神様がくれた時間―余命半年のボクと記憶喪失のキミの話―

コハラ

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4話

友人という立場<2>

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 希美と遭遇するとは思っていなかったから動揺する。最後に会ったのは五日前で、気まずい。

「こんにちは」

 希美が僕に微笑む。

「こんにちは」

 ぎこちなく返すと、希美が「先日はすみませんでした」と頭を下げた。

「いえ、僕の方こそ、ご迷惑をおかけしてすみません」

 慌てて言い返すと、希美が顔を上げて僕を見る。

「あの、怒っていませんか?」
「怒っていませんよ」
「でも、大変失礼なことを青山君が言ったから。本当にすみません。あの時も話しましたが、全部青山君の誤解なんです。私、お客様が来てくれるの、いつも楽しみにしていたんです」

 希美は僕の名前を知らないからお客様と呼んだ。希美との距離を感じて少し寂しいが、仕方ない。

「あれ以来いらっしゃらないから怒らせてしまったんだと思いました」
「いえ、本当に怒っていませんから。それに彼が言った指摘は間違えではなかったし」
「え」

 希美が両眉を上げる。

「いや、その、彼の言う通りなんです。倉田さんに会いたいから凪に通っていたんです。僕の方こそ、すみませんでした」

 もう希美と話す機会はないと思ったから、正直に打ち明けた。嘘だらけの僕が最低限話せる本当のことだったから。
 希美が意外そうに瞬きする。

「じゃあ、僕はこれで」

 展望台から出て行こうとすると、「待って」と希美が僕の腕を掴んだ。
 驚いて希美を見ると真剣な表情を浮かべていた。

「あの、私と友達になってくれませんか?」

 意外な言葉が希美から出て来て、両眉が上がる。

「私も、お客様が凪にいらっしゃるの楽しみにしていたんです。だから、あの、この機会に凪の外でも会っていただけないでしょうか?」

 必死な目を向けられ、心臓が大きく掴まれた。
 これ以上、希美と関わってはいけない。そう思うが、必死な顔をした希美の頼みを断れず、「はい」と頷いた。

 *

 野島崎灯台の近くにある海鮮居酒屋『魚将』はカウンター席が十席あるだけの小さな店で、希美に連れられて初めて足を運んだ。

「なんか落ち着くでしょ?」

 右隣に座る希美が微笑んだ。
 カウンターの奥ではこの店のご主人と女将さんが常連客と談笑しながら、客の注文に答えている。そんな様子に温かみを感じて、希美が落ち着くと言うのもわかる気がした。

「そうですね。落ち着きますね」

 僕の答えに希美がほっとしたように微笑んだ。

「希美ちゃん、今日は彼氏と来たの?」

 カウンターの奥から女将さんが話しかけて来る。ホスピスの小川先生くらいの年齢だろうか。少しふくよかな体型と愛嬌のある顔立ちをしていて、親しみやすそうだ。

「え、彼氏だなんて、失礼ですよ。こちらはお友だちの佐藤海人さとうかいとさんです」

 希美が女将さんに僕を紹介した。

「どうも、佐藤です」

 女将さんに向かって名乗るが、心苦しい。
 希美に名前を聞かれて、本名の倉田涼介とは名乗れず、咄嗟に佐藤海人と答えた。佐藤は僕の周囲でよく聞く苗字で、海人は海を見て思いついた。
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