49 / 83
7話
缶詰5日目 揺れる気持ち【6】
しおりを挟む
ドアを開けたのは森山君だった。「頼まれていた資料です」という新井さんの高めの声が聞えてくるのを、私は壁際のデスク前で聞いてた。
まだ胸の鼓動は早い。新井さんが訪ねて来なかったら、今頃キスしていたかと思うと、落ち着かない。
仕事中に何をやってるんだろう。新井さんの声を聞きながら、今は勤務時間中だという事をハッキリと認識して、罪悪感でいっぱいになる。
「頼まれていた物は全部、揃ってると思いますけど、確認お願いします」
「うん、そうだね」
歯切れ悪く森山君が答えた。森山君も私と同様に勤務時間中だという事を認識して、罪悪感を感じたのかな。
「コーヒーぐらい、淹れてくれないんですか?」
ドアの外で新井さんが催促するように言った。
「荷物、重かったんだけどな」
甘えるような声がした。
「インスタントしかないぞ」
「いいよ。涼君が淹れてくれるなら、何でも美味しいもん」
涼君か。何だろう。今日はちょっとだけ、そう森山君が呼ばれてるのを聞くのが嫌だ。なんかもやっとする。
「森山さん、だろ。今は勤務時間中なんだから」
「細かいな。涼君は」
クスクスと楽し気に笑いながら、新井さんが部屋に入って来た。
「春川さん、お疲れ様でーす」
弾んだ新井さんの声がした。
パソコンから新井さんに視線を向けると、ベージュ色のジャケットに濃紺のスキニージーンズ姿が見えた。
いつもスカートとかワンピースなのに、スッキリ目の服装が珍しい。だけど、何を着ても可愛いのは変わらない。
自信に満ちた笑顔を浮かべてる新井さんが眩しい。
「お仕事、はかどってますか?」
新井さんが屈んで、パソコンを覗くようにした姿勢で言った。ローズ系の甘い香りが漂った。
可愛いくて上品な香りは新井さんに合ってる。可愛い子はやっぱりセンスがいいな。
近くで見ると、お肌も綺麗で弾力がありそう。水、弾いちゃうんだろうな。やっぱり二十代の子には敵わないや。新井さんが羨ましい。
「春川さん?」
じっと新井さんの頬を見ていたら、不審そうに聞かれた。
「あ、うん。予定通りに進んでる。資料、届けてくれてありがとう。重かったでしょ?」
紙袋二つ分の本を新井さんは持って来てくれた。
「タクシーで来たから、大した事ないですよ」
「すぐに帰らなくて大丈夫なのか?」
コーヒーカップを二つ持って、森山君がデスクの側に来た。
香ばしい匂いにほっとする。
「春川さんはミルク一つでしたよね」
森山君がミルクとコーヒーを手渡してくれた。
私にも淹れてくれたんだ。
「ありがとう」
好み、知っててくれてるんだ。
「涼君、私はブラックだよ」
「そんなの知ってるよ」
森山君がコーヒーカップを新井さんに渡した。
「好み、知ってるんだ」
新井さんが嬉しそうな顔をした。
「長い付き合いだからな」
付け足すように言った、森山君の言葉に新井さんが微笑んだ。なんか幸せそうで、恋する女の子って表情だ。
この子は森山君の事、本当に好きなんだな。私なんかよりもずっと長く一緒にいるんだろうな。
なのに森山君は……。
「春川さん、どうかしました?」
森山君が心配そうにこっちを見た。その顔にはいつもの黒縁眼鏡がかかってる。普段の森山君だ。やっぱりこっちの方が見慣れてる。
だけど、素顔の色っぽい森山君を思い出してしまう。新井さんがいるのに。
「私、ちょっと用事思い出した。会社に電話してくる」
席を立った。
新井さんの前で平気なふりをする自信がなかったから。
まだ胸の鼓動は早い。新井さんが訪ねて来なかったら、今頃キスしていたかと思うと、落ち着かない。
仕事中に何をやってるんだろう。新井さんの声を聞きながら、今は勤務時間中だという事をハッキリと認識して、罪悪感でいっぱいになる。
「頼まれていた物は全部、揃ってると思いますけど、確認お願いします」
「うん、そうだね」
歯切れ悪く森山君が答えた。森山君も私と同様に勤務時間中だという事を認識して、罪悪感を感じたのかな。
「コーヒーぐらい、淹れてくれないんですか?」
ドアの外で新井さんが催促するように言った。
「荷物、重かったんだけどな」
甘えるような声がした。
「インスタントしかないぞ」
「いいよ。涼君が淹れてくれるなら、何でも美味しいもん」
涼君か。何だろう。今日はちょっとだけ、そう森山君が呼ばれてるのを聞くのが嫌だ。なんかもやっとする。
「森山さん、だろ。今は勤務時間中なんだから」
「細かいな。涼君は」
クスクスと楽し気に笑いながら、新井さんが部屋に入って来た。
「春川さん、お疲れ様でーす」
弾んだ新井さんの声がした。
パソコンから新井さんに視線を向けると、ベージュ色のジャケットに濃紺のスキニージーンズ姿が見えた。
いつもスカートとかワンピースなのに、スッキリ目の服装が珍しい。だけど、何を着ても可愛いのは変わらない。
自信に満ちた笑顔を浮かべてる新井さんが眩しい。
「お仕事、はかどってますか?」
新井さんが屈んで、パソコンを覗くようにした姿勢で言った。ローズ系の甘い香りが漂った。
可愛いくて上品な香りは新井さんに合ってる。可愛い子はやっぱりセンスがいいな。
近くで見ると、お肌も綺麗で弾力がありそう。水、弾いちゃうんだろうな。やっぱり二十代の子には敵わないや。新井さんが羨ましい。
「春川さん?」
じっと新井さんの頬を見ていたら、不審そうに聞かれた。
「あ、うん。予定通りに進んでる。資料、届けてくれてありがとう。重かったでしょ?」
紙袋二つ分の本を新井さんは持って来てくれた。
「タクシーで来たから、大した事ないですよ」
「すぐに帰らなくて大丈夫なのか?」
コーヒーカップを二つ持って、森山君がデスクの側に来た。
香ばしい匂いにほっとする。
「春川さんはミルク一つでしたよね」
森山君がミルクとコーヒーを手渡してくれた。
私にも淹れてくれたんだ。
「ありがとう」
好み、知っててくれてるんだ。
「涼君、私はブラックだよ」
「そんなの知ってるよ」
森山君がコーヒーカップを新井さんに渡した。
「好み、知ってるんだ」
新井さんが嬉しそうな顔をした。
「長い付き合いだからな」
付け足すように言った、森山君の言葉に新井さんが微笑んだ。なんか幸せそうで、恋する女の子って表情だ。
この子は森山君の事、本当に好きなんだな。私なんかよりもずっと長く一緒にいるんだろうな。
なのに森山君は……。
「春川さん、どうかしました?」
森山君が心配そうにこっちを見た。その顔にはいつもの黒縁眼鏡がかかってる。普段の森山君だ。やっぱりこっちの方が見慣れてる。
だけど、素顔の色っぽい森山君を思い出してしまう。新井さんがいるのに。
「私、ちょっと用事思い出した。会社に電話してくる」
席を立った。
新井さんの前で平気なふりをする自信がなかったから。
11
あなたにおすすめの小説
2月31日 ~少しずれている世界~
希花 紀歩
恋愛
プロポーズ予定日に彼氏と親友に裏切られた・・・はずだった
4年に一度やってくる2月29日の誕生日。
日付が変わる瞬間大好きな王子様系彼氏にプロポーズされるはずだった私。
でも彼に告げられたのは結婚の申し込みではなく、別れの言葉だった。
私の親友と結婚するという彼を泊まっていた高級ホテルに置いて自宅に帰り、お酒を浴びるように飲んだ最悪の誕生日。
翌朝。仕事に行こうと目を覚ました私の隣に寝ていたのは別れたはずの彼氏だった。
虚弱なヤクザの駆け込み寺
菅井群青
恋愛
突然ドアが開いたとおもったらヤクザが抱えられてやってきた。
「今すぐ立てるようにしろ、さもなければ──」
「脅してる場合ですか?」
ギックリ腰ばかりを繰り返すヤクザの組長と、治療の相性が良かったために気に入られ、ヤクザ御用達の鍼灸院と化してしまった院に軟禁されてしまった女の話。
※なろう、カクヨムでも投稿
灰かぶりの姉
吉野 那生
恋愛
父の死後、母が連れてきたのは優しそうな男性と可愛い女の子だった。
「今日からあなたのお父さんと妹だよ」
そう言われたあの日から…。
* * *
『ソツのない彼氏とスキのない彼女』のスピンオフ。
国枝 那月×野口 航平の過去編です。
ワケあり上司とヒミツの共有
咲良緋芽
恋愛
部署も違う、顔見知りでもない。
でも、社内で有名な津田部長。
ハンサム&クールな出で立ちが、
女子社員のハートを鷲掴みにしている。
接点なんて、何もない。
社内の廊下で、2、3度すれ違った位。
だから、
私が津田部長のヒミツを知ったのは、
偶然。
社内の誰も気が付いていないヒミツを
私は知ってしまった。
「どどど、どうしよう……!!」
私、美園江奈は、このヒミツを守れるの…?
甘過ぎるオフィスで塩過ぎる彼と・・・
希花 紀歩
恋愛
24時間二人きりで甘~い💕お仕事!?
『膝の上に座って。』『悪いけど仕事の為だから。』
小さな翻訳会社でアシスタント兼翻訳チェッカーとして働く風永 唯仁子(かざなが ゆにこ)(26)は頼まれると断れない性格。
ある日社長から、急ぎの翻訳案件の為に翻訳者と同じ家に缶詰になり作業を進めるように命令される。気が進まないものの、この案件を無事仕上げることが出来れば憧れていた翻訳コーディネーターになれると言われ、頑張ろうと心を決める。
しかし翻訳者・若泉 透葵(わかいずみ とき)(28)は美青年で優秀な翻訳者であるが何を考えているのかわからない。
彼のベッドが置かれた部屋で二人きりで甘い恋愛シミュレーションゲームの翻訳を進めるが、透葵は翻訳の参考にする為と言って、唯仁子にあれやこれやのスキンシップをしてきて・・・!?
過去の恋愛のトラウマから仕事関係の人と恋愛関係になりたくない唯仁子と、恋愛はくだらないものだと思っている透葵だったが・・・。
*導入部分は説明部分が多く退屈かもしれませんが、この物語に必要な部分なので、こらえて読み進めて頂けると有り難いです。
<表紙イラスト>
男女:わかめサロンパス様
背景:アート宇都宮様
Sランクの年下旦那様は如何でしょうか?
キミノ
恋愛
職場と自宅を往復するだけの枯れた生活を送っていた白石亜子(27)は、
帰宅途中に見知らぬイケメンの大谷匠に求婚される。
二日酔いで目覚めた亜子は、記憶の無いまま彼の妻になっていた。
彼は日本でもトップの大企業の御曹司で・・・。
無邪気に笑ったと思えば、大人の色気で翻弄してくる匠。戸惑いながらもお互いを知り、仲を深める日々を過ごしていた。
このまま、私は彼と生きていくんだ。
そう思っていた。
彼の心に住み付いて離れない存在を知るまでは。
「どうしようもなく好きだった人がいたんだ」
報われない想いを隠し切れない背中を見て、私はどうしたらいいの?
代わりでもいい。
それでも一緒にいられるなら。
そう思っていたけれど、そう思っていたかったけれど。
Sランクの年下旦那様に本気で愛されたいの。
―――――――――――――――
ページを捲ってみてください。
貴女の心にズンとくる重い愛を届けます。
【Sランクの男は如何でしょうか?】シリーズの匠編です。
ハイスぺ幼馴染の執着過剰愛~30までに相手がいなかったら、結婚しようと言ったから~
cheeery
恋愛
パイロットのエリート幼馴染とワケあって同棲することになった私。
同棲はかれこれもう7年目。
お互いにいい人がいたら解消しようと約束しているのだけど……。
合コンは撃沈。連絡さえ来ない始末。
焦るものの、幼なじみ隼人との生活は、なんの不満もなく……っというよりも、至極の生活だった。
何かあったら話も聞いてくれるし、なぐさめてくれる。
美味しい料理に、髪を乾かしてくれたり、買い物に連れ出してくれたり……しかも家賃はいらないと受け取ってもくれない。
私……こんなに甘えっぱなしでいいのかな?
そしてわたしの30歳の誕生日。
「美羽、お誕生日おめでとう。結婚しようか」
「なに言ってるの?」
優しかったはずの隼人が豹変。
「30になってお互いに相手がいなかったら、結婚しようって美羽が言ったんだよね?」
彼の秘密を知ったら、もう逃げることは出来ない。
「絶対に逃がさないよ?」
お隣さんはヤのつくご職業
古亜
恋愛
佐伯梓は、日々平穏に過ごしてきたOL。
残業から帰り夜食のカップ麺を食べていたら、突然壁に穴が空いた。
元々薄い壁だと思ってたけど、まさか人が飛んでくるなんて……ん?そもそも人が飛んでくるっておかしくない?それにお隣さんの顔、初めて見ましたがだいぶ強面でいらっしゃいますね。
……え、ちゃんとしたもん食え?
ちょ、冷蔵庫漁らないでくださいっ!!
ちょっとアホな社畜OLがヤクザさんとご飯を食べるラブコメ
建築基準法と物理法則なんて知りません
登場人物や団体の名称や設定は作者が適当に生み出したものであり、現実に類似のものがあったとしても一切関係ありません。
2020/5/26 完結
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる