171 / 338
嘘つき④
しおりを挟む
あの淀んだような目、何処かで見たことある。何処だっけ? ああ、なんだか喉に魚の小骨がひっかかった感じ。思い出そうとすると、右の眉上のキズがうずき出す。もしかしたら、ウィンティアが無意識に封じていた記憶の何処か?
無理して思い出して、ウィンティアが傷つくのは避けたい。だけど、これ、思い出さないといけないやつかも。私、山岸まどかは直感。
ウィンティア、眠って。
そして、記憶を少しだけ、私に見せて。
もしかしたら、いろいろな突破口になるかもしれない。
だから、お願い。
「ウィンティア嬢、もうお聞きになったかとおもいますが、次の年度、レオンハルト殿下の護衛騎士として、シルヴァスタ王国に行きます。期間は二年です」
聞いたよ、昨日。それで、レオンハルト殿下は暗殺の恐れがあり、この人は影武者となる。
レオナルド・キーファーは、穏やかな顔をしながら、目だけ死んだ魚だ。
「何事もなく、過ぎるはずです。ただ、この二年間は諸事情があり、なかなか手紙のやり取りすらも制限されてしまいます」
えっ、そうなの? 家族にも手紙出せないの? ほら、ウーヴァ公爵家とかにも。
「ですからウィンティア嬢、貴女との関係を考えなくては、と思っています。今回の件でつくづく思いました。私、貴女にとって、あまり良くない存在であることを」
死んだ魚の目。
レオナルド・キーファーが淡々と話ながら、記憶の断片が脳裏に過る。
ずきずき、とキズが痛む。
キズ。そう、メトロノームで殴られた時だ。
つらつらと言葉を紡ぐレオナルド・キーファーを前に、幾つかの記憶のパズルがはまっていく。
あの日。
今から五年前。
メトロノームで殴られた後の記憶はまだぼやけているが、少しずつキリが晴れていく。
暗い地下室、誰かが、白いシャツの男性が窓に填められた、鉄格子を高齢男性とはずしている。
お嬢様、まっすぐ走って下さい、赤いお花は花壇の前に着いたら、左に進んでください。
そう言ったのは、多分女性、メイド服の女性。ウィンティアの左手に、白いハンカチを巻いた。
次の場面では、ウィンティアは庭を走っていた。
赤いバラが咲く花壇を左に曲がり、ローザ伯爵家を囲う鉄柵の隙間から、手を出した。
断片的だけど、思い出してきた。
メトロノームで殴られた後、私は数人の使用人と共に地下室に入れられていた。それをどうにかこうにかして、ウィンティアだけを脱出させたんだ。
どの使用人か分からないけど。
そして、鉄柵の向こうに叫んだ。
助けて、と。
その手を取ってくれたのは、茶色の髪の男性だった。
男性。
大人の男性だと思っていた。
当日キズを負い逃げていた八歳のウィンティアは、精神状態だってかなり不安定だったはず。
だから、誤認したんだ。十六歳の少年を、男性だと。
ウィンティアの助けを求める手を握ったのは、茶色の髪の男性。そして、今、目の前で死んだ魚のような青い目をしたレオナルド・キーファーだった。
無理して思い出して、ウィンティアが傷つくのは避けたい。だけど、これ、思い出さないといけないやつかも。私、山岸まどかは直感。
ウィンティア、眠って。
そして、記憶を少しだけ、私に見せて。
もしかしたら、いろいろな突破口になるかもしれない。
だから、お願い。
「ウィンティア嬢、もうお聞きになったかとおもいますが、次の年度、レオンハルト殿下の護衛騎士として、シルヴァスタ王国に行きます。期間は二年です」
聞いたよ、昨日。それで、レオンハルト殿下は暗殺の恐れがあり、この人は影武者となる。
レオナルド・キーファーは、穏やかな顔をしながら、目だけ死んだ魚だ。
「何事もなく、過ぎるはずです。ただ、この二年間は諸事情があり、なかなか手紙のやり取りすらも制限されてしまいます」
えっ、そうなの? 家族にも手紙出せないの? ほら、ウーヴァ公爵家とかにも。
「ですからウィンティア嬢、貴女との関係を考えなくては、と思っています。今回の件でつくづく思いました。私、貴女にとって、あまり良くない存在であることを」
死んだ魚の目。
レオナルド・キーファーが淡々と話ながら、記憶の断片が脳裏に過る。
ずきずき、とキズが痛む。
キズ。そう、メトロノームで殴られた時だ。
つらつらと言葉を紡ぐレオナルド・キーファーを前に、幾つかの記憶のパズルがはまっていく。
あの日。
今から五年前。
メトロノームで殴られた後の記憶はまだぼやけているが、少しずつキリが晴れていく。
暗い地下室、誰かが、白いシャツの男性が窓に填められた、鉄格子を高齢男性とはずしている。
お嬢様、まっすぐ走って下さい、赤いお花は花壇の前に着いたら、左に進んでください。
そう言ったのは、多分女性、メイド服の女性。ウィンティアの左手に、白いハンカチを巻いた。
次の場面では、ウィンティアは庭を走っていた。
赤いバラが咲く花壇を左に曲がり、ローザ伯爵家を囲う鉄柵の隙間から、手を出した。
断片的だけど、思い出してきた。
メトロノームで殴られた後、私は数人の使用人と共に地下室に入れられていた。それをどうにかこうにかして、ウィンティアだけを脱出させたんだ。
どの使用人か分からないけど。
そして、鉄柵の向こうに叫んだ。
助けて、と。
その手を取ってくれたのは、茶色の髪の男性だった。
男性。
大人の男性だと思っていた。
当日キズを負い逃げていた八歳のウィンティアは、精神状態だってかなり不安定だったはず。
だから、誤認したんだ。十六歳の少年を、男性だと。
ウィンティアの助けを求める手を握ったのは、茶色の髪の男性。そして、今、目の前で死んだ魚のような青い目をしたレオナルド・キーファーだった。
103
あなたにおすすめの小説
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
【完結】物置小屋の魔法使いの娘~父の再婚相手と義妹に家を追い出され、婚約者には捨てられた。でも、私は……
buchi
恋愛
大公爵家の父が再婚して新しくやって来たのは、義母と義妹。当たり前のようにダーナの部屋を取り上げ、義妹のマチルダのものに。そして社交界への出入りを禁止し、館の隣の物置小屋に移動するよう命じた。ダーナは亡くなった母の血を受け継いで魔法が使えた。これまでは使う必要がなかった。だけど、汚い小屋に閉じ込められた時は、使用人がいるので自粛していた魔法力を存分に使った。魔法力のことは、母と母と同じ国から嫁いできた王妃様だけが知る秘密だった。
みすぼらしい物置小屋はパラダイスに。だけど、ある晩、王太子殿下のフィルがダーナを心配になってやって来て……
年に一度の旦那様
五十嵐
恋愛
愛人が二人もいるノアへ嫁いだレイチェルは、領地の外れにある小さな邸に追いやられるも幸せな毎日を過ごしていた。ところが、それがそろそろ夫であるノアの思惑で潰えようとして…
しかし、ぞんざいな扱いをしてきたノアと夫婦になることを避けたいレイチェルは執事であるロイの力を借りてそれを回避しようと…
魔法のせいだから許して?
ましろ
恋愛
リーゼロッテの婚約者であるジークハルト王子の突然の心変わり。嫌悪を顕にした眼差し、口を開けば暴言、身に覚えの無い出来事までリーゼのせいにされる。リーゼは学園で孤立し、ジークハルトは美しい女性の手を取り愛おしそうに見つめながら愛を囁く。
どうしてこんなことに?それでもきっと今だけ……そう、自分に言い聞かせて耐えた。でも、そろそろ一年。もう終わらせたい、そう思っていたある日、リーゼは殿下に罵倒され頬を張られ怪我をした。
──もう無理。王妃様に頼み、なんとか婚約解消することができた。
しかしその後、彼の心変わりは魅了魔法のせいだと分かり……
魔法のせいなら許せる?
基本ご都合主義。ゆるゆる設定です。
お姉様優先な我が家は、このままでは破産です
編端みどり
恋愛
我が家では、なんでも姉が優先。 経費を全て公開しないといけない国で良かったわ。なんとか体裁を保てる予算をわたくしにも回して貰える。
だけどお姉様、どうしてそんな地雷男を選ぶんですか?! 結婚前から愛人ですって?!
愛人の予算もうちが出すのよ?! わかってる?! このままでは更にわたくしの予算は減ってしまうわ。そもそも愛人5人いる男と同居なんて無理!
姉の結婚までにこの家から逃げたい!
相談した親友にセッティングされた辺境伯とのお見合いは、理想の殿方との出会いだった。
手放してみたら、けっこう平気でした。
朝山みどり
恋愛
エリザ・シスレーは伯爵家の後継として、勉強、父の手伝いと努力していた。父の親戚の婚約者との仲も良好で、結婚する日を楽しみしていた。
そんなある日、父が急死してしまう。エリザは学院をやめて、領主の仕事に専念した。
だが、領主として努力するエリザを家族は理解してくれない。彼女は家族のなかで孤立していく。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる