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偽善者④
マーファの教会の孤児院もぼろぼろだったが、ここは更に上を行く。
隙間だらけだし、ドアとか外れそうよ。
子供はいるが、建物の隙間から伺っていて、かなり警戒されている。
コラソン君が、中に入り先生を呼んできてくれた。中年の女性だ。
「コラソン、あんた何をしたんだい?」
「何もしてないよ。この人が話を聞きたいって」
女性は私達に警戒。
「子供は誰1人渡さないよッ」
「違うよ、マーヤ先生、違うって」
きっと借金関係の連中だと思われたんだ。
形相が凄まじいが、ただ単に子供達を守ろうとしているだけだ。
ジョアンさんが私達の前に立つが、後ろに下がってもらい、私はフードを外して、ペコリ。
「突然押し掛けて申し訳ありません。私はユイ・ミズサワと申します」
挨拶すると、中年女性は戸惑いの表情に。
「コラソン、こちらの方は?」
「あのテイマーさんだよ。ウルフとジャガーの」
『クリムゾンジャガーよ』
ルージュがコラソン君に突っ込み。
だが、女性、マーヤさんはまだ疑いの眼差しだ。
「ルージュ、出てん」
そう言うと、ルージュが光の魔法を解除し、姿が現れる。
「ひぃっ」
「ね、あのテイマーさんだよ」
「も、申し訳ありませんっ」
マーヤさんは腰が折れるような勢いで頭を下げた。
『ユイ、早くね、早くね』
「分かった分かった」
ルージュが姿を出し、安全だと分かって、子供達がルージュに群がる。
私と晃太、ジョアンさんはマーヤさんの案内で廃屋、失礼、孤児院の中に。
中は、うん、ぼろぼろだ。
とりあえず一室に案内される。ドアにはジョアンさんが待機。
「コラソン君から話を聞きましたが、詳しい事情を教えてもらえないですか?」
「はい」
マーヤさんの話はこうだ。
先代の先生は、元Bランクの冒険者で、夫妻でここをひっそりと経営していた。数年前に奥さんが亡くなり、去年その元Bランク冒険者が亡くなり、息子さん夫婦が引き継いだ。
なんとか遣り繰りしながら、自転車操業でやっていたが、数日前にいきなり金貸しがやってきた。
「あいつらはお義父さんが多額の借金をしているなんて言い出して。でも、主人も私も全く知らないんです。しかもお義父さんが亡くなって1年もしてからです。だから、そんなの嘘だと突っぱねていたんですが、書面があるって言い出して」
おかしな話や。
「だったら見せろ、と主人が抵抗しました。確認もしないで、払えないと」
マーヤさんが深くため息。
「見せる代わりに、ここに隠れている子供達の存在を親や、他の金貸しにばらすと言い出してきたんです」
うわ、最低。
なんでもひどい虐待を受けて避難している子供が数人、借金を残したまま姿を消した親の子供もいる。皆隠れているのに、ばらすなんて最低だ。抵抗できない子供を盾にするなんて。
だけど話を聞くと、なんだか変だ、絶対におかしい。本当に借金なんてあるんだろうか。
「で、どうするんですか?」
「まず、利息分払えば書面を見せるなんて言っていますが」
それで金策にマーヤさんの旦那さんが走っていっているんだ。とにかく避難している子供達の存在を出したくない。その一心だと。
「どう思う?」
晃太に意見を求める。
「詐欺やな絶対」
ばっさりと答える晃太。
「私もそう思うけど。他に助けてくれそうな人は? 領主のハルスフォン様は?」
今思い付く最高権力者。
だが、マーヤさんは首を振る。
「ハルスフォン様にはこれ以上ご迷惑はかけられません。それに行政が関われば、子供達の存在が知られてしまいます」
なんでも以前から、この無認可の孤児院を、認可しようと話があったが、やはり存在を隠したい子供がいるために二の足を踏んでいるそうだ。ハルスフォン様からは、時折ポケットマネーで支援してくれたり、伯爵所有の果樹園で採れた規格外の果実を回してくれたりしていると。ただ、おおっぴらにできないのが実情だ。
「マーヤさん、確かに隠したい子供達がいるのは分かりますが、このままではいいことありませんよ」
「それはそうですが………」
「利息分はいくらなんです?」
「それも、払う意志がなければ教えられない、と」
「詐欺や、絶対詐欺や」
晃太がばっさり。
そう、思うが、どうやってそれを立証するかだ。
その利息分払えば書面を見せるか? いや、絶対にないだろう。次に持ってくるとか、なんとか誤魔化すはず。
どうしたものか。
晃太と悩んでいると、マーヤさんの旦那さんが帰って来る。ルージュを見て野太い悲鳴をあげてた。
とりあえず、挨拶を済ませる。旦那さん、ザックさんは疲れた顔だ。金策、うまくいってないんだね。
ザックさんもマーヤさんも、ただ、子供達を守りたいがどうしようもない状況だと。
「その書面が本物だと、見たらすぐに分かりますか?」
私が聞くも、2人とも首を振る。
「見せる、と言っても、おそらく、ちらっとしか見せませんよ。これで見せたとか言ってね」
疲れた顔のザックさん。
卑怯やな。
利息分の額も教えないなんて、おかしい。絶対におかしい。
どうしたものか。
悩んでいると、ルージュが木窓を鼻で押し開けて覗いてくる。ひぃ、となるザックさん夫婦。
「どうしたん?」
『ユイ、害意がこちらに向かって来るわ』
「子供達を中にっ」
外にいた子供達を中に誘導する。
皆、分かっているのか、マーヤさんの指示に従い屋内に。
「ルージュ、姿を消して、合図したらよか?」
『いいわ。だけどユイに手を出したら、消すわよ』
何を? 息の根?
「唸るだけにしてね」
「姉ちゃん、大丈夫な?」
「やるだけやるよ。さあ、はったりかますよ」
私は晃太、ザックさん、ジョアンさんと建物の前に。
ルージュがすぐ近くで待機。
私は息を吸って、気持ちを落ち着かせる。
やるだけ、やろう。怯んではいけない。後ろには理不尽な理由で、逃げ場のない子供達がいるんだ。
なんとかせんと、いかん。
私の覚悟が決まる頃、あからさまにがらの悪そうな男達を引き連れた男が来た。趣味の悪いコートだ。
趣味の悪い男は、ニヤニヤ笑いでザックさんを見ている。それから私達を見て、鼻で笑う。
「さあ、ザック先生、利息分は御用意できましたかな?」
完全にバカにしている。
「前から言っている。いくらの借金に対しての利息なのかと。その額を提示し正当性がなければ、払う義理はないッ」
ザックさんが吠える。
「おやあ? そんなこと言っていいんですかあ? 子供達がどうなっても?」
こいつ、腹立つ。
私は冷静を装いながら、ザックさんの前に立つ。心臓バクバクしている。あらかじめ、私に任せてもらうように話してある。
「いくらや? その借金?」
「なんだお前は?」
趣味の悪い男は、私をじろじろ、うわあ、気持ち悪い。
「ここの支援者や、さあ、借金を証明する書面ば出さんね」
「ああ、書面ですかあ。あいにく今日は持ってきてないんですよ」
白々しい。
『ユイ、こいつの言葉は嘘だらけよ』
ルージュが小声で教えてくれる。やっぱり詐欺やな。
よし、絶対に弱みを見せない、こちらが優位だと思わせないと。印籠を使う時や。
「だったら明日の夕方に、書面一式揃えるんやね。もし、後からまだ有りました、なんて言ったらどうなるか分かっとうやろうね」
「はっ」
趣味の悪い男は鼻で笑う。
「ケンカを売ろうって言うんですかあ? 私が誰だか分かっているんですかねえ、おばさん? 年いったお前なんかたいした額にもならないだろうに」
かちん。
「先にケンカを売ったのはそっちや。ありもしない借金でっち上げて、子供達を盾にお金を巻き上げようなんて、肝の小さか男やね」
私は吐き捨てる。
だが、その言葉に、趣味の悪い男の形相が変わる。
「クソアマッ」
趣味の悪い男が掴み掛かってくる。
私は身構えてから、叫ぶ。
「ルージュッ」
グルアァァァァァァァッ
咆哮と共に、趣味の悪い男が吹き飛ぶ。
一斉にガラの悪い男達が身構える。だが、全員、どこに向かって身構えたらいいか分からないな様子だ。
私は小さく、拘束、と呟く。
『私はクリムゾンジャガー、血の轍を紡ぐもの』
吹き飛ばされた趣味の悪い男は、起き上がろうとして、もがくが、潰された声を出す。だが、何かに押さえられているように起き上がれない。姿を消したルージュだ。ちらり、と空間が歪んだ。
『闇よ、我の手足となれ、我、主人に仇なすものたちの全てを縛り付けよ』
すう、とルージュが姿を表す。
ルージュは前肢を、趣味の悪い男の胸を押さえつけている。その眼前には、眉間に深い皺、剥き出される鋭い牙。趣味の悪い男の顔色が一気に悪くなる。恐怖だけではない、物理的に顔色が悪くなる。
ガラの悪い男達は、ルージュの迫力に戸惑う。
「早く、助けろ……」
微かに絞り出す趣味の悪い男の声に、ためらいながらもガラの悪い男達はナイフを抜く。
だが、それまでだ。
『拘束モード 闇の束縛者(ウブラ・カウティーラ)』
白いルージュのからだに、黒いゼブラ模様が浮かび上がり、ルージュの影から真っ黒な触手が伸びる。
「「「うわぁぁぁぁぁぁっ」」」
触手は一斉に男達に巻き付き、持ち上げる。建物の屋根くらいまで持ち上げる。ガラの悪い男達は必死に抵抗しているが、びくともしない。
「さあ、金貸しさん」
私はルージュの前肢で押さえられている趣味の悪い男を見下ろす。
「これで私が誰だか分かったね?」
「ぐう………こんな事して、いいのか…………ここのガキどもがどうなっても………」
「ふん。安い脅しに乗るわけないやろ? 子供達は守れる。例え誰が来ようがね」
私は鼻で笑って見せる。嫌みだろうが、構わない。子供達に手は出せないと思わせないと。
趣味の悪い男は、歯ぎしりしている。
「私はフォレストガーディアンウルフとクリムゾンジャガーを従魔に持つテイマーや。そして私の後見人はご意見番のダイチ・サエキ様。意味分かる? あんたは私にケンカを売った、買ってやろうやないね。明日の夕方に書面ば耳を揃えて持ってきい、逃げるんやないよ。ルージュ、こいつらの顔、覚えたね?」
『ええ、覚えたわ』
趣味の悪い男の顔色が更に悪くなる。
ルージュに押さえられているだけではない。サエキ様の名前が出た時点で、一気にその顔から更に余裕がなくなる。印籠的な感じで名前を出したが、効果絶大や。
「もし、明日の指定時間以外にここに来て何かするようなら容赦せんよ。うちのルージュは優秀やからね。このマーファ全体の気配を感知できる。害意を持ってここに近付けば、数分も立たずにここに来る。そん時は、ルージュだけやない、フォレストガーディアンウルフのビアンカもおるけんね」
言いながら、どっちが悪役か分からなくなってきた。
だが、引くわけにはいかん。
「さ、とっとと、お引き取り頂きましょうかね。ルージュ」
ルージュが前肢を退けて、体からゼブラ模様が消える。
屋根まで高く持ち上げられたガラの悪い男達を拘束していた、真っ黒な触手が消えて、一斉に地面に。痛そうな音を立てて、地面に転がる。
「こ、こんなことして、許されると思うなよッ」
「文句があるなら、ダイチ・サエキ様に言うんやね」
再び印籠を出す。
効果絶大。
首都にいったら、お礼言わないと。
来た時から想像できない顔で、趣味の悪い男は、逃げるように走って行った。それから、ルージュがガラの悪い男の服を咥えて、ぽい、とする。〆に、唸り声。一斉に逃げていった。
はあ、なんとかなったあ。
私は緊張からへたりこむ。嫌みな顔を作っていたのでこめかみがひきつる。
「お疲れ姉ちゃん」
「まあな、なんとかなったなあ。ルージュ、ありがとうね」
『いいのよ。でも良かったの? 色々食いちぎったのに』
「やめて、大惨事や」
私は立ち上がる。
「あの、ミズサワさん、どうするんですか? あんな啖呵を切って」
見守ってくれていたジョアンさんが心配そうだ。それ以上にザックさんが心配そう。
「あの、お金、あまり集まってないんです」
「それならご心配なく。全部嘘ですよ。向こうは正式な借金だと証明できないはず」
「ですが、それが嘘だと、どうやって証明をするんですか?」
ザックさんの不安が拭えない。
「伝手がありますから」
「姉ちゃん、親父に頼むんやろ? 親父だけやと、無理やない? 偽造だと証言、論破出来るだけの人が必要や」
晃太が待ったをかける。
「こう言う時のギルドや。書類関係に強か人ば助っ人に来てもらおう」
晃太のアドバイス。私も同じことを考えていた。リティアさんか、タージェルさんにお願いしよう。
「そうやな」
「待ってください、そんな事したら、子供達が………」
「そこは事情を汲んでもらいます。もう、行政に頼らないと、いけない時期に来ているんではないですか?」
ザックさんは言葉を飲む。
「子供達の事情は、汲んでもらい、存在を秘匿状態にしてもらいましょう。多分、あいつらがここを察知しているなら、既にあちこち知られている可能性があります。そうなれば、ザックさん達だけでは、守りきれませんよ」
「………おっしゃる通りです」
私の指摘に、絞り出すようなザックさん。もしお金を払っても同じことするだろうし、子供達の情報を売りかねない。今回どうにかなっても、またあいつらみたいなのが絶対に出てくる。下手したら、すでに情報が出回っている可能性もある。それに、ここにあいつが来ている以上、すでに情報がどこからか漏れているから、時間の問題のはず。私達が常にマーファにいないから、やはり行政の介入が必要なはずだ。ギルドでお願いして、ハルスフォン様に介入のお願いをしないと。
「とにかく、明日次第です。私は一旦ギルドに行きます。晃太、後は頼めるね? ルージュはここに居ってね」
「よかよ」
『いいけど、ユイ、大丈夫?』
「ジョアンさんおるけんね」
私はフードを被り、ジョアンさんと孤児院を出て、スラム街を抜けてギルドに向かった。
近所の家から、数人が覗いていた。
隙間だらけだし、ドアとか外れそうよ。
子供はいるが、建物の隙間から伺っていて、かなり警戒されている。
コラソン君が、中に入り先生を呼んできてくれた。中年の女性だ。
「コラソン、あんた何をしたんだい?」
「何もしてないよ。この人が話を聞きたいって」
女性は私達に警戒。
「子供は誰1人渡さないよッ」
「違うよ、マーヤ先生、違うって」
きっと借金関係の連中だと思われたんだ。
形相が凄まじいが、ただ単に子供達を守ろうとしているだけだ。
ジョアンさんが私達の前に立つが、後ろに下がってもらい、私はフードを外して、ペコリ。
「突然押し掛けて申し訳ありません。私はユイ・ミズサワと申します」
挨拶すると、中年女性は戸惑いの表情に。
「コラソン、こちらの方は?」
「あのテイマーさんだよ。ウルフとジャガーの」
『クリムゾンジャガーよ』
ルージュがコラソン君に突っ込み。
だが、女性、マーヤさんはまだ疑いの眼差しだ。
「ルージュ、出てん」
そう言うと、ルージュが光の魔法を解除し、姿が現れる。
「ひぃっ」
「ね、あのテイマーさんだよ」
「も、申し訳ありませんっ」
マーヤさんは腰が折れるような勢いで頭を下げた。
『ユイ、早くね、早くね』
「分かった分かった」
ルージュが姿を出し、安全だと分かって、子供達がルージュに群がる。
私と晃太、ジョアンさんはマーヤさんの案内で廃屋、失礼、孤児院の中に。
中は、うん、ぼろぼろだ。
とりあえず一室に案内される。ドアにはジョアンさんが待機。
「コラソン君から話を聞きましたが、詳しい事情を教えてもらえないですか?」
「はい」
マーヤさんの話はこうだ。
先代の先生は、元Bランクの冒険者で、夫妻でここをひっそりと経営していた。数年前に奥さんが亡くなり、去年その元Bランク冒険者が亡くなり、息子さん夫婦が引き継いだ。
なんとか遣り繰りしながら、自転車操業でやっていたが、数日前にいきなり金貸しがやってきた。
「あいつらはお義父さんが多額の借金をしているなんて言い出して。でも、主人も私も全く知らないんです。しかもお義父さんが亡くなって1年もしてからです。だから、そんなの嘘だと突っぱねていたんですが、書面があるって言い出して」
おかしな話や。
「だったら見せろ、と主人が抵抗しました。確認もしないで、払えないと」
マーヤさんが深くため息。
「見せる代わりに、ここに隠れている子供達の存在を親や、他の金貸しにばらすと言い出してきたんです」
うわ、最低。
なんでもひどい虐待を受けて避難している子供が数人、借金を残したまま姿を消した親の子供もいる。皆隠れているのに、ばらすなんて最低だ。抵抗できない子供を盾にするなんて。
だけど話を聞くと、なんだか変だ、絶対におかしい。本当に借金なんてあるんだろうか。
「で、どうするんですか?」
「まず、利息分払えば書面を見せるなんて言っていますが」
それで金策にマーヤさんの旦那さんが走っていっているんだ。とにかく避難している子供達の存在を出したくない。その一心だと。
「どう思う?」
晃太に意見を求める。
「詐欺やな絶対」
ばっさりと答える晃太。
「私もそう思うけど。他に助けてくれそうな人は? 領主のハルスフォン様は?」
今思い付く最高権力者。
だが、マーヤさんは首を振る。
「ハルスフォン様にはこれ以上ご迷惑はかけられません。それに行政が関われば、子供達の存在が知られてしまいます」
なんでも以前から、この無認可の孤児院を、認可しようと話があったが、やはり存在を隠したい子供がいるために二の足を踏んでいるそうだ。ハルスフォン様からは、時折ポケットマネーで支援してくれたり、伯爵所有の果樹園で採れた規格外の果実を回してくれたりしていると。ただ、おおっぴらにできないのが実情だ。
「マーヤさん、確かに隠したい子供達がいるのは分かりますが、このままではいいことありませんよ」
「それはそうですが………」
「利息分はいくらなんです?」
「それも、払う意志がなければ教えられない、と」
「詐欺や、絶対詐欺や」
晃太がばっさり。
そう、思うが、どうやってそれを立証するかだ。
その利息分払えば書面を見せるか? いや、絶対にないだろう。次に持ってくるとか、なんとか誤魔化すはず。
どうしたものか。
晃太と悩んでいると、マーヤさんの旦那さんが帰って来る。ルージュを見て野太い悲鳴をあげてた。
とりあえず、挨拶を済ませる。旦那さん、ザックさんは疲れた顔だ。金策、うまくいってないんだね。
ザックさんもマーヤさんも、ただ、子供達を守りたいがどうしようもない状況だと。
「その書面が本物だと、見たらすぐに分かりますか?」
私が聞くも、2人とも首を振る。
「見せる、と言っても、おそらく、ちらっとしか見せませんよ。これで見せたとか言ってね」
疲れた顔のザックさん。
卑怯やな。
利息分の額も教えないなんて、おかしい。絶対におかしい。
どうしたものか。
悩んでいると、ルージュが木窓を鼻で押し開けて覗いてくる。ひぃ、となるザックさん夫婦。
「どうしたん?」
『ユイ、害意がこちらに向かって来るわ』
「子供達を中にっ」
外にいた子供達を中に誘導する。
皆、分かっているのか、マーヤさんの指示に従い屋内に。
「ルージュ、姿を消して、合図したらよか?」
『いいわ。だけどユイに手を出したら、消すわよ』
何を? 息の根?
「唸るだけにしてね」
「姉ちゃん、大丈夫な?」
「やるだけやるよ。さあ、はったりかますよ」
私は晃太、ザックさん、ジョアンさんと建物の前に。
ルージュがすぐ近くで待機。
私は息を吸って、気持ちを落ち着かせる。
やるだけ、やろう。怯んではいけない。後ろには理不尽な理由で、逃げ場のない子供達がいるんだ。
なんとかせんと、いかん。
私の覚悟が決まる頃、あからさまにがらの悪そうな男達を引き連れた男が来た。趣味の悪いコートだ。
趣味の悪い男は、ニヤニヤ笑いでザックさんを見ている。それから私達を見て、鼻で笑う。
「さあ、ザック先生、利息分は御用意できましたかな?」
完全にバカにしている。
「前から言っている。いくらの借金に対しての利息なのかと。その額を提示し正当性がなければ、払う義理はないッ」
ザックさんが吠える。
「おやあ? そんなこと言っていいんですかあ? 子供達がどうなっても?」
こいつ、腹立つ。
私は冷静を装いながら、ザックさんの前に立つ。心臓バクバクしている。あらかじめ、私に任せてもらうように話してある。
「いくらや? その借金?」
「なんだお前は?」
趣味の悪い男は、私をじろじろ、うわあ、気持ち悪い。
「ここの支援者や、さあ、借金を証明する書面ば出さんね」
「ああ、書面ですかあ。あいにく今日は持ってきてないんですよ」
白々しい。
『ユイ、こいつの言葉は嘘だらけよ』
ルージュが小声で教えてくれる。やっぱり詐欺やな。
よし、絶対に弱みを見せない、こちらが優位だと思わせないと。印籠を使う時や。
「だったら明日の夕方に、書面一式揃えるんやね。もし、後からまだ有りました、なんて言ったらどうなるか分かっとうやろうね」
「はっ」
趣味の悪い男は鼻で笑う。
「ケンカを売ろうって言うんですかあ? 私が誰だか分かっているんですかねえ、おばさん? 年いったお前なんかたいした額にもならないだろうに」
かちん。
「先にケンカを売ったのはそっちや。ありもしない借金でっち上げて、子供達を盾にお金を巻き上げようなんて、肝の小さか男やね」
私は吐き捨てる。
だが、その言葉に、趣味の悪い男の形相が変わる。
「クソアマッ」
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私は身構えてから、叫ぶ。
「ルージュッ」
グルアァァァァァァァッ
咆哮と共に、趣味の悪い男が吹き飛ぶ。
一斉にガラの悪い男達が身構える。だが、全員、どこに向かって身構えたらいいか分からないな様子だ。
私は小さく、拘束、と呟く。
『私はクリムゾンジャガー、血の轍を紡ぐもの』
吹き飛ばされた趣味の悪い男は、起き上がろうとして、もがくが、潰された声を出す。だが、何かに押さえられているように起き上がれない。姿を消したルージュだ。ちらり、と空間が歪んだ。
『闇よ、我の手足となれ、我、主人に仇なすものたちの全てを縛り付けよ』
すう、とルージュが姿を表す。
ルージュは前肢を、趣味の悪い男の胸を押さえつけている。その眼前には、眉間に深い皺、剥き出される鋭い牙。趣味の悪い男の顔色が一気に悪くなる。恐怖だけではない、物理的に顔色が悪くなる。
ガラの悪い男達は、ルージュの迫力に戸惑う。
「早く、助けろ……」
微かに絞り出す趣味の悪い男の声に、ためらいながらもガラの悪い男達はナイフを抜く。
だが、それまでだ。
『拘束モード 闇の束縛者(ウブラ・カウティーラ)』
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「「「うわぁぁぁぁぁぁっ」」」
触手は一斉に男達に巻き付き、持ち上げる。建物の屋根くらいまで持ち上げる。ガラの悪い男達は必死に抵抗しているが、びくともしない。
「さあ、金貸しさん」
私はルージュの前肢で押さえられている趣味の悪い男を見下ろす。
「これで私が誰だか分かったね?」
「ぐう………こんな事して、いいのか…………ここのガキどもがどうなっても………」
「ふん。安い脅しに乗るわけないやろ? 子供達は守れる。例え誰が来ようがね」
私は鼻で笑って見せる。嫌みだろうが、構わない。子供達に手は出せないと思わせないと。
趣味の悪い男は、歯ぎしりしている。
「私はフォレストガーディアンウルフとクリムゾンジャガーを従魔に持つテイマーや。そして私の後見人はご意見番のダイチ・サエキ様。意味分かる? あんたは私にケンカを売った、買ってやろうやないね。明日の夕方に書面ば耳を揃えて持ってきい、逃げるんやないよ。ルージュ、こいつらの顔、覚えたね?」
『ええ、覚えたわ』
趣味の悪い男の顔色が更に悪くなる。
ルージュに押さえられているだけではない。サエキ様の名前が出た時点で、一気にその顔から更に余裕がなくなる。印籠的な感じで名前を出したが、効果絶大や。
「もし、明日の指定時間以外にここに来て何かするようなら容赦せんよ。うちのルージュは優秀やからね。このマーファ全体の気配を感知できる。害意を持ってここに近付けば、数分も立たずにここに来る。そん時は、ルージュだけやない、フォレストガーディアンウルフのビアンカもおるけんね」
言いながら、どっちが悪役か分からなくなってきた。
だが、引くわけにはいかん。
「さ、とっとと、お引き取り頂きましょうかね。ルージュ」
ルージュが前肢を退けて、体からゼブラ模様が消える。
屋根まで高く持ち上げられたガラの悪い男達を拘束していた、真っ黒な触手が消えて、一斉に地面に。痛そうな音を立てて、地面に転がる。
「こ、こんなことして、許されると思うなよッ」
「文句があるなら、ダイチ・サエキ様に言うんやね」
再び印籠を出す。
効果絶大。
首都にいったら、お礼言わないと。
来た時から想像できない顔で、趣味の悪い男は、逃げるように走って行った。それから、ルージュがガラの悪い男の服を咥えて、ぽい、とする。〆に、唸り声。一斉に逃げていった。
はあ、なんとかなったあ。
私は緊張からへたりこむ。嫌みな顔を作っていたのでこめかみがひきつる。
「お疲れ姉ちゃん」
「まあな、なんとかなったなあ。ルージュ、ありがとうね」
『いいのよ。でも良かったの? 色々食いちぎったのに』
「やめて、大惨事や」
私は立ち上がる。
「あの、ミズサワさん、どうするんですか? あんな啖呵を切って」
見守ってくれていたジョアンさんが心配そうだ。それ以上にザックさんが心配そう。
「あの、お金、あまり集まってないんです」
「それならご心配なく。全部嘘ですよ。向こうは正式な借金だと証明できないはず」
「ですが、それが嘘だと、どうやって証明をするんですか?」
ザックさんの不安が拭えない。
「伝手がありますから」
「姉ちゃん、親父に頼むんやろ? 親父だけやと、無理やない? 偽造だと証言、論破出来るだけの人が必要や」
晃太が待ったをかける。
「こう言う時のギルドや。書類関係に強か人ば助っ人に来てもらおう」
晃太のアドバイス。私も同じことを考えていた。リティアさんか、タージェルさんにお願いしよう。
「そうやな」
「待ってください、そんな事したら、子供達が………」
「そこは事情を汲んでもらいます。もう、行政に頼らないと、いけない時期に来ているんではないですか?」
ザックさんは言葉を飲む。
「子供達の事情は、汲んでもらい、存在を秘匿状態にしてもらいましょう。多分、あいつらがここを察知しているなら、既にあちこち知られている可能性があります。そうなれば、ザックさん達だけでは、守りきれませんよ」
「………おっしゃる通りです」
私の指摘に、絞り出すようなザックさん。もしお金を払っても同じことするだろうし、子供達の情報を売りかねない。今回どうにかなっても、またあいつらみたいなのが絶対に出てくる。下手したら、すでに情報が出回っている可能性もある。それに、ここにあいつが来ている以上、すでに情報がどこからか漏れているから、時間の問題のはず。私達が常にマーファにいないから、やはり行政の介入が必要なはずだ。ギルドでお願いして、ハルスフォン様に介入のお願いをしないと。
「とにかく、明日次第です。私は一旦ギルドに行きます。晃太、後は頼めるね? ルージュはここに居ってね」
「よかよ」
『いいけど、ユイ、大丈夫?』
「ジョアンさんおるけんね」
私はフードを被り、ジョアンさんと孤児院を出て、スラム街を抜けてギルドに向かった。
近所の家から、数人が覗いていた。
感想 854
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妹をいじめた悪女。
匂いしか分からない無能令嬢。
王妃にふさわしくない女。
夜会場でそう笑われた彼女は、すべてを失った――はずだった。
けれどリリアーナの嗅覚は、ただ香りを嗅ぎ分けるだけのものではない。
人の嘘。
隠された悪意。
病の兆し。
呪いの残り香。
そして、運命の匂いまで嗅ぎ分ける、王国唯一の異能だった。
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「私は、私の鼻で生きていきます」
香水店から始まる、婚約破棄令嬢の逆転恋愛ファンタジー。
ざまぁあり、契約婚約あり、冷血公爵の不器用な溺愛あり。
最後には、彼女を捨てた者たちが気づくことになる。
本当に失ってはいけなかったのは、彼女だったのだと。
王妃教育を辞退したら「困る」と国王陛下が直接迎えに来ました ~婚約破棄された私に、王太子ではなく国王陛下が求婚してきます〜
由香【全一話完結】
王太子の心変わりによって婚約を破棄された侯爵令嬢リリアーナ。
十年以上受け続けた王妃教育も辞退し、ようやく自由になれると思っていた。
ところが数日後、侯爵家を訪れたのは国王陛下本人。
「王妃教育を辞退されると困る。私の妃になってほしい」
努力を踏みにじった王太子はすべてを失い、選ばれたのは誠実に生きてきた彼女だった。
これは、年上国王に溺愛されながら、世界一幸せな王妃になるまでの逆転ラブストーリー。
私の息子を“愛人の子の下”にすると言った夫へ──その瞬間、正妻の役目は終わりました
放浪人政略結婚で伯爵家に嫁いだ侯爵令嬢リディアは、愛のない夫婦関係を「正妻の務め」と割り切り、赤字だらけの領地を立て直してきた。帳簿を整え、税の徴収を正し、交易路を広げ、収穫が不安定な年には備蓄を回す――伯爵家の体裁を保ってきたのは、いつも彼女の実務だった。
だがある日、夫オスヴァルドが屋敷に連れ帰ったのは“幼馴染”の女とその息子。
「彼女は可哀想なんだ」
「この子を跡取りにする」
そして人前で、平然と言い放つ。
――「君の息子は、愛人の子の“下”で学べばいい」
その瞬間、リディアの中で何かが静かに終わった。怒鳴らない。泣かない。微笑みすら崩さない。
「承知しました。では――正妻の役目は終わりましたね」
聖女って無給で無休なんですか?じゃあやらないです
こじまき異世界に聖女として召喚されたイラストレーターのチヒロ。しかし聖女には給料も休みもないことを知って「じゃあやらないです」と聖女就任を断る。
「国と人を救う崇高な仕事には、私どもからの感謝を捧げよう」
「心底いらないです」
異世界でまで、やりがい搾取されてたまるかよ。
※小説家になろうにも投稿しています
婚約破棄された人たらし悪役令嬢ですが、 最強で過保護な兄たちと義姉に溺愛されています
由香婚約破棄のその日、
悪役令嬢リリアーナは――弁明すら、しなかった。
王太子と“聖女”に断罪され、すべてを失った彼女。
だがその裏で、王国最強と名高い三人の兄と、冷静沈着な義姉が、静かに動き始めていた。
再検証によって暴かれる“聖女の嘘”。
広場で語られる真実。
そして、無自覚に人を惹きつけてしまうリリアーナの優しさが、次々と味方を増やしていく――。
これは、悪役令嬢として断罪された少女が、「誰かの物語の脇役」ではなく、自分自身の人生を取り戻す物語。
過保護すぎる兄たちと義姉に溺愛されながら、彼女は静かに、そして確実に幸せへ向かっていく。
妹を踏みにじった奴らに、復讐の花束を
楠ノ木雫 妹を傷つけたやつは誰だ。
隣国に嫁いだこの国の王女であり双子の妹でもあるクラリスが2年後に亡き人となって帰ってきた。死因すら伝えられず嫁ぎ先の墓にも入れてもらえずに隣国の使者が連れてきた。
この事実に信じられずにいると、クラリスが帰ってくる半年前に戻っていた。
一体隣国でクラリスの身に何があったのか。
絶対に、もうクラリスのあんな姿を見たくない。堅く決意し使節団の使者として隣国に乗りこむ事になった。
※一話で過激なシーンがあります。
【第1回新エンタメ小説大賞】にエントリー中です。
五年も笑わなかった辺境伯の娘が、追放された保育係の令嬢の前で初めて笑った
歩人(あゆと)侯爵令嬢クラリスは、五年間、兄夫婦の公爵家で三人の御子の保育を任されてきた。表向きは「下女扱い」だったが、彼女の保育記録には毎日の歌・手作りの絵札・夜泣きの記録が綿密に綴られていた。「育児など侍女の手伝い。本物の貴族のすることではないわ」兄嫁の侮辱に、クラリスは保育記録帳を置いて去る。訪ねた先は、妻を亡くした辺境伯ロタールの屋敷だった。彼の娘リーリャは六歳、母を亡くして以来、誰の前でも笑わなかった。「五年、御子さま方を見続けたあなたなら、リーリャの心も読めるだろうか」ロタールの不器用な依頼に、クラリスは静かに頷く。春が来る頃、リーリャは初めて声を上げて笑った。クラリスの隣で、ロタールも気づくと微笑んでいた——五年ぶりに。
【完結済】ワザと醜い令嬢をしていた令嬢一家華麗に亡命する
satomi醜く自らに魔法をかけてケルリール王国王太子と婚約をしていた侯爵家令嬢のアメリア=キートウェル。フェルナン=ケルリール王太子から醜いという理由で婚約破棄を言い渡されました。
もう王太子は能無しですし、ケルリール王国から一家で亡命してしまう事にしちゃいます!