【完結】ディープキス

コハラ

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7話

缶詰5日目 揺れる気持ち【7】

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 ここで電話すればと森山君に引き止められたけど、自分の部屋に帰った。
 新井さんといるのがやっぱり気まずいし、森山君にもドキドキしっぱなしだしで、一人になりたかった。

 はあ。ようやく気が抜けた。
 ベッドに腰かけて息をついた。

 さっきは森山君にドキドキしっぱなしで、心臓が壊れちゃいそうだった。
 夏目さんを好きなのに、森山君の魅力に腰が砕けそうになった。
 こうやって夏目さんを忘れていくのかな。森山君だけを好きになっていくのかな。

 本当にそれでいいの?
 夏目さんを忘れられるの? 七年ずっと思って来たんだよ。
 
 入社三年目の時、企画書が通らなくて落ち込んでると、夏目さんは親身になって話を聞いてくれた。それから忙しい中、通る企画書の書き方を丁寧に教えてくれた。
 夏目さんに言われた通りに書いてみたら、初めて自分の企画が通って、嬉しくて堪らなかった。報告しに行ったら、夏目さんに頭を撫でられた。
 よくやったなって言ってくれた笑顔が本当に私の事を喜んでくれてる表情で、心を掴まれたんだ。

 あれからずっと夏目さんを見て来た。

 会社が大きくなっても、夏目さんは夏目さんで、全然偉そうじゃなくて。
 煮詰まってると、笑わせてくれて、コーヒーを淹れてくれて、話をいつも聞いてくれて……。
 何かあれば相談しろよって、いつも言ってくれた。直属の上司でもないのに。

 スマホを握りしめ、夏目さんの名前を表示させた。
 おととしの忘年会で撮った時の、ちょっと酔ってて、普段より緩い表情を浮かべている夏目さんが表示される。
 一番のお気に入りの写真。やっぱり夏目さんが好き。

 そう思った時、スマホが振動した。
 新井さんの名前にドキっとした。

「春川さん、今夜お時間を頂けませんか?」

 電話に出ると、新井さんの涙が混ざったような声にびっくりする。
 森山君と何かあったんだろうか?

「新井さん、まだ森山君の部屋?」
「ホテルを出て駅に向かってる所です。会社に戻らないといけないので」

 鼻水をすすり上げながら、新井さんが言った。その様子に泣きながら外を歩いている姿が浮かんで、心配になる。

「新井さん、大丈夫?」
「何がですか」
「いや、その」

 泣いてるのかなんて聞きづらい。そんな事を聞ける程、私と新井さんは親しくない。

「今から地下鉄に乗るんです。その前に返事を下さい」

 新井さんは急いでるような感じだった。

「今夜ね。うん、そうね」

 頭の中で予定を確認する。シナリオが予定通りに進んでるから、七時には終わるだろう。

「七時半ぐらいだったら時間が取れると思うけど」
「ありがとうございます。じゃあ、お酒の飲めるお店こっちで探しておきます」
「ありがとう。森山君にも声をかけようか?」
「それはやめて下さい。春川さんと二人だけでお話ししたいので」

 スマホ越しの新井さんの声が硬くなった気がする。
 森山君とやっぱり何かあったんだろうか。

「うん、わかった。私、一人でいくね」
「よろしくお願いします」

 電話はそこで切れた。

 今夜か……。

 新井さん、一体どういうつもりで私に声を掛けたんだろう。
 あまりいい話ではない気がする。
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