聖女はちきゅうさん。

hikumamikan

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十七 燻り(くすぶり)

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「姐御、凄いですね神聖魔法」
「・・・うちが町一つ一つ潰して行ったら一年掛からずこの国は滅ぶね」
「姐御・・・」
「そして大陸全ての国を亡ぼして、全ての種族を亡ぼして、一人で高い山の上に玉座を置いて、誰もいない平原を見下ろすんだ」
「あねご!」

「怒るなよフォンシーヌ」
「・・・」
「貴族の一つや二つ潰れても国なんかびくともしない。
一つの国を潰してもびくともしない。
一つの大陸を潰してもびくともしない。

人は動物は植物は何の為に生まれるのかね。

「フォンシーヌ・・・例えばこの星が滅亡したら私達は何処に行けばいい」
「えっ、・・・それは」

「夜空に星は沢山有るよな」
「はい」
「実はあの星住めないんだ」
「へっ?」
「あれ、お日様なんだ」
「はあ?」
「人はお日様に行くと焼け死んじゃう。そもそも行く前に焼け死んじゃう。だからあの星は住めない」
「そう、なんですか」

「うん、光る星はお日様みたいに燃えているから光ってる」

「もしかして私達の住んでる大地にも寿命があるんですか?」

「凄いね、良くそこに考えが及んだね。寿命も有るし運命も有る。運命は天寿以外の死をもたらす。それは明日かも知れない」

「姐御は他の星に移住しなきゃみたいな言い方だったし・・・」
「ウルフもゴブリンもオーガもドラゴンも、種族を残したいんだよ。人も獣人もそうだろ」
「それはそうでしょ」
「植物も虫もね。だけどこの星が滅亡したら」
「他の星に住む・・・」
「んっ、でもそれは一筋縄じゃない」
「この世界で可能性が有るのは、今の処人や獣人とか高位の魔物くらいよね。・・・実は戦争って文明が発達する要因だから必要悪でも有る。
同時に滅ぼす悪でも有る。

でもね、同時に生き残るって事は、最終的にこの星を出て違う星に移住する知識を得る事でもあるんだ。

それが出来ないとけっきょくは星もろとも絶滅する。

でもそのレベルに成ると戦争で科学や魔法が発展するレベルじゃ無いんだ。
戦争なんかしてる場合じゃなくて、世界の天才が全て集まって開発しなきゃ、いやそれでも駄目かも知れないレベルと思う」

「姐御は今回の貴族を滅しますか」
「賞金首に成るかも知れないから、フォンシーヌの同行は勧めない」
「神聖魔法を目の当たりにして、姐御が神の使いか神かも知れないと思いました。神に付き従うならこの命姐御に差し上げます」
「要らないよ」
「じゃあ貸します」
「借りたくない」
「じゃあ無理矢理付いて行きますね」
「・・・仕方無いなあ」
「「うふふ」あはは」


実は私達と貴族や兵士それを助けた冒険者達は、町に戻れず二俣に別れた道の三角地帯に有る村にいる。

戻れば敵対する貴族とトラブルに成るし、何しろ人質が危ない。
もしかしたら既に人質は殺されているかも知れないが、一応王都からの使者が到着してから町に入る予定だ。
もちろん使者もそれなりの兵力では来るだろう。
人質はかなり危ない状況では有るが、流石に私が単独行動でかちこむ訳にはいかない。


王都からの使者は騎士五百と言うまさかの精鋭部隊だった。
もう完全に容赦しない兵で有る。

スッパの町の貴族兵は50も居れば良い方だ。
それも甲冑兵士は10人くらいで、後は冒険者と装備は変わらない。
聞いた処によると王都兵は親衛隊らしい。
つまり近衛兵で、精鋭中の精鋭なのだ。
何しろ王直轄の禁軍五百と地方貴族の私兵50の対戦で有る。
はなっから勝負にならない。


王の使者、所謂勅使がスッパの町の外郭城門で、勅命を読み上げ開城を迫ると、3家の貴族の内首謀者の貴族を除き、2家が身内と兵を連れ早々に投降して来た。

残った最大勢力の首謀者貴族兵は、30もいないので内側の城壁内に籠って出て来ない。


こうなると強行突破か、説得か兵糧攻めで有る。
一週間の説得も効かずいよいよ兵糧攻めが濃厚に成った。
強行突破でも良いが、相手側が人質の領主と家族に刃を突き付けて脅したので、本格的な兵糧攻めに成ると思われる。
三週間目には、領主の家族をはじめ籠城側貴族の家族が、当主の隙をついて投降して来た。
この時兵も十数人いたので、後は貴族当主と人質の領主そして兵士十名くらいだろう。


5日後貴族当主が領主に刃を突き付けて城門に立った処を、隠れていた弓隊の兵士数人に射殺されて、この件は終わりを告げた。
この時の弓兵は片目に一矢、喉に一矢と両手両足に一矢ずつ、それに心臓と腹部に一矢ずつと、正確無比なものだった。
超精鋭部隊恐るべし。


それから3日私とフォンシーヌはスッパの町を後にした。
大した事情聴取は無くて、それでも3日出られなかった。
只の旅の冒険者と言う事で3日で出られたのは幸い。
だけどギルド長は私が聖女と分かった筈なんだけどね。
感謝だね。


ワフール国内は北部をあと2ヶ月回って、東へ旅をし薩摩芋を届けようと思う。

北へ徒歩で2日行った所の町、ルギニの冒険者ギルドでオーク討伐の依頼を受けた時、ギルマスに呼ばれた。

ギルマスの部屋へ入ったら鳩みたいな鳥がいた。
餌と水の入った大き目の鳥籠にいる。

「伝え鳥は初めてかね」
「あっいえスッパの時に王都へ飛ばしてるのは見ました」
「私は故郷で何度も見てます」
フォンシーヌは何度も見ている様だ。
「挨拶をしなくてはね、私がこの町の冒険者ギルドマスターだよろしく」
「ミズキです」「フォンシーヌです」。


「嫌です」
「身も蓋もないなあ~」
「何で国王陛下会わなきゃいけないんですか?」
「だって君は聖女だろ」
「カブナ教からそう認定されてはいます」
「あんまり民衆は知らないのだけど、主神様の聖女って殆ど世に現れ無いんだよ。そして大聖女って扱いもね。大聖女って実は王様より地位は上なんだよね」
「だったら御断りしても良いですよね」
「いやいや、待ってよ。国王陛下の面子って有るから」
「貴族とか王族ってうんざりだから嫌」
「・・・・・・う~ん」
「力ずくで来るならこっちかてやるよ」
「やるよって軍隊でも相手にする気か・・・」
「そうだよ」
「姐御・・・」
「私は王族の為に力なんか使わないよ。神から授かった力は民衆の為だよ。権力者の物じゃ無い。この国で戦争以外の良からぬ事が起きてるって聞いて無いし。実際に強い瘴気も感じていない。隣の国では出来かけのダンジョン窟はぶっ飛ばしたけどね」
「はあ~。ぶっ飛ばした?」
「そうだよ。だからあの山地にトンネルが出来ちまった」
「・・・それじゃねえか」
「えっ?」
「いや、呼ばれたの」
「・・・失礼しました~」

私達は急いでこの町を出た。
ギルマスの呼び止めも無視して。


世の中には関わっちゃいけない人がいる。
前世の隣の半島人とか、隣のCO2大量排出国とか、隣のやたら隣国に侵攻する国とかね。

聞かない助けない関わらないだ。
「フォンシーヌ、この国出よう。東か北へ行こう」
「ならこのまま北へ行きませんか」
「うん、そうしよう」


トンギスハルって町の手前で街道に柵を設け、何やら関所改めみたいな事をしている。
手前で止まって眺めていたら、騎馬が一騎やって来る。
カッカッカッ、カポカポ。
「カブナ教の聖女様とお見受けする。どうかこのまま王都迄ご随行願えぬか」
「こ・と・わ・る」
ゴルゴ姐さんに成ってみた。

「力ずくでも・・・」
風魔法でぶっ飛ばした。
「やるって言うなら、今度は命の遣り取りに成るよ」
伝令は慌てて馬に乗り直しカッカッカッと引き返した。
私は近くの人の居なさそうな所に、ちょっと強い神聖魔法をぶっ放した。


ドゴッ、バキボキゴキ、ドッドッドッドーン。

一度に森の奥まで木や岩や土が吹き飛んで行く。
村が一つ出来るぐらいの広場が形成されていた。

「なんなら王都ごと吹き飛ばすよ。私を無理矢理連れて行くなら、国一つ無くなる覚悟で来な」


そのままゆっくりと歩いて行くと、モーゼの十戒みたいに人が波の如く分かれていく。
ついでに関所の柵ごと風魔法で吹っ飛ばし、堂々と関所破りをしてみせた。


「国王に言っときな、無駄な力を使わすなってね」
金さんみたいに肩肌見せて啖呵を切ったら、ブラジャーしてなくてチッパイがポロリとして、慌てて走り去ったよ。
締んないね。

「えっ、いちおう乙女なんだよ、悪いか!」
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