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二年の年月⑬

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 廊下ではレオナルド・キーファーが待機していた。
 わざわざウーヴァ公爵家内なのに、しっかり引率される。

「ウィンティア嬢、気分が悪いとかは?」

「特に、気疲れはしましたけど」

 きっと、あのキャサリンの暴走に、私が疲れてないか心配したんだね。

「ある程度覚悟してましたが、さすがにあれはないかなって」

「そうですね」

 と、基本的に穏やかで紳士なレオナルド・キーファーがため息。

「そういえば、キャサリンは?」

「ローザ伯爵夫妻が連れ帰りましたが、詳しくは叔母様から話があるはずです」

「はい」

 いつも、アンジェリカ様とお茶する部屋、つまり一般家庭では居間には、勢揃いしていた。

「ウィンティアさん、大丈夫? もうっ、私が直接罰したいわっ」

 と、ぷりぷりとアンジェリカ様。うん、アンジェリカ様なら、あの扇でやりそう。

「お腹の赤ちゃんに障りますよ。私は大丈夫ですから」

「本当に貴方は大人ね。どうして、姉妹で違うのかしら? とにかく座って」

 と、アンジェリカ様に確保されて、ソファーに。

「ウィンティア嬢は私の隣にっ」

「嫌よ。彼女が近くにいると、赤ちゃんも安心するんだから」

「私の婚約者ですっ」

「落ち着きなさい、全く大人げない」

 と、セシリア女公爵がため息。

「あのウーヴァ公爵様、キャサリンがご迷惑をおかけしました」

「いいのよ。何かやらかしてくると思っていましたからね。さ、お座りなさい」

 結局、大きなソファーに、ジョナサン様、アンジェリカ様、私、レオナルド・キーファーで座る。
 時間的には夕御飯の時間は過ぎていて、軽食が並ぶ。

「では、頂きながらにしましょう。明日からも忙しくなりますよ」

 はい。
 私はポテトサラダが入ったサンドイッチを手にする。

「まずは、本日のお茶会お疲れ様」

 モグモグ。
 せいろ蒸しが出てきた。せいろがうまい具合に出来たし、ごまドレッシングがうまい具合出来たからね。蒸し野菜はアンジェリカ様がすごく気に入ってくれてる。

「アンジェリカ、しっかり噛むんだよ」

「わかっているわ」

 と、甲斐甲斐しくお世話されてるジョナサン様。ラブラブだ。

「で、例のキャサリンだけど、ナットウ神官長曰く『魅了』はまだ封じられているわ」

 セシリア女公爵は優雅にワイングラスを傾ける。
 ミニ焼売を、ジャンをジェルのように固めたソースを絡めてぱくり。上品なものだから、ミニ焼売でも様になる。

「ローザ伯爵に叱責されだけど、相も変わらず被害妄想が酷かったと」

 でしょうね。あれは自分が主役の世界だと思っているんだろう。自分の思いどおりに進まないのが、気にくわないんだろう。

「貴女を出汁にして、ローザ伯爵夫妻に食って掛かったそうよ」

 ふーん。

「ウィンティアばかり可愛がって、お金を与えて、ドレスを買い与えて、まあ、そんな感じね」

 はあ? 五億もするダイヤモンドのアクセサリーを買ってるくせに? それもローザ伯爵家のつけにしているくせに。

「ローザ伯爵は、順序だて説明したけど、聞く耳を持たなかったわ」

 だろうね。胡散臭いしくしく劇場したんじゃない?

「いい加減にしなさいと、現実を見なさいと繰り返すローザ伯爵夫妻に対して、キャサリンはこう言ったそうよ。『お父様達が、現実を見なくてはならないのですっ。どうしてお分かりにならないのですかっ。このままあの子をローザ伯爵家に置けば、家の恥ですのよっ。私ばかりに我慢を強いてっ、もう耐えられませんわっ』って」

「はあ」

 心底、そう思う。

「『私はローザ伯爵家のたった一人の跡取り娘として、ローザ伯爵家が行った不正を明らかにして、正しい方向に導きますっ』」

「それつまり?」

「ローザ伯爵家を訴えるそうよ。自分へのネグレクトや名誉毀損でね」

「それ、通ります?」

「まあ、負けは見えているわ。まあ、あれがどう出るか、楽しみね」

 うわあ、セシリア女公爵の顔が、おっかない。
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