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四日目 条件の更新を

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 城に到着したのは夜も更けた頃。リアンと部屋へ戻ると、沢山の贈り物が届いていた。

「これは?」
「貴女のものだよ」
「私? 誰から……」
「私から。婚約が決まってから贈っていたんだけどね、どうやら何一つ貴女の元に届いていなかったようだから」
「こんなに……ごめんなさい、知らなかったわ」
「貴女のせいではない。私の管理不足だ」
「ありがとう……私、貴方に望まれていないと思っていたから……嬉しいわ」
「私は貴女に真っすぐ気持ちを届けていたつもりだったのに、本当に余計な邪魔が入ったな」
「ふふ、確かにそうね。リアンがモテすぎなのよ」
「どういう事?」
「あなたの事が好きな人が多いのよ。彼らは私では満足しなかったのね」
「勝手なことだ。本当に……腹立たしさが治まらない」

 リアンはボソリと低い声で何かを呟き、すぐそばにある小さな包みを手に取った。

「これは、本当は貴女に一番に渡したはずのものだ。手に渡っていたと思っていたから、これを見ても何の反応も示さないので、貴女は私の事などすっかり忘れているのだと思ってしまったんだ」

 渡された包みを広げ中を取り出す。

「……まあ、これは」

 重厚な皮で出来た青い表紙には、金色の文字が箔押しされている。

『遥かなる雲の先』
 
「普通の装丁ではすぐに駄目になってしまうから作らせたんだが……やりすぎたかな」
「いいえ。……いいえ、嬉しいわ。私の持ってる本はもうボロボロになってしまったから」

 そっと表紙を撫でる。
 青く染めた皮は手のひらにしっとりと優しく馴染む。表紙を開くと、美しい文字で『愛するエラ』と書かれていた。顔が熱くなり、視界が滲む。

「……ありがとうリアン。これで……、私たちの子供にも本を読み聞かせしてあげられるわね」
「……エラ」
「あなたを信じるわ、リアン。これは義務でも政治でもなく、私の意思よ」
「本当に?」
「本当に」

 リアンの手がそっと私の頬を撫でる。そのくすぐったさに肩を竦めると、親指が私の唇をそっと押した。

「頼むから、やっぱり条件を持ち出すとかしないでくれる?」
「そうね、他の条件に書き換えが必要だわ」
「他の条件? この婚姻はやっぱり条件が付くんだな」
「そうよ。はじめから条件が付いてたの。それを書き変えましょう」
「仰せのとおりに」

 クスクスと笑うと、そっと唇にリアンの熱い唇が重ねられる。

「どの条件を削除しますか? 王太子妃殿下」

 ちゅ、ちゅっといくつもの口付けが唇や頬、額、耳に降ってくる。

「あなたと子を成さないこと……、んっ」
「寝所を共にしないというのは」
「それはとっくに破られてるわ!」
「そうだった」

 くすりとひとつ笑い声を漏らし、はむ、と耳を口に含んだ。耳元でぐちゅぐちゅと大きな水音が響く。ぬるりと熱い舌が耳孔をねっとりと這う感触に脚の力が抜けそうになった。

「それらについてはすぐに破棄しよう……。それでは、何を追加しますか、王太子妃殿下?」

 リアンの大きな手が私の腰を支え、背中を何度も往復した。それだけで気持ちよく、はあっと口から漏れた自分の息の悩ましさに顔が熱くなる。

「……私と、共有すること」
「共有?」

 リアンが私の腿裏に腕を回し、そのまま抱き上げた。リアンの逞しい肩に手を乗せて、見下ろすように顔を見つめる。

「私との婚姻で犠牲にしたものも、これからあなたが王太子としてすることも全て。私に何も言わずに、一人で背負うようなことはしないと」
「約束?」
「いいえ、条件よ」
「貴女との婚姻の条件だね。それは守らなければ」
「そうよ。それから」
「まだあるの」
「あるわ。私を、海に連れて行ってくれること」
「それはまた、なんと難しい条件だ」
「あら、私を手放したくないのなら守るべきよ」
「手放すものか」

 柔らかなベッドの上に優しく降ろされる。横になる私の上にリアンが覆いかぶさり、私をじっと見つめた。

「必ず、その条件を守ることを約束しよう……俺の妃」
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