もふもふ大好き家族が聖女召喚に巻き込まれる~時空神様からの気まぐれギフト・スキル『ルーム』で家族と愛犬守ります~

鐘ケ江 しのぶ

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魔境⑩

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 色々片付けた後、私達はエリアボスの間に来ていた。単にルームから出ただけなんだけど。ノワールはお留守番してもらう。
 お兄さんが熱烈歓迎していた。まずはお母さんウルフにすりすり、ビアンカとルージュにすりすり、仔達にすりすり。私達はむっ、としたけど、お母さんウルフにすりすり、最初に戻る。しばらく、黙ったままじっとしてたけど。
「ガウッ」
『鬱陶しいのですっ』
『うざいわっ』
 パンチ×3。
「へっへっ」
 効いてない、全然効いてない。痛くないの?
 エリアボスの間に、続々とウルフ達が集まっている。うーん、圧巻やー。皆デカかあ。一番デカイのはお兄さんなんやけどね。私達は、しっかりビアンカとルージュに守られている。お母さんウルフは近くで赤ちゃん達を抱いて丸くなってる。
 ウルフ達から、ガン飛ばされたけど、ビアンカとルージュが倍にして睨み返してくれて、すごすごと引き下がってくれた。何匹かは、何か言いたそうな顔だ。あ、肉ね。分かってますよ。
 鼻水君は相変わらず、ビアンカに鼬のような魔物を献上している。鼬といっても、足とかに鱗のような装甲が付いてるし、ルージュ並みにデカイけど。
『困ったのです』
「くーん」
 熱心な鼻水君に、ビアンカは困った顔。
 エリアボスの間を見下ろす岩場に、イシスが空から舞い降りて、ゆったり座る。ざわついていたウルフ達が静かになる。
『ミナ、聞ケ』
 イシスが静かに、貫禄を感じるように話し出す。
『私ハ、エリアボスノ座ヲ譲ル』
 ザワザワ。ウルフ達がザワザワ。
 短く告げられた言葉に、集まったウルフ達はザワザワ。
『ソレニ』
 と、示したのは、へっへっ言ってるお兄さん。
 私は見た。
 集まったウルフ達の鼻から、一斉に鼻水が出るのを。え、どうしたん? そしてあちこちから悲鳴が上がる。
「きゅーん、きゅーん」
「がるうっ、がるうっ」
「わおん、わおんっ」
「きゅんっ、きゅーん」
 なんやねん。なんだか必死や。必死にイシスに訴えている。
『静マレ』
 ピシャッと言うイシス。途端に静まりかえるウルフ達。
『元々、ココハウルフガ支配スルエリアナノダ。ソレヲ先代ノ意向トオ前達ノ希望デ一時的ニ、私ガ就イテイルダケ』
 そうなの? だけど、ほら、ウルフ達の鼻水止まらないし、中にはプルプルうるうる始めてるよ。
 私は出来るだけ小声で聞く。
「ウルフ達はどうしたん?」
『イシスにエリアボスを止めないで欲しいみたいなのです』
『兄が就くのだけは、勘弁してほしいって』
『兄がエリアボスに就くと、色々大変になるのは、目に見えているのです』
『毎回あれに付き合うのは、堪らないわよ』
 ああ、あのへいへいいくぜ行軍ね。ビアンカとルージュがくたくたになってたやつね。
 イシスがふう、と息をつく。
『デハ、誰カ、其奴ニ引ケヲトラヌ者ハ? ケンカヲ売ル度胸ガアルモノハオラヌカ?』
 しーん、と静まるウルフ達。
 皆、顔を合わせない。合わせないのだけど、徐々に、ある一体のウルフから距離を取り始める。
 あるウルフとは、鼻水君だ。始めは気が付いていなかった鼻水君は、微妙に距離を置かれておろおろとし始める。そして、あからさまにうろたえはじめる。
「わおんっ、わおーんっ」
 無理無理ーッ、と言ってるみたい。鼻水が垂れる垂れる。
『ハア。オ前モ、ソロソロソノ情ケナイ根性ヲドウニカシロ』
 ため息をつくイシス。
『大体、オ前ハコヤツノ次ニナルホドノ、力ガアルノダゾ』
 え、そうなの鼻水君? 確かにドラゴン引きずって来たもんね。ビアンカを諦められなくて、お兄さんに最後まで食い下がったみたいだし。
「ねえ、あの鼻水君は強いよね?」
 小声でこそこそ。
『そうなのですよ。兄の次ね』
『私達と引けは取らないわ。ただ、ちょっと引っ込み思案なのよ。ビアンカの時だけ、食い下がったけど』
「なら、あの鼻水君がエリアボスに着いた方がスムーズなん?」
『そうなのですね。パワーバランス的には』
『兄に任せるよりずっとましよ』
「へぇ」
 鼻水君を見ると、ぴんと立っていたはずの耳を、ぺたんと倒して、更に情けない顔。うーん、イシスはきっと鼻水君に任せたいはず。お兄さんに正面切ってケンカを売れるのは、おそらく鼻水君だけ。蜘蛛達と交戦していた時だって、最後まで牙を剥いて、なかなか根性あると思うけど、今は凄く情けない顔。うーん、どうしたものか。うーん、うーん。イシスはお兄さんを出して、反対され、こんな流れになると分かっていたはず。きっと鼻水君なら任せられると思って。でも当人がこれじゃあなあ。
 お兄さんはまったくウルフ達の会話に参加せず、お母さんウルフと赤ちゃん達にべたべたくっついている。時折お母さんウルフが前足で、お兄さんの顔面を押し返すが、びくともしない。とうとうぴったり張り付くお兄さんを諦めて寝ている。
「ねえ、ビアンカ」
『なんなのです?』
「鼻水君に、君なら出来るよって、言ってやらんね」
『え、でもう………』
「埒が明かんやん」
 鼻水君は、鼻水垂らして、ぷるぷるしてる。まるで、怒られた時の花のようだ。
「ちょっと励ましてやらんね」
『うーん、仕方ないのですねぇ』
 ため息混じりにビアンカが腰を上げる。
 そして、ぷるぷるしている鼻水君の前に。
『しっかりするのです。お前はアーマーキングウルフなのですよ。その名に恥じぬようにしなくてはならないのです』
「く、くうーん…………」
『しっかりするのですっ』
 喝を入れるようにビアンカが強めに言う。鼻水君はびくり。少し考えて。おもむろに顔を上げる。
「くーん、くうーん」
『それは、今は困るのです』
「くうーん、くうーんっ」
 なんや、鼻水君が必死にビアンカに訴えている。なんや、なんや?
「ルージュ、鼻水君は何ば言いようと?」
『エリアボスになったら、伴侶になってくれるかって』
「まあっ、鼻水君は、ビアンカを諦めておらんのやねっ」
 素敵っ。だけど、困る。
『無理なのです。今は無理なのです。私にはまだ独り立ちしてない仔達がいるのです』
「くうーんっ」
『独り立ちするまで待つって』
「一途やなあ」
 ほわわわん、と眺める。
 しばらく押し問答が続く。
『私の中には、まだ、伴侶への気持ちが生きているのです。これは消えないのですよ』
「わおんっ、わおんっ」
『それでもいいって、それを全てひっくるめても、ビアンカが好きだそうよ』
「素敵っ」
 私は思わずぐっと拳を握る。頑張れ、鼻水君っ。困るけどさっ。
 押し問答は続く。とうとうビアンカが折れる。
『母様に会えた後に、お前を思い出したら、その時考えるのです』
 キャーッ。キャーッ。キャーッ。私はキャーッ、キャーッ、キャーッ。小さくだけどね。
「わおん、わおーんっ」
 鼻水君は相当嬉しいのか、まるで毬のように跳ねる。
『それまで、エリアボスを勤めるのです』
「わおんっ」
 鼻水君はいそいそと岩場に登り、イシスの隣に。その顔は、さっきまで情けなく鼻水垂らしていたとは違い、生き生きとしている。
 そして、顔を上げて、遠吠えを上げる。
「わおおおおおおおぉぉぉぉぉぉんっ」
 連動するように、ウルフ達からも遠吠えがあがる。
 わおおおぉぉんっ
 わおおおぉぉんっ
 わおおおぉぉんっ
 わおおおぉぉんっ
 わおおおぉぉんっ
 すごい迫力っ。一斉に遠吠えがあがる。
『新しいエリアボスね』
 ルージュが鼻水君を見上げて呟いた。
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