ミルクティーな君へ。ひねくれ薄幸少女が幸せになるためには?

鐘ケ江 しのぶ

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舞台は整う⑨

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 アデレーナが叫ぼうとした言葉。
 
 石女。

 ルルディ王国で、子供が産めない女性に対する侮蔑する言葉。子供ができないのは、女性だけが原因じゃないだろうに。
 アンジェリカ様はすでに結婚して長いがお子様はいない。理由は私には分からないけど、そんな夫婦はたくさんいるはずなのに、なぜか女性側が非難される。
 あ、ちなみに、アンジェリカ様みたいに地位の高い女性にこれ言うと、すっごい迷惑料を要求される。まだアンジェリカ様が令嬢だけど、もしウーヴァ公爵に着いていたら、迷惑料なんてかわいいものでは済まない。

「あら? いしお、何かしら?」

「申し訳ございませんっ。お騒がせしましてっ。我々はこれで失礼致しますっ」

 凄みを浮かべたアンジェリカ様にたいして、ティーシモン・バズルが焦った顔で答える。

「まあ、ずいぶん親しいのね。ただの付き添いの方が謝罪なさるなんて」

 ちら、とゾーヤ・グラーフに視線を走らせる。
 実の親が謝れよ、そんな感じかな?
 ゾーヤ・グラーフは、ティーシモン・バズルから必死に目配せをして、しぶしぶ掠れるように、申し訳ありません、と呟く。本当にしぶしぶだ。

「あら。お帰りになるの? お客様がお会計してお帰りよ、お見送りしてちょうだい」

 近くにいた、ベテランそうな男性社員に指示する。アデレーナが金色のバレッタ握りしめられているからね。

「さあ、ウィンティア嬢、お待ちしていましたわ」

 と、アンジェリカ様が私に向かって手を差し出してきた。ここは手はず通りに。

「お招きありがとうございます」

 昨日、びしばし教えられたカーテシー。そして、私はアンジェリカ様の手をとる。うん、連行される宇宙人の気分。
 ひそひそと、囁かれている。
 
 あのご令嬢はどちらの家の?
 見たことない令嬢よ。
 アンジェリカ様自らお出迎えなんて。
 どちらのご令嬢だ?

 パンダになった気分。
 階段の方に移動する。
 少しだけ、ほっとした。
 アデレーナ達がナタリアを攻撃しないか心配だったし。
 ナタリアが大好きな父親の件で謂われなく攻撃されるのは、私が嫌だったし。
 でも。
 メイド服とはいえ、ナタリアの存在に気がつかないのもどうかと思うけど。ほら、気がついて、あ、みたいな顔をしないかと思ったけど、完全に気がついてなかった。それはそれでどうかと思うけど。
 階段を登っていると、再びざわめき。
 ティーシモンの制止の声をあげてる。

「なぜお前がここにいるっ」

 ゾーヤ・グラーフの金切り声が響いた。
 やっぱり避けられなかったか。でも、今頃気がついたわけ?
 振り返ると、ゾーヤ・グラーフが階段に向かって突進の勢いでやって来た。すぐ後ろにいたナタリアの顔が僅かに強ばる。
 この階段は二階に通じている。アンジーの二階は完全予約制で、予約なしでは上がれない。
 ざっ、とゾーヤ・グラーフの前に立ちふさがるのは、階段前にいたガードマンね。スーツ姿だけど、屈強な男性だ。
 ゾーヤ・グラーフの行く手を塞ぐ。

「お二階には、予約のお客様のみしかお通しできません」

 と、ゾーヤ・グラーフを制止する。

「私の予約を断っておきながらっ。なぜあの子がっ」

 うわあ、大の大人がみっともない。喚くゾーヤ・グラーフ。
 
「あの子はねっ、犯罪者の子供よっ」

 と、ナタリアを指差す。
 ああ、やっぱりちょっかいかけてきた。しかも最悪な形で。キリール・ザーデクは事故死として処理された。世間一般にはそう伝わっている。酔って頭を打ったとして不名誉な死に方をしたと。
 決して犯罪者ではない。

「あら? 私が何も知らずに二階にあげると思ってらっしゃるのかしら?」

 アンジェリカ様が当然のように切り返すと、連動して回りの視線がゾーヤに対して冷たい。

「あれの父親はっ」

「存じ上げていますわ。騎士団でも僅か三人しかいない、上級教官と指揮官の資格を持つ優秀な方であると」

「知らないんですかっ、キリールはっ」

 叫ぼうとするゾーヤを、ティーシモン・バズルが必死に引きずる。

「やめろゾーヤッ、申し訳ございませんっ」

 アデレーナも醜く喚いているが、ティーシモン・バズルの治からに勝てず、店から退散していった。
 嵐の後の静けさってやつね。
 でも、さっきのぶわわわ、なんだったんだろう?

「皆様、お騒がせしました。細やかですか、奥に冷たい果実水の準備がございます。どうぞごゆっくり」

 アンジェリカ様が階段を上がりきってカーテシーをすると、連動して、一階にいた全員がお辞儀した。
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