でも良かったの? 色々食いちぎったのに』
「やめて、大惨事や」
私は立ち上がる。
「あの、ミズサワさん、どうするんですか? あんな啖呵を切って」
見守ってくれていたジョアンさんが心配そうだ。それ以上にザックさんが心配そう。
「あの、お金、あまり集まってないんです」
「それならご心配なく。全部嘘ですよ。向こうは正式な借金だと証明できないはず」
「ですが、それが嘘だと、どうやって証明をするんですか?」
ザックさんの不安が拭えない。
「伝手がありますから」
「姉ちゃん、親父に頼むんやろ? 親父だけやと、無理やない? 偽造だと証言、論破出来るだけの人が必要や」
晃太が待ったをかける。
「こう言う時のギルドや。書類関係に強か人ば助っ人に来てもらおう」
晃太のアドバイス。私も同じことを考えていた。リティアさんか、タージェルさんにお願いしよう。
「そうやな」
「待ってください、そんな事したら、子供達が………」
「そこは事情を汲んでもらいます。もう、行政に頼らないと、いけない時期に来ているんではないですか?」
ザックさんは言葉を飲む。
「子供達の事情は、汲んでもらい、存在を秘匿状態にしてもらいましょう。多分、あいつらがここを察知しているなら、既にあちこち知られている可能性があります。そうなれば、ザックさん達だけでは、守りきれませんよ」
「………おっしゃる通りです」
私の指摘に、絞り出すようなザックさん。もしお金を払っても同じことするだろうし、子供達の情報を売りかねない。今回どうにかなっても、またあいつらみたいなのが絶対に出てくる。下手したら、すでに情報が出回っている可能性もある。それに、ここにあいつが来ている以上、すでに情報がどこからか漏れているから、時間の問題のはず。私達が常にマーファにいないから、やはり行政の介入が必要なはずだ。ギルドでお願いして、ハルスフォン様に介入のお願いをしないと。
「とにかく、明日次第です。私は一旦ギルドに行きます。晃太、後は頼めるね? ルージュはここに居ってね」
「よかよ」
『いいけど、ユイ、大丈夫?』
「ジョアンさんおるけんね」
私はフードを被り、ジョアンさんと孤児院を出て、スラム街を抜けてギルドに向かった。
近所の家から、数人が覗いていた。
隙間だらけだし、ドアとか外れそうよ。
子供はいるが、建物の隙間から伺っていて、かなり警戒されている。
コラソン君が、中に入り先生を呼んできてくれた。中年の女性だ。
「コラソン、あんた何をしたんだい?」
「何もしてないよ。この人が話を聞きたいって」
女性は私達に警戒。
「子供は誰1人渡さないよッ」
「違うよ、マーヤ先生、違うって」
きっと借金関係の連中だと思われたんだ。
形相が凄まじいが、ただ単に子供達を守ろうとしているだけだ。
ジョアンさんが私達の前に立つが、後ろに下がってもらい、私はフードを外して、ペコリ。
「突然押し掛けて申し訳ありません。私はユイ・ミズサワと申します」
挨拶すると、中年女性は戸惑いの表情に。
「コラソン、こちらの方は?」
「あのテイマーさんだよ。ウルフとジャガーの」
『クリムゾンジャガーよ』
ルージュがコラソン君に突っ込み。
だが、女性、マーヤさんはまだ疑いの眼差しだ。
「ルージュ、出てん」
そう言うと、ルージュが光の魔法を解除し、姿が現れる。
「ひぃっ」
「ね、あのテイマーさんだよ」
「も、申し訳ありませんっ」
マーヤさんは腰が折れるような勢いで頭を下げた。
『ユイ、早くね、早くね』
「分かった分かった」
ルージュが姿を出し、安全だと分かって、子供達がルージュに群がる。
私と晃太、ジョアンさんはマーヤさんの案内で廃屋、失礼、孤児院の中に。
中は、うん、ぼろぼろだ。
とりあえず一室に案内される。ドアにはジョアンさんが待機。
「コラソン君から話を聞きましたが、詳しい事情を教えてもらえないですか?」
「はい」
マーヤさんの話はこうだ。
先代の先生は、元Bランクの冒険者で、夫妻でここをひっそりと経営していた。数年前に奥さんが亡くなり、去年その元Bランク冒険者が亡くなり、息子さん夫婦が引き継いだ。
なんとか遣り繰りしながら、自転車操業でやっていたが、数日前にいきなり金貸しがやってきた。
「あいつらはお義父さんが多額の借金をしているなんて言い出して。でも、主人も私も全く知らないんです。しかもお義父さんが亡くなって1年もしてからです。だから、そんなの嘘だと突っぱねていたんですが、書面があるって言い出して」
おかしな話や。
「だったら見せろ、と主人が抵抗しました。確認もしないで、払えないと」
マーヤさんが深くため息。
「見せる代わりに、ここに隠れている子供達の存在を親や、他の金貸しにばらすと言い出してきたんです」
うわ、最低。
なんでもひどい虐待を受けて避難している子供が数人、借金を残したまま姿を消した親の子供もいる。皆隠れているのに、ばらすなんて最低だ。抵抗できない子供を盾にするなんて。
だけど話を聞くと、なんだか変だ、絶対におかしい。本当に借金なんてあるんだろうか。
「で、どうするんですか?」
「まず、利息分払えば書面を見せるなんて言っていますが」
それで金策にマーヤさんの旦那さんが走っていっているんだ。とにかく避難している子供達の存在を出したくない。その一心だと。
「どう思う?」
晃太に意見を求める。
「詐欺やな絶対」
ばっさりと答える晃太。
「私もそう思うけど。他に助けてくれそうな人は? 領主のハルスフォン様は?」
今思い付く最高権力者。
だが、マーヤさんは首を振る。
「ハルスフォン様にはこれ以上ご迷惑はかけられません。それに行政が関われば、子供達の存在が知られてしまいます」
なんでも以前から、この無認可の孤児院を、認可しようと話があったが、やはり存在を隠したい子供がいるために二の足を踏んでいるそうだ。ハルスフォン様からは、時折ポケットマネーで支援してくれたり、伯爵所有の果樹園で採れた規格外の果実を回してくれたりしていると。ただ、おおっぴらにできないのが実情だ。
「マーヤさん、確かに隠したい子供達がいるのは分かりますが、このままではいいことありませんよ」
「それはそうですが………」
「利息分はいくらなんです?」
「それも、払う意志がなければ教えられない、と」
「詐欺や、絶対詐欺や」
晃太がばっさり。
そう、思うが、どうやってそれを立証するかだ。
その利息分払えば書面を見せるか? いや、絶対にないだろう。次に持ってくるとか、なんとか誤魔化すはず。
どうしたものか。
晃太と悩んでいると、マーヤさんの旦那さんが帰って来る。ルージュを見て野太い悲鳴をあげてた。
とりあえず、挨拶を済ませる。旦那さん、ザックさんは疲れた顔だ。金策、うまくいってないんだね。
ザックさんもマーヤさんも、ただ、子供達を守りたいがどうしようもない状況だと。
「その書面が本物だと、見たらすぐに分かりますか?」
私が聞くも、2人とも首を振る。
「見せる、と言っても、おそらく、ちらっとしか見せませんよ。これで見せたとか言ってね」
疲れた顔のザックさん。
卑怯やな。
利息分の額も教えないなんて、おかしい。絶対におかしい。
どうしたものか。
悩んでいると、ルージュが木窓を鼻で押し開けて覗いてくる。ひぃ、となるザックさん夫婦。
「どうしたん?」
『ユイ、害意がこちらに向かって来るわ』
「子供達を中にっ」
外にいた子供達を中に誘導する。
皆、分かっているのか、マーヤさんの指示に従い屋内に。
「ルージュ、姿を消して、合図したらよか?」
『いいわ。だけどユイに手を出したら、消すわよ』
何を? 息の根?
「唸るだけにしてね」
「姉ちゃん、大丈夫な?」
「やるだけやるよ。さあ、はったりかますよ」
私は晃太、ザックさん、ジョアンさんと建物の前に。
ルージュがすぐ近くで待機。
私は息を吸って、気持ちを落ち着かせる。
やるだけ、やろう。怯んではいけない。後ろには理不尽な理由で、逃げ場のない子供達がいるんだ。
なんとかせんと、いかん。
私の覚悟が決まる頃、あからさまにがらの悪そうな男達を引き連れた男が来た。趣味の悪いコートだ。
趣味の悪い男は、ニヤニヤ笑いでザックさんを見ている。それから私達を見て、鼻で笑う。
「さあ、ザック先生、利息分は御用意できましたかな?」
完全にバカにしている。
「前から言っている。いくらの借金に対しての利息なのかと。その額を提示し正当性がなければ、払う義理はないッ」
ザックさんが吠える。
「おやあ? そんなこと言っていいんですかあ? 子供達がどうなっても?」
こいつ、腹立つ。
私は冷静を装いながら、ザックさんの前に立つ。心臓バクバクしている。あらかじめ、私に任せてもらうように話してある。
「いくらや? その借金?」
「なんだお前は?」
趣味の悪い男は、私をじろじろ、うわあ、気持ち悪い。
「ここの支援者や、さあ、借金を証明する書面ば出さんね」
「ああ、書面ですかあ。あいにく今日は持ってきてないんですよ」
白々しい。
『ユイ、こいつの言葉は嘘だらけよ』
ルージュが小声で教えてくれる。やっぱり詐欺やな。
よし、絶対に弱みを見せない、こちらが優位だと思わせないと。印籠を使う時や。
「だったら明日の夕方に、書面一式揃えるんやね。もし、後からまだ有りました、なんて言ったらどうなるか分かっとうやろうね」
「はっ」
趣味の悪い男は鼻で笑う。
「ケンカを売ろうって言うんですかあ? 私が誰だか分かっているんですかねえ、おばさん? 年いったお前なんかたいした額にもならないだろうに」
かちん。
「先にケンカを売ったのはそっちや。ありもしない借金でっち上げて、子供達を盾にお金を巻き上げようなんて、肝の小さか男やね」
私は吐き捨てる。
だが、その言葉に、趣味の悪い男の形相が変わる。
「クソアマッ」
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グルアァァァァァァァッ
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『闇よ、我の手足となれ、我、主人に仇なすものたちの全てを縛り付けよ』
すう、とルージュが姿を表す。
ルージュは前肢を、趣味の悪い男の胸を押さえつけている。その眼前には、眉間に深い皺、剥き出される鋭い牙。趣味の悪い男の顔色が一気に悪くなる。恐怖だけではない、物理的に顔色が悪くなる。
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「早く、助けろ……」
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「「「うわぁぁぁぁぁぁっ」」」
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「さあ、金貸しさん」
私はルージュの前肢で押さえられている趣味の悪い男を見下ろす。
「これで私が誰だか分かったね?」
「ぐう………こんな事して、いいのか…………ここのガキどもがどうなっても………」
「ふん。安い脅しに乗るわけないやろ? 子供達は守れる。例え誰が来ようがね」
私は鼻で笑って見せる。嫌みだろうが、構わない。子供達に手は出せないと思わせないと。
趣味の悪い男は、歯ぎしりしている。
「私はフォレストガーディアンウルフとクリムゾンジャガーを従魔に持つテイマーや。そして私の後見人はご意見番のダイチ・サエキ様。意味分かる? あんたは私にケンカを売った、買ってやろうやないね。明日の夕方に書面ば耳を揃えて持ってきい、逃げるんやないよ。ルージュ、こいつらの顔、覚えたね?」
『ええ、覚えたわ』
趣味の悪い男の顔色が更に悪くなる。
ルージュに押さえられているだけではない。サエキ様の名前が出た時点で、一気にその顔から更に余裕がなくなる。印籠的な感じで名前を出したが、効果絶大や。
「もし、明日の指定時間以外にここに来て何かするようなら容赦せんよ。うちのルージュは優秀やからね。このマーファ全体の気配を感知できる。害意を持ってここに近付けば、数分も立たずにここに来る。そん時は、ルージュだけやない、フォレストガーディアンウルフのビアンカもおるけんね」
言いながら、どっちが悪役か分からなくなってきた。
だが、引くわけにはいかん。
「さ、とっとと、お引き取り頂きましょうかね。ルージュ」
ルージュが前肢を退けて、体からゼブラ模様が消える。
屋根まで高く持ち上げられたガラの悪い男達を拘束していた、真っ黒な触手が消えて、一斉に地面に。痛そうな音を立てて、地面に転がる。
「こ、こんなことして、許されると思うなよッ」
「文句があるなら、ダイチ・サエキ様に言うんやね」
再び印籠を出す。
効果絶大。
首都にいったら、お礼言わないと。
来た時から想像できない顔で、趣味の悪い男は、逃げるように走って行った。それから、ルージュがガラの悪い男の服を咥えて、ぽい、とする。〆に、唸り声。一斉に逃げていった。
はあ、なんとかなったあ。
私は緊張からへたりこむ。嫌みな顔を作っていたのでこめかみがひきつる。
「お疲れ姉ちゃん」
「まあな、なんとかなったなあ。ルージュ、ありがとうね」
『いいのよ。でも良かったの? 色々食いちぎったのに』
「やめて、大惨事や」
私は立ち上がる。
「あの、ミズサワさん、どうするんですか? あんな啖呵を切って」
見守ってくれていたジョアンさんが心配そうだ。それ以上にザックさんが心配そう。
「あの、お金、あまり集まってないんです」
「それならご心配なく。全部嘘ですよ。向こうは正式な借金だと証明できないはず」
「ですが、それが嘘だと、どうやって証明をするんですか?」
ザックさんの不安が拭えない。
「伝手がありますから」
「姉ちゃん、親父に頼むんやろ? 親父だけやと、無理やない? 偽造だと証言、論破出来るだけの人が必要や」
晃太が待ったをかける。
「こう言う時のギルドや。書類関係に強か人ば助っ人に来てもらおう」
晃太のアドバイス。私も同じことを考えていた。リティアさんか、タージェルさんにお願いしよう。
「そうやな」
「待ってください、そんな事したら、子供達が………」
「そこは事情を汲んでもらいます。もう、行政に頼らないと、いけない時期に来ているんではないですか?」
ザックさんは言葉を飲む。
「子供達の事情は、汲んでもらい、存在を秘匿状態にしてもらいましょう。多分、あいつらがここを察知しているなら、既にあちこち知られている可能性があります。そうなれば、ザックさん達だけでは、守りきれませんよ」
「………おっしゃる通りです」
私の指摘に、絞り出すようなザックさん。もしお金を払っても同じことするだろうし、子供達の情報を売りかねない。今回どうにかなっても、またあいつらみたいなのが絶対に出てくる。下手したら、すでに情報が出回っている可能性もある。それに、ここにあいつが来ている以上、すでに情報がどこからか漏れているから、時間の問題のはず。私達が常にマーファにいないから、やはり行政の介入が必要なはずだ。ギルドでお願いして、ハルスフォン様に介入のお願いをしないと。
「とにかく、明日次第です。私は一旦ギルドに行きます。晃太、後は頼めるね? ルージュはここに居ってね」
「よかよ」
『いいけど、ユイ、大丈夫?』
「ジョアンさんおるけんね」
私はフードを被り、ジョアンさんと孤児院を出て、スラム街を抜けてギルドに向かった。
近所の家から、数人が覗いていた。
感想 867
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「役に立たなければ、また捨てられる」
そう思い、いつも“いい子”でいようとしていた彼女は、ある日、公爵家の馬車を助けたことをきっかけに屋敷へ招かれる。
そこで待っていたのは、娘に甘すぎる公爵夫妻に、妹を構いたがるレオン、そしてリリアを甘やかしたい使用人たち。
戸惑いながらも、少しずつ公爵家に居場所を見つけていくリリア。やがて夫妻から「私たちの娘になってほしい」と告げられて――。
これは、捨てられないために“いい子”でいようとしていた少女が、重すぎるほどの愛情に包まれ、本当の家族を見つけていく物語。
初夜のあとに愛する人がいると言われたので祝福で身体の時間を一日戻しました
夫婦となって初めて迎えた夜、セレンティアは夫リオールから「俺には、愛する人がいる」と告げられる。
彼が初夜を済ませた理由は、三年後に白い結婚として婚姻無効を申し立てられないようにするためだった。
けれどリオールは知らなかった。セレンティアの祝福《一日回帰》が、自分自身の身体にも使えることを。
セレンティアは自分の身体の時間を一日前へ戻し、三年間、侯爵家の妻として務めを果たすことを決める。
夫に愛されるためではない。三年後、白い結婚としてこの家を出ていくために。
番の証が出ないと捨てられたので、神様に確かめてもらいます
「番の証が出ぬからだ」
和平のために獣人国へ嫁いで四年。獣王ガイウス様との儀式は三度、三度とも証は出ませんでした。「人間の娘では神は認めぬ」——そう言われて、離宮へ。
雨漏りの下で眠り、井戸をさらい、畑を耕して。泣かなかったのは強いからではありません。獣人には、匂いでわかってしまうから。
嫁ぐ前に三年かけて読み込んだ婚姻法典。その第四章に、こうありました。
『既に誓いを結びたる者が、重ねて他者と誓いを立てんとする時、神は後の誓いを認めず』
——証が出なかったのは、わたしが人間だからではない。
長老会に申し立てたのは、解釈の確認だけ。わたしは悪くない、とは一言も書きませんでした。
遡誓の儀で神殿に浮かんだのは、六年前の秋の「成立」と、わたしの三度の「不成立(重複)」でした。
飛べないと捨てられたので、竜ごと出て行きます
「お前は竜に乗れもしない、ただの妻だろう」
竜騎士団長の夫はそう言って、飛べる従騎士の娘を選びましたわ。
ええ、わたくしは飛べません。十二年、地上におりました。
夜明け前に三十一頭の寝息を数え、歯を磨き、爪の砂を取り、冬に毛布を掛け、契約を編んで。——この国でただひとりの「調律者」として。
竜は、人を乗せない生き物ですのよ。竜自身が「乗せてもいい」と決めない限り。そして竜が誰の言葉で頷いてきたか、あの方は十二年、一度もお考えにならなかった。
離縁されて、わたくしは竜舎を出ました。
三日後から、竜は一頭も飛ばなくなりましたの。
怒っているのではありませんのよ。竜は報復をしませんもの。ただ——寂しいのです。
そして来月は、三年に一度の、契約更新日ですわ。
土下座する王妃の座などいらないので、冒険者に転職します。
「私が愛しているのはエルナ。君だけだ」
エルナは自分の夫でありハーメルン王国の国王であるカメルを愛していた。
彼がどれほど自分より隣国の聖女を優先しようとも。
結婚して二年が経っても初夜を迎えたことがなかろうとも。
しかし。
「エルナ。君に失望した。聖女を陥れていじめるとはな。罪を認め、ひざまずいて謝罪するように」
一年に一度の建国記念宴会であり結婚記念日に、カメルはすべての貴族や外国の使節団が見ている前で、エルナに身に覚えのない罪を認めろと断罪した。
愛が壊れるのは一瞬。
だからこそ、エルナはその場でひざまずいた。頭を地面にこすりつけて謝罪した。
「聖女を陰謀にかけた大罪人エルナは、この時間をもって王妃の座から退き、平民となりますことをお許しください。聖女様とどうかお幸せに」
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婚約破棄を受け入れた瞬間、王太子殿下が青ざめました
王都でもっとも華やかな春の夜会。その中央で、王太子エドワードは冷ややかな目を婚約者へ向けていた。
「リリアーナ・フォン・アルベルト公爵令嬢。君との婚約を、ここで破棄する」
会場が一瞬で静まり返る。
リリアーナは淡い金髪を揺らし、静かに王太子を見つめ返した。
「理由を、お聞きしてもよろしいでしょうか」
「理由など明白だ。君は嫉妬深く、心が狭い。それに比べ、私は真実の愛を見つけた」
そう言ってエドワードが隣へ引き寄せたのは、男爵令嬢のセシリアだった。