ミルクティーな君へ。ひねくれ薄幸少女が幸せになるためには?

鐘ケ江 しのぶ

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嘘つき④

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 あの淀んだような目、何処かで見たことある。何処だっけ? ああ、なんだか喉に魚の小骨がひっかかった感じ。思い出そうとすると、右の眉上のキズがうずき出す。もしかしたら、ウィンティアが無意識に封じていた記憶の何処か?
 無理して思い出して、ウィンティアが傷つくのは避けたい。だけど、これ、思い出さないといけないやつかも。私、山岸まどかは直感。

 ウィンティア、眠って。
 そして、記憶を少しだけ、私に見せて。
 もしかしたら、いろいろな突破口になるかもしれない。
 だから、お願い。

「ウィンティア嬢、もうお聞きになったかとおもいますが、次の年度、レオンハルト殿下の護衛騎士として、シルヴァスタ王国に行きます。期間は二年です」

 聞いたよ、昨日。それで、レオンハルト殿下は暗殺の恐れがあり、この人は影武者となる。
 レオナルド・キーファーは、穏やかな顔をしながら、目だけ死んだ魚だ。

「何事もなく、過ぎるはずです。ただ、この二年間は諸事情があり、なかなか手紙のやり取りすらも制限されてしまいます」

 えっ、そうなの? 家族にも手紙出せないの? ほら、ウーヴァ公爵家とかにも。

「ですからウィンティア嬢、貴女との関係を考えなくては、と思っています。今回の件でつくづく思いました。私、貴女にとって、あまり良くない存在であることを」

 死んだ魚の目。
 レオナルド・キーファーが淡々と話ながら、記憶の断片が脳裏に過る。
 ずきずき、とキズが痛む。
 キズ。そう、メトロノームで殴られた時だ。
 つらつらと言葉を紡ぐレオナルド・キーファーを前に、幾つかの記憶のパズルがはまっていく。

 あの日。
 今から五年前。
 メトロノームで殴られた後の記憶はまだぼやけているが、少しずつキリが晴れていく。
 暗い地下室、誰かが、白いシャツの男性が窓に填められた、鉄格子を高齢男性とはずしている。
 
 お嬢様、まっすぐ走って下さい、赤いお花は花壇の前に着いたら、左に進んでください。

 そう言ったのは、多分女性、メイド服の女性。ウィンティアの左手に、白いハンカチを巻いた。

 次の場面では、ウィンティアは庭を走っていた。
 赤いバラが咲く花壇を左に曲がり、ローザ伯爵家を囲う鉄柵の隙間から、手を出した。

 断片的だけど、思い出してきた。

 メトロノームで殴られた後、私は数人の使用人と共に地下室に入れられていた。それをどうにかこうにかして、ウィンティアだけを脱出させたんだ。
 どの使用人か分からないけど。

 そして、鉄柵の向こうに叫んだ。

 助けて、と。

 その手を取ってくれたのは、茶色の髪の男性だった。
 男性。
 大人の男性だと思っていた。
 当日キズを負い逃げていた八歳のウィンティアは、精神状態だってかなり不安定だったはず。
 だから、誤認したんだ。十六歳の少年を、男性だと。
 
 ウィンティアの助けを求める手を握ったのは、茶色の髪の男性。そして、今、目の前で死んだ魚のような青い目をしたレオナルド・キーファーだった。
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