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5話
希美の幸せ<6>
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「きっと、他に好きな人がいたから妊活なんて言われて困ったんでしょうね」
希美が大きなため息をついた。
「好きな人?」
希美が前を見たまま答える。
「みんなには言ってなかったけど、夫は好きな女性が出来たみたいで。姉に教えてもらったんです」
律子さんの顔が浮かぶ。
余命半年のことは言えず、僕の浮気が原因で希美と離婚協議をしていたと嘘をついた。
「夫とは離婚協議中だったようですが、私、それも全部忘れちゃって」
あははと笑った希美の横顔が泣いているように見えた。
「夫のことを覚えていないのに、夫に好きな人がいたことがショックで……。なんか、もう全部が嫌になって、夫と暮らしたマンションを出て、逃げるようにここに来たんです」
そう言うと、希美が立ち上がり、海に向かって叫んだ。
「バカヤロー! 勝手にいなくなるな! 勝手に終わらせるな―!」
辺り一面に希美の叫び声が響いた。
希美の叫び声を聞きながら、深く希美を傷つけていたことに気づいた。
僕は確かに勝手だったかもしれない。希美と顔を合わせて話し合うべきだったかもしれない。本当のことは言えなくても、希美の怒りを受け止めることをするべきだったんだ。
「……ごめん」
「え?」
立ったままの希美が僕を見る。
「なんで佐藤さんが謝るんですか」
「なんだか申し訳ない気がして」
「私、佐藤さんに救われたんですよ」
希美がベンチに座り、優しい笑みを浮かべた。
「なんか佐藤さんといるとほっとするんですよね」
そう言って希美が僕の手を握る。
「結婚している人にこんなことしちゃいけないと思うんですけど……」
希美の顔がこちらに向く。
「『凪』で初めて佐藤さんにお会いしてから、物凄い勢いで佐藤さんに惹かれているんです。でも、今日で終わりにしますね。私は佐藤さんのご家庭を壊すつもりはないですから。最後にこうやって佐藤さんと夕陽を見ることが出来て良かった」
寂しそうに微笑んだ希美を見たら、気持ちが抑えられなくなった。
「最後だなんて言わないで下さい。僕もあなたのことが……好きです」
美しい希美の目が大きく見開いた。
偽りのない気持ちだった。
記憶喪失の希美と再会してから、ずっと言いたかった。
僕の心にはいつも希美がいる。
「好きだ」
希美の背中に腕を回し、強く希美を抱きしめた。
柔らかな希美の体を感じて、ずっとこうしたいと思っていたことに気づいた。
「……佐藤さん」
戸惑ったような希美の声が顎の下から聞こえる。
「ダメですよ。佐藤さんは……奥さんが」
「実は離婚協議中なんです。僕は妻を置いて家を出たんです。妻とは一緒にいられない理由が出来て。僕が身を引く事が妻の幸せだと思ったから離婚届を残して家を出ました。僕もここに逃げて来たんです。それであなたに会って、僕も救われました」
希美が顔を上げ、切なそうに眉を顰め僕を見る。
嘘は言っていない。希美と再会して、末期がんで絶望していた心が生き返った。生活に張り合いが出た。
「佐藤さんも辛い想いをしたんですね」
希美の言葉に目の奥が熱くなる。
辛かった。希美と別れなきゃいけないのは苦渋の決断だった。
「はい」
頷くと、希美が僕の両頬を掴み引き寄せる。次の瞬間、僕の唇に希美の唇が重なっていた。もう二度と触れることはできないと思っていた希美の唇に胸が熱くなる。
希美が唇を離すと、今度は僕からキスをした。
こんなことしてはいけないと理性が訴えてくるが、止められなかった。好きだという感情のまま希美にキスをし、強く抱きしめた。
唇に希美を感じながら、泣きそうになる。
離れてみて、どんなに希美が僕にとって大切な人だったか、愛する人だったかわかった。
もう二度と希美と離れたくないと思った瞬間、ダメだともう一人の僕が言った。
夢から覚めるように僕は希美から離れた。
「……佐藤さん?」
希美が眉を寄せ、不安そうに僕を見る。
「すみません。今のは忘れて下さい。僕もあなたも結婚してますから」
クシャッと希美が悲しそうな顔をした。
「いい加減にして!」
波音をかき消すほどの大きな声で希美が叫んだ。
「どうして私から逃げるの? 私のこと好きなくせに」
眉を険しくさせ、希美が僕を睨む。
「く、倉田さん……?」
突然の希美の豹変ぶりに戸惑う。
「涼くんの気持ちがわからないよ……」
涙に震える希美の声を聞いて、全身が凍りつく。
今、希美は涼君と言ったのか?
希美が大きなため息をついた。
「好きな人?」
希美が前を見たまま答える。
「みんなには言ってなかったけど、夫は好きな女性が出来たみたいで。姉に教えてもらったんです」
律子さんの顔が浮かぶ。
余命半年のことは言えず、僕の浮気が原因で希美と離婚協議をしていたと嘘をついた。
「夫とは離婚協議中だったようですが、私、それも全部忘れちゃって」
あははと笑った希美の横顔が泣いているように見えた。
「夫のことを覚えていないのに、夫に好きな人がいたことがショックで……。なんか、もう全部が嫌になって、夫と暮らしたマンションを出て、逃げるようにここに来たんです」
そう言うと、希美が立ち上がり、海に向かって叫んだ。
「バカヤロー! 勝手にいなくなるな! 勝手に終わらせるな―!」
辺り一面に希美の叫び声が響いた。
希美の叫び声を聞きながら、深く希美を傷つけていたことに気づいた。
僕は確かに勝手だったかもしれない。希美と顔を合わせて話し合うべきだったかもしれない。本当のことは言えなくても、希美の怒りを受け止めることをするべきだったんだ。
「……ごめん」
「え?」
立ったままの希美が僕を見る。
「なんで佐藤さんが謝るんですか」
「なんだか申し訳ない気がして」
「私、佐藤さんに救われたんですよ」
希美がベンチに座り、優しい笑みを浮かべた。
「なんか佐藤さんといるとほっとするんですよね」
そう言って希美が僕の手を握る。
「結婚している人にこんなことしちゃいけないと思うんですけど……」
希美の顔がこちらに向く。
「『凪』で初めて佐藤さんにお会いしてから、物凄い勢いで佐藤さんに惹かれているんです。でも、今日で終わりにしますね。私は佐藤さんのご家庭を壊すつもりはないですから。最後にこうやって佐藤さんと夕陽を見ることが出来て良かった」
寂しそうに微笑んだ希美を見たら、気持ちが抑えられなくなった。
「最後だなんて言わないで下さい。僕もあなたのことが……好きです」
美しい希美の目が大きく見開いた。
偽りのない気持ちだった。
記憶喪失の希美と再会してから、ずっと言いたかった。
僕の心にはいつも希美がいる。
「好きだ」
希美の背中に腕を回し、強く希美を抱きしめた。
柔らかな希美の体を感じて、ずっとこうしたいと思っていたことに気づいた。
「……佐藤さん」
戸惑ったような希美の声が顎の下から聞こえる。
「ダメですよ。佐藤さんは……奥さんが」
「実は離婚協議中なんです。僕は妻を置いて家を出たんです。妻とは一緒にいられない理由が出来て。僕が身を引く事が妻の幸せだと思ったから離婚届を残して家を出ました。僕もここに逃げて来たんです。それであなたに会って、僕も救われました」
希美が顔を上げ、切なそうに眉を顰め僕を見る。
嘘は言っていない。希美と再会して、末期がんで絶望していた心が生き返った。生活に張り合いが出た。
「佐藤さんも辛い想いをしたんですね」
希美の言葉に目の奥が熱くなる。
辛かった。希美と別れなきゃいけないのは苦渋の決断だった。
「はい」
頷くと、希美が僕の両頬を掴み引き寄せる。次の瞬間、僕の唇に希美の唇が重なっていた。もう二度と触れることはできないと思っていた希美の唇に胸が熱くなる。
希美が唇を離すと、今度は僕からキスをした。
こんなことしてはいけないと理性が訴えてくるが、止められなかった。好きだという感情のまま希美にキスをし、強く抱きしめた。
唇に希美を感じながら、泣きそうになる。
離れてみて、どんなに希美が僕にとって大切な人だったか、愛する人だったかわかった。
もう二度と希美と離れたくないと思った瞬間、ダメだともう一人の僕が言った。
夢から覚めるように僕は希美から離れた。
「……佐藤さん?」
希美が眉を寄せ、不安そうに僕を見る。
「すみません。今のは忘れて下さい。僕もあなたも結婚してますから」
クシャッと希美が悲しそうな顔をした。
「いい加減にして!」
波音をかき消すほどの大きな声で希美が叫んだ。
「どうして私から逃げるの? 私のこと好きなくせに」
眉を険しくさせ、希美が僕を睨む。
「く、倉田さん……?」
突然の希美の豹変ぶりに戸惑う。
「涼くんの気持ちがわからないよ……」
涙に震える希美の声を聞いて、全身が凍りつく。
今、希美は涼君と言ったのか?
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