【完結】恋多き悪女(と勘違いされている私)は、強面騎士団長に恋愛指南を懇願される

かほなみり

文字の大きさ
5 / 39

4 恋と愛


「おかえりビルギッタ! ああ、会いたかったよ!」
「ただいま、アーロン。ふふ、私もよ」
(え、だれ?)

 長い渋滞をやっとのことで通り抜け、王都のタウンハウスへ到着したのはもう夜遅い時間だった。
 すっかり疲れ切ってやっと到着した叔母さまのタウンハウスは、都心部にありながら四階建ての立派な建物。その豪華さに目を奪われたのも束の間、なぜか見目麗しい男性が玄関に現れて、熱烈に叔母さまを出迎えた。
 叔母さまを抱き寄せた彼は、脇目も振らず熱烈に口付けを贈る。

(えっ!?)

 直視できなくて慌てて近くにいる家令や侍女へ視線を向けても、彼らは特に動揺することなく、粛々と叔母さまが持ち帰った大量の荷物を運びこんでいる。
 慣れている。ということは、日常茶飯事ということだ。ていうかこの男性は誰? 聞いてない!

「お、叔母さま!」

 視線を逸らしたまま叫ぶように叔母さまを呼べば、「あら」と私を見た。そんな残念そうな顔で見ないでほしい。ごめんなさいね、邪魔して!

「アーロン、紹介するわ。私の姪っ子のアレックスよ」
「姪っ子? 君と年が近いようだけど」

 アーロン、と呼ばれた彼は美しい水色の瞳を私に向けた。金色の髪がさらりと前髪にかかり、まるで舞台俳優のような華やかさがある。美しいかもしれないけれど、今はそれどころではない。誰なのこの人。

「年の離れた兄がいるの。年齢は兄よりもアレックスとの方が近いのよ。ね、アレックス」
「え、ええ」

 目のやり場に困る。いつまでくっついているの、この人たち。

「へえ、そうなんだ。身内なのはよく分かるよ、君に似てる」
「ふふ、似てるからってちょっかいは出しちゃだめよ」
「そんなことはしないよ。僕は君に夢中なんだから」
「知ってるわ」
(私は知らないから! 部屋でやってよ!)

 抱き合ったままそんな会話をする二人を視界の端に捉えながら、王都の滞在先を叔母さまの屋敷にしたことを、少しだけ後悔したのだった。
 ――ああ、早く休みたい。

 *

「一緒に暮らしているの?」

 結局、それ以上アーロンについて紹介されることはなく、「仕事がある」と言った彼は、私たちと入れ替わりで出かけていった。
 不満げな顔の私を見た叔母さまは笑いながら、まずは、と私に用意してくれた部屋を案内してくれた。

「そうよ。彼、まだ駆け出しの舞台俳優だからお金がなくて、同じ役者と部屋をシェアしていたんだけれど、女性関係のトラブルに巻き込まれたのよ。だから私が支援してあげることにしたの」
「はあ……」
「かわいいでしょう? きっとこれから人気が出ると思うのよね」
「へえ……」

 ちょっと違う世界の話でよく分からない。舞台俳優みたいだと思った私の勘は当たっていたけれど。

「ここは広いし、彼も仕事柄あまりいないから、それほど顔を合わせることはないと思うわ」
(そういうことを心配しているわけじゃないんだけど)

 侍女が淹れてくれた紅茶を飲みながら、ほうっと息を吐きだす。ずっと馬車に乗っていたからか、なんだかまだ身体が揺れている気がする。

「――結婚するの?」

 ぽつりと呟いた私の言葉に、目を丸くした叔母さまが弾けるように身体をのけぞらせて笑った。

「あはは! まさか! 私が結婚したいと思ったのは、後にも先にも亡くなった夫だけよ。他の誰かにその思いを塗り替える気はないわ」
「でも今は、あの人が恋人なんでしょう?」
「それと結婚はまったく別の話よ」
「――よく分からないわ。その愛した人が残した屋敷で、新しい恋人と暮らしてるの?」
「亡くなった夫は私の心を満たしてくれたけれど、今、身体は満たしてくれないもの」
「――なんだかいやらしい」
「まあ、ふふっ! かわいいわね、アレックス」

 叔母さまは楽しそうに笑いながら、身を乗り出して私の顔を覗き込んだ。

「あなたも本当に恋をしたらいいわ。そして愛を見つけるの。そうしたらきっと分かるわ」
「――叔母さまに似ているから?」
「そうよ」

 得意げに笑う叔母さまを見て、とてもじゃないけれど似ているとは思えない、とこっそり息を吐き出す。
 本当に華のような人なのだ。美しくて明るくて、とても自分に自信がある人。私とは違う世界の人だ。

「私が似ているのは身長だけのような気がするわ」
「それはどうかしらね。さあ、今日はもうゆっくり休んで。明日から忙しくなるわよ」
「どうして?」
「言ったでしょう、あなたのドレスや装飾品を買いに行かなければならないもの」
「ドレスはあるわ」
「だめよあんなの! 全然あなたに似合ってないわ」

 かわいらしいのを選んだのにバッサリとそんなことを言われて、ぐっと言葉に詰まる。なんかもう少し言い方ないかしら。

「かわいいと思うものと、自分に似合うものは別よ。ちゃんと私が教えてあげるわ」

 立ち上がった叔母さまは「じゃあね」と、ひらひらと手を振りながら部屋を後にした。

 *

「はああ……」

 侍女が荷解きを手伝う、というのを断って、やっと部屋で一人になると、大きなため息がこぼれた。
 ――疲れた。
 長旅もそうだし、なぜだか叔母さまの恋人もいるし、馬車の事故に遭遇するし、なんだか予想しなかったことばかり起こって、すっかり疲れてしまった。
この間まで領地で牛のお産に立ち会っていたのに、今は王都にいるのもなんだか不思議。
 立ち上がって窓の外を見る。
 すっかり暗くなった街並みをオレンジの街灯が丸く光って、道行く人を照らしている。夜になると真っ暗で、フクロウの鳴き声がする領地の夜とは大違いだ。

(――昼間に会った騎士、本当に大きな人だったわ)

 今日、事故現場で出会ったあの銀色の髪の騎士。
 男性とほぼ身長が変わらない私を見下ろすほど、大きな人だった。逞しい腕が腰に巻き付いて、私を馬から剥がしたあの腕力もすごい。

(馬の扱いにも慣れていたし、さすが王都で騎士団の隊長職についているだけのことはあるわ)

 お父さまや弟たちも、特別背が高いわけではないから、いつも大体目線は一緒だ。あんな風に見下ろされるなんて初めてで、思わずじっと見つめ返してしまった。

「名乗りもせず離れてしまって、失礼だったかしらね」

 もし、また会うことがあったら。
 そう、ここは王都なのだ。領地とは違う、私が予想もしなかったことが起こる場所。
 もしまたあの騎士に会うことがあったら、今度は改めて名前を名乗ってみよう。そして彼の名前を聞こう。

「――さ、もう寝ようかな」

 窓の外を見ながら、なんだかこれから、これまでとは違う日々が始まりそうな、そんな予感がしたのだった。
感想 4

あなたにおすすめの小説

勘違い妻は騎士隊長に愛される。

更紗
恋愛
政略結婚後、退屈な毎日を送っていたレオノーラの前に現れた、旦那様の元カノ。 ああ なるほど、身分違いの恋で引き裂かれたから別れてくれと。よっしゃそんなら離婚して人生軌道修正いたしましょう!とばかりに勢い込んで旦那様に離縁を勧めてみたところ―― あれ?何か怒ってる? 私が一体何をした…っ!?なお話。 有り難い事に書籍化の運びとなりました。これもひとえに読んで下さった方々のお蔭です。本当に有難うございます。 ※本編完結後、脇役キャラの外伝を連載しています。本編自体は終わっているので、その都度完結表示になっております。ご了承下さい。

【完結】探さないでください

仲 奈華 (nakanaka)
恋愛
私は、貴方と共にした一夜を後悔した事はない。 貴方は私に尊いこの子を与えてくれた。 あの一夜を境に、私の環境は正反対に変わってしまった。 冷たく厳しい人々の中から、温かく優しい人々の中へ私は飛び込んだ。 複雑で高級な物に囲まれる暮らしから、質素で簡素な物に囲まれる暮らしへ移ろいだ。 無関心で疎遠な沢山の親族を捨てて、誰よりも私を必要としてくれる尊いこの子だけを選んだ。 風の噂で貴方が私を探しているという話を聞く。 だけど、誰も私が貴方が探している人物とは思わないはず。 今、私は幸せを感じている。 貴方が側にいなくても、私はこの子と生きていける。 だから、、、 もう、、、 私を、、、 探さないでください。

【完結】彼を幸せにする十の方法

玉響なつめ
恋愛
貴族令嬢のフィリアには婚約者がいる。 フィリアが望んで結ばれた婚約、その相手であるキリアンはいつだって冷静だ。 婚約者としての義務は果たしてくれるし常に彼女を尊重してくれる。 しかし、フィリアが望まなければキリアンは動かない。 婚約したのだからいつかは心を開いてくれて、距離も縮まる――そう信じていたフィリアの心は、とある夜会での事件でぽっきり折れてしまった。 婚約を解消することは難しいが、少なくともこれ以上迷惑をかけずに夫婦としてどうあるべきか……フィリアは悩みながらも、キリアンが一番幸せになれる方法を探すために行動を起こすのだった。 ※小説家になろう・カクヨムにも掲載しています。

大好きな婚約者に「距離を置こう」と言われました

ミズメ
恋愛
 感情表現が乏しいせいで""氷鉄令嬢""と呼ばれている侯爵令嬢のフェリシアは、婚約者のアーサー殿下に唐突に距離を置くことを告げられる。  これは婚約破棄の危機――そう思ったフェリシアは色々と自分磨きに励むけれど、なぜだか上手くいかない。  とある夜会で、アーサーの隣に見知らぬ金髪の令嬢がいたという話を聞いてしまって……!?  重すぎる愛が故に婚約者に接近することができないアーサーと、なんとしても距離を縮めたいフェリシアの接近禁止の婚約騒動。 ○カクヨム、小説家になろうさまにも掲載/全部書き終えてます

死ぬまでに叶えたい十の願い

木風
恋愛
「あなたを妻として、愛することはない。おそらく、生涯抱くこともないだろう」 三年間の白い結婚——捨て置かれた王太子妃エリアーナに、側妃が『死の呪い』をかけ余命一年を宣告する。 離縁を願うも拒否され、代わりに「死ぬまでに十の願いを叶えて」と契約する—— 二人きりの外出、星空、海…ささやかな願いが王太子の心をほどいていく。

冷酷王子と逃げたいのに逃げられなかった婚約者

月下 雪華
恋愛
我が国の第2王子ヴァサン・ジェミレアスは「氷の冷酷王子」と呼ばれている。彼はその渾名の通り誰に対しても無反応で、冷たかった。それは、彼の婚約者であるカトリーヌ・ブローニュにでさえ同じであった。そんな彼の前に現れた常識のない女に心を乱したカトリーヌは婚約者の席から逃げる事を思いつく。だが、それを阻止したのはカトリーヌに何も思っていなさそうなヴァサンで…… 誰に対しても冷たい反応を取る王子とそんな彼がずっと好きになれない令嬢の話

世継ぎは他の妃が産めばいい——子を産めない私ですが、帝の寵愛を独占して皇后になりました

由香
恋愛
後宮に入る女の価値は、ただ一つ。 ——皇子を産めるかどうか。 けれど私は、産めない。 ならば—— 「世継ぎは他の妃に任せます。私は、陛下に愛される女になります」 そう言い放ったその日から、すべてが狂い始めた。 毒を盛られても、捨てられず。 皇子が生まれても、選ばれたのは私だった。 「お前は、ここにいろ」 これは、子を産めない女が ただ一つの武器“寵愛”だけで頂点に立つ物語。 そして—— その寵愛は、やがて狂気に変わる。

すれ違いのその先に

ごろごろみかん。
恋愛
転がり込んできた政略結婚ではあるが初恋の人と結婚することができたリーフェリアはとても幸せだった。 彼の、血を吐くような本音を聞くまでは。 ほかの女を愛しているーーーそれを聞いたリーフェリアは、彼のために身を引く決意をする。 *愛が重すぎるためそれを隠そうとする王太子と愛されていないと勘違いしてしまった王太子妃のお話