聖女はちきゅうさん。

hikumamikan

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十六 ライクアバージン。

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あの頃(初恋)の様な気持ちで。

今の私にそれは無理だ。

この世界で16才頃の体で生き返っても、心は四十のおばはんなのだから。

身体は子ども(処女)心は阿婆擦れ、しかしてその実体は。
極道の(はちきゅうさん)女である。

それが何をや言わん聖女に成ってもうた。

もうね支離滅裂。

カタの川。
この村の小さな川
何で前世の故郷の小川と名前が一緒かな。
「片野川流れる岸辺~」
『それカタセガワな』
いちいち突っ込む神である。

『お主には大方分かっておるじゃろうが、カタ神と言うのは端へ寄った神、つまり辺境の神で、端神の別称じゃな』
「つまり辺境の田舎におわす神ですか」
『うむ、近年は殊更忘れ去られてのう、余りにも祠が荒れている。ちと寂しゅう成ってな』
「姐御さっきから誰と喋ってるんです?」
「うん、ああ事代主だね。土地神だよ」
「聖女ってそんな事出来るんですか?」
「まあね」
まあ私も放浪の事代主みたいだし。
コトシロヌシが放浪しちゃ駄目だろ、だけどね。
で、ちゃっちゃと済ませたよ。
祠掃除。
いやあ見事に草葉の陰だったね。
もうね忘却の野仏だった。
洗浄を掛けピッカピカにしといて、御神酒に御供えを合成の秘術で出しておいた。
御神酒は私のウヰスキーで、御供えは母○夢ってお饅頭。

御神酒はどうなるか分かんないけど、御供えは何かが喰うだろう。
まあそれも含めて神だ。


何でこんな事するかなあ。
カタ神がお礼にくれたのは一枚の写真。
私の前世の中学二年の写真。
初恋で片想いの男の子が撮った写真。

何故に涙が出るんだ。
カタ神は意地悪だ。
『ライク・ア・バージン』
「大きなお世話だよ。そんな相手今いないし」
『何事も初心さね。時には涙も出さないと目玉が干上がっちまう』
「へっ」
「わあ~これ姐御っすよね」
「ああ」
「可愛い頃有ったんすね」

フォンシーヌにデコピン食らわしてやった。


カタ神の意図は分からないが、私はこっちに来てある種の感情を殺してたんだと思う。
感情を殺しすぎて見えなくなる物が有ったのかも知れない。
そう思う事にした。
同時に前世を忘れるべきとも思った。
あるラノベで主人公がコンビニの袋のお菓子をずっと持っていたが、それを何かの景品として優勝した女の子にあげるシーンがある。
なんて事無いシーンだが、入れなくても良いシーンでも有る。
だけどねあれは異世界に来て守るべき物が出来たから、前世への惜別の表れなんだよね。
まあ日本のアニメってそう言う処大切にするから好きなのだけどね。
私は逆に前世の思いを貰ってしまった。
しっかりしなきゃ、おばさん。


その後は温泉を満喫してヅォクネルに戻って宿を取った。
コランの温泉宿が最高過ぎて、こっちの宿がちょっと物足りないが、まあ旅とはそんなもんだ。
贅沢は敵、
薬師ギルドで商業ギルドと冒険者ギルドそれに薬師ギルドを全て統一して貰った。
うん、これで便利に成ったね。
でも失くしたら大変なので、提示以外はストレージに入れてる。


「ねえフォンシーヌ、これからどうする」
「そうですねワフール国は初めてで知らない所が沢山なので・・・」
「よっしゃ、暫くはこの国を旅しようか。でも4ヶ月に成る頃には薩摩芋届けたいから、あの村に行くよ」
「はい了解です。それに米の事も有りますしね」
「うん、似た時期に植えるからそっちも寄ろう」
「じゃあ北をぐるりと旅して東へ向かえば平地の草原地帯から国境を越えられますよ。検閲なんて無い国同士何で楽ですけどね」
「でも内戦時は大変だったんだろうね」
「詳しくは知りませんが国境は閉鎖せれてたみたいですけど、関所自体がほぼ無かった国同士なので・・・」
「結構な難民がワフールに流れたんだろね」
「はい」
「そう言う緩さ好きだねえ」
「あはは」


私達はあれから3日北へ進みスッパなる町へ来ている。
堅牢な城壁を持つこの国にしては珍しい町だ。
規模は城壁の為か小さくまとまっている。
全体は瓦屋根の2階建てが多い。
それ程高い建物は無く、内側にも城壁が有る二重構造だ。
この内側の城壁の中は領主や貴族の館が有るらしい。
前世の物語十二○記に出てくるタクホウみたいな町。
あれは中国の殷の時代がモチーフらしいが、この世界はそれよりはヨーロッパの中世くらいには発達している。
殷みたいに貴族王族が庶民には何をしても良いのとは違う。

民と言う字は、目に刃物を刺した形の象形文字らしいのだ。
つまり民は目を刺されて拷問されて殺されても文句が言えない。
夏や殷とは誠に糞みたいな時代だ。

まあ夏の遺跡は近年出て、実際に有ったて話だけどね。
世界四代文明って習ったけど、あれは嘘で中国自体にも揚子江の内陸には、夏以前に文明が存在した証が見つかっている。
それは日本の縄文時代に似て平和な文明だとも。
実はこの時代鬼界カルデラの大噴火の直ぐ後らしい。
そして朝鮮半島の南に人が住み始めたのもそうらしい。
七千年前には朝鮮半島に人が住んだ形跡が五千年程途絶えているのだとか。
これは木を伐採し過ぎて住めなく成ったからと言われている。

鬼界カルデラの大噴火はアジアの東に文明の大移動と、それらを駆逐した新たな移民達の文明の始まりと言える。


つまりはこのスッパの造りは、その名残りだろう。
そしてこの辺境一帯を治めている領主はここに住んでいる。
何か嫌な雰囲気の町なので明日には出ようとフォンシーヌと話していた。


宿を取った夜にひっそりと1台の馬車が、数人の護衛と共に出て行ったのをフォンシーヌが見ていた。
「何だかそれは妙ね」
「そうでしょ姐御」
「流石に魔物の少ない土地とは言え夜は危ないからね」
そう思って寝たが、朝暗いうちに今度は数台の馬車と、かなりの私兵が城門を後にする音がした。

朝夜が明けて門を出たら、直ぐに冒険者10数人が馬を駆って私達を素通りした。
「昨日といい今朝といい、何か問題が発生したみたいですね」
「何かね御家騒動みたいで嫌だね」
「道変えたいですけど1本しか無さそうです」
「仕方無いよ、行こう。歩きだし」


1時間程歩いた所で二股の道に出た。
「こっちの方が狭いから此方へ行こう」

それから30分したら、金属の打撃音と怒号が聞こえて来た。
「失敗したね」
「そうですね」

「てめえ等も領主派の冒険者だな、死ねやあー!」
のっそりと茂みから現れた重装備の兵が、そんな事を宣い斬りかかって来た。
面倒臭かったので神聖魔法を極小の弱さにして撃ち放った。
一瞬で3名の兵は死んだ。
「貴族の兵ですけど大丈夫ですか」
「賞金首にでもしゃあがったら、その貴族の玉を取るさ」
「ヒエ~」

「関わっちまったな、しゃあ無いやろ。行くよ」
「仕方無いですね」

私達は走って道を進んだ。
先ずは冒険者と斬り結んでいる私兵が相手だ。
ただ神聖魔法は撃てない。
強すぎて他の人にも当たるからね。
「フォンシーヌ、鎧の隙間を狙いな」
「承知」


私達の加勢で一気に形勢は逆転し、私兵側は降伏した。
共に死者や負傷者はいたが、まだ剣撃のしている方へ加勢する。

数台の馬車と冒険者に形の違う鎧の私兵が斬り合っていたので、取り敢えず冒険者と敵対してた私兵を片付けた。


馬車を守るようにしていた私兵を、また違う鎧の私兵が囲んでいたが、私達冒険者に囲まれて降参せざるを得なかった。


そこからは敵の私兵の拘束と負傷者の手当てで2時間を要し、道の両脇で野営と成った。

大小の便と飯や水も必要で、しかも逃がす訳にはいかず、私が魔法を駆使して土壁の檻を造って拘束した。
それと同時に死んだ者達を土に彼等は埋めていた。
冒険者7名と味方の私兵が5名、敵私兵は23名に及んだ。
冒険者と重装備の鎧兵では防備が違う、よく7名で済んだものだ。
正直私達がいなかったら危なかったかも知れない。


事はやはり御家騒動だった。
腹心の貴族が領主の娘を我が物とし、領主の座を簒奪しようと企んだらしい。
直ぐ様王都へ伝令が走って行った。

どうやらこのまま町へ戻っても、腹心の貴族が他の貴族と共に、領主を人質に待ち構えているので難しいとの事。


もしかしてカチ込みしたくてワクワクしてる私は根っからの893(ヤクザ)かな。

旋風の用心棒か太陽野郎みたいで好きなんだよこういうの。
『古過ぎだろ』
「ほっとけ」
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