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第一章
再戦
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俺たちは王都に帰ってきた。
ヴァレンティ家の馬車で寮まで送ってもらい、アカネ、アイリスに別れを告げる。
寮の前まで送ってもらうと
「アイリス、今回はありがとう。馬車、ずっと俺たちを待ってくれてて助かった。ヴァレンティ家の皆さんにもお礼を言っておいてくれ。」
「ううん、私も色々学べたから。」
とアイリスも朗らかに笑う
ヴァレンティ家の馬車が去った後、
「ユージ、またあいつと戦うの?」
とアイズが聞く。
「うん・・あいつは俺が超えなきゃいけない壁のような気がする。多分・・」
「そう。僕がユージを守る。」
「いや、今回は俺一人でやる。やらせてほしいんだ。」
「なんで?」
「あいつは過去の俺の亡霊だからだ」
「?よくわからない。」
「とにかく、今回は俺の問題なんだ。頼む。」
「そう・・。わかった。よくわからないけど。」
アイズは無表情の中にも少し逡巡した感情をにじませて言う。
――――――――
学校が始まる。
俺たちは始まるまでの短い期間の中、手を付けていなかった宿題などに追われ、忙しい日を送った。
時に自室で一人ホーンテッドに向かい話しかけたりもしてみたが・・
特に反応はなかった。
おいそれと会話をできるようなものでもないらしい。
やがて学園の秋学期が始まった。
――――――――
ローム王国は上下に長く伸びており、日本のように四季がある。
学校は主にセメスター制(2学期制)を取っていて日本での夏、冬にあたる時期に長期休暇が設定されている。ただ、日本のように湿気が高いわけではないので、比較的爽やかな空気となっている
俺とアイズは揃って登校していた。
「よう、ユージ!休みはどうだった?」
さっそくキースが話しかけてくる。
「ああ、まぁ実り多い休暇だった」
「ふーん?」
と、何かを聞きたそうな顔をしている。
「ああ、アイリスも修業してより強力なヒールを使えるようになったみたいだよ。」
というと、
「お前、それも大事だけど、そーじゃねーだろ。アカネちゃんとは何もなかったのか?」
「!ないよ、あるわけないだろう?」
慌てて打ち消す。本当にそれどころじゃなかった。
そもそもアカネ、アイリスは学園ヒエラルキーの頂上なのだ。たまたま親しくさせてもらっているが元々最下層の人間としては手を出すなどおこがましい。
アイズだって氷竜族のお姫様だしね。忘れそうになるけど。
――――――――
昼食時。
「もう、休みはほとんど修業だったから残った宿題をやっと最終日に終えたわ」
アカネが言う。
「アカネは優等生なんだろう?勉強は余裕じゃないのか?」
「そんなことないわよ。努力してるの!」
やっぱり簡単にSクラスでやっているわけではないんだな。
「ところでアカネは何位くらいなんだ?」
「私は三位くらいね。二位から五位はあまり差がないけどね。そのあたりの順位はいったりきたりよ。」
なるほど。上位で競い合ってるんだな。
「ところで。」
アカネが話を変える。
「ウルヴァン、来てるわよ。」
・・よし。
――――――――
俺は昼食後にできるだけ急いでSクラスに向かう。
ウルヴァンのことだ。まともに授業受けずに帰ってしまうかもしれないからな。
・・Sクラスに行くのって緊張するな。
廊下から教室内を見てみると、みな頭が良さそうに見えた。
ウルヴァンは窓際の席に一人、つまらなそうに外を見ていた。
「よう」
ウルヴァンに話しかける。
「ああ?てめぇはこの前の雑魚か?なんだ?」
ウルヴァンは早速噛みつきそうな顔で振り向く。
「この前の続きをしたい。放課後近くの河川敷まできてくれないか?」
「ふーん、この前のじゃ懲りなかったってわけか?言っとくけど今度はあんなもんじゃ済まさないぜ?」
「ああ、覚悟はしてる。」
「ギャハハ!俺に二度挑んでくる奴はいねぇからな!珍しいぜ、お前。いいだろ、付き合ってやるぜ!」
――――――――
放課後、ついてくるというアカネ、アイリスを説得し、俺は一人で河川敷に行くと言った。
アイズは説得したにも関わらず来たがっていたが、今回は一人でいくべきだと思ったので、特に強く止めておいた。補習もあるし。
「ユージ、大丈夫?剣も持ってないじゃない。」
別れ際、アカネが心配そうに顔を向ける
「ああ、この前みたいにはならないと思う。剣はちょっと考えがあって置いてきた」
「・・そう。気を付けてね・・。」
アカネが心配そうに眉をひそめる。
「ありがとう。まぁ力を尽くしてみる。」
俺は内心の怯えを隠しつつ、みなに別れを言った。
河川敷にやってくる・・と、待つ間もなく、ウルヴァンがやってきた。
「おう、今回は一人かぁ?この前のドラゴンと一緒じゃなくていいのかぁ?雑魚ってのは群れないと何もできねぇからなぁ!」
「いや、今回は皆の力を借りたくない。もし俺が倒れたらそれまでだ。」
「ハッ!いい度胸じゃねぇか!後悔すんなよ、雑魚が!この前程度で済むと思うなよ!」
と、俺に向けて獰猛な笑みを浮かべてきた。
俺は「ホーンテッド、力を貸してくれ!」と念じる。
力が体に流れ込むのがわかる。これなら・・
「雑魚の相手は退屈だからなぁ!さっさと終わらせるぜ!精神破壊!」
瞬間、ウルヴァンの体から術が放たれる!
来た!
無色の波動・・!微妙に周囲と異なるエネルギーが俺に向かってきている。
よし、見える!これなら感じていたことができそうだ。
バチィッ!
俺は手で精神破壊を払い落していた。
厳密にはホーンテッドの力を手にまとい、見えない魔法を切っていた。
「ああん?」
ウルヴァンは少々予想外といった顔でこちらを見ている。
「なんだぁ?てめぇ・・何をしたぁ?」
ウルヴァンは一瞬意外そうな顔をした。
「手で払い落しただけだ。」
と答える。
ウルヴァンは予想外の対応に、
「払っただぁ?なんだそりゃあ?」
と一瞬驚きを見せるが、
「・・だがこの程度だと思うなよ?」
とその獰猛なオーラを隠すことなく言った。
俺は
「ホーンテッド、来い!」
と唱える。
次の瞬間、手にホーンテッドが握っていた。
できる予感があったから、寮からリモートで呼び寄せたのだ。
「ああ?なんだてめぇ?武器召喚?・・そうか休みの間に色々お勉強してきやがったってわけかぁ?」
「ああ、大変だったよ。でも今回はこれは使わない。」
と、俺はホーンテッドを鞘ごと腰に戻していた。
「てめぇ、武器もなしに俺とやりあおうってのか?」
「いや、厳密にいえば剣の力を借りている。ただ手に持っていないだけだ。」
「ふーん、なんか面白れぇことしてやがんな。じゃあ今度は全開だ!廃人になっちまえ!」
いうがはやいか、
「精神破壊全開!」
と術を放ってきた。
今度はより強力な術の波動が見える。強力な分周囲の色との差異も強い。
俺はそれを体をかわし、手で払いのけ、左右にかわし、時に飛んでよけて見せた。
「てめぇ・・何してやがんだぁ?」
「お前の術を見て回避しているだけだ」
「俺の術を見るだとぉ・・?そんな奴は今まで見たことねぇ・・てめぇ何もんだ?」
「俺はただの弱い雑魚だよ・・お前の言う通りな。だが今は様々な力を借りてここにいる。」
「ああ?よくわかんねぇなぁ・・だが多少変わったのは確かなようだなぁ!」
と今度は炎魔法を放ってきた。
それを払いのけると、今度は炎が正面から周囲へ変化し俺を囲むように迫ってくる。
「ハァ!」
今度は四方八方の炎の一カ所のみ払い、そこから脱出する。
「まだまだいくぜ!これはどうだ?」
ウルヴァンは雷魔法を向けて俺を刺し貫こうとする。
俺は払うより体を左右にかわし、いなす。
「面倒くせぇなぁ!これはどうだ!雷嵐!」
これはウェイ部長の技・・!本当に様々な魔術に精通してるな。
これは食らうわけにはいかない。体ごと持っていかれてしまう。
俺はウルヴァンの放たれる術気を見てそこから目標の辺りに見当をつけ、その場所から大きく飛びのいた。
一部雷撃で服が焼けたが致し方ない。
「てめぇ・・本当に何やってやがんだ?」
「かわしてるだけさ。今度は俺の番だ!」
俺は言うが否や距離を詰め、ウルヴァンに向かって左ジャブから右ストレートを放つ。
「ハッ!近づけば勝負になるってかぁ?甘いんだよ!」
ウルヴァンはスウェーでかわし、同時にカウンター気味に右ストレートを放ってくる。
俺はギリギリでそれをかわし、バックステップする。
すぐに右ハイキックが飛んできた。
今度は両手を固めて左頭部をガードし、右ローキックを放つ。
ウルヴァンは膝でカットしすぐに返しのローキック。
と同時に至近距離から炎魔法を使ってきた。
グッ!
ローはカットしたが・・少し炎魔法を食らった。至近距離でも魔法を放てるのか。
体術も素人じゃないな・・。
特殊な機関に拾われたと聞いたがそこで仕込まれたのだろうか?
「これだけだと思うなよ?こっちは武器も遠慮しねぇ!」
今度はウルヴァンが、懐からナイフを取り出し突き出してくる。
危なくそれをバックステップでかわす。。
そうしてお互いに体術、魔術をぶつけ合うこと数合、
俺のほうにダメージが積み重なっていく。
だが、決定打だけは与えない。
「ああ!もうこれはどうだ?精神破壊範囲!」
俺の周囲に精神破壊が迫ってくる。前後左右逃げ場はない。俺は正面のみ打ち払い包囲網を正面突破。
そのままウルヴァンに再度接近し、
「ハァアッ!」
前蹴りを放つ。
ウルヴァンはそれを余裕のある素振りでステップバックしてかわす。
「至近距離にも安全地帯はねぇんだよ!まだわからねぇのか!精神破壊全開!」
高密度の術が俺を正面から打つ。
サイドステップしたがかわし切れず、術に囚われる。
精神汚染が入り込んでくる。
それは俺がルースの作った空間で味わったような、自分の否定の嵐だった。
なるほど、自分の最ももろい部分につけこみ、それを拡大し、意識を失わせるわけか・・すこし精神破壊のことが分かった気がした。
一瞬気が飛びそうになるが・・
・・しかし、
「俺は・・俺だ!ホーンテッド、もっとだ!もっとこい!」
力が流れ込んでくるのがわかった。 あの空間で問答したことが呼び起こされる。
自己を強く持つことが多少ダメージを減らしてくれるようだ。
気が付くと結果として精神破壊に耐えていた。
足がガクガクしているが・・・何とか立っていた。
しかし、これはまともに喰らったら一瞬で意識が刈り取られるな・・復活が危ぶまれるレベルで。
「てめぇ・・!!いい加減鬱陶しんだよ!!」
ウルヴァンはイラついたようにナイフを俺の腹に突き入れてきた。
あぶなっ!
俺は危うく手で払いのけ、そのまま払った手でボディブロー。ようやくウルヴァンにヒット。
一瞬ウルヴァンも息が詰まったようだが、すぐに立て直し、今度は雷撃を手にまとい顔面にフックを放ってきた。
俺はかわしきれず、フックを喰らい一瞬意識が飛びそうになる。
が、何とか立て直す。
俺は、
「そんなもんか?ナイフはお飾りか?」
と挑発する。
「あぁ?寝言言ってんなよ?俺はナイフも一流なんだよ!」
とウルヴァンはナイフを握りなおす。
そして胸に向け、ナイフを突き出してくる!
その瞬間、俺が唱える
「コール!柳生石舟斎!」
再び力が湧き上がる。
そして・・
・・・
次の瞬間、ウルヴァンのナイフを奪い取り、その喉元にあてていた。
柳生無刀取り。
剣聖・上泉信綱が考案し、弟子の柳生石舟斎が完成させた新陰流の無手での対武器制圧術。
柳生一族が秘伝としていたというものだ。
「ここまでだ。もう魔術を放つ隙も与えない。」
俺はウルヴァンに向かって言う。
「それとも、このままナイフに突かれるか、魔術を放つのが早いか、比べてみるか?」
「チッ!」
ウルヴァンは地面にドカッと座り、
「てめぇ、妙な技を使いやがるな・・・だが俺の精神破壊が敗れたわけじゃねぇ!」
「ああ、お前の精神破壊は恐ろしい技だ・・俺ももう一回かすりでもしていたら昏倒していただろう。だが今回は俺の勝ちだ。」
「雑魚がちったぁ成長しやがったってか・・忘れんなよ? 次はこうはいかねーぜ?」
「それは全力でごめんこうむりたいな。」
俺は素直な気持ちを吐露する。
「チッ!もう行きやがれ!」
「ああ、もう行く。だけど最後にお礼を言わせてくれ。今回俺が多少なりとも強くなれたのはお前のおかげだ、ウルヴァン。」
「ああ?知らねぇなぁ?雑魚が多少できるようになったからって調子のんじゃねぇぞ?」
「ああ。その通りだな。じゃあな、ウルヴァン。」
俺はその場を去った。
河川敷の上にはアカネとアイリスがいた。
アイズはおとなしく補習を受けているようだ。
「ユージ、ボロボロじゃない。とても勝った人に見えないわ。」
アカネが言う。
「実際ボロボロだよ・・実は立ってるのも・・」
というと気が抜けたのかその場に座り込んだ。
「ご・・ごめん、アイリス・・ヒールお願い・・」
アイリスが駆け寄り、
「ユージ君!ちょっと待って!ヒール!」
体に力が戻り、俺はなんとか立ち上がることができた。
「もう!全然大丈夫じゃないじゃない!」
アカネが怒ったように俺を支える。
「アハハ・・そうみたい・・」
俺は苦笑していた。最後までしまらないなぁ・・。
ヴァレンティ家の馬車で寮まで送ってもらい、アカネ、アイリスに別れを告げる。
寮の前まで送ってもらうと
「アイリス、今回はありがとう。馬車、ずっと俺たちを待ってくれてて助かった。ヴァレンティ家の皆さんにもお礼を言っておいてくれ。」
「ううん、私も色々学べたから。」
とアイリスも朗らかに笑う
ヴァレンティ家の馬車が去った後、
「ユージ、またあいつと戦うの?」
とアイズが聞く。
「うん・・あいつは俺が超えなきゃいけない壁のような気がする。多分・・」
「そう。僕がユージを守る。」
「いや、今回は俺一人でやる。やらせてほしいんだ。」
「なんで?」
「あいつは過去の俺の亡霊だからだ」
「?よくわからない。」
「とにかく、今回は俺の問題なんだ。頼む。」
「そう・・。わかった。よくわからないけど。」
アイズは無表情の中にも少し逡巡した感情をにじませて言う。
――――――――
学校が始まる。
俺たちは始まるまでの短い期間の中、手を付けていなかった宿題などに追われ、忙しい日を送った。
時に自室で一人ホーンテッドに向かい話しかけたりもしてみたが・・
特に反応はなかった。
おいそれと会話をできるようなものでもないらしい。
やがて学園の秋学期が始まった。
――――――――
ローム王国は上下に長く伸びており、日本のように四季がある。
学校は主にセメスター制(2学期制)を取っていて日本での夏、冬にあたる時期に長期休暇が設定されている。ただ、日本のように湿気が高いわけではないので、比較的爽やかな空気となっている
俺とアイズは揃って登校していた。
「よう、ユージ!休みはどうだった?」
さっそくキースが話しかけてくる。
「ああ、まぁ実り多い休暇だった」
「ふーん?」
と、何かを聞きたそうな顔をしている。
「ああ、アイリスも修業してより強力なヒールを使えるようになったみたいだよ。」
というと、
「お前、それも大事だけど、そーじゃねーだろ。アカネちゃんとは何もなかったのか?」
「!ないよ、あるわけないだろう?」
慌てて打ち消す。本当にそれどころじゃなかった。
そもそもアカネ、アイリスは学園ヒエラルキーの頂上なのだ。たまたま親しくさせてもらっているが元々最下層の人間としては手を出すなどおこがましい。
アイズだって氷竜族のお姫様だしね。忘れそうになるけど。
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昼食時。
「もう、休みはほとんど修業だったから残った宿題をやっと最終日に終えたわ」
アカネが言う。
「アカネは優等生なんだろう?勉強は余裕じゃないのか?」
「そんなことないわよ。努力してるの!」
やっぱり簡単にSクラスでやっているわけではないんだな。
「ところでアカネは何位くらいなんだ?」
「私は三位くらいね。二位から五位はあまり差がないけどね。そのあたりの順位はいったりきたりよ。」
なるほど。上位で競い合ってるんだな。
「ところで。」
アカネが話を変える。
「ウルヴァン、来てるわよ。」
・・よし。
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俺は昼食後にできるだけ急いでSクラスに向かう。
ウルヴァンのことだ。まともに授業受けずに帰ってしまうかもしれないからな。
・・Sクラスに行くのって緊張するな。
廊下から教室内を見てみると、みな頭が良さそうに見えた。
ウルヴァンは窓際の席に一人、つまらなそうに外を見ていた。
「よう」
ウルヴァンに話しかける。
「ああ?てめぇはこの前の雑魚か?なんだ?」
ウルヴァンは早速噛みつきそうな顔で振り向く。
「この前の続きをしたい。放課後近くの河川敷まできてくれないか?」
「ふーん、この前のじゃ懲りなかったってわけか?言っとくけど今度はあんなもんじゃ済まさないぜ?」
「ああ、覚悟はしてる。」
「ギャハハ!俺に二度挑んでくる奴はいねぇからな!珍しいぜ、お前。いいだろ、付き合ってやるぜ!」
――――――――
放課後、ついてくるというアカネ、アイリスを説得し、俺は一人で河川敷に行くと言った。
アイズは説得したにも関わらず来たがっていたが、今回は一人でいくべきだと思ったので、特に強く止めておいた。補習もあるし。
「ユージ、大丈夫?剣も持ってないじゃない。」
別れ際、アカネが心配そうに顔を向ける
「ああ、この前みたいにはならないと思う。剣はちょっと考えがあって置いてきた」
「・・そう。気を付けてね・・。」
アカネが心配そうに眉をひそめる。
「ありがとう。まぁ力を尽くしてみる。」
俺は内心の怯えを隠しつつ、みなに別れを言った。
河川敷にやってくる・・と、待つ間もなく、ウルヴァンがやってきた。
「おう、今回は一人かぁ?この前のドラゴンと一緒じゃなくていいのかぁ?雑魚ってのは群れないと何もできねぇからなぁ!」
「いや、今回は皆の力を借りたくない。もし俺が倒れたらそれまでだ。」
「ハッ!いい度胸じゃねぇか!後悔すんなよ、雑魚が!この前程度で済むと思うなよ!」
と、俺に向けて獰猛な笑みを浮かべてきた。
俺は「ホーンテッド、力を貸してくれ!」と念じる。
力が体に流れ込むのがわかる。これなら・・
「雑魚の相手は退屈だからなぁ!さっさと終わらせるぜ!精神破壊!」
瞬間、ウルヴァンの体から術が放たれる!
来た!
無色の波動・・!微妙に周囲と異なるエネルギーが俺に向かってきている。
よし、見える!これなら感じていたことができそうだ。
バチィッ!
俺は手で精神破壊を払い落していた。
厳密にはホーンテッドの力を手にまとい、見えない魔法を切っていた。
「ああん?」
ウルヴァンは少々予想外といった顔でこちらを見ている。
「なんだぁ?てめぇ・・何をしたぁ?」
ウルヴァンは一瞬意外そうな顔をした。
「手で払い落しただけだ。」
と答える。
ウルヴァンは予想外の対応に、
「払っただぁ?なんだそりゃあ?」
と一瞬驚きを見せるが、
「・・だがこの程度だと思うなよ?」
とその獰猛なオーラを隠すことなく言った。
俺は
「ホーンテッド、来い!」
と唱える。
次の瞬間、手にホーンテッドが握っていた。
できる予感があったから、寮からリモートで呼び寄せたのだ。
「ああ?なんだてめぇ?武器召喚?・・そうか休みの間に色々お勉強してきやがったってわけかぁ?」
「ああ、大変だったよ。でも今回はこれは使わない。」
と、俺はホーンテッドを鞘ごと腰に戻していた。
「てめぇ、武器もなしに俺とやりあおうってのか?」
「いや、厳密にいえば剣の力を借りている。ただ手に持っていないだけだ。」
「ふーん、なんか面白れぇことしてやがんな。じゃあ今度は全開だ!廃人になっちまえ!」
いうがはやいか、
「精神破壊全開!」
と術を放ってきた。
今度はより強力な術の波動が見える。強力な分周囲の色との差異も強い。
俺はそれを体をかわし、手で払いのけ、左右にかわし、時に飛んでよけて見せた。
「てめぇ・・何してやがんだぁ?」
「お前の術を見て回避しているだけだ」
「俺の術を見るだとぉ・・?そんな奴は今まで見たことねぇ・・てめぇ何もんだ?」
「俺はただの弱い雑魚だよ・・お前の言う通りな。だが今は様々な力を借りてここにいる。」
「ああ?よくわかんねぇなぁ・・だが多少変わったのは確かなようだなぁ!」
と今度は炎魔法を放ってきた。
それを払いのけると、今度は炎が正面から周囲へ変化し俺を囲むように迫ってくる。
「ハァ!」
今度は四方八方の炎の一カ所のみ払い、そこから脱出する。
「まだまだいくぜ!これはどうだ?」
ウルヴァンは雷魔法を向けて俺を刺し貫こうとする。
俺は払うより体を左右にかわし、いなす。
「面倒くせぇなぁ!これはどうだ!雷嵐!」
これはウェイ部長の技・・!本当に様々な魔術に精通してるな。
これは食らうわけにはいかない。体ごと持っていかれてしまう。
俺はウルヴァンの放たれる術気を見てそこから目標の辺りに見当をつけ、その場所から大きく飛びのいた。
一部雷撃で服が焼けたが致し方ない。
「てめぇ・・本当に何やってやがんだ?」
「かわしてるだけさ。今度は俺の番だ!」
俺は言うが否や距離を詰め、ウルヴァンに向かって左ジャブから右ストレートを放つ。
「ハッ!近づけば勝負になるってかぁ?甘いんだよ!」
ウルヴァンはスウェーでかわし、同時にカウンター気味に右ストレートを放ってくる。
俺はギリギリでそれをかわし、バックステップする。
すぐに右ハイキックが飛んできた。
今度は両手を固めて左頭部をガードし、右ローキックを放つ。
ウルヴァンは膝でカットしすぐに返しのローキック。
と同時に至近距離から炎魔法を使ってきた。
グッ!
ローはカットしたが・・少し炎魔法を食らった。至近距離でも魔法を放てるのか。
体術も素人じゃないな・・。
特殊な機関に拾われたと聞いたがそこで仕込まれたのだろうか?
「これだけだと思うなよ?こっちは武器も遠慮しねぇ!」
今度はウルヴァンが、懐からナイフを取り出し突き出してくる。
危なくそれをバックステップでかわす。。
そうしてお互いに体術、魔術をぶつけ合うこと数合、
俺のほうにダメージが積み重なっていく。
だが、決定打だけは与えない。
「ああ!もうこれはどうだ?精神破壊範囲!」
俺の周囲に精神破壊が迫ってくる。前後左右逃げ場はない。俺は正面のみ打ち払い包囲網を正面突破。
そのままウルヴァンに再度接近し、
「ハァアッ!」
前蹴りを放つ。
ウルヴァンはそれを余裕のある素振りでステップバックしてかわす。
「至近距離にも安全地帯はねぇんだよ!まだわからねぇのか!精神破壊全開!」
高密度の術が俺を正面から打つ。
サイドステップしたがかわし切れず、術に囚われる。
精神汚染が入り込んでくる。
それは俺がルースの作った空間で味わったような、自分の否定の嵐だった。
なるほど、自分の最ももろい部分につけこみ、それを拡大し、意識を失わせるわけか・・すこし精神破壊のことが分かった気がした。
一瞬気が飛びそうになるが・・
・・しかし、
「俺は・・俺だ!ホーンテッド、もっとだ!もっとこい!」
力が流れ込んでくるのがわかった。 あの空間で問答したことが呼び起こされる。
自己を強く持つことが多少ダメージを減らしてくれるようだ。
気が付くと結果として精神破壊に耐えていた。
足がガクガクしているが・・・何とか立っていた。
しかし、これはまともに喰らったら一瞬で意識が刈り取られるな・・復活が危ぶまれるレベルで。
「てめぇ・・!!いい加減鬱陶しんだよ!!」
ウルヴァンはイラついたようにナイフを俺の腹に突き入れてきた。
あぶなっ!
俺は危うく手で払いのけ、そのまま払った手でボディブロー。ようやくウルヴァンにヒット。
一瞬ウルヴァンも息が詰まったようだが、すぐに立て直し、今度は雷撃を手にまとい顔面にフックを放ってきた。
俺はかわしきれず、フックを喰らい一瞬意識が飛びそうになる。
が、何とか立て直す。
俺は、
「そんなもんか?ナイフはお飾りか?」
と挑発する。
「あぁ?寝言言ってんなよ?俺はナイフも一流なんだよ!」
とウルヴァンはナイフを握りなおす。
そして胸に向け、ナイフを突き出してくる!
その瞬間、俺が唱える
「コール!柳生石舟斎!」
再び力が湧き上がる。
そして・・
・・・
次の瞬間、ウルヴァンのナイフを奪い取り、その喉元にあてていた。
柳生無刀取り。
剣聖・上泉信綱が考案し、弟子の柳生石舟斎が完成させた新陰流の無手での対武器制圧術。
柳生一族が秘伝としていたというものだ。
「ここまでだ。もう魔術を放つ隙も与えない。」
俺はウルヴァンに向かって言う。
「それとも、このままナイフに突かれるか、魔術を放つのが早いか、比べてみるか?」
「チッ!」
ウルヴァンは地面にドカッと座り、
「てめぇ、妙な技を使いやがるな・・・だが俺の精神破壊が敗れたわけじゃねぇ!」
「ああ、お前の精神破壊は恐ろしい技だ・・俺ももう一回かすりでもしていたら昏倒していただろう。だが今回は俺の勝ちだ。」
「雑魚がちったぁ成長しやがったってか・・忘れんなよ? 次はこうはいかねーぜ?」
「それは全力でごめんこうむりたいな。」
俺は素直な気持ちを吐露する。
「チッ!もう行きやがれ!」
「ああ、もう行く。だけど最後にお礼を言わせてくれ。今回俺が多少なりとも強くなれたのはお前のおかげだ、ウルヴァン。」
「ああ?知らねぇなぁ?雑魚が多少できるようになったからって調子のんじゃねぇぞ?」
「ああ。その通りだな。じゃあな、ウルヴァン。」
俺はその場を去った。
河川敷の上にはアカネとアイリスがいた。
アイズはおとなしく補習を受けているようだ。
「ユージ、ボロボロじゃない。とても勝った人に見えないわ。」
アカネが言う。
「実際ボロボロだよ・・実は立ってるのも・・」
というと気が抜けたのかその場に座り込んだ。
「ご・・ごめん、アイリス・・ヒールお願い・・」
アイリスが駆け寄り、
「ユージ君!ちょっと待って!ヒール!」
体に力が戻り、俺はなんとか立ち上がることができた。
「もう!全然大丈夫じゃないじゃない!」
アカネが怒ったように俺を支える。
「アハハ・・そうみたい・・」
俺は苦笑していた。最後までしまらないなぁ・・。
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ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
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