聖女はちきゅうさん。

hikumamikan

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八 うるちじゃあ~。

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 いやあ何と言うかこの世界料理のバリエーションが少ないのよ。
 まあ野営料理だからしゃあないちゃしゃあない。
 私のちんちくりんな料理でも喜んで貰えた。
 味噌とかソースは有るけど、醤油と味醂は無い。
 まあ味噌が有るので醪を買って醤油代わりに私はするけどね。
 味醂は甘い酒を使うがまあいいか。
 日本酒が無いから他の酒を使わないとね。
 そんなこんなで日本料理の味とは程遠い。
 お米は有るのだけどインディカ米に近い。
 麦から酒は作るけどこのインディカ米からは作っていない。
 流石に山田錦は無いだろうしねえ。


 馬鈴薯は有るけど薩摩芋は無い。
 薩摩芋に似たのは有っても甘く無いし水っぽくてニンジンみたいだ。
 あ~焼き芋食いてえ。


リハンシスに入ってからは、商人さんに御礼を述べて宿を探し一息ついて野営飯の事を考えてしまっていた。

「フォンシーヌ明日は一寸市場を見て回ろうか」
「はい姐さんがそうなさるなら」
「冒険者ギルドはその後で行こう」
「はい」



「あれは焼酎かな?」
「そうですね。トウモロコシから作ったスピリッツでしょうか」
「ワインとエールしか見た事無かったよ」
「一応葡萄から作ったスピリッツや林檎から作ったものも有りますよ」
「そうなんだ。でも今まで町で見なかったげどね」
「醸造所が限られてますし出回る量も少ないですから」
「あ~圧倒的に少な過ぎる訳か。でもトウモロコシは有るんだね」
「癖が強くて人気が今一ですので」
「・・・昔の芋焼酎みたいなものかな。それと連続式の蒸留装置が無いのかも」
「連続式、ですか?」
「うん、一回では無くて連続で三回以上蒸留する為に、蒸留機が三つくらい繋がっている物ね」
「えっ?、何の為に」
「それをすると酒精の濃度が上がるのと、お酒の持つ癖が薄く成って行くから、飲みやすくなるのよ」
後は樽詰して寝かせたり、原料をスモークして香りとコクを付けるとか有るのだが。
そう言った酒をまだ見ていない。
蒸留酒だけでも少なく高いみたいなので、シェリー樽に入れて十二年以上寝かすとか無いのかもね。

私は試しにトウモロコシのスピリッツが入った陶器の瓶と、ワインの瓶を買った。


宿で夕食が終わった後、市場の屋台で買った魔物肉入りナンプラー野菜炒めを肴に、トウモロコシスピリッツを飲んでみた。

「プハッ、ゴホゴホ」
「大丈夫ですか姐御」
「これはキツいね。何と言うか風味が凄い」
「私も一度飲んだ事有りますけど、それっきりです」
前世で飲んだ芋焼酎は私の時代には酵母がかなり改良されていて飲み易かったが、昔はかなりキツかったと聞いている。
酵母の改良何て程遠い世界なんだろうね。
「これは料理にでも使ってみるよ」
「あはは、そうですか」
「・・・・・・」
「どうしました?」
「いやなにね、ワインに混ぜて飲んでみようかと」
「えっ・・・」

私は同時に買ったワインとトウモロコシの焼酎を割って飲んでみた。
「あっ意外と飲めるね」
「そっそうですか?」
「ほら飲んでみな」
私はストレージからフォンシーヌの前に木のコップを出して、ワインとトウモロコシの焼酎を割り入れた。
フォンシーヌはそっとそれを口に運んで感想を言った。
「確かに飲めますが、私はワインだけの方が良いですね」
「あはは、そりゃそうだ。けどねこのワインにも焼酎が元から入ってるんだよ」
「へっ?」
「携帯用で旅に持って行くワインには、葡萄から作られた焼酎が入っているのさ。だから店で飲むワインより高い」
「ああそう言えば高いですね。でも何故ですか?」
「腐るか変質するからね。いくら熱で酵母菌を殺しても、色んな菌類がそこかしこにいるのさ。でも焼酎と言うか酒精の高いのを混ぜる事で、殺菌と長持ちさせる効果が有るからね。」
「そうなんですかあ~」
「私の故郷ではそれをシェリー酒って言うんだ。他の醸造酒でも敢えて熱処理よりそっちで発酵を止めるのも有るよ」
そんな話をしたらウヰスキーが飲みたく成って来たよほんまに。


翌日は冒険者ギルドヘ依頼を拾いに行った。

「あっ、姐御面白い依頼が有りますよ」
「へえどんなのかねえ・・・」

「お米の運搬の護衛だってよ」
「往復であの金はねえよな」
「何でも酒にする米だそうだぜ」
「え~あんなの酒に出来るのか?」
「まあどっちにしても往復5日はちと安過ぎらあ」

「確かに安いかなこれは」
「フォンシーヌ、これ受けよう!」
「はへっ?」
私達はこうして酒米運搬の護衛任務を請け負う事に成った、主に私の意向で。

「あんな依頼を受ける奴がいるんだな」
聞こえない聞こえない。


受け付けに依頼書を剥がして持って行く。
「あっ有り難う御座います。助かります」
「もしかしたら受ける人がいなかった?」
「はいなので明後日の出発はギルド職員が同行する事に成ってました。あっ、でも一人は新規の依頼なので付きますよ」
「初めての依頼なんだ」
「そうですね。酒米と言うのは初めてですね。まあお米は狙われる事は無いでしょうけどね」
「お米って狙われ無いの?」
「安いですからね、野盗も狙いません」
「魔物は」
「穀物を狙う魔物はそうそういませんね」
「えっ、鳥とか猪とかは」
「魔物になる鳥は主に肉食ですし、猪系は街道には滅多に出ません。オークやゴブリンそれに角兎と羊や牛の魔物も米は食べませんね」
「ええ~あんなに美味しいのに」
「・・・美味しい・・・まあバター炒めなら」
「うるち・・・うるち米ですよお~」
「はあ~?」
「あっ、失礼」

「明後日ですね」
「はい朝日の出前に東門です」
「了解です」


宿に戻ってフォンシーヌに聞かれた。
「うるち米って何ですか?」
「そうね・・・主にジャポニカ米って言って、時折私達が食べるお米より短くて丸子っいお米で、モチモチと粘り気の有るお米よ」
「いつも食べてる奴より旨いのですか?」
「私は好きよ。だけど酒米を分けて貰えるかどうかはわからないわね」


今日は護衛依頼の日だ。
私達は朝早くから東門に来ている。
もう既に出立の準備は整っていた。
ギルドの制服の人がいたので挨拶をした。
「おはようございます。護衛のミズキと」
「おはようございます。護衛のフォンシーヌです」
「おはようございます。依頼を受けて頂き有り難う御座います。冒険者ギルド職員のウルチと申します」
「「!・・・」」
「・・・あ、あのう?」
「あっ、どうもよろしくお願いいたします」
「よろしく~」
「はいよろしくです」


まさかのウルチさんだった。





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