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準備⑩

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「ウィンティアッ、申し訳ございませんっ、ウーヴァ公爵様っ」

 必死に頭を下げるのは、生物学上の両親。顔面蒼白だけど、父親の方は気にならない、ただ、生物学上の母親は流産の件を知っているから、何となく気にはなる。だけど、幼いウィンティアを散々虐めたのはこの人達だし、気にしちゃダメね。

「セシリア」

 少し咎めるような口調のハインリヒ様。この人とアンジェリカ様だけがセシリア・ウーヴァ女公爵にもの申せる。

「ウィンティア嬢の誤解を解かないと」

 はあ、とため息を付くセシリア・ウーヴァ女公爵。

「もうっ、そうやって勿体ぶらせるの、私でもイライラしますわよっ。いい加減、ちゃんと話してくださいっ。ウィンティア嬢が伯爵令嬢だからと言っていくらなんでも失礼ですわよっ」

 アンジェリカ様、かっこいいっ。もっと言ってやってっ。

「確かに貴女には価値があるわ。ティーナ様が残した権利が」

「あ、もう結構です。知りたくないですから」

 私は話の途中でばっきり折る。あ、生物学上の母親がソファーに倒れ込む。

「何を言われても私の中のウーヴァ公爵とレオナルド・キーファーにたいする考えは変わりませんので」

 私はソファーから立ち上がる。

「私はこれで失礼します。資料返していただけますか? ナタリア、出掛けるわよ。申し訳けど、町歩きしても大丈夫な格好したいの」

 私はおろおろしているナタリアに指示を出す。顔が涙で濡れるから、ハンカチを出して拭いてあげる。

「ごめんねナタリア、あんな大口叩いたけど望む結果になりそうになくて」

「いいえっお嬢様っ、もう十分ですっ」

 資料はハインリヒ様の手元ね。
 私が手を差し出すと困った顔になってる。

「ねえ、ウィンティア嬢、これ我々が見逃すと本当に思っているの? 王家に対する反逆とも取られるんだよ?」

 警らの前身は自警団みたいなものだった。彼らの働きに感銘を受けたのは、確か、当時下町で隠れすんでいた幼い王女。彼女は王位継承のゴタゴタから身を守る為に下町にいた。その時に自警団に助けられていたそうだ。で、無事に王女が即位して、自警団をしっかりとした組織に押し上げた。恩返しもあったろうけど、なにより力のない市民を守るために必要なものだからと、色々は法整備や組織作りをしたって。なので、警らの紋章は女王様の名前を冠するフリージアと、市民の生活を守る意味を持つ盾を合わせたものだ。今は警らの仕事に王家はノータッチだけど、基本的には王家からの拝命による仕事だと自負している。
 つまり、フリージア女王陛下の顔に泥を塗るってことになる。何代も前の女王陛下様だけど、賢王としていまでも後生まで語り継がれているのだから。

「旨味はないのでしょう?」

 さっき言ったじゃん。

「セシリアにも悪いところはあるけど、君も大概だよ。はあ、とにかく座りなさい。悪いようにしないし、レオナルドに対する誤解を解きたい。アンジェリカ」

「はい」

 素早く私はアンジェリカ様にロックされるっ。メ、メロンパンがっ、あたるっ。そのままロック状態でソファーに。じたばた。じたばた。

「ウィンティア嬢、レオナルドは可愛い息子だ、そんなふうに見られているのを、知らん顔できないからね」 

 ………………………………………

「え? ハインリヒ様の隠し子?」

「さて、どこから説明しようかな」
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