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第三章
テイマー戦後
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俺は結局10日間ほど寝込むことになった。
隣部屋のアイズがやってきては様子を見てくれる。
アカネとアイリスもちょくちょくやってきては看病してくれた。
アイリスのヒールのおかげもあり、やがて何とか起き上がれるようになった。
体中についた傷が我ながら痛々しい。
学園に戻ると、ウェイ部長から、信長様からの呼び出しを知らされた。
「ユージ、もう大丈夫ならご老公が報告を待っているよ。」
そりゃそうだよな。
今回はなんとかテイマーの容姿まで把握することができた。
俺は数日後、アカネ、アイリス、アイズと王都へ出向いた。
俺は一人で信長様に呼ばれる。
「入れ」
声がかかる。
「お待たせして申し訳ありません。ようやく復帰いたしました。」
「よい。詳細はサンダユウより聞いておる。激戦だったようだな。」
「はい、いえ、僕・・私が一人で突っ込んでいってしまったので・・」
「結果、テイマーに迫れたのであろう?でどうだった?」
「はい。テイマーは20代の女性でした。狼系の魔獣、そしてドラゴンをも従えていました。」
「ふむ。魔獣については聞いておるが・・ドラゴンとは厄介じゃな。」
「今回は味方に竜人族がおりましたので、そのおかげで対抗できました。サンダユウ様、そして信長様の後詰の手配のおかげで今こうして生きていられます。」
「サンダユウは優秀な草じゃ。今後、『蒼狼の会』がお主にちょっかいをかけてくるかもしれん。念のため、あ奴をお主の学園に送り込むことにした。」
「!『蒼狼の会』が私にちょっかいをかけてくることがありうるんですか?」
「ないとは言えんな。今回のテイマーは『蒼狼の会』でも下っ端ではなかろう。その侵攻を食い止めたのだからな。」
「・・わかりました。心しておきます。」
「まぁ、まずは養生せい。また頼みごとをするかもしれんからな。」
・・正直今回のようなきつい仕事は勘弁だが、そう言えるわけもない。
「ご苦労であった。以前申した通り、今回は敵の正体に迫ることが目的だったからな。良くやってくれた。」
「恐縮です。」
「お主に褒美を用意しておるが・・金よりもギルドランクに影響するものが喜ぶかと思ってな。多少口をきいておく。お主の仲間も同様じゃ。」
「ありがとうございます!」
「金はお主が適当に配分せよ。ではな。」
信長様の前から下がるとお付きの方から勲章と10万ベルムが与えられた。1千万か。これはアカネ、アイリス、アイズと山分けにしよう。
また金が入ったな。命がけだからこんなもらえるのかな?
――――――――
部屋を出ると、アカネ、アイリス、アイズが待っていた。
「ユージ、どうだった?」
アカネが聞いてくる。
「ああ、ギルドへの口利きと、10万ベルムもらったよ。みんなで分けよう。」
「それはユージがもらっていいわよ。」
「いや、そういうわけにもいかないよ。今回はアカネ、アイズがいなかったらとてもじゃないが戦えなかった。アイリスがいなければ俺は死んでたかもしれないし。」
「私なら大丈夫だよ。一応大貴族だからね!」
アイリスが笑う。
「僕も一応姫だけどお金ないからほしい。」
アイズはストレートだな。
「ああ、大丈夫。これはもう決めてるんだ。ちゃんと平等に分けよう。」
「わかったわよ。あっても困るものじゃないしね。ま、私はギルドへの口利きの方が嬉しいけど。」
アカネが笑う。
それは俺も同じだ。もうお金は十分もらっているし。もう日本円で2千万近くもらってる。
またレインのコルトン家に預けるとしよう。
「それじゃ、食事が準備されてるみたいだから行こう。」
俺たちは王宮ホールへと移動していった。
そこにはウェイ部長、ノブタダ様が待っていた。
「やあユージ。改めて今回は病み上がりの身で王宮までご苦労様。実は君に紹介したいものがいるんだ。」
?紹介したい人?
「このものだ。1軍を率いて今回後詰に当たったディアンだ。」
「ディアン・グラムです。この度はご活躍、拝見しておりました。」
そこにはいかにも歴戦の将と言った風体の将軍がいた。
40歳くらいだろうか。
「ユージ・ミカヅチです。この度は助かりました。あの後詰の軍がなければ僕は死んでいたかもしれません。」
「はっはっは。私はご老公の指示で仕事をしただけです。お助けになればなによりです。」
「本当にありがとうございました。」
「ところで、ユージ殿は英雄の村のご出身とか?」
「ああ、はい。そうです。」
「私はベルフェ殿に鍛えられましてな。ユージ殿も同様だとお聞きし、懐かしくなりお声をかけさせていただいたのです。」
ベルフェの名前は大きいなぁ・・。
「僕はついていくのがやっとでしたが・・軍隊式の訓練などをさせられました・・」
「はっはっは!ベルフェ殿は鬼ですからな!さぞかしご苦労されたことでしょう!私も新兵のころはしごかれたものです。」
「そうですか・・ベルフェは昔からああだったんですね・・」
「あのお方は騎士長とは言え、一軍を率いて戦いに出ることも多く、その教えを受けたものは軍に多いのですよ。現在の将たちは多かれ少なかれしごかれた経験がありますな。」
と言ってディアンは笑った。
こんなつながりもあるんだなぁ。少しベルフェに感謝だ。
俺たちはそんな話をしながらしばらく歓談していた。
「やっぱりベルフェさんの名前は大きいのね。」
アカネがそばに来て感想を述べる。
「僕、もうあの訓練したくない。」
直接しごかれたアイズが言う。
「あはは。私たちはルース様でよかったね、アカネ?」
アイリスが同調する。
俺たちはしばらく歓談しているとウェイ部長、ノブタダ様が来て言った。
「ああ、アカネ。君には別途報奨がある。」
「え?私ですか?」
「ああ、ご老公は信賞必罰だが、過去の経歴も良くご存じだ。今回君には小さいが街一つを新たな領地として賜ると仰せだ。」
「!・・それは・・ありがとうございます!」
「君の父上の汚名を晴らす機会になったね。まぁ、まだまだかつての栄光には及ばないが、君にもご老公は気をかけていることを覚えておいてほしい。」
「はい・・はい!」
アカネは嬉しそうだ。
少しでもお父さんの栄光を取り戻せたことが嬉しいのだろう。
「ユージ!」
アカネが抱きついてきた!
「ありがとう!あなたのおかげよ!」
「いや、俺のせいじゃないよ。アカネが努力して結果を出しただけだよ。」
「でも・・ありがとう・・」
俺は動揺しつつもそっとアカネの方に手を置いた。
・・なんでアカネってこんないい匂いがするんだろう・・
「アカネならこれからもっともっと手柄をあげるさ。まだ始まったばかりだ。」
「うん・・。」
アカネは少し涙ぐんでいた。
良かったな。アカネ。
俺も少しだけ役に立ったのならうれしい。
――――――――
俺たちはしばらくして王宮を辞した。
帰りは王宮の馬車だ。
「なんか・・はずかしいわ。みんなの前で取り乱しちゃった。」
アカネが照れている。
「いや、お父さんの栄光を取り戻すことがアカネの悲願だろう?おかしくないよ。」
「・・うん。」
「良かったね、アカネ!」
アイリスが我がことのように喜んでいる。
いい子だな。
「僕は領地いらないからお金もらって良かった。」
アイズは平常運転だ。
「さぁ、帰ろう!俺たちの街へ!」
馬車が出発しても俺たちはアカネの喜びを分かち合っていた。
――――――――
翌日。
俺は早速レインにお金を預けるお願いをしに行った。
「ゆ、ユージさん!またお手柄をあげましたのね・・。素晴らしいですわ!」
レインも喜んでくれている。
「なんかよう・・この前ユージにコーヒーぶっかけたのがはるか昔に思えるぜ・・」
ダースが言う。
「いや・・実はそんなに変わってないんだけど・・運が良かっただけだよ。」
「運だけでこんな立て続けに活躍するかぁ?とんでもない英雄様だぜ・・」
英雄?だいぶ違うな・・
逆に俺は今回の戦いで、自分の実力が足りないことを痛感していた。
まず圧倒的にコールの使用時間が足りない。
いつまでもアカネやアイズに頼るわけにもいかないだろう。
頼れないケースも出てくるだろうし。
何より長期戦ができない。
もう少し伸ばせないものか・・
あるいは自分の剣の技術自体をあげるか・・
俺は喜ばしいはずの時に、あーでもない、こーでもない、と考えていた。
また気鬱になりそうだ。
そんなことを考えていると、マーティン先生が教室に来た。
「さ、さぁ、皆さん静かにしてください。」
皆、それぞれ席に戻る。
マーティン先生は眼鏡をクイッと上げると、
「今日は転入生を紹介します。」
と言った。
!もしかして。
「ではお入りください。サンダユウさん。」
サンダユウが入ってくる。
「サンダユウ・モモチです。皆さまよろしくお願いします。」
ツインテールを下げてサンダユウがお辞儀をする。忍者装束じゃないと普通の中学生みたいだ。
生徒から歓声が上がる。
「可愛い!」
「いや、可愛いより凛々しいでしょ?」
「とにかく美しい!」
「名前が変わってる!」
・・とにかく、またBクラスに美形が増えた。
信長様、おっしゃっていたことをすぐに実行したんだな。
サンダユウ・モモチって百地三太夫から取ったのかな?
「で、では・・席はユージ君の隣に・・これは学園長からの命令です・・。」
教室に(主に男子から)ブーイングがあがる。
「またユージかよ!」「アイリスだけじゃ満足できねえのか!」「うらやまし過ぎる・・」
・・仕方ないだろう。信長様の命で来た護衛なんだから。
後ろのアイリスがツンツンしてくる。
「ねぇ、あの子ってやっぱりあのサンダユウさんだよね?」
「ああ、俺たちの護衛に王宮が送ってくれたみたいだ。」
「なんだ。それなら安心だね?」
安心・・そうだな。
俺だけじゃなく皆、特にアイリスを守ってくれるとありがたいな。アイリスも魔法は使えるが『蒼狼の会』に狙われて無事でいられるかどうかは不安だ。
そして、サンダユウが俺の隣の席に座る。
「ユージ殿。あらためてよろしくお願いいたします。」
「ああ。こちらこそ。ここではクラスメートだから気楽にしてくれると嬉しいよ。」
「いえ、そういうわけにはまいりません。任務ですから。」
・・固いなぁ。まぁ仕方ないか。
「ところでまだお礼をいってなかったね。あの時は助かった。サンダユウがいなかったら俺はどうなっていたかわからない。」
「それも任務です。」
・・はは。仕方ないか。
――――――――
結局、サンダユウは風魔法研究部にも所属することになった。
まぁ俺たちの護衛だから俺やアカネ、アイリスなどが所属しているクラブに入るのは当然っちゃ当然か・・。
「さぁ、皆新しく入ったサンダユウさんだ。仲良くしてくれ。」
ウェイ部長が皆に紹介する。
正体を知っているだろうにさすがだな。しれっとしたもんだ。
ハンナ先輩が気を使って話しかけている。
「よ、よろしくね?サンダユウさん」
「は。よろしくお願いいたします。」
やっぱり固かった。
「ねぇ、あの子って・・」
アカネが俺の袖を引く。
「ああ。信長様が俺たちの護衛にと送ってくださったんだ。」
「やっぱり、そうよね。服装違うと全然雰囲気違うのね・・。」
それは俺も思った。
――――――――
意外なことにサンダユウは魔法が得意じゃなかった。
「風刃!」
そよ風が的に当たる。
「操気の術!」
同じくそよ風が周辺に吹くのみ。
サンダユウは平然としたものだ。
「サンダユウ。その・・魔法は得意じゃないのか?」
俺がこっそり聞くと、
「私は体術、忍術を主武器としています。魔法の鍛錬は受けておりません。結界などの魔法もあらかじめ魔法を付与させた魔石を用いたものです。」
そうだったのか。
それでもあの時少し見せた体術は見事なものだった。
魔法無しでもあそこまでうごけるんだな・・。
なんか少し安心した思いだ。
「あの子・・魔法はダメだけど、只者じゃないわね・・」
フレンダが早くもサンダユウの動きを見てそう感想をもらす。
さすがだな。もう何か見抜いたのか。
――――――――
俺はクラブが終わった後、いつも通りに『インディーズ・カフェ』に向かった。
久しぶりにハンナ先輩と一緒に下校する。
「ユージ君、ケガ直ってよかったね?」
「はい。いつも休みばかりで・・ご迷惑おかけしてすみません。」
「アハハ、大丈夫だよ。ユージ君の場合は偉い人からの依頼とか人助けだからね。それにケガとか。」
ハンナ先輩が笑う。
「そう言っていただけると助かります。」
俺たちは談笑しながら目的地に着いた。
・・・
・・
・
ハンナ先輩が驚きで目を見開いている。
そこには・・
焼失した『インディーズ・カフェ』があった。
隣部屋のアイズがやってきては様子を見てくれる。
アカネとアイリスもちょくちょくやってきては看病してくれた。
アイリスのヒールのおかげもあり、やがて何とか起き上がれるようになった。
体中についた傷が我ながら痛々しい。
学園に戻ると、ウェイ部長から、信長様からの呼び出しを知らされた。
「ユージ、もう大丈夫ならご老公が報告を待っているよ。」
そりゃそうだよな。
今回はなんとかテイマーの容姿まで把握することができた。
俺は数日後、アカネ、アイリス、アイズと王都へ出向いた。
俺は一人で信長様に呼ばれる。
「入れ」
声がかかる。
「お待たせして申し訳ありません。ようやく復帰いたしました。」
「よい。詳細はサンダユウより聞いておる。激戦だったようだな。」
「はい、いえ、僕・・私が一人で突っ込んでいってしまったので・・」
「結果、テイマーに迫れたのであろう?でどうだった?」
「はい。テイマーは20代の女性でした。狼系の魔獣、そしてドラゴンをも従えていました。」
「ふむ。魔獣については聞いておるが・・ドラゴンとは厄介じゃな。」
「今回は味方に竜人族がおりましたので、そのおかげで対抗できました。サンダユウ様、そして信長様の後詰の手配のおかげで今こうして生きていられます。」
「サンダユウは優秀な草じゃ。今後、『蒼狼の会』がお主にちょっかいをかけてくるかもしれん。念のため、あ奴をお主の学園に送り込むことにした。」
「!『蒼狼の会』が私にちょっかいをかけてくることがありうるんですか?」
「ないとは言えんな。今回のテイマーは『蒼狼の会』でも下っ端ではなかろう。その侵攻を食い止めたのだからな。」
「・・わかりました。心しておきます。」
「まぁ、まずは養生せい。また頼みごとをするかもしれんからな。」
・・正直今回のようなきつい仕事は勘弁だが、そう言えるわけもない。
「ご苦労であった。以前申した通り、今回は敵の正体に迫ることが目的だったからな。良くやってくれた。」
「恐縮です。」
「お主に褒美を用意しておるが・・金よりもギルドランクに影響するものが喜ぶかと思ってな。多少口をきいておく。お主の仲間も同様じゃ。」
「ありがとうございます!」
「金はお主が適当に配分せよ。ではな。」
信長様の前から下がるとお付きの方から勲章と10万ベルムが与えられた。1千万か。これはアカネ、アイリス、アイズと山分けにしよう。
また金が入ったな。命がけだからこんなもらえるのかな?
――――――――
部屋を出ると、アカネ、アイリス、アイズが待っていた。
「ユージ、どうだった?」
アカネが聞いてくる。
「ああ、ギルドへの口利きと、10万ベルムもらったよ。みんなで分けよう。」
「それはユージがもらっていいわよ。」
「いや、そういうわけにもいかないよ。今回はアカネ、アイズがいなかったらとてもじゃないが戦えなかった。アイリスがいなければ俺は死んでたかもしれないし。」
「私なら大丈夫だよ。一応大貴族だからね!」
アイリスが笑う。
「僕も一応姫だけどお金ないからほしい。」
アイズはストレートだな。
「ああ、大丈夫。これはもう決めてるんだ。ちゃんと平等に分けよう。」
「わかったわよ。あっても困るものじゃないしね。ま、私はギルドへの口利きの方が嬉しいけど。」
アカネが笑う。
それは俺も同じだ。もうお金は十分もらっているし。もう日本円で2千万近くもらってる。
またレインのコルトン家に預けるとしよう。
「それじゃ、食事が準備されてるみたいだから行こう。」
俺たちは王宮ホールへと移動していった。
そこにはウェイ部長、ノブタダ様が待っていた。
「やあユージ。改めて今回は病み上がりの身で王宮までご苦労様。実は君に紹介したいものがいるんだ。」
?紹介したい人?
「このものだ。1軍を率いて今回後詰に当たったディアンだ。」
「ディアン・グラムです。この度はご活躍、拝見しておりました。」
そこにはいかにも歴戦の将と言った風体の将軍がいた。
40歳くらいだろうか。
「ユージ・ミカヅチです。この度は助かりました。あの後詰の軍がなければ僕は死んでいたかもしれません。」
「はっはっは。私はご老公の指示で仕事をしただけです。お助けになればなによりです。」
「本当にありがとうございました。」
「ところで、ユージ殿は英雄の村のご出身とか?」
「ああ、はい。そうです。」
「私はベルフェ殿に鍛えられましてな。ユージ殿も同様だとお聞きし、懐かしくなりお声をかけさせていただいたのです。」
ベルフェの名前は大きいなぁ・・。
「僕はついていくのがやっとでしたが・・軍隊式の訓練などをさせられました・・」
「はっはっは!ベルフェ殿は鬼ですからな!さぞかしご苦労されたことでしょう!私も新兵のころはしごかれたものです。」
「そうですか・・ベルフェは昔からああだったんですね・・」
「あのお方は騎士長とは言え、一軍を率いて戦いに出ることも多く、その教えを受けたものは軍に多いのですよ。現在の将たちは多かれ少なかれしごかれた経験がありますな。」
と言ってディアンは笑った。
こんなつながりもあるんだなぁ。少しベルフェに感謝だ。
俺たちはそんな話をしながらしばらく歓談していた。
「やっぱりベルフェさんの名前は大きいのね。」
アカネがそばに来て感想を述べる。
「僕、もうあの訓練したくない。」
直接しごかれたアイズが言う。
「あはは。私たちはルース様でよかったね、アカネ?」
アイリスが同調する。
俺たちはしばらく歓談しているとウェイ部長、ノブタダ様が来て言った。
「ああ、アカネ。君には別途報奨がある。」
「え?私ですか?」
「ああ、ご老公は信賞必罰だが、過去の経歴も良くご存じだ。今回君には小さいが街一つを新たな領地として賜ると仰せだ。」
「!・・それは・・ありがとうございます!」
「君の父上の汚名を晴らす機会になったね。まぁ、まだまだかつての栄光には及ばないが、君にもご老公は気をかけていることを覚えておいてほしい。」
「はい・・はい!」
アカネは嬉しそうだ。
少しでもお父さんの栄光を取り戻せたことが嬉しいのだろう。
「ユージ!」
アカネが抱きついてきた!
「ありがとう!あなたのおかげよ!」
「いや、俺のせいじゃないよ。アカネが努力して結果を出しただけだよ。」
「でも・・ありがとう・・」
俺は動揺しつつもそっとアカネの方に手を置いた。
・・なんでアカネってこんないい匂いがするんだろう・・
「アカネならこれからもっともっと手柄をあげるさ。まだ始まったばかりだ。」
「うん・・。」
アカネは少し涙ぐんでいた。
良かったな。アカネ。
俺も少しだけ役に立ったのならうれしい。
――――――――
俺たちはしばらくして王宮を辞した。
帰りは王宮の馬車だ。
「なんか・・はずかしいわ。みんなの前で取り乱しちゃった。」
アカネが照れている。
「いや、お父さんの栄光を取り戻すことがアカネの悲願だろう?おかしくないよ。」
「・・うん。」
「良かったね、アカネ!」
アイリスが我がことのように喜んでいる。
いい子だな。
「僕は領地いらないからお金もらって良かった。」
アイズは平常運転だ。
「さぁ、帰ろう!俺たちの街へ!」
馬車が出発しても俺たちはアカネの喜びを分かち合っていた。
――――――――
翌日。
俺は早速レインにお金を預けるお願いをしに行った。
「ゆ、ユージさん!またお手柄をあげましたのね・・。素晴らしいですわ!」
レインも喜んでくれている。
「なんかよう・・この前ユージにコーヒーぶっかけたのがはるか昔に思えるぜ・・」
ダースが言う。
「いや・・実はそんなに変わってないんだけど・・運が良かっただけだよ。」
「運だけでこんな立て続けに活躍するかぁ?とんでもない英雄様だぜ・・」
英雄?だいぶ違うな・・
逆に俺は今回の戦いで、自分の実力が足りないことを痛感していた。
まず圧倒的にコールの使用時間が足りない。
いつまでもアカネやアイズに頼るわけにもいかないだろう。
頼れないケースも出てくるだろうし。
何より長期戦ができない。
もう少し伸ばせないものか・・
あるいは自分の剣の技術自体をあげるか・・
俺は喜ばしいはずの時に、あーでもない、こーでもない、と考えていた。
また気鬱になりそうだ。
そんなことを考えていると、マーティン先生が教室に来た。
「さ、さぁ、皆さん静かにしてください。」
皆、それぞれ席に戻る。
マーティン先生は眼鏡をクイッと上げると、
「今日は転入生を紹介します。」
と言った。
!もしかして。
「ではお入りください。サンダユウさん。」
サンダユウが入ってくる。
「サンダユウ・モモチです。皆さまよろしくお願いします。」
ツインテールを下げてサンダユウがお辞儀をする。忍者装束じゃないと普通の中学生みたいだ。
生徒から歓声が上がる。
「可愛い!」
「いや、可愛いより凛々しいでしょ?」
「とにかく美しい!」
「名前が変わってる!」
・・とにかく、またBクラスに美形が増えた。
信長様、おっしゃっていたことをすぐに実行したんだな。
サンダユウ・モモチって百地三太夫から取ったのかな?
「で、では・・席はユージ君の隣に・・これは学園長からの命令です・・。」
教室に(主に男子から)ブーイングがあがる。
「またユージかよ!」「アイリスだけじゃ満足できねえのか!」「うらやまし過ぎる・・」
・・仕方ないだろう。信長様の命で来た護衛なんだから。
後ろのアイリスがツンツンしてくる。
「ねぇ、あの子ってやっぱりあのサンダユウさんだよね?」
「ああ、俺たちの護衛に王宮が送ってくれたみたいだ。」
「なんだ。それなら安心だね?」
安心・・そうだな。
俺だけじゃなく皆、特にアイリスを守ってくれるとありがたいな。アイリスも魔法は使えるが『蒼狼の会』に狙われて無事でいられるかどうかは不安だ。
そして、サンダユウが俺の隣の席に座る。
「ユージ殿。あらためてよろしくお願いいたします。」
「ああ。こちらこそ。ここではクラスメートだから気楽にしてくれると嬉しいよ。」
「いえ、そういうわけにはまいりません。任務ですから。」
・・固いなぁ。まぁ仕方ないか。
「ところでまだお礼をいってなかったね。あの時は助かった。サンダユウがいなかったら俺はどうなっていたかわからない。」
「それも任務です。」
・・はは。仕方ないか。
――――――――
結局、サンダユウは風魔法研究部にも所属することになった。
まぁ俺たちの護衛だから俺やアカネ、アイリスなどが所属しているクラブに入るのは当然っちゃ当然か・・。
「さぁ、皆新しく入ったサンダユウさんだ。仲良くしてくれ。」
ウェイ部長が皆に紹介する。
正体を知っているだろうにさすがだな。しれっとしたもんだ。
ハンナ先輩が気を使って話しかけている。
「よ、よろしくね?サンダユウさん」
「は。よろしくお願いいたします。」
やっぱり固かった。
「ねぇ、あの子って・・」
アカネが俺の袖を引く。
「ああ。信長様が俺たちの護衛にと送ってくださったんだ。」
「やっぱり、そうよね。服装違うと全然雰囲気違うのね・・。」
それは俺も思った。
――――――――
意外なことにサンダユウは魔法が得意じゃなかった。
「風刃!」
そよ風が的に当たる。
「操気の術!」
同じくそよ風が周辺に吹くのみ。
サンダユウは平然としたものだ。
「サンダユウ。その・・魔法は得意じゃないのか?」
俺がこっそり聞くと、
「私は体術、忍術を主武器としています。魔法の鍛錬は受けておりません。結界などの魔法もあらかじめ魔法を付与させた魔石を用いたものです。」
そうだったのか。
それでもあの時少し見せた体術は見事なものだった。
魔法無しでもあそこまでうごけるんだな・・。
なんか少し安心した思いだ。
「あの子・・魔法はダメだけど、只者じゃないわね・・」
フレンダが早くもサンダユウの動きを見てそう感想をもらす。
さすがだな。もう何か見抜いたのか。
――――――――
俺はクラブが終わった後、いつも通りに『インディーズ・カフェ』に向かった。
久しぶりにハンナ先輩と一緒に下校する。
「ユージ君、ケガ直ってよかったね?」
「はい。いつも休みばかりで・・ご迷惑おかけしてすみません。」
「アハハ、大丈夫だよ。ユージ君の場合は偉い人からの依頼とか人助けだからね。それにケガとか。」
ハンナ先輩が笑う。
「そう言っていただけると助かります。」
俺たちは談笑しながら目的地に着いた。
・・・
・・
・
ハンナ先輩が驚きで目を見開いている。
そこには・・
焼失した『インディーズ・カフェ』があった。
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女神の使徒と異世界チートな英雄たちとの絆が紡ぐ、運命の物語、ここに開幕!
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