エトランゼ・シュヴァル

hikumamikan

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神の失敗話。(閑話となります)

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ワシはとある異空間の一部を任される神なのだが。

自身が神なのに何時生まれたか、何時神に成ったのかさえ分からん。
何故か世界を創る知識だけは有る。
多分じゃが凄~く下っ端の神じゃ。
でもそんなワシにもまだ下っ端の使い神がおる。
実はそれらはワシが創るのじゃが人界では神と呼ばれておる。
獣神だったり、風神だったり、水神とか雷神の類いじゃな。
まだ人の神は創っておらんのじゃが、人は勝手に人の神を創り出しておる。

勝手に人が創ったのは自らが利益を得るための個人の邪神と言うか邪心じゃな。
なので適切な人の姿をした神をどうするか考えておった。

ある日他の世界を覗いておったら、実にきれいな思念を見付けた。
生前は遠野恭子でつい先ほど交通事故とかで亡くなった様じゃ。
その世界の神に打診して直ぐにその思念と言うか魂じゃな、それを貰い受けた。
思念エネルギー(魂)を元に生前の姿そのままワシの世界に送った。
空間魔法にストアーを付け食うに困らん様にしたが、ワシの何ともおっちょこちょいな仕事のせいで数年で病死してしもうた。

それで魂を見付けたその世界の神に相談したら、今し方亡くなった馬と馬乗りの女をあてがってくれた。
これも良い魂じゃった。
欲も有るが正義感も有るし、割りと純粋でも有る。
無難と言えば無難で素材としては良い。
まあワシの世界で目に余る悪さをすれば消し去れば良い。
だけど数年で死なれるのも困る。
そこで馬には獣神と成るべく、強い身体を与え魔法も与えた。
次いでに空間魔法も与えておいた。
あっ言語取得もな。

さて人じゃが。
前の遠野恭子よりは女子力が足りん。
『うっさい!』
ほっほほ、何とも勝ち気じゃのう。
言う程別嬪でも無し。
『ほっとけ』
まあ、仏じゃからのう。
しかし男にモテない訳でも無い。
本人は知らぬがチャームスキルを持っておる。
それで男に言い寄られるが、警戒し過ぎて縁が薄かった様じゃ。
前の遠野恭子でも失敗したが、本人がスキルに気が付かぬではしょうがない。

馬と同じく強い身体を与えたが、他人に警戒され過ぎてはいかんので、馬乗りに対しては半分に抑えた。
そして馬乗りには遠野恭子と同じストアーを与えたが、今度はワシと交信出来る様にしておいた。
時々教えてやらんと知らんまま死なれては神の素材にも成らんからのう。

人にそのままこの者の力をずっと継承されては困るでな、5代以降は全く力が無くなる様にした。
ただ馬の方は他馬より少し優秀な種が残りもしたが。
ストアーは隔世遺伝で希に発動させておいた。
まあ子孫が判る様にだけどな。


敵討ちでは暴れよったが、大した事でも無い。
割りと地味に生活しておるし、思ったよりも神としての尊厳を得ておらん。
何ともはや難しい。

まさかそこで神の尊厳を得るか?。
それは強い身体を与えた事による寿命の長さじゃった。
余りにも他より老化の速度が遅すぎて森に籠りよった。
馬も一緒じゃ。

森でログハウスを買って生活しておる。
生き神とか魔女と言われながらのう。
ただ人は受精できる卵の数が決まっておるから、赤子は出来ぬので子孫は三人の子が継ぐじゃろう。
二人目の配偶者が死んでからは、時偶一人の男が彼女の家に訪れる程度じゃ。
三十代の男は森で彼女に助けられて仲良く成ったようじゃの。
何故か彼女が死んだ側で翌日にその男も死んだ。
仕方無いのでその男は神の眷属として彼女の側に仕えさせてやった。

面白い事にそれが彼女の神としての安定を図った。
彼女は迷人や冒険者そして旅の商人などを助ける神と成った。
たまに戦の必勝祈願をする者もいたな。

人が創った神ではなくて、本当に時々助言をくれる年増の女神は黒い馬に乗って現れる。
女神を欺いたり害そうとする者は、側に仕える男神によって討たれるか、黒い馬神に蹴り殺される。

そんな話がある傍若無人な貴族家の没落によって囁かれ始めて、彼女の神としての名声は上がって行った。

──────────────

ホーリック国の端にある伯爵領スイフトの領都から王都への街道筋。
スイフト領を出る間際の地。
黒鹿毛の馬に跨がるその女はアパミリオンと名乗った。
「アパ・・・なんとやら、何故我等の道を塞ぐか」
「もう神が勘弁ならぬそうだ」
「はあ?、何を言っておるのだ」
「だからねえスイフト伯爵を神は許さないと言ってるのよ」
「たわけが、狂人である。誰か討ち取れ」
「「「はっ」」」
三人の騎士が前へ出てきた。

がしかし出て来たと同時に三人は首を失っていた。

「なっ!、曲者じゃ皆の者早急に討ち取れー」

言うや言わんや前衛指揮官の首は取れていた。

「「「「「「なっ・・・」」」」」」
さすがに伯爵の護衛達の動きは止まった。
何をされたのか皆目分からないのだ。
「どうして首が飛ぶんだ?」
「魔法だろうけどよく分からん」
「いやいや風刃も何も出して無いぞ」
「悪魔かよ」
「失礼な我は数多の者の守護神と成るべく、今この場に使わされたアパミリオンである。スイフト伯爵よそなたのこれまでの行いは非道極まり無きもの。大人しくこの場で神の裁きを受けよ」
ガラッと、豪奢な馬車の窓が開くと中から中年の小太りな男が覗いた。
「何をしておる直ぐ殺せ、そんな年増慰み物にも成らんわ」

男が冒涜した直後地面の草がにゅるっと伸びて、男は地面に窓から引き摺り落とされた。
「なっ、おのれ変な魔法を使いよって。ならばこうしてくれる」

スイフト伯爵はこう見えて火魔法の達人で有った。
有ったが、獄炎を発生させた直後にそれは消えた。
スズカ・・・いやアパミリオンが空間に収納したのだ。
「えっ、あれ?」

その直後裸の女が馬車から逃げ出した。
スイフト伯爵は剣を抜くとその女目掛けて投げた。
しかしその剣は突然消えると背後からスイフト伯爵の足を貫いた。
「あがっあがが」
「はっ伯爵様」
数人の護衛が駆け寄るが、その護衛もろともに四角い空間の中で、それらは骨に成るまで焼き尽くされた。
スイフト伯爵は自らの獄炎で灰に成ったのだ。

流石にそれを見て護衛達は皆逃げ出したが、数名はアパミリオンの眷属と思われる男性によって討たれた。
「アパミリオン様残りの者はよいので?」
「様は止めてよサンテ。残りはそれ程の悪党では無いからね。まあ仕えた貴族が悪すぎたかな」
『土に消えよ』
アヤカゼが唱えると死体は土にのまれ消えた。


「そこの人これを着て」
隠れていた若い女性にサンテは服を渡して戻って来た。
皆に慰み物にされたのは知られているので行く所が無いと言う。
仕方がないので私の住む森に連れて行って、メイドの様な働きをして貰った。
心の傷は癒えず死ぬまで私の下で暮らした。

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アパミリオンの下で働いて死んだ女は心なしか癒しの魔法を持っていた。
本人は気付かなかった様だが。
なのでワシはその女を治癒の神として下界に降臨させた。
小さな盆地の町の近くの山に神殿を創ってやり、少しずつ信徒を増やしていった彼女はアステリモアと言う女神で、今ではアパミリオンよりも上の神と思われている。


アパミリオンはそんな事全く気にしていない様だ。
まあそういうやつだけどな。
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